更新 ( 公開)
バーニー動物病院千林分院分院長。ペット薬膳管理士、中医学アドバイザー。動物病院でペットの診療にあたる傍ら犬猫の手作りご飯教室や問題行動のカウンセリングを行う。
オス犬の去勢手術を行うにはどれくらいの費用が必要なのか、助成金や補助金はもらえるのかどうかは、去勢手術を検討する際に知っておきたいですよね。今回の記事では、犬の去勢手術のメリットやデメリット、手術の基礎知識また手術費用の相場や助成金・補助金についてバーニー動物病院千林分院の堂山有里先生監修のもと、詳しく解説します。
目次
- 犬の去勢手術とは?
- 犬の去勢手術の費用相場は?
- 犬の去勢手術をするメリットは?
- 犬の去勢手術をするデメリットは?
- 犬の去勢手術の前に気を付けたいことは?
- 犬の去勢手術の助成金・補助金について
犬の去勢手術とは?
犬の去勢手術とは、オス犬の睾丸(精巣)を外科的に摘出する手術のことを去勢手術といいます。全身麻酔をかけた状態で陰嚢の少し頭側の皮膚を2〜4cm程度切開し、陰嚢内の睾丸を取り出す手術です。犬の睾丸は両側に1つずつあるのでそれぞれを摘出し外科用縫合糸で皮膚を縫合します。20分程度の処置で、通常出血はごく少量のことがほとんどです。基本的には日帰り手術で行われますが、体調や年齢などにより入院して経過を見ることもあります。
犬の去勢手術はいつから可能?
去勢手術に関して絶対にこの時期でないといけないという制限はありません。健康状態やワクチン接種歴を確認し手術可能であると判断されれば去勢手術はいつでも可能です。犬種やサイズ、個体差もありますが、一般的には去勢手術の時期としては性成熟の始まる生後6か月から8か月頃に実施するケースが多いです。
生後2か月未満の幼齢のうちは推奨しない
生後2か月未満では睾丸が陰嚢に降りてきていないので手術は行えません。また、体重が2キロ未満の極端に小さい犬では麻酔全般のリスクが高くなります。また、あまりに幼齢のうちに去勢手術を行うことは肥満傾向や骨格への影響があるともいわれており健全な発育のためにも推奨されません。
去勢手術を受けた後の犬の行動変化や去勢手術による身体的な影響については現在もさまざまな情報があり、議論の残るところでもあります。手術のタイミングはそれぞれのご家庭の事情や獣医師の考え方を参考にしてよく検討する必要があります。
犬の去勢手術の費用相場は?
術費用としては、術前検査料、手術料、麻酔料、内服代(抗生物質や痛み止め)、抜糸代などがあります。病院によってこの全てを含んだ費用を去勢手術料としている場合と一つずつを分けて料金表示する場合があるので注意してください。ここでは術前検査から抜糸まで全て含んだトータル料金として記載します。
小型犬、中型犬の費用の目安
小型犬と中型犬では、30,000円前後[術前検査料(術後検査料を含む)13,000円+手術料(麻酔料、内服代、抜糸代を含む)20,000円]かかることが多いです。
大型犬の費用の目安
大型犬では、40,000円前後[術前検査料(術後検査料を含む)15,000円+手術料(麻酔料、内服代、抜糸代を含む)25,000円]かかることが多いです。基本的に体重が重いほど費用が高くなる傾向があります。
オプション料金が必要な場合もある
オプションとして以下のような費用が発生することもあります。
・睾丸が皮下にある場合(皮下陰睾)は、追加で20,000〜40,000円程度。
・睾丸が腹腔内にある場合(腹腔内陰睾あるいは潜在精巣)は、追加で30,000〜50,000円程度。
・高齢や持病があり特別な麻酔が必要な場合は、追加で5,000〜10,000円程度。
犬の去勢手術はペット保険が適用される?
