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犬は吐いてしまうことが多い動物です。その理由は、生理的なものから病気のものまでさまざまです。しかし、突然犬が吐いているのを見ると、なにか大きな病気ではないかと心配になるものです。動物病院に連れていくべきか迷うこともあるでしょう。吐いてしまった場合、飼い主としてはどのように対応すればいいのでしょうか。今回は、chicoどうぶつ診療所所長の林美彩先生に教えていただいた、犬が吐いてしまう原因について、その原因や症状、動物病院に連れていくべきポイントなどを解説していきます。
目次
- 犬が吐くとは、どのような状態?
- 犬が吐いてしまう原因とは?
- 吐いてしまいやすい犬の年齢や犬種はいるの?
- 犬が吐いた場合、考えられる病気は?
- 犬が吐いた場合、特に注意すべき症状は?
- 犬が吐いた場合、食事はどうするの?
- 犬が吐いた場合、普段の生活で気をつけることは?
- 犬が吐いた場合、動物病院に行くかどうかの見極めポイントは?
- 犬が吐かないようにする予防法は?
犬が吐くとは、どのような状態?
一言で吐くといっても、「嘔吐」と「吐出」という2種類があります。
「嘔吐」というのは、食べたものが腸の中にまで入り、消化されたものが吐き出されることを指します。嘔吐の場合は下を向いて吐く、吐き出すような仕草が前触れにある、吐く前にお腹の激しい運動が起こり、「ゴボッ」などという音があるのも特徴です。
一方、食べた物が胃の中に入る前に吐き出されることを「吐出」といいます。吐出の場合は力を込めて前に飛ばすような動作で吐き、前触れがなく起こるという違いもあります。吐出は、食道などに問題があることが考えられ、その原因として、異物の誤飲、食道炎、食道が細くなる食道狭窄などが考えられます。
犬が吐いてしまう原因とは?
犬が吐いてしまった場合、「何か病気なのでは?」と疑ってしまうかもしれません。しかし、その原因は必ずしも病気であるわけではありません。
体を守るための防御反応
吐いてしまう原因として、犬の体内に異物や毒物、ウイルスなどが入った際、体の外へ出すための防御反応が考えられます。単純にお腹を壊した際や、腐ったものを食べて食中毒になってしまった場合など、吐いてしまうことがみられます。普段とは異なるものを食べたり飲んだりしていなかったかなどを思い返してみましょう。また、ウイルスなどが体に入った場合、吐くことで正常な体に戻そうと体が反応します。
空腹時
お腹がすくと、胃酸がたまってしまい、白い泡や黄色い液体を吐くことがあります。この白い泡は胃酸で、黄色い液体は胆汁です。犬の中には、起きたばかりで空腹の場合、このような状態になることがあります。
お腹の調子が悪い時
犬は散歩の途中に草を食べて吐き出すことがあります。草を食べるのは、胃やお腹の調子が悪い時です。そして、草を食べた刺激により、胃に残った食べ物や、胃酸を吐きだしているのです。また、単純に草を食べたものの、繊維質が多く上手く消化することができずに吐いていることもあります。
ストレス
精神不安からくるストレスによって吐いてしまうことがあります。
その他の原因
他に犬が吐いてしまう原因として、車酔いや水の飲み過ぎなど様々な原因があげられます。犬が吐いてしまった前後に環境に変化はなかったか、あった場合はその原因となるものを極力取り除いてあげることが大切です。
吐いてしまいやすい犬の年齢や犬種はいるの?
犬は人間と比べると、吐いてしまいやすい動物です。これは、犬が四足動物で、胃が横に向いているためです。そのため、胃液が濃く、体の構造上吐きやすくなってしまうのです。
注意すべき犬種について
犬の中でも、体の構造上吐いてしまいやすいのが、短頭種と呼ばれる犬です。短頭種は消化器官が短いため、吐きやすい体質になっています。短頭種に当てはまる犬には、フレンチ・ブルドッグやパグ、シーズーなどです。
また、小型犬も吐いてしまいやすく、特にチワワやポメラニアン、トイプードルなど、超小型犬と言われる犬たちは吐きやすい傾向にあるので注意しましょう。
年齢による違い
犬の中でも、子犬や老犬(シニア犬)は吐いてしまうことが多くなります。その理由は、年齢によって異なります。
子犬が吐いてしまう原因として考えられる多くの場合は、誤飲によるものです。犬の目が届くところに、小さなものや食べ物と間違えそうなものを置いていなかったか注意してみましょう。
老犬(シニア犬)は、加齢による消化機能の衰えが考えられます。健康診断などの際には、獣医師に相談するなどして、生活習慣を相談するといいかもしれません。
犬が吐いた場合、考えられる病気は?
