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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
犬にぶどうを食べさせてはいけないというのは犬の飼い主の間ではよく知られているかと思いますが、意外と盲点なのがレーズン。レーズンもぶどうから作られているので犬が口にしてしまうと中毒症状を起こしてしまうことがあります。最悪の場合、急性腎不全で死に至ってしまうケースもあり、たいへん危険です。今回の記事では、chicoどうぶつ診療所 所長で獣医師の林美彩先生監修のもと、犬にレーズンを食べさせてはいけない理由や誤食してしまった場合の対処法などを解説していきます。
目次
- 犬にレーズンを与えるのはNG!
- 犬がレーズンを食べた場合の中毒量・致死量は?
- 犬種やサイズによってレーズンを食べることのリスクは異なるの?
- 犬がレーズンを食べてしまった時の症状とは?
- 犬がレーズンを食べてからどれくらいの時間で症状が出てくるの?
- 犬がレーズンを食べてしまった時の対処法は?
- 犬がレーズンを食べてしまった場合の動物病院での処置内容は?
- 犬がレーズンを食べないように予防するには?
- 犬にプルーンを与えても大丈夫?
犬にレーズンを与えるのはNG!
犬がレーズンを食べると危ないということが、近年の研究(※1)で明らかになってきました。ここでいうレーズンとは「干しブドウ」のことで、最初に症例が発見されたのが2001年と日が浅いため、愛犬家の間でもあまり認知されていません。玉ねぎやチョコレートが中毒症状を引き起こすことはよく知られていますが、レーズンについてはまだそこまで知られていないため、注意が必要です。
ぶどうそのものも犬にとってはあまりよいものではありませんが、生のぶどうよりもレーズンのほうが実は中毒に至るリスクが高いとされています。その理由はまだはっきりとはしていないものの、レーズン特有の「水分の少なさ」にあるのではないかといわれています。水分含有量が少ないため自然と成分が濃縮され、そのぶん中毒になる確率が上がるのではないかと推測されています。
出典:Gwaltney-Brant S, Holding JK, Donaldson CW & et al.(2001).Renal failure associated with ingestion of grapes or raisins in dogs. J Am Vet Med Asso, 218, 1555-1556
犬がレーズンを食べた場合の中毒量・致死量は?
中毒を起こしたり死に至ってしまう明確な量はわかっていないようです。しかし、埼玉県獣医師会の見解では、体重1kgあたり11~30g以上のレーズンを口にすると中毒症状が起きる可能性があるとされています。生のぶどうの場合は体重1kgあたり32gが中毒症状を起こす量だといわれていますので、こちらも注意してください。
犬種やサイズによってレーズンを食べることのリスクは異なるの?
犬種というよりも体の大きさがポイントです。体が大きければ大きいほど、中毒を起こすまでに必要なレーズン量も増えます。しかし、少量だからといって中毒症状が起こらないわけではなく、つねにリスクは考えられますので、食べないに越したことはありません。
犬がレーズンを食べてしまった時の症状とは?
犬がレーズンを食べてしまった際に起こりうる症状は以下のとおりです。
下痢
中毒症状として、消化器に炎症が起きると下痢が引き起こされることがあります。
嘔吐
下痢と同様に、中毒症状から胃腸に障害が起きると、嘔吐することがあります。
傾眠
意識レベルが低下することで起こり得ます。重症化すると昏睡に陥ることもあるでしょう。
元気がなくなる
嘔吐や下痢などで脱水が起きたり、食欲が落ちたりして体内のエネルギーが不足し、元気がなくなることがあります。
脱水
下痢や嘔吐から、脱水症状が生じます。
尿量が減る、出なくなる(腎不全で尿毒症の状態に陥っている)
中毒から急性腎不全が起こることによって、排尿量の減少や乏尿(必要最低限以上の尿が作れなくなる症状)といった症状が見られます。
痙攣(けいれん)発作など
急性腎不全によって毒素排泄が滞ることで、毒素が溜まります。それにより神経症状が引き起こされ、痙攣発作が見られることがあります。
犬がレーズンを食べてからどれくらいの時間で症状が出てくるの?
食べた量にもよりますが、基本的に中毒症状が現れるのは1~4時間後が多いといわれています。ただし、一概には言えず48時間程度で急性腎不全となったケースもあるそうです。
そのほか、72時間以内に嘔吐下痢、食欲不振、脱水といった症状が起こったという報告もありますので、レーズンを食べた直後に症状がないからといって安心せず、すぐに病院へ連れていってあげてください。
犬がレーズンを食べてしまった時の対処法は?
