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兵庫ペット医療センター東灘、獣医皮膚科学会、VET DERM TOKYO 皮膚科第1期研修医
「キッチンで料理をしている時に、まな板や鍋からこぼれ落ちたニラを犬が食べてしまった」。このような経験をされている方は多いようです。人間にとってはがん予防効果のあるビタミンACE(エース)が豊富で栄養価の高い緑黄色野菜ですが、犬にとっては危険な食べ物です。
食べた直後に中毒症状が出るわけではないので「大丈夫だな」と思ってしまいがちですが、食べた後、1日〜数日後に中毒症状が現れます。玉ねぎが中毒を起こすことは知られていますが、ニラも玉ねぎと同じネギ属の野菜です。今回は、犬がニラを食べたときに起こる中毒症状や危険な摂取量、対処法などを解説します。
目次
- 犬の体に害をもたらすニラの成分と摂取量
- 家庭でニラ料理を扱う際の注意点
- ニラによって引き起こされる症状
- 発症までに掛かる時間
- 犬がニラを食べてしまったときの対処法
- ニラ中毒の治療方法
- まとめ
犬の体に害をもたらすニラの成分と摂取量
犬がニラを口に入れてしまったら、中毒を起こす可能性があります。ここでは、ニラに含まれる食中毒を引き起こす成分と、犬に危険が生じる可能性が高い摂取量を紹介します。
犬が食中毒を起こすニラの成分とは
犬が中毒症状を起こすニラの成分は「有機チオ硫酸化合物」です。有機チオ硫酸化合物が分解された際に、「アリシン」(チオスルフィン酸アリシン)という強い酸化物質に変化します。人間はアリシンを消化する酵素を持ちますが、犬は持っていません。アリシンは犬の血液中の赤血球を破壊して貧血症状を引き起こします。また、赤血球が破壊されると、血流によって全身に酸素や栄養を届けることができなくなるため、最悪の場合は死に至ります。そのため、愛犬がニラを食べたことを甘く見てはいけません。
健康被害をもたらすニラの摂取量
ニラの致死量、中毒症状を起こす摂取量は不明です。個体差が激しく、犬の体質、健康状態、年齢、病歴、食べた時間、調理の仕方など、さまざまな要因によって左右されることから、多量のニラを食べても中毒症状が起きない犬もいれば、少量でも中毒症状が起きる犬もいるようです。
ニラを口にした犬が命の危険にさらされるとは限りませんが、命を失ってしまう犬がいることを忘れないでください。愛犬がニラを食べたことに気づいたら、必ず動物病院を受診してください。飼い主ができる予防方法としては、食料の買い物から帰ってきた際に床に荷物を放置したりせず、愛犬の手が届かない場所にしまっておくことです。
家庭でニラ料理を扱う際の注意点
犬がニラによる中毒症状を引き起こすのを避けるために、家庭でできる対策はあるのでしょうか。ニラ料理の調理中や、飼い主自身が食べる際の注意点を紹介します。
料理に含まれるニラの量
餃子、ニラ玉、レバニラなど料理として加熱されたニラでも、毒性は消えません。ニラのエキスがしみ出た汁でも中毒症状は出ます。ニラが入った料理をキッチンのテーブルや食卓におきっぱなしにして犬が口にしないように注意しましょう。また、調理中に床に落としたニラを食べてしまうことが多いので、調理中は犬をキッチンに入れないほうが賢明です。
ニラの匂いにも注意
ニラや玉ねぎに限らず、ネギ、にんにく、あさつき、わけぎ、らっきょう、リーキなどのネギ属は、犬に与えてはいけない食べ物です。ネギ属の野菜は独特な匂いがします。この匂いに共通で含まれているのが犬の赤血球を破壊するアリシンです。アリシンは、にんにく由来の化合物でニラの強い匂いの元となる物質で、ニラを調理すると匂いが空中に強く漂います。ニラの成分が犬の身体につかないように注意しましょう。
ニラによって引き起こされる症状
嘔吐、軟便、下痢、腹部痛、食欲低下、脱水などが初期に見られる症状です。尿からニラのような臭いのする場合があります。貧血の進行に従い、粘膜が白くなる、呼吸数や心拍数が増える、赤もしくは褐色の尿、黄疸などの変化が出てきます。痙攣や腹腔内出血などを重度の症状を起こしたとする症例報告もあります。
発症までに掛かる時間
「ニラを食べても愛犬に異変がなくてひと安心」と思うのは危険です。ニラの中毒症状は、一般的に24時間〜数日以内に症状が出ると言われています。これは、犬がニラを食べて成分が吸収され、赤血球を破壊することで引き起こされる中毒だからです。
