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バーニー動物病院千林分院分院長。ペット薬膳管理士、中医学アドバイザー。動物病院でペットの診療にあたる傍ら犬猫の手作りご飯教室や問題行動のカウンセリングを行う。
ネギやたまねぎなど、犬に食べさせてはいけない食材があるのはご存じでしょうか。ネギの仲間であるにんにくも、犬にはNGの食材です。人間にとってはパワーの源と言われるにんにくですが、犬にはどんな影響を与えるものなのか、誤ってにんにくを食べてしまった場合の症状や対処法について、バーニー動物病院 千林分院分院長で獣医師の堂山有里先生に解説していただきます。
目次
- 犬ににんにくを与えるのはNG!
- にんにくに含まれている栄養素は?
- 犬種によってにんにくを食べることのリスクは異なるの?
- 犬がにんにくを食べてしまった際の対処法・応急処置は?
- 動物病院での処置内容
- 犬がにんにくを食べないように予防するには?
犬ににんにくを与えるのはNG!
にんにくには、犬に「溶血性貧血」を引き起こす成分が含まれているため、犬にとっては危険な食材です。
犬にとって有害なにんにくの成分とは?
にんにくは、ネギ・たまねぎ・にら・長ネギ・わけぎなどと同様に、有機チオ硫酸化合物が含まれるネギ属の野菜です。有機チオ硫酸化合物は、にんにくの香りの元にもなっている成分なのですが、犬の赤血球にあるヘモグロビンを酸化させ、変形赤血球を形成させます。これが主に脾臓(ひぞう)で異物とみなされることにより、多数の赤血球が破壊されてしまいます。その結果、犬の体内で「溶血」という現象が起こり、溶血性貧血になってしまいます。
にんにくの中毒量・致死量は?
にんにくの致死量に関しては、犬種や個体によって異なりますが、一度に大量に、あるいは少量であっても継続的に摂取した場合、中毒症状が出るとされています。ごく少量の摂取でも死亡した例があるので要注意です。中毒量としては体重1kgあたり5g以上が基準となります。
にんにくの芽や加熱したにんにくは大丈夫?
にんにくの芽はにんにく同様、犬に与えてはいけない野菜です。また、にんにくは加熱しても犬にとっての毒性がなくならないという特徴があります。そのため、加熱調理されたにんにくであっても犬に与えるのはNGです。
ドッグフードやサプリメントに配合されていることも
にんにくは滋養強壮効果を期待してドッグフードや犬用のサプリメントに配合されていることがあります。安全性に配慮して配合されていると思いますが、もし不安のある方は、与える前にかかりつけの獣医師に相談する等、注意をしてください。
にんにくに含まれている栄養素は?
にんにくには以下のような栄養素が含まれています。
アリシン
ビタミンB1を活性化させる働きがあります。抗菌作用もあり、にんにくのにおいの元となります。
リン
ミネラルの一種で骨や歯の形成や神経や筋肉を正常に保つ働きがあります。
ビタミンB6
にんにくにはビタミンB6が豊富に含まれています。ビタミンB6は体の中でさまざまな働きをしており、特にタンパク質をエネルギーに変換する働きは人間にとって非常に重要です。
ビタミンC
皮膚や腱などを構成するタンパクである、コラーゲンを作るのに欠かせないのがビタミンCです。また、活性酵素を取り除く抗酸化物質としての働きもあります。
葉酸
ビタミンB群に含まれ、ビタミンB12とともに血液を作る働きがあります。不足すると貧血を起こします。また、DNAの合成やタンパク質の合成にも関与する栄養素です。
犬種によってにんにくを食べることのリスクは異なるの?