犬がレーズンを食べてしまったと気がついた場合は以下の処置をしましょう。
家で出来る応急処置
犬がレーズンを食べてしまったときに、自宅で無理に吐かせようとする方もいらっしゃいますが、それによって、誤嚥性肺炎や窒息のリスクがあります。また、胃や食道を傷つけてしまうことも考えられますので、自宅での応急処置は避けたほうが無難です。すぐに動物病院へ連れていきましょう。
動物病院に連絡するタイミング
犬がレーズンを食べたということが発覚したタイミングで連絡するのがベストです。その際に、いつ、どのくらいの量を食べたのかを動物病院にくわしく伝えてください。加工品の場合には、どういったものを食べてしまったのか、パッケージがあればそれも伝え、さらに受診の際は持参するとよいでしょう。
動物病院へ連れていくまでに飼い主がやっておくべきこと・準備しておくもの
連絡後、動物病院へ連れていくまでに飼い主がやるべきことは以下の通りです。
動物病院に連絡する
まずは電話で愛犬の様子やどのような状況でレーズンを食べてしまったのかという経緯を伝えましょう。
食べてしまった量や時間を確認しておく
レーズンを食べてしまった量や時間を確認し記録しておきます。パニックになると忘れてしまいがちなので、必ずメモに残しておきましょう。
犬の様子を把握しておく
少しでも普段と違うところがあればそれを伝えましょう。犬の普段との違いは飼い主しかわかりません。動画などで撮影しておくのも役立つかもしれません。
犬がレーズンを食べてしまった場合の動物病院での処置内容は?
動物病院で施される治療には、以下のものがあります。基本的にお腹のなかにあるものを出させるのが主な治療法といえるでしょう。ちなみに、犬の食物誤飲の際にかかる費用は平均16,348円というデータもあります。
催吐処置
薬を使い、胃の中にあるものを嘔吐させる方法です。治療費は2,000~30,000円程度です。
胃洗浄
犬に麻酔をかけて胃へチューブを通し、胃の中を洗い流す方法です。こちらも病院によりけりですが、麻酔、点滴料金を除くと5,000~10,000円程度でしょう。
犬がレーズンを食べないように予防するには?
犬がレーズンを食べてしまった際の対策についてお伝えしてきましたが、そもそもレーズンを口にしないためにはどのような対策をしておけばよいのでしょうか。家庭でできる予防策をそれぞれ見ていきましょう。
レーズンが犬にとって危険なものであることを家族や家によく遊びに来る友人・知人に情報共有しておく
犬が食べてはいけない食材を知らない人も多いため、来客された人には与えてはいけない食材を伝えておくとリスクを避けられます。特にレーズン、ぶどうはまだ「犬が食べてはいけないもの」という認知が低いため、注意が必要です。
レーズンの保存場所に注意
犬の手が届きやすい場所や、いたずらをしてしまいかねない場所では保管しないようにしましょう。
食事中に床に落とさないようにする
人がレーズンやその加工品を食べるときには、犬をケージに入れたり、床に落とさないように食べたりするなどの注意をしてください。特に小さいお子さんがいるご家庭では思わぬところにレーズンが落ちることもあるので、掃除を徹底しましょう。
調理中・食事中、留守番の際はケージやサークルを利用する
どんなに気を付けていても、レーズンをはじめ食べ物を床に落としてしまうのを100%防ぐことは難しいでしょう。そのため、ケージやサークルを利用するのがおすすめです。それだけで、誤食を100%防ぐことができます。
口に咥えたものを離すトレーニングをしておく
レーズン単体はすぐに飲み込めてしまう大きさなので少し難しいかもしれませんが、レーズンパンなどある程度大きめの加工品であれば、くわえて食べようとしている瞬間に口から離させることができれば誤食を避けられます。日頃からのトレーニングで愛犬の誤食を防げるといいですね。
犬にプルーンを与えても大丈夫?
レーズンと見た目が似ているプルーン。結論からいうと、こちらも犬には与えないほうが良いでしょう。プルーンの種子や茎、葉にはアミグダリンという成分が含まれており、呼吸困難や痙攣、嘔吐や下痢などを起こす可能性があるからです。どのくらいの量を食べると中毒リスクが起こるのかについてはまだ明確な結果はわかっていません。しかし、中毒の危険性を考えると、与えないほうが無難です。