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札幌市、平岡動物病院の院長。主に呼吸器、整形、眼科、歯科の外科とエキゾチックアニマル診療を中心に力を入れている。趣味は娘と遊ぶこと。
やさしい甘さと香ばしさがあるきなこは、日本の甘味としてお馴染みの食材です。スイーツとして好んで食べる方もいらっしゃるのではないでしょうか。飼い主が食べていたきなこを愛犬がペロリ。「大丈夫かな」とちょっぴり心配になるかもしれませんが、ご安心ください。きなこは食べても安全な食べ物です。むしろ、栄養素が豊富で、毛が艶々したり、腸内環境が整って便秘が改善されたりします。今回は、きなこが食べても大丈夫な理由や栄養素、与え方の注意点などを解説します。
目次
- 犬がきなこを食べても大丈夫な理由
- きなこの加工食品も大丈夫?
- きなこの栄養素と犬への影響
- 犬にきなこを与える方法と注意点
- まとめ
犬がきなこを食べても大丈夫な理由
きなこは犬が口にしても問題ない食材です。その理由を解説します。
きなこの成分は栄養価バツグンの大豆
大豆を加熱して粉末状にしたものが、きなこです。火を通していますので、きなこはそのまま食べることができます。大豆からできていますので、植物性タンパク質が豊富。粉末状であることから、大豆をそのまま食べるよりも栄養を吸収しやすいというメリットがあります。人間同様、犬にとっても栄養価の高い食べ物と言えます。きなこの香ばしい香りも、犬の食欲を刺激するようです。
子犬やシニア犬がきなこを食べても大丈夫
きなこに含まれる栄養素で最も多いのは、筋肉など身体をつくるたんぱく質です。100g中37.5gも占めています。成長期の子犬にとって、たんぱく質は必要な栄養素です。ただし、子犬は内臓機能が充分に育っていませんので、初めてきなこを与えるときは少量から始めてください。下痢や嘔吐がないかを確認しながら少しずつ量を増やしていきましょう。また、シニア犬は飲み込む力が弱くなっていますので、きなこをそのまま与えるとむせかえってしまいます。控えるか、フードにトッピングする形で与えましょう。
きなこの加工食品も大丈夫?
結論としては、きなこを使った加工食品も、物によっては与えても大丈夫です。どんな物がOKで、どんな物がNGかを見ていきましょう。
きなこクッキーはOK
きなこをクッキー生地に練りこんで作ります。犬用のきなこクッキーは市販されていますが、手作りする方もいるようです。手作りする場合は、脂質や糖分が過剰摂取とならないようにご注意ください。なお、人間用のきなこクッキーは、犬にとって砂糖やバターの過剰摂取となりますので与えないでください。
きなこもちはNG
きなこもちやだんごは、きなこを使った食べ物としてメジャーですが、犬には与えないでください。犬は食べ物を丸飲みする性質がありますので、人間のように丁寧に咀嚼して飲み込むことができません。喉に詰まらせるリスクが高いので避けたほうが賢明です。
きなこミルクは牛乳ならNG
牛乳にきなこを溶かしたきなこミルクは、基本的に与えないようにしましょう。犬は牛乳に含まれる乳糖を上手く分解することができずに、お腹を下してしまう場合があります。牛乳ではなく、脂肪球が小さくゆっくり消化されるため乳糖もゆっくり大腸に届くヤギのミルクを使った場合は、お腹を下しにくいので与えてもOKです。また、ヤギミルクの香りは、犬が好む香りのようです。犬用のヤギミルクはオンラインでも販売されていますので、簡単に入手できます。
豆腐はOK
きなこそのものは含まれていませんが、豆腐もきなこと同じ大豆で作られています。豆腐も犬が食べても大丈夫な食材です。たんぱく質が豊富ですし、イソフラボン、オリゴ糖、カルシウム、ビタミンなども含まれていることから「畑の肉」とも言われています。口に入れると柔らかく崩れますから、子犬にもシニア犬にも安心して与えることができます。ただし、ミネラルが豊富なので腎臓の病気にかかっている犬の場合は、獣医師さんにご相談ください。
おからはOK
豆腐になる過程で作る豆乳をしぼった際に残るものが「おから」です。おからも、犬が食べても大丈夫な食材です。おからには、オリゴ糖や食物繊維といった腸内環境を良くする栄養素が含まれています。愛犬に与えるときは油を使わずに煎ってから与えるようにしましょう。喉にくっつかないように水分を少し含ませて与えることをおすすめします。
きなこの栄養素と犬への影響
きなこに含まれる栄養素を摂取することで、犬の体にはどんな効果が期待できるのでしょうか。ここでは、栄養豊富なきなこの中でも、代表的な栄養素の影響について解説します。
きなこに含まれる栄養素
成分名 成分量(100gあたり)
水分 4g
たんぱく質 36.7g
炭水化物 28.5g
食物繊維 18.1g
脂質 25.7g
多価不飽和脂肪酸 14.08g
ビタミンE 1.7㎎
ビオチン 31μg
カリウム 2000㎎
カルシウム 190㎎
マグネシウム 260㎎
リン 660㎎
鉄分 8㎎
亜鉛 4.1㎎
銅 1.12㎎
マンガン 2.75㎎
※出典:文部科学省 食品成分データベース
代表的な栄養素と犬への影響
◆ たんぱく質
三大栄養素のひとつで、血液や筋肉などの身体をつくる主要な栄養素です。被毛を美しく保ちますし、酵素など生命維持に欠かせない物質にも変換されます。
◆ 炭水化物
