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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
犬が足を舐めることには、どんな理由があるのでしょうか? 犬が飼い主などの人の足を舐める時と自分の足を舐める時では行動の意味が違うだけでなく、病気やストレスなどのサインの場合もあるようです。そんな犬が足を舐めるという行為の理由や隠された愛犬の気持ちについて、動物行動学を研究する獣医師の茂木千恵先生に改めて解説していただきます。
目次
- 犬はなぜ“舐める行為”をするの?
- 犬が飼い主の足を舐める理由とは?
- 犬が自分の足を舐める理由とは?
- 犬が自分の足を舐めることのメリット・デメリットとは?
- 犬が自分の足を舐め続けるのを放置するのは危険!?
- 犬が足を舐め続けている時、病院に連れて行くべき症状は?
- 犬が足を舐め続けるのをやめさせる方法と予防対策は?
犬はなぜ“舐める行為”をするの?
犬が何かを舐めている姿を目にすることは日常茶飯事ですが、犬が舐める理由とは何でしょうか?
例えば、飼い主の口を舐めるのは、親愛の気持ちを込めた行動のひとつ。飼い主が帰宅した際に口や顔中を舐めるのは「帰ってきて嬉しい」という気持ちを表していると考えられています。また、時にはお腹がすいたことをアピールして、ご飯を催促している場合もあります。
飼い主の手や腕を舐める時は、遊ぼうと誘っていたり、頭や体をなでてほしいと伝えていると考えられています。飼い主が遊びやなでるときに使う手や腕にアピールしているのです。一方、キッチンや食卓、食器からこぼれ落ちた食べ物の匂いにひきつけられて、床を舐めるケースもあります。
このように犬は何らかの意思表示や興味から、舐める行為をしているのです。では、犬が人(飼い主)や自分の足を舐める行為は、何を意味しているのでしょうか?
犬が飼い主の足を舐める理由とは?
犬が飼い主の足を舐める行為をとるのには、主に以下の理由が考えられます。
飼い主に遊んでほしい
手や腕を舐める時と同じく、遊んでほしいときに気を引こうとして飼い主の足を舐めることがあります。また、犬に足を舐められると、多くの飼い主はくすぐったくて反応が大きくなります。それにより犬は「飼い主さんが注目してくれる」「喜んでくれる」と肯定的に記憶してしまうケースもあるようです。
飼い主を落ち着かせたい
あるいは、飼い主が怒ったりイライラしたりしている時に、「落ち着いてください」「そんなに怒らないでください」「私はあなたのことが好きです」という服従に似た意味を込めて、舐め続けることもあります。
飼い主の足から美味しい味がする
この他、人の足にはたくさんの汗腺や皮脂腺があり、多くの匂いと分泌物が出ているため、単純に舐めると美味しかったということも考えられます。
犬が自分の足を舐める理由とは?
犬が自分の足を舐める理由とは、何でしょうか?
セルフグルーミングで犬は足を舐める
犬は通常、セルフグルーミング(毛繕い)の一環で足を舐めます。健康な犬は、食後や寝る前、お気に入りの場所に落ち着いたとき、屋外から戻った後に足を舐めます。これは足先についている汚れや食べ物を舐めとって清潔にしたり、寄生虫やノミ・ダニを排除するための本能行動で、衛生管理が目的です。セルフグルーミングをあまり行わない犬でも、時々、足を舐めてきれいにします。セルフグルーミングですから、上記のタイミングで犬が足を時々舐めていたとしても、それほど心配することはありません。しかし、犬が足をずっと舐め続けている場合には、次のような理由も考えられるので注意が必要です。
犬が足を舐め続けていると気づいたら注意が必要な理由
・かゆい(アレルギー)
アレルギーの場合、耳や口もかゆがっているときが多く、舐めるだけでなく、噛んだり掻き毟ったりします。
・痛み
傷やトゲ、爪割れなどがあって痛いと、犬は足を舐めます。犬が舐めているところを触ろうとすると、唸り声を上げることもあります。骨折や関節炎などで歩き方がおかしいときも、不自由そうに足を舐めます。
・胃腸の問題
精神性と感染性の両面で胃腸の不調がある犬には、かゆみや痛みが併発している可能性があります。
・乾燥肌
肉球が乾燥してひび割れてしまうと、痛みが気になり足を舐めてしまいます。
・退屈、不安
遊びやご飯が終わってしまい手持ち無沙汰になると、暇つぶしで舐める場合があります。不安を感じたときも、自分を落ち着かせようとして舐めます。
・ホルモン異常
ホルモンバランスが崩れクッシング病や甲状腺機能低下症になると、赤い斑点ができたりハゲかかったりするなど皮膚の問題が発生しやすくなり、このような異常な部位を舐めてしまいます。
・ノミ寄生、細菌または真菌感染症
肉球の間にノミが寄生していたり、細菌感染症または真菌感染症の症状が足に出たりしていると、舐めてしまいます。
犬が自分の足を舐めることのメリット・デメリットとは?
犬が足を舐めることのメリット
セルフグルーミングの一環として行うことで、足裏の清潔を保つことができます。
犬が足を舐めることのデメリット
デメリットは、舐めることで指の間が湿ったままになると雑菌が繁殖しやすくなり、炎症が起きやすくなることが挙げられます。すでに炎症がある場合は悪化してしまう可能性も。
また、足舐めにより犬の口腔内や唾液に感染症を起こす細菌やウイルスが多く含まれると、その口で飼い主を舐めることで、飼い主が「人獣共通感染症(ズーノーシス)」に感染するリスクが高まります。病気の感染を避けるためにも、なるべく愛犬に体を舐めさせないよう行動をコントロールしましょう。
犬が自分の足を舐め続けるのを放置するのは危険!?