去勢手術にペット保険の適用があるかどうかは気になるところですが、健康な動物に行う手術なので基本的には適用されません。ただし、疾患の治療のために手術が行われる場合は保険が適用になることがありますので、詳しくはご自身が加入されている保険会社に問い合わせてください。
※金額は全てバーニー動物病院千林分院の費用感を参考
犬の去勢手術をするメリットは?
愛犬に去勢手術を施すことには、身体面、精神面のどちらにも多くのメリットがあります。それぞれ具体的に見ていきましょう。
性格が穏やかになる
去勢によって男性ホルモンの量が減少しますので、闘争本能や縄張り意識が抑えられます。そのため、性格が穏やかになる傾向があり、ほかの犬との争いやメスを追いかけて逃走するといった行動もなくなります。
発情によるストレスがなくなる
犬のオスに決まった発情期はありませんが、発情したメスと出会ったときに興奮します。去勢によって、満たされない性衝動からくるストレスから解放できると考えられています。
生殖器の病気対策
精巣を摘出するので精巣腫瘍や精巣炎など精巣の病気にかかる心配がなくなります。また男性ホルモンの影響がなくなることにより肛門周囲の腫瘍発生率が減少し、前立腺癌や前立腺炎、会陰ヘルニアなどの病気にかかりにくくなります。
マーキング行為の抑制
男性ホルモンが減少することから縄張り意識が弱まることで、尿マーキングが減ります。尿マーキングが始まる前に去勢手術を行うことで、足を上げた格好でのおしっこを防げることも。しかし、行動には個体差があり去勢手術をした後もこういった行動は完全になくならないこともあります。
望まない生殖の防止
ドッグランや散歩中に未避妊のメスと不意に接触する機会に、交配してしまうことを防げます。
犬の去勢手術をするデメリットは?
去勢手術のデメリットには以下のようなものがあります。メリットだけでなくデメリットも把握した上で手術を検討しましょう。
太りやすくなる
男性ホルモンが減少しますので、筋肉量が減り代謝が落ちます。また、子孫を残すために使うエネルギーが不要になるので太りやすくなります。
ホルモンバランスの乱れによる被毛の変化
去勢手術をすることでホルモンバランスが変わります。現在のところ去勢手術との因果関係は証明されていないですが、手術時に剃毛した部分の被毛が生えてこなかったり、原因不明の脱毛が起こったりすることがあります。
もともと臆病な犬の場合、さらに臆病な性格になる
オス犬は性成熟期を迎えると筋肉が発達し体格が良くなり、オス犬としての堂々とした立居振る舞いをするようになります。愛犬が生まれつき臆病な性質だった場合には、オス犬としての成長と自信を失わせないために、去勢する時期を多少遅らせてもいいかもしれません。
生殖能力がなくなる
精巣を取り除いてしまうと生殖能力を失い、子どもを残すことはできなくなります。
全身麻酔によるリスク
全身麻酔によるリスクを心配する飼い主もいるでしょうが、現代の医療技術では不慮の事故は非常に少なくなっています。ただし、肥満や短頭種、高齢、持病があるなどの要素をもつ犬はリスクが上がるので、かかりつけ医とよく相談するといいでしょう。
犬の去勢手術の前に気を付けたいことは?