秋田犬や柴犬など、日本原産の犬は、にんにくの感受性が高く、少量のにんにくで中毒になるという報告があります。もし、飼っている犬が日本原産の犬種である場合は、特ににんにくの取り扱いに注意することをおすすめします。
嘔吐・下痢
にんにくの胃腸粘膜刺激作用により、消化管の粘膜が刺激されて嘔吐や下痢が誘発されます。
黄疸
黄疸とは、血液中のビリルビンという色素が増え、外見上黄色くなる状態を言います。にんにくの作用により犬の赤血球が壊されて、黄疸が出ることがあります。
貧血
にんにくに含まれる有機化合物が犬の赤血球の膜を酸化することで赤血球が壊れやすくなり、貧血を起こします。
食欲不振
にんにくによる胃腸粘膜刺激作用により胃腸炎となると、食欲が低下します。また、重度の貧血になった時も食欲不振となります。
皮膚炎
切ったり刻んだりしてにんにくの細胞が傷つくと、アリシンという物質が生成されます。アリシンには強力な殺菌作用があり、皮膚のうるおいを保つアミノ酸を破壊する作用があります。アミノ酸を失った皮膚は、細胞が壊れて皮膚炎を起こすこともあります。
偽喘息発作
アリシンが原因で、犬が喘息発作を起こすことがあります。
元気がなくなる
にんにくを食べると溶血性貧血を起こします。その結果、黄疸や血色素尿、貧血などの症状が出て、ぐったりします。
意識が朦朧とする
貧血が重度になると、脳は酸欠状態となるので、意識が朦朧とした状態になり最悪の場合は死に至ります。
犬がにんにくを食べてしまった際の対処法・応急処置は?
目の前で愛犬がにんにくを食べてしまった場合、飼い主としては慌ててしまうかもしれません。そんな時、どのような対処をするべきなのでしょうか。
家庭で行う応急処置の危険性
食べた直後から2時間後くらいまでなら吐かせることができます。ただし、全量を吐き出させるかどうかはわからないため、家庭で吐かせるのは避けた方がいいでしょう。また、インターネットで検索すると、犬に塩やオキシドールを飲ませて吐かせるといった方法が見つかるかもしれませんが、これは誤嚥や食道炎を起こす可能性があるので危険です。絶対にやめましょう。
すぐに病院へ連れて行く
もし、犬がにんにくを食べてしまったら、すぐに動物病院に連れて行ってください。症状によっては緊急の場合も考えられますので、事前に病院に連絡をしておくといいでしょう。
動物病院での処置内容
動物病院での治療法は対症療法が基本です。犬が何をいつ、どの程度食べたのか、食べた後はどのような様子なのかを答えられるようにしておくと、適切で早い治療が受けられるでしょう。病院では犬の状態に応じて、以下の処置が行われます。
催吐処置
嘔吐を起こす薬剤を投与して胃の中にあるものを吐かせます。ただし、すでに吸収されてしまった成分に関しては無効です。
活性炭投与
消化管の中に残っているにんにくの有害物質を吸着してくれる働きが期待できますが、体内に吸収されてしまったものに対しては効果がありません。
点滴
下痢・嘔吐などにより脱水が進行している場合や、血色素尿や黄疸が強い場合などに点滴が行われます。
抗酸化剤の投与
有機化合物による酸化作用を中和する目的で抗酸化物質の投与が行われることがあります。
輸血
貧血が重度の場合は輸血が行われることがあります。
酸素吸入
貧血が進むと酸素を体に運ぶことができなくなるため、酸素吸入を行います。
病院へ連れて行くタイミング
愛犬がにんにくを食べてしまったことがわかったら、すぐに病院を受診してください。症状が出てから気づいた場合は、さらに急いだほうがいいでしょう。
犬がにんにくを食べないように予防するには?
犬の体に有害な影響を及ぼすネギ類全般を家庭から排除するのは、なかなか難しいことでしょう。家庭内ににんにくがあっても、愛犬が食べてしまうのを防ぐことができれば問題はないので、きちんとした管理を常に心がけるといいでしょう。
にんにくを犬の手の届くところに置かない
犬はにんにくの香りは嫌がらないので、無造作に置いておくと知らぬ間に食べてしまう可能性があります。犬が誤ってにんにくを口にすることのないように、調理に使用した後は出しっぱなしにせずにすぐ片付けるようにしてください。乾燥にんにくやパウダー状になったもの、チューブ状のものも同様に注意してください。
食べた後のゴミやお皿にも注意が必要
にんにくはさまざな料理に使われています。にんにくそのものだけでなく、料理の煮汁などにも貧血を起こす成分が含まれているので、犬が食べ残しのパスタ、ラーメンの汁を食べてしまわないように気をつけましょう。
盗み食いを防ぐ
愛犬がにんにくの香りが気に入って、にんにくに興味を持つことがあるかもしれません。犬がにんにくの香りに興味を示しているようなら、にんにくの管理にさらに注意をするようにしましょう。