傷や炎症が悪化することも
犬が自分の足を舐めることで、炎症がさらに悪化したり傷の治りが遅くなったりと、かゆみや痛みが長引くことがあります。また、叱られた時などに自分の体を舐めることで、葛藤や欲求不満を解消したり、動揺や興奮を鎮めたり、周囲の不安な状況を無視できるという効果から、繰り返し舐めてしまうケースも見受けられます。
心の病気に発展する恐れも
皮膚が赤くただれるほど自分の足を舐め続ける行動は、「常同行動」と呼ばれます。そこからさらにストレスが溜まることで、「常同障害」という精神的に異常をきたした状態になり、傷が生じるほどに足先やしっぽを噛み続けるという、看過できないケースに発展する場合もあります。
犬が足を舐め続けている時、病院に連れて行くべき症状は?
犬が足を舐め続けている場合、すぐに病院に連れて行ったほうがいい症状はどんなものがあるのか見ていきましょう。
心配のいらないケース
寝る前やリラックスタイムに舐めているだけでそれ以外は舐めていなく、手足が赤くなっていなければ、深刻にとらえなくとも良いでしょう。しかし、5分以上続いていて呼びかけてもやめないくらい執着して舐めている場合は、赤くなっていなくとも痒みがあるか、葛藤などの心因性の行動である場合があります。行動の専門家あるいは獣医師に相談しましょう。
動物病院の受診が必要なケース
どのような症状が見られたら動物病院を受診すべきか見ていきましょう。
・手足が真っ赤になっている
・足先は腫れて毛が抜けている
上記の症状が出ている場合は、皮膚炎や指間炎の可能性があります。
・足を引きずっている、または持ち上げている
・手足が震えている
・足先が冷たくて肉球の色が薄い
上記の症状が出ている場合は、重篤な病気の可能性があるのですぐに動物病院を受診してください。
犬が足を舐め続けるのをやめさせる方法と予防対策は?
犬がずっと足を舐め続ける様子を見つけたら、まずはその原因を特定することです。足をよく観察したり触ったりして、切り傷、傷、赤みなどの目に見える兆候がないかどうかを確認しましょう。ただし、最善策は目に見えるケガの兆候が見られても見られなくても、獣医師に診察してもらい、足を舐める理由を特定してもらうことです。治療を必要とする感染症やアレルギーが見つかれば、すぐに治療を始めることができるからです。
傷やケガが原因の足舐めの場合
もし、足に傷があれば、犬が傷口を舐めないように保護する必要があります。その際、首に巻くエリザベスカラーを使う方もいると思いますが、エリザベスカラーは犬にとって不自由でストレスにもなりかねないため、長期間の使用は避けたいものです。おすすめは、嫌がらなければという条件付きですが、靴や靴下を履かせることです。足の裏に傷や炎症があるときは散歩時に靴を履かせることで、傷口から細菌などの感染を防げます。靴下を嫌がる、履いても歩けない場合は、包帯を巻きましょう。適切な巻き方は獣医師に相談して教わってください。
ストレスが原因の足舐めの場合
犬にとって毎日のフードや運動の量は十分か、安心して過ごせる環境か、分離不安症になっていないか、暇な時間や留守番が長過ぎないかなど、精神的なストレスの原因を特定し排除することが大切です。退屈が原因であれば、犬と遊ぶ時間や散歩の時間を増やしましょう。犬と飼い主がよい信頼関係を築くためのコミュニケーションにもつながります。
ただ漫然と遊ぶより、記憶に残る遊び方があります。それは「おすわり」などの号令をかけて、指示通りにできたら褒めて遊びを再開するというパターンを繰り返す方法です。脳を使って体を動かし、こまめに褒めてもらえると犬の満足度が高くなります。また、過度の舐める行為の代わりに、おもちゃや骨を噛むよう犬を誘導することで、退屈感を和らげることもできるでしょう。
自己アピールによる足舐めの場合
犬は「注目して欲しい」「遊んで欲しい」とアピールする意味で、自分の体や足を舐めることがあります。アピールされてもすぐには注目せず、「おすわり」や「まて」など、号令を使って舐める行動以外の指示を出してやめさせ、やめたら必ず褒めましょう。ただし、「ダメ!」などと大声で注意すると驚かせて不安にする可能性があるだけでなく、高い声で言うと応援されたと勘違いして興奮が高まることもあるため、声による叱責、体罰は厳禁です。
常に犬をかまってあげることは不可能なので、犬の退屈やストレスを少しでも紛らわせてあげる工夫が必要です。ケージの中にひとりにするときはおもちゃを入れたり、低音量で音楽やラジオをかけたりしてみましょう。
アレルギーによる足舐めの場合
犬が足を舐める原因が、食物アレルギーによりかゆみを引き起こしている場合は、潜在的な引き金となる食品(獣肉や小麦など)を排除することが必要です。
乾燥による足舐めの場合
秋冬の乾燥シーズンは人間だけでなく犬も皮膚のバリア機能が低下して特にかゆみが出やすい時期。保湿剤や保湿タイプのシャンプーを使って乾燥対策をしてあげましょう。
そのほかの原因による足舐めの場合
細菌や酵母菌の感染予防、寄生虫の排除などは、飼い主が日頃から気にかけておくことで悪化は防げるはずです。犬のベッドを洗い、カーペットや布張りの家具を定期的に掃除機で掃除して、再感染の可能性を減らすなど、飼育環境の衛生管理をしっかり行いましょう。
第3稿:2021年11月19日更新
第2稿:2021年6月16日更新
初稿:2020年11月16日公開
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。