たんぱく質や脂肪と並ぶ三大栄養素のひとつです。犬は人間よりも摂取量が少ないですが、犬の体内でもエネルギー源として機能します。余った分は体脂肪として蓄積されます。
◆ 食物繊維
腸内の善玉菌を増やし、悪玉菌や毒素を排出するのを助ける栄養素です。人間と同じように犬の腸内環境を整えてくれて便秘を解消します。また、食後の血糖上昇をゆるやかにして糖尿病を防ぎます。また、腸内の病原性細菌を減らして腸疾患やがんも予防します。
◆ 脂質
脂質をとりすぎると肥満や生活習慣病の原因となりますが、細胞膜の成分やホルモンの原料になる大切な栄養素です。不足すると成長が遅れたり、皮膚炎を引き起こしたりします。
◆ ビタミンE
抗酸化作用があるため、さまざまな病気を予防できます。ビタミンE欠乏症になると、精子、筋肉、肝臓、皮膚、神経などに関連する病気にかかります。
◆ カリウム
体内で水分の調整を行い、血管の正常な機能を保ちます。増えすぎた塩分を排出したり、心臓や筋肉の働きを調節したりする機能もあります。不足すると筋力の低下、嘔吐、食欲不振による脱水症状、不整脈などを引き起こします。
◆ カルシウム
骨や歯をつくり、筋肉を収縮させるために必要不可欠な栄養素です。過剰摂取によって結石、動脈硬化、骨の変形などの障害を起こす可能性もあるので、適量を守ることが大切です。
◆ マグネシウム
体内のエネルギー代謝全般にかかわる栄養素です。また、骨や歯を形成して安定させたり、血圧や体温を調整したりします。
◆ リン
骨や歯を作るほか、筋肉や脳や神経でエネルギーをつくるサポートをします。過剰摂取はカルシウムを奪って骨を弱くさせ、腎臓にも負担をかけます。
◆ 鉄分
血液で酸素を運んだり、エネルギーを作ったりするために必要な栄養素です。不足すると足元がふらつき、疲れやすくなり、息切れもします。
◆ 亜鉛
体内のさまざまな機能を正常に保つ働きがあります。たとえば、正常な味覚を保ったり、免疫力を向上させたり、新陳代謝を高めたり、毛並みや皮膚の健康を保ったりすることに役立ちます。
◆ サポニン
大豆サポニンは優れた抗酸化作用がある栄養素です。活性酸素を取り除き、脂肪の酸化を予防して体脂肪を減らします。抗炎症作用、がん細胞の増殖抑制、動脈硬化の予防、心筋梗塞、脳梗塞など、命に関わる病気を予防する効果があります。
犬にきなこを与える方法と注意点
きなこは栄養豊富な食材ですが、与え方には注意が必要です。
砂糖が入ったきなこは避ける
市販されているきなこには、砂糖が含まれているものもあります。あくまで人間用として作られていることから犬にとっては糖分の過剰摂取となるため、絶対に避けてください。砂糖入りのきなこを与え続けると、肥満になり、歯周病や糖尿病につながる恐れがあります。犬に与える場合は、無糖のきなこか犬用のきなこを購入するようにしましょう。
大豆アレルギーに注意
大豆にアレルギーを持つ犬もいます。特にシベリアンハスキー、アイリッシュセッター、シャーペイなどは、大豆の耐性がなく大豆アレルギーになりやすいようです。どの犬種でも初めてきなこを与える際は、少量から始めましょう。体調に異変はないかを確認できたら量を増やすという流れで様子を見ながら与えてください。
アレルギーが発症すると、目が充血したり、皮膚にかゆみが出たり、下痢や嘔吐をしたりといった症状がみられます。重症のアレルギーでは、湿疹や皮膚のただれ、脱毛が見られるようです。もし、アレルギー症状が出たら、すぐに動物病院に連れていってください。アレルギーは食べてから半日~1日経った後に発症する場合がありますので、その期間は注意深く体調を気にしてあげてください。
大量に与えず適量を守る
きなこには便通を良くする食物繊維が豊富に含まれていますが、食べ過ぎると消化不良を起こして、下痢や嘔吐につながります。適量を守って与えましょう。
◆ 適量
小型犬(5kg) 16.6g(約大さじ2)
中型犬(15kg) 37.9g(約大さじ5弱)
大型犬(30kg) 63.7g(約大さじ8弱)
水やミルクで溶いて与える
粉末状のきなこをそのまま犬に与えると、湿った鼻の頭にくっついてしまったり、鼻から粉末が気管に入ってむせたりすることがあります。犬に与えるときは、少量のきなこを水で溶いてドッグフードにかけるとむせる心配がありません。また、牛乳ではなくヤギミルクに溶かして与える方法もおすすめです。犬の多くは牛乳に含まれている乳糖を消化することができません。牛乳で溶かして与えると消化不良を起こしてしまうのでご注意ください。
賞味期限を守る
きなこも腐ります。あまり水分が含まれていないことから、賞味期限が過ぎてもすぐ腐りませんし、見た目も問題なさそうに見えるでしょう。ただ、きなこの香りが薄くなっている場合は、きなこに含まれる油分が酸化していることを意味します。開封すると湿気で固まりになって酸化しますし、カビが繁殖します。きなこのような粉に寄りつくダニもいますので、きなこは密封容器やチャック付のビニールでしっかり保存しつつ、新鮮なうちに与えましょう。
まとめ
きなこは、愛犬の健康に良い栄養素を豊富に含んでいます。きなこの香ばしい香りも犬の食欲を刺激しますので、普段のフードにかけて与えると食いつきが良くなるメリットもあります。きなこを食べることは、腸内環境が整ったり、皮膚の健康を保ったりと、愛犬にとって良いこと尽くしです。与えるときは、糖分、脂質、量に注意して、与えてくださいね。