そのため、食べた直後に中毒症状が出ることはありません。食べた翌日にぐったりしたまま動かなかったり、血尿や血便をしたりといった報告も少なくありません。最悪の場合は死に至りますが、ニラを食べた後、早々に適切な治療ができれば、予後は比較的良好である場合が多いと言われています。愛犬がニラを食べてしまった場合には、症状の有無に関わらず、緊急で動物病院を受診してください。
犬がニラを食べてしまったときの対処法
犬がニラを誤食してしまったら、すぐに動物病院で診察を受けるのが適切ですが、飼い主ができる応急処置もあります。ここでは、ニラの中毒症状を防ぐための対処方法を紹介します。
口の中のニラを取り出す
ニラによる症状は緊急性が高く、少量でも中毒を起こす可能性があります。犬がニラを食べてしまったことがわかっている場合は、口の中を確認してください。細かく切っていないニラであれば、うまくかみきれずに口元に残っているかもしれません。
もし、口の周りや歯など、指が届く位置にニラが残っていれば、それ以上食べさせないように取り除きましょう。愛犬がびっくりして噛んだりしないように、静かに落ち着いて取り除くことがポイントです。もし、すでに飲み込んでいる場合は、無理に吐かせようとせずに、緊急で病院へ連れていってください。
無理やり吐かせない
飲み込んだニラを無理やり吐き出させようとすると、かえってニラが気管に入ったり、喉に詰まらせたりする場合があります。
なお、口コミサイトなどでさまざまな吐かせ方が紹介されていますが、誤った情報が散見されるため、絶対に行わないでください。たとえば「塩を大量に飲ませる」という対処法が見られますが、塩を大量に飲ませて吐かなければ高ナトリウム血症を発症して死亡する場合があります。「オキシドールを飲ませる」といったことも健康被害を受ける恐れがあります。「身体をゆさぶる」といった行為も、愛犬の命を危険にさらしますので絶対にやめましょう。ニラを食べた場合は、緊急で動物病院へ連れていってください。
動物病院に連れていく
ニラを飲み込んだ場合は、すぐに動物病院に連絡を入れて連れていってください。症状が出るまで待つ必要はありません。動物病院に行く前に電話で連絡を入れて愛犬の様子を伝えておくと、応急処置のアドバイスをもらえますし、診療もスムーズに進みます。
「犬種」「体重」「年齢」「既往歴」「飲んでいる薬」のほか、「3分前にニラ入りの餃子を1個食べた」など、いつどれぐらいニラを食べたかを具体的に伝えて判断を仰ぎましょう。また、「どんな症状がどのぐらいの時間続いているのか」「意識はあるのかないのか」などの情報を整理して、獣医師に愛犬の様子を具体的に伝えるようにしましょう。
もし、夜間や休診日でかかりつけの動物病院に行けない場合は、診療時間を待たないでください。24時間対応の動物病院や動物救急救命センターを探して、電話で診察を依頼しましょう。こうした場合に冷静に対応できるよう、予め夜間対応をしてくれる動物病院を見つけておくと安心です。
ニラ中毒の治療方法
ニラ中毒に対する特効薬や解毒薬は、今のところありません。動物病院での治療は、原因物質(消化管内容物)を取り除いて、貧血の治療を行うことが一般的です。
◆ 原因物質の除去
通常数時間以内であれば胃の中にある可能性があるため、飲み込んだニラを薬によって吐き出させます。吐かない場合は胃洗浄を行ったり、ニラが体内に吸収されないよう吸着剤である吸着炭を口から投与したりします。すでに吸収された場合は、輸液によって速やかな排出を促します。
◆ 貧血の治療
輸血や酸素吸入によって、身体を巡る血液量を維持します。輸血量は、副反応が起きない必要最小限の輸血量が考慮されます。また、繰り返される嘔吐や下痢、ヘモグロビン尿や低血圧が認められた場合には、静脈内輸液を実施することもあります。
◆ その他
赤血球の酸化的障害の抑制に効果があると言われている「ビタミンC」や「ビタミンE」などの抗酸化剤薬を投与することもあります。
まとめ
ニラに限らず、ネギ属の野菜は人間が日常的に食べているものです。しかし、人間と犬の身体はまったく違いますので、犬にとって消化できない有害な食べ物は少なくありません。また、スーパーで買ってきたお惣菜など「これは与えても大丈夫だろう」と思うものでも、犬にとって有害な野菜のエキスが入っているかもしれません。有害な食べ物をすべて把握しておくことは困難ですので、「人間の食べ物は与えない」と最初から決めてしまうことをおすすめします。普段から人間の食べ物を食べないようにトレーニングもしておきましょう。