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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
シャリシャリとした食感が心地よく、スーパーなどで手軽に買える人気のフルーツ「梨」。食後のデザートとして楽しむ飼い主さんも多いでしょう。でもそんなときに愛犬が欲しがったら? 果物の中には人間が食べても大丈夫なのにペットが食べると有害になってしまうものもあります。犬にとって梨は安全な果物なのか気になりますよね。今回は獣医師の茂木千恵先生に梨の安全なあげ方や与えるときの注意点などを伺いました。
目次
- 犬は梨を食べても大丈夫!ただし、食べ過ぎはNG
- 梨を食べるとアレルギー(中毒)を発症する犬はいる?
- 犬に梨の皮や軸(芯)、種をあげても大丈夫?
- 梨に含まれている栄養素と犬に与える健康面でのメリットは?
- 犬に梨を与える際の適量は?
- 犬に梨を与える際の注意点は? 小さくカットしよう
- 梨を使ったジュースやお菓子など加工品を与えても大丈夫?
- 梨を使った、犬も食べられる手作りレシピは?
- 犬が食べても良い果物・食べてはいけない果物
犬は梨を食べても大丈夫!ただし、食べ過ぎはNG
梨は犬に与えても基本的には問題ありません。和梨でも洋梨でも同じです。ただ気を付けたいのがおしっこの量。梨はカリウムを多く含む果物です。カリウムには利尿作用があるため、梨を食べた犬は普段よりおしっこの量が多くなる可能性があります。梨を与える場合はそれを想定して、車に乗る前などは避けておいたほうがいいかもしれません。また過剰摂取は禁物です。
美味しい梨の選び方
美味しい和梨を選ぶときは次の4つのポイントを確認しましょう。
- 手に持ったとき、ずっしりと重みを感じられるもの
- 色ムラが少なく、全体的に均一に色づいているもの
- 軸にしっかりと太さのあるもの
梨を子犬に与えても大丈夫?
子犬の消化器官が十分に発達する生後2〜3か月ほど経った頃からであれば、基本的には梨を与えても問題はありません。 ただし、生後7~8か月までは消化機能が未発達な場合があります。心配な方はお腹が冷えたりしないよう常温の梨をすりおろすなど、消化器に負担のかからない少量にとどめて、与えすぎには注意しましょう。
持病のある犬に与えても大丈夫?
愛犬の体調やおかれている環境によっては与えない方がよい場合があります。特に、犬に病気(持病)がある犬や、食事管理をしているときは、梨を与える前に必ずかかりつけの獣医師に相談してください。
注意すべき持病の例:糖尿病、慢性腎臓病、心臓病、慢性腸症、副腎皮質機能亢進症、副腎皮質機能低下症など
梨を食べるとアレルギー(中毒)を発症する犬はいる?
梨にアレルギーを持つ犬もいます。果肉を食べてすぐに中毒症状が出る場合もあれば、数時間経ってから発症することもあるので、初めて梨を与えるときや2回目に与えるときは特に慎重に様子を見ておきましょう。
重篤なアレルギー反応が起きた場合は、以下のような症状があります。
・皮膚のじんましん
・激しい嘔吐や下痢
・元気がなくぐったりしている
・呼吸が苦しそう
梨を食べた後にこのような症状が見られたら、すぐに動物病院を受診しましょう。また、これまでにモモやリンゴでアレルギーの徴候があった犬は高い確率で梨にもアレルギーの徴候が出ると考えられているので、該当する場合はあげる前にかかりつけの獣医師に相談しましょう。
犬に梨の皮や軸(芯)、種をあげても大丈夫?
皮には農薬が残っている可能性があるので、むいてからあげる方がいいでしょう。また、種にはアミグダリンという有害な成分が含まれています。人が食べるときと同じように、犬に梨を食べさせるときも皮や軸を取り除いてからあげましょう。
>犬はりんごを食べても大丈夫!食べると危険な部位などの注意点や健康面でのメリットについて解説【獣医師監修】
梨に含まれている栄養素と犬に与える健康面でのメリットは?
