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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
ぶどうは犬に与えてはいけない食べ物です。今回は犬がぶどうを食べたらどうなるのか、起きてしまう症状やその対処法などを獣医師の茂木千恵先生に伺いました。
目次
- 犬にぶどうを与えても大丈夫?
- 犬にぶどうを食べさせると起こる「ぶどう中毒」の症状とは?
- なぜ犬にぶどうを食べさせてはいけないの?
- 犬がぶどうを誤って食べてしまったときの対処法は?
- 犬がぶどうを食べてしまった場合、病院に連れて行くタイミングは?
- レーズンやワインなどのぶどうの加工品も犬に与えるのはNG!
- 犬にぶどうを食べさせないために気をつけることは?
犬にぶどうを与えても大丈夫?
ぶどうは犬に絶対にあげてはいけない食べ物です。犬がぶどうを食べると中毒症状を引き起こします。
多くの場合、食べて数時間で嘔吐や下痢を繰り返したり、様子がおかしくなり、そのまま放置すると急性腎不全を発症し、最悪の場合は命を落とす可能性もあります。
ぶどうの品種や食べ方、あるいは犬の種類や大きさによっては大丈夫なのでは?と思うかもしれませんが「ぶどうと名の付くものは、どんな犬にもあげてはいけない」と覚えておきましょう。
ぶどうは粒がとれやすいので、飼い主さんが自分で食べようと皮をむいているときに犬がこっそり食べてしまうことなどもあるかもしれません。
しかし「一粒くらい」「皮だけなら」と思っても、ちょっと口にしただけで体調を崩してしまう犬もいます。分量に関係なく絶対に食べさせないようにしましょう。
>犬が食べてはいけないもの一覧 危険度が高いものや誤食に注意すべきものを解説【獣医師監修】
犬にぶどうを食べさせると起こる「ぶどう中毒」の症状とは?
多くの場合、犬にぶどうを食べさせてしまうと数時間で嘔吐や下痢を繰り返すようになったり、ぐったりと動かなくなってしまったりと明らかに様子がおかしくなります。
そのまま放置すると急性腎不全を発症する場合もあります。腎不全が悪化すると尿が体外に排出されなくなって尿毒症を引き起こし、最悪の場合は1日から数日で命を落とすケースもあるんです。
なぜ犬にぶどうを食べさせてはいけないの?
私たち人間がブドウを食べてもほとんど害がないのに、犬にとってブドウが有害であるというのは不思議に思うかもしれません。実際、なぜ犬がブドウを摂取すると体調を崩すのか、その原因は完全には解明されていません。
2014年の文献によると、犬がブドウを摂取した多くの症例で、6〜12時間以内に嘔吐や下痢、食欲不振、無気力といった症状が現れ、その後、急性腎不全を引き起こして数日以内に死亡に至るケースも報告されています。しかし、この腎不全の具体的な原因は特定されておらず、ブドウに付着した農薬やビタミンD類似物質、カビ、あるいは未知の成分が疑われている段階です。
この点に関連して、2024年に発表された総説では、ブドウに含まれる有機酸である酒石酸が、中毒の原因である可能性が示唆されています。ただし、酒石酸そのものの毒性試験はまだ実施されておらず、ケーススタディや関連する研究結果を基にした推論に過ぎません。
重金属やマイコトキシン(真菌毒素)などの他の可能性が否定された結果、酒石酸が潜在的な毒性要因として取り上げられているのですが、確定的な証拠は未だ得られていません。
したがって、酒石酸が本当にブドウ中毒の原因であるかどうかについては、さらなる研究が必要です。
また、犬がブドウによって腎障害を起こす量についても、はっきりとした基準がありません。生のブドウの場合、犬の体重1kgあたり32g、レーズンなら1kgあたり11〜30g以上が危険とされていますが、実際には1kgあたり19gのブドウを食べた犬でも腎障害を発症した例があります。
このように、どの程度の摂取量で中毒が発症するかは個体差があり、明確にはわかっていません。
参考文献:
- 「酒石酸クリームとタマリンドの摂取後の犬の急性腎障害と、ブドウとレーズンに含まれる毒性成分として提案されている酒石酸との関連性」
原題 ”Acute kidney injury in dogs following ingestion of cream of tartar and tamarinds and the connection to tartaric acid as the proposed toxic principle in grapes and raisins.” 2022年7月公開 http://dx.doi.org/10.1111/vec.13234
出典 Wegenast, C.A., Meadows, I., Anderson, R.E., Southard, T.L., González Barrientos, C.R., & Wismer, T.A. (2022). Acute kidney injury in dogs following ingestion of cream of tartar and tamarinds and the connection to tartaric acid as the proposed toxic principle in grapes and raisins. Journal of veterinary emergency and critical care.