どんな手術の前にも言えることですが、体調管理はもちろん、精神的にも愛犬をサポートしてあげたいですね。以下のようなことに気を配ってあげましょう。
食事時間の管理
麻酔をかける12時間前からの絶食が推奨されているため手術当日の朝食は食べさせられません。前日の夜ご飯を与えた後は、間違って食べ物を口にすることのないように気をつけてあげてください。
犬を安心させてあげる
手術の際には、飼い主から離れて手術室に入ることを不安がる犬が多いです。病院に預けるときにお気に入りのブランケットや普段使っているクレートと一緒に入院舎に入れてもらうなどして、できるだけ安心させてあげる工夫をしましょう。
普段から動物病院や獣医師に慣れさせておく
日頃から動物病院に遊びに行かせてもらうなどして病院や獣医師に親しんでおくことで、ストレスを軽減できます。病院主催のパピークラスがある、おやつ外来をしているなどの病院を探してみることもおすすめです。
犬の去勢手術の助成金・補助金について
去勢手術の助成制度は、全国各地の自治体によって助成金額(補助金額)が異なります。犬の去勢手術に関して助成金・補助金がもらえる自治体は多くはありませんが、念のため該当する自治体について調べてみるといいでしょう。どの制度も年度内で助成を受けられる予定頭数が決まっていることがあるため、最新情報の確認が必要です。
※以下の情報は令和4年(2022年)3月17日時点のものです
【自治体の助成金・補助金の例】
各自治体が設置している補助金・助成金を紹介します。条件や申請方法、補助金額などもそれぞれ違うことがわかります。
自治体の助成金・補助金の例①千葉県山武市
補助対象者:山武市に住民登録がある。市税等の滞納がないこと。飼い犬の場合、畜犬登録されていること。
申請方法:補助金交付対象期日内に指定動物病院で手術後、必要書類を提出
補助金額:1頭につき2,000円
※千葉県山武市HP
https://www.city.sammu.lg.jp/page/page002340.html
自治体の去勢手術の助成金・補助金の例②群馬県東吾妻町
補助対象者:東吾妻町に住民登録があり、居住している者。販売を目的として飼育されていない犬であること。登録および狂犬病の予防注射を受けている犬であること。
申請方法:手術後、申請書に必要事項を記入のうえ、保健センターまたは役場保健福祉課まで提出
補助金額:1頭につきオス5,000円、メス3,000円
※群馬県東吾妻町HP
https://www.town.higashiagatsuma.gunma.jp/www/contents/1204011102055/index.html
犬の去勢手術の助成金・補助金の例③茨城県水戸市
補助対象者:販売その他営利を目的として所有されている犬・猫でないこと。不妊去勢手術を受けさせた日から引き続き水戸市に住所を有すること。市税を滞納していないこと。水戸市に犬の登録があり、今年度の狂犬病の注射済票の交付を受けていること。補助金交付対象期日内に実施した手術であること。
申請方法:必要書類を提出
補助金額:1頭につき3,000円(不妊手術の場合は、1頭につき4,000円)
※茨城県水戸市HP
https://www.city.mito.lg.jp/001245/hokenjo/doubutsuaigo/kaiinunekohunin.html
【獣医師会の助成金・補助金の例】
自治体の他に、獣医師会による助成金・補助金も。譲渡犬に対して獣医師会や愛護センター、愛護団体が去勢手術の助成を行っているケースもあります。
獣医師会の助成金・補助金の例①名古屋市獣医師会
補助対象者:飼い主が茨城県在住で、狂犬病予防法に基づく登録が済んでいること
申請方法:名古屋市の指定する獣医師に避妊去勢手術補助を提出
助成金額:1頭につき3,200円
※名古屋市獣医師会HP
https://nagoyavet.jp/castration.html
獣医師会の助成金・補助金の例②徳島県獣医師会
補助対象者:徳島県内在住で、松茂町あるいは佐那河内村・上勝町が行う助成制度を受けていない方。犬の登録と、当年度の(公社)徳島県獣医師会が行う狂犬病予防注射が実施されていること。
申請方法:応募はがきによる応募
助成金額:1頭につき5,000円
※徳島県獣医師会HP
http://tokuju.or.jp/category/13/c/9
犬の去勢手術の助成金・補助金を利用する際の注意点
助成金や補助金を利用するために、狂犬病予防ワクチン接種が義務であったり、対象犬が飼い犬登録済みである必要があったりします。また、申請者が当該地域に居住していることを求められるなど規定の条件も設定されているので、愛犬が条件を満たしているか確認しましょう。