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バーニー動物病院千林分院分院長。ペット薬膳管理士、中医学アドバイザー。動物病院でペットの診療にあたる傍ら犬猫の手作りご飯教室や問題行動のカウンセリングを行う。
人間にとってはサラダなどで親しみのあるアボカド。「森のバター」とも呼ばれ、栄養豊富で身体によいイメージがありますが、実は犬にとっては中毒症状を引き起こす可能性のある危険な食べ物です。そこで今回は、アボカドに含まれている成分と犬に与える影響、食べてしまったときの対処法・注意点などについて、バーニー動物病院 千林分院分院長で獣医師の堂山有里先生に解説していただきます。
目次
- 犬にアボカドを与えるのはNG
- 犬にとってアボカドが危険な理由とは?
- 犬にアボカド成分配合のドッグフードやアボカドオイルを与えても大丈夫?
- 犬にとって危険なアボカドの摂取量は?
- 犬がアボカドを食べてしまったときの中毒症状とは?
- 犬がアボカドを食べてしまったときの応急処置・対処法とは?
- 犬がアボカドの種を飲み込んでしまったときの応急処置・対処法とは?
- 犬がアボカドを食べてしまった時の動物病院での対処法は?
- 犬が食べても良い果物・食べてはいけない果物
犬にアボカドを与えるのはNG
犬にアボカドを与えるのは危険です。犬にとっては中毒症状を引き起こす可能性のある食べ物のため、欲しがっても食べさせるのはやめておきましょう。
犬にとってアボカドが危険な理由とは?
犬にとってアボカドが危険な理由はいくつかあります。ここからは、どういった点が危険なのか見ていきましょう。
アボカドに含まれるペルシンで中毒になる
ペルシンは殺菌作用のある化学物質で、アボカドの実と葉の両方に含まれています。人が食べる分には心配ありませんが、近年ペルシンが犬にとっては毒となる可能性が示されました。また、犬や猫のほか、ウシ、ウマ、ヤギ、マウス、ウサギなどで毒性を示すことも明らかになっています。ペルシンがこれらの動物に毒性を示すメカニズムや、どの程度食べると毒性があるのかなどは、まだ解明されていません。
一口食べただけでも中毒症状になることも
どの程度の量のアボカドを食べると中毒を起こすのかは、まだわかっていません。また、アボカドの品種によってペルシンの量に違いがあることや、食べた動物の代謝能力などにより中毒症状の出方にも差があるため、一概にこれだけの量を食べたら危険という基準はありません。ですので、現段階では一口も食べさせないのが安全でしょう。
皮や種も危険
ペルシンはアボカドの皮や種にも含まれます。また、アボカドの種はとても大きく硬いので、もし犬が丸呑みしてしまったら、消化することができず腸に詰まる可能性があります。皮は硬いので、噛みちぎって食べると、ギザギザした面が胃や腸などの粘膜を傷つける恐れがあるでしょう。
食物アレルギーにも注意
アボカドはラテックス(天然ゴム)のアレルゲンと交差反応を示すため、ラテックスアレルギーを持つ犬においては注意が必要です。アボカドやキウイ、バナナ、マンゴーなどに触れてアレルギー反応が誘発されることをラテックス・フルーツ症候群といい、人ではラテックスアレルギーを持つ患者の約半数が特定の野菜や果物を食べた後にアレルギー反応を起こしたとされています。犬においてラテックス・フルーツ症候群を発症したという報告はあまり聞かれませんが、念のためこれらの食材には注意が必要です。
高脂質により膵炎を発症する可能性がある
膵炎の発症メカニズムはまだ完全には解明されていませんが、脂質の多い食物は犬に膵炎を起こす危険性があると考えられています。アボカドは脂質が約20%と非常に高いため、膵炎発症の原因になりうるでしょう。
一方、アボカドに含まれる脂質のほとんどは不飽和脂肪酸で、そのバランスは非常によいです。なかでも多く含まれるオレイン酸は、オリーブオイルに含まれることでも有名な健康に役立つ脂肪酸。そのほかに、n-3系脂肪酸であるα-リノレン酸なども含まれています。
犬にアボカド成分配合のドッグフードやアボカドオイルを与えても大丈夫?