- 「Vitis vinifera摂取後の犬における毒性に関するエビデンスベースを探るスコーピングレビュー:臨床効果、治療、およびV. viniferaの種類」
原題 ”Scoping review exploring the evidence base on Vitis vinifera toxicity in dogs after ingestion: Clinical effects, treatments and types of V. vinifera” 2024年7月公開
https://bvajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/vetr.4536
出典 Downs, J., Zoltowska, A., Hackney, T., Gardner, D. S., Ashmore, A., & Brennan, M. L. (2024). Scoping review exploring the evidence base on Vitis vinifera toxicity in dogs after ingestion: Clinical effects, treatments and types of V. vinifera. Veterinary Record, e4536.
犬がぶどうを誤って食べてしまったときの対処法は?
犬がもしも誤ってぶどうを食べてしまったら、すぐにかかりつけの動物病院に連絡をしてください。
その時に必要なのは、
- いつ、どれぐらいの量を食べたのか
- どんな状態のぶどうを食べたのか(皮ごとやレーズン状など)
- 今はどんな様子か
といった情報です。これらの情報を伝えてどんな対応をすればいいのか相談しましょう。
犬に塩を飲ませて吐かせるのはNG!
なお「塩を飲ませて吐かせる」といった対応はオススメしません。犬が塩中毒になる危険性があります。自己流の対策ではなく必ずプロの意見をあおぎましょう。
犬がぶどうを食べてしまった場合、病院に連れて行くタイミングは?
なるべく早く動物病院に連れて行きましょう。特に犬が食べたぶどうの量が多い場合にはその時に症状が出ていなくても、治療は一刻を争います。夜間でかかりつけの病院が閉まっている場合には、夜間緊急病院に問い合わせてください。
2019年に発表された研究(※2)では、ぶどうを食べて緊急処置を受けた139頭の犬のうち死亡したのは1%未満だったというケースが紹介されています。
誤ってぶどうを食べてしまっても、病院で嘔吐処置(吐かせる)や毒素吸着剤の処方などをすみやかに受けられると助かる確率は高くなります。犬がぶどうを食べたと気づいたらすぐに病院に連絡を入れましょう。
レーズンやワインなどのぶどうの加工品も犬に与えるのはNG!
ぶどうジュースやレーズン、ぶどう味のお菓子など、ぶどう関連の食品もたくさんあります。日常的に家に置いてあるという飼い主さんもいるでしょう。
こういったぶどう関連の食品も、すべて犬には与えられません。レーズンはお菓子やパンなどに入っていることも多いので気がつきにくいこともありますが、誤って食べさせないように気をつけましょう。
ぶどうを使ったワインやジュースの一滴であっても厳禁。飼い主さんがこぼしてしまったのをうっかり舐めないよう注意が必要です。
犬にぶどうを食べさせないために気をつけることは?
ぶどうやぶどうを使った食品が家の中にあると、犬がうっかり誤食してしまう可能性もあります。そうした事態を避けるために日頃から以下のような対策をしておきましょう。
ぶどうは扉の中にしまう
ぶどうやぶどうを使った食品は、冷蔵庫や戸締りのできる棚など犬の手が届かないところにしまいましょう。
ぶどうの皮はフタ付きのゴミ箱へ
ぶどうを食べた後に皮の入ったお皿がテーブルに乗ったままになっていたり、流し台に置いたままにしたりしておくと、ふと目を離したすきに犬が食べてしまう可能性があります。皮をむいたらすぐにビニール袋などに入れて口を縛り、匂いが漏れないようなフタ付きのゴミ箱に入れましょう。
特に留守番をさせるときは注意
犬に留守番をさせるときには、手の届く範囲や開けられるところにぶどう関連の食品がないかを確認しておきましょう。飼い主さんの外出中は、犬に何か異変があってもすぐに気付いてあげることができません。「ちょっとおおげさかな?」というくらいの対策をしておいたほうが、犬も飼い主さんも安心して過ごせます。
(※1)出典:「ブドウの皮摂取後に急性腎不全を発症した犬の 1 例」(2014)塚田悠貴, 髙島一昭, 山根剛, 山根義久.―『動物臨床医学』23巻1号p.30-33.
(※2)出典:Colin F Reich, Mallory C Salcedo,Amy M Koenigshof,Molly M Hopp ,Julie M Walker ,Julie C Schildt ,Matthew W Beal “Retrospective evaluation of the clinical course and outcome following grape or raisin ingestion in dogs (2005–2014): 139 cases”