梨はカロリーが100gあたり43kcalと低く、甘すぎない果物なので犬に与えやすい食材です。梨を食べることで得られる効果や栄養には以下のようなものがあります。
水分が多い
梨は果物の中でも特に水分が豊富で、全体の約90%を占めています。お水を飲まなくなってきたシニア犬や、夏バテで体内の水分が不足し脱水気味になっている場合は水分補給にもなります。ごはんを食べない犬には、ドッグフードに梨をトッピングしてあげると嗜好性が上がり、食べてくれる場合があります。しかし、糖分も多く含まれるため、トッピング等にとどめ、与えすぎには注意してください。
食物繊維
梨は水溶性の食物繊維を多く含みます。水溶性の食物繊維は腸内で水分を吸収しながら、穏やかに腸の動きを刺激してくれるため、便秘の解消に役立ちます。また食物繊維のおかげで糖分の吸収を抑制することができ、血糖値が急激に上がることも抑えられます。
さらに、脂質コレステロールの吸収を抑制する効果もあります。腸内の便や老廃物の排出を促し、腸内環境や便通を整えてくれるのです。
ただし、食物繊維は消化されにくく、犬は人間に比べて食物繊維の消化が得意ではありません。食べすぎるとかえって便秘や腹痛、軟便、下痢になる可能性がありますので、与える量には注意が必要です。
カリウム
梨には、体のエネルギー代謝調整に効果的な、カリウム(ミネラル)が含まれます。カリウムが不足すると、食欲不振や元気がなくなるなどの症状につながるので、注意が必要です。
アスパラギン酸
梨にはアミノ酸の一種のアスパラギン酸が多く含まれています。あまり聞き慣れない成分かもしれませんが、このアスパラギン酸は肝臓での代謝を良くし、利尿作用や疲労回復の効果もあります。アスパラギン酸は犬が過剰摂取しても問題はないと言われているので、安心して与えることができます。
ソルビトール
梨に含まれるソルビトールは甘みを持つ糖アルコールで、解熱効果の働きがあるとされています。暑いときに食べることで体の冷却効果が期待できます。水分を保持する作用があり、乾いた喉を潤す効果もよく知られています。秋になり空気が乾燥してくる時期には好適の果物でしょう。ただしこのソルビトールも摂取しすぎると下痢の原因になります。
プロアテーゼ
梨には、たんぱく質を分解し、消化管の健康をサポートする働きのある「プロテアーゼ」という酵素が含まれています。プロテアーゼが多い食品は、野菜であればキュウリや大根、セロリ、そのほかにも納豆、りんご、キウイフルーツ、パイナップルなどに含まれます。また、梨には疲労回復に役立つとされるクエン酸や・リンゴ酸・アスパラギン酸なども含まれています。
洋梨は食物繊維が2倍
なお、洋梨もほぼ栄養成分は同じですが、100gあたり54kcalと日本品種の和梨より若干高カロリーです。また、食物繊維は和梨の2倍含まれており整腸作用が期待できます。
犬に梨を与える際の適量は?
与えてもいい量の目安
梨を犬にあげるなら、犬が1日に必要なカロリー量の10%以下をおすすめします。ちなみに梨20gで7.6kcalとなります。梨20gは皮・軸(芯)・種部分を除いて厚さ1.5㎝のくし切り1個程度の量と考えてください。
小型犬の場合
体重が3㎏程度で、必要カロリーの1割は25kcal。
梨65gで25kcalです。
中型犬の場合
体重が10㎏程度で、必要カロリーの1割は62kcal。
梨163gで62kcalです。
大型犬の場合
体重25㎏程度で、必要カロリーの1割は125kcal。
梨329gで125kcalです。
上記はいずれも避妊・去勢済みの成犬で計算した場合です。これらの量はフード以外におやつとして梨だけを与える1日の上限です。
ただし犬によっては梨をほんの少し食べただけでも、梨に含まれる食物繊維や甘味(果糖やソルビトール)などによって腹痛や下痢を引き起こしてしまう可能性があります。
犬に梨を与える際の注意点は? 小さくカットしよう
犬に梨を与えるときには皮をむいて種と軸を取り除く必要があります。また、小型の犬種によっては、梨のサイズが大きいと喉に詰まらせてしまう恐れがあります。薄くスライスするか、おろし器ですりおろす、みじん切りにするなどしてから与えるようにしましょう。小さく切ることで犬の体格に関係なく与えることができます。
あげるときはフードのトッピングやおやつとして少量ずつ与えましょう。飼い主さんが梨を食べているときに、一緒に犬にも与えるというのはおすすめできません。犬も食べたいとねだるかもしれませんが、ついほだされてあげてしまうと「次ももらえる!」と期待させてしまいます。日によってあげたりあげなかったりすると、欲求不満や葛藤、飼い主さんへの不信感などにつながりかねません。お互いの信頼関係のために、あげないようにしましょう。
加熱せずに生で与える
梨の成分の一つであるアスパラギン酸は加熱することで壊れてしまので、生で与えた方がいいでしょう。ただ、梨を食べた後の排尿量が気になる場合は、加熱することで水分を減らしたり、茹でたり水にさらすことでカリウムを減らすなどして調節するとよいでしょう。ちなみに。食物繊維とソルビトールは加熱しても減りません。
梨を使ったジュースやお菓子など加工品を与えても大丈夫?
犬に与えることを想定して作られている加工品であれば問題ありません。ですが、人間用に作られた加工品は犬にはカロリーが高すぎますし、甘味料や油脂、小麦、乳製品などが含まれていることが多く、犬にとって有害となる可能性もあるためおすすめできません。
缶詰も同じです。洋梨などはよく缶詰として販売されていますが、人間用に作られた梨の缶詰には保存性を高めるために砂糖が多く含まれているため、犬が食べたときに中性脂肪となり肥満につながる可能性があります。これは梨に限らず、他の果物の缶詰であっても同じです。
梨を使った、犬も食べられる手作りレシピは?
はちみつと梨だけで作る愛犬用の「蒸し梨」の手作りレシピをご紹介します。蒸し器を持っていなかったり、面倒な場合は電子レンジでも簡単に作ることができますよ。飼い主さんの分にはシナモンシュガーをかけて食べるのも美味しいです。ぜひ、愛犬と一緒に楽しんでみてください。