アボカドが犬にとって危険な食材であることはわかりましたが、ドッグフードやオイルなど、加工した食品は与えてもよいのでしょうか? 確認していきましょう。
アボカド成分配合のドッグフード
この件に関しては様々な議論がなされていて、アボカドを使ったドックフードの安全性はまだ確立されていません。昔から販売されていて大きなトラブルがない商品もあるので、食べたからといって必ずしも症状が出るものではないようですが、当該商品のペルシンの含有量などは公表されていないのが実情です。
また、アボカドの品種すべてに毒性があるわけではなく、利用可能な品種が存在するという説もありますが、現時点での詳細は不明です。
アボカドオイル
アボカドオイルの犬に対しての安全性は確立されていません。アボカドオイルはアボカドの果肉から採取して得られる植物オイルのことで、元になるアボカドの品種や抽出方法によりペルシンの含有量は異なると考えられます。現段階では犬に対するペルシンの安全な摂取量が不明であることから与えない方がよいでしょう。
オイル(脂質)はアレルゲンとならないため、アボカドオイルでアレルギーを起こす可能性は、基本的にはそれほど高くないと考えられます。しかし、絶対に安心ということはないので、もし愛犬がアボカドアレルギーであったり、ラテックスアレルギーであったりするならば使用は避けるべきです。また、オイルは油であるため、舐めると膵炎を発症するリスクが高まります。
犬にとって危険なアボカドの摂取量は?
どのくらいのアボカドを食べると中毒を起こすのかは解明されていないので、現段階では一口も食べさせてはいけないと考えてください。
犬がアボカドを食べてしまったときの中毒症状とは?
アボカドを食べたことによる毒性としては胃腸炎、嘔吐、下痢、呼吸困難、心筋組織の損傷、膵炎、ラテックス・フルーツ症候群によるアレルギー反応などがあります。また、ウシやウマ、ウサギやマウスでは乳房炎の報告もあります。アボカドを食べた可能性がある場合は以下の点に注意し、該当する場合は動物病院を受診してください。
アボカドを食べたと考えられる症状
食欲がない
アボカドを食べたことにより胃腸炎、膵炎などを起こしたり心筋障害が起きたりすると、食欲不振になることがあります。普段はよく食べる子が全く食べない、数口食べただけで残してしまう、おやつなら食べるがドックフードは食べないなどあれば、食欲が低下しているといえます。
基本的に犬は体調不良になると食欲がなくなりますが、かなり重篤な病状でも食欲があまり低下しないこともあります。また、体調不良以外の原因により食欲がなくなることもあります。食欲がないこととアボカドとの関連が一概にあるとは言い切れないので、そのほかに当てはまる症状がないかをよく観察することが大切です。
吐いている
アボカドを食べたことにより胃腸炎、膵炎を発症すると吐くことがあります。また、アレルギー反応でも吐くことがあります。食べたものを吐く、何回も吐く、吐き出すものがなくなっても液体などを吐くときなどは注意が必要です。一度吐いたけれどその後はケロッとして元気な場合は、少し様子を見ましょう。
下痢をしている
アボカドを食べたことにより胃腸炎、膵炎を発症すると下痢をすることがあります。また、アレルギー反応でも下痢することがあります。下痢が続く、だんだん下痢がひどくなる、血便が出るなどの場合は注意が必要です。
お腹が痛そうにしている
アボカドを食べたことにより胃腸炎、膵炎を発症したり、アボカドの種が腸に詰まったりすると、お腹が痛くなることがあります。
犬はお腹が痛くても言葉に出して訴えることができません。うずくまってじっとしている、触ると怒る、抱き上げるとキャンと鳴く、何となく元気がないなどは、犬がお腹が痛い時に見せる素振りです。小刻みに震えるときもお腹が痛い場合があるので、これらの症状が見られたら受診してください。
すぐに動物病院に連れて行くべき緊急性の高い症状
頻繁に吐いている
頻繁に吐いているときは、中毒や膵炎、胃腸炎などの可能性があります。1日に5〜6回以上吐くときは重篤の場合があるのですぐに受診してください。
けいれんしている
犬がけいれんしていたり、呼びかけても反応しなかったり、意識がはっきりしないときは、中毒により神経や心筋に障害が起きている可能性がありますので、この場合もすぐに受診してください。
全身や肢がむくんでいる
心臓機能や腎臓機能の低下からむくみが生じることがあります。肢や体がブヨブヨした感じがするときは特にむくみが疑われます。心臓や腎臓の異常は命に関わるため早急に受診してください。
呼吸が荒い
心筋障害から肺や胸に水が溜まると、呼吸が苦しくなってハアハアと荒い息をするようになります。また、種を喉に詰まらせている場合も同じように呼吸が荒くなることがあります。いずれにせよ一刻を争うことがあるので動物病院に症状を電話で連絡し早急に受診してください。
湿った咳をする
心筋障害から肺に水が溜まったり、肺炎を起こしたりすると湿った咳をすることがあります。一刻を争うことがあるので動物病院に症状を電話で連絡し早急に受診してください。
ピンク色の泡を吐く
心筋障害から肺に水が溜まる状態に進行するとピンク色をした泡を吐くことがあります。一刻を争う事があるので動物病院に症状を電話で連絡し早急に受診してください。
舌がむらさき色っぽい
心筋障害から肺や胸に水が溜まると、酸素が吸えなくなり、皮膚や粘膜がむらさき色に変化するチアノーゼを起こします。犬の舌の色がむらさきに見える時はチアノーゼを起こしている可能性が高いため、早急に受診してください。
犬がアボカドを食べてしまったときの応急処置・対処法とは?
アボカドを食べてしまった場合に自宅でできる応急処置はありません。何をいつ、どのくらい食べたのかをよく思い出して犬の様子を観察し、いつもと違った様子であれば、また、もし特に症状がなくてもアボカドを食べたことが確実であれば、すぐに動物病院を受診してください。
犬の様子や症状を観察しつつ、まずは状況を整理する
犬が食べてはいけないものを食べた場合は、「何を、いつ、どのくらい食べたのか」がとても大切です。アボカドを食べた日時・量を記録し、現物があれば病院に持参すると役に立ちます。
様子がおかしかったらすぐに動物病院に連絡し、診察を受ける
アボカドを食べた後の犬の様子をよく観察し、食欲がない、元気がない、嘔吐、下痢する、震える、息が荒いなど、いつもと変わった様子があれば必ず早急に受診してください。
食べてすぐならば吐かせたり内視鏡で取り出したりすることもできますし、食べてから時間が経っていても点滴したり解毒治療をしたりすることもできるので、いずれにせよ診察を受けましょう。
犬がアボカドの種を飲み込んでしまったときの応急処置・対処法とは?
自宅でできる対処はないため動物病院で処置を受けてください。アボカドの種は硬く消化されないので、胃に残ったままになるか腸に流れて詰まるかになります。腸に詰まったままにすると、腸閉塞を起こし最悪のケースでは死に至ることもあるため、開腹して取り出す処置が必要となります。また、胃の中にあり状況が揃えば内視鏡で取り出すことができることもありますが、アボカドの種を内視鏡で取り出すことは非常に難しいといえます。
犬がアボカドを食べてしまった時の動物病院での対処法は?
犬がアボカドを食べてしまった場合、動物病院でどのような治療をするのかを見ていきましょう。
血液検査・レントゲン検査・超音波検査など
肝臓や腎臓といった内臓の状態を把握するため、膵炎の可能性を確認するため血液検査を行います。
種や皮を食べている場合は、消化できず胃や腸に留まっている可能性が高いので、レントゲンや超音波検査を行い、どのあたりに存在するのか位置を確認します。ただ、果肉のみを食べている場合はレントゲンや超音波検査ではわからないことが多いです。費用の目安は1〜2万円程度(状態により異なる)。
催吐処置
果肉を食べた場合、食べて1〜2時間以内なら催吐処置で吐かせることができます。その場合も食べたもの全てを吐かせることは難しい場合があること、すでに食べたもののうち幾らかは吸収されてしまっている可能性があることから、中毒を完全に防ぐことはできません。
皮を食べている場合は、皮が硬く食道を傷つける可能性があるため、催吐処置はお勧めできません。費用の目安は1〜3万円程度(症状により異なる)。
点滴、薬剤処置
基本的には中毒物質や異物を体内から取り出すことが第一に必要です。その後、解毒を促すために点滴や薬剤を投与することがあり、入院となる場合もあります。費用の目安は1万円〜(重症度により増減)。
摘出処置
催吐処置では吐き出せない、催吐処置が適用とならないときは、内視鏡により取り出すか開腹手術を行います。腸に種が詰まってしまっているときは必ず開腹手術が必要です。費用の目安は、内視鏡3万円〜、開腹手術10万円〜です。
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