犬が吐いてしまう原因が生理的なものや、一時的なものであれば問題はありません。しかし、その原因が健康状態の異常を表すサインとなっている場合もあります。
消化器系の疾患
犬が吐いてしまう原因として一般的に考えられるのは、胃腸炎や膵炎、閉塞や捻転などの消化器系のトラブルです。胃腸炎や膵炎などの炎症の場合は、急性と慢性に分けられます。
急性の場合は激しい嘔吐が何度も続きます。慢性の場合は、長期にわたって嘔吐が続くことになります。閉塞は、おもちゃなどの異物の誤飲や腫瘍によって起きてしまう症状です。また、捻転とは、胃がねじれてしまう状態で、大型犬の嘔吐の原因として多くあげられます。
感染症
犬がウイルスに感染することによって、吐いてしまうケースもあります。ウイルスにはいくつかの種類があります。例えば、パルボウイルスと言われるのは、ウイルスを保有した犬の排泄物から、口や鼻を通して感染してしまします。
また、ジステンパーウイルスという感染症もあり、人のはしかとよく似たウイルスで、犬の鼻水や唾液、目やになどに他の犬が接触して感染します。他にも犬コロナウイルスがあり、排泄物から感染し、下痢なども見られます。
感染症の中でも、レプトスピラ病と呼ばれるものは、犬の肝臓や腎臓に障害をもたらす感染症です。感染は、犬の口や鼻を通して起こります。この感染症は人間にも感染する人獣共通の感染症として知られています。
中毒
犬に中毒性のある食べ物などを食べさせた場合は、急性腎不全を起こし嘔吐の他に、食欲の不振や元気がなくなるという症状が現れます。中毒を引き起こすものとしては、ユリ科などの植物やブドウなどです。
その他の疾患
消化器以外の疾患には、腎不全などがあげられます。他にも、季節によっては熱中症に寄っても吐いてしまう可能性があります。熱中症の場合は、重度になると他の器官にもトラブルをもたらすため、注意が必要です。
犬が吐いた場合、特に注意すべき症状は?
犬が吐いた場合、体の状態を把握する目安にはさまざまなものがあります。吐き出したものの状態や、犬の様子などを観察することが大切です。
ぐったりしていて元気がない場合
犬が吐いてしまった後にぐったりしている・苦しそうにしている場合は、症状が緊急性の高い状態になっていることが考えられます。胃拡張や胃捻転などの消化器系の病が疑われるケースがあるので、注意して様子をうかがいましょう。
嘔吐を繰り返す場合
嘔吐が一回だけでなく、何度も長期間にわたって続く場合は、誤飲や食中毒、消化器系の病気が考えられます。こちらも重症化する前に動物病院へ行きましょう。
便の臭いがする・血が混じっている場合
嘔吐物にはさまざまな状態のものがあります。特徴的なものが、便臭と血が混じっているものです。便の臭いがするという場合は、腸に何かしらのトラブルを抱えているかもしれません。また、血が混じる場合は、嘔吐のしすぎで胃が荒れている可能性があります。嘔吐が何度も続いているか観察しましょう。嘔吐が一度しかなく、血が混じっていた場合は、胃炎や腫瘍がある可能性があります。
その他の症状の注意すべきことは?
下痢や熱がある場合も、内臓系の病気やウイルスによる疾患が疑われます。ウイルス性の感染症の中でも、パルボウイルスによる腸炎は、数日で死に至ることもあるので、特に注意が必要です。
また、嚥下能力が落ちているような老犬(シニア犬)などでは、嘔吐物による誤嚥性肺炎なども懸念されます。
犬が吐いた場合、食事はどうするの?
犬が吐いてしまった後は、消化器が過敏になっています。そのため、犬の消化器をケアすることを意識した食事などを与えるようにしましょう。
断食後に徐々に水を与える
嘔吐後の数時間は、消化器を刺激することがないように、絶食や絶水を行います。絶食と絶水は嘔吐の治療の基本と言われています。これによって嘔吐が止まるようであれば、少しずつ水を与えていきます。
水を吐く様子がなければ、少しずつ食事を開始しましょう。食事は消化のいいものを選んであげましょう。消化の良い食べ物としては、りんごやキャベツなどがあります。細かく切ったり、すりおろしたり、ペースト状にしてあげると食べやすくなります。量については、いきなり通常の量に戻すことは控えてください。様子を見ながら少しずつ、小分けにするなどして、量を増やしていきましょう。
犬が吐いた後に元気な場合
犬が吐いた後に、スッキリしたのか元気になって食欲が戻っている場合があります。これは吐いた原因が食べ過ぎや空腹によるものや、一時的なストレスなどにより、起きている場合に起こります。その場合は犬自身が元気でも、いきなり通常の食事と量を与えるのは禁物です。消化器は、まだ正常な状態ではない可能性があります。しばらく安静にさせて様子を見て、まずは消化がいいものを与えていきましょう。
犬が吐いた場合、普段の生活で気をつけることは?
犬が吐いた場合、食事以外においては、体を冷やしすぎないようにすることが大切です。具体的にはどのようなことをしてあげればいいのかご紹介します。
お腹を温めてあげよう
犬の中には、お腹(上腹部)を冷やしてしまうことで、吐いてしてしまう場合もあります。部屋の中の温度を保ち、お腹周りの冷え過ぎに注意してあげることも大切です。犬が快適に過ごせる温度は22℃と言われているので、意識してあげましょう。また、冷えないようにタオルを用意してあげたり、服を着させてあげるのも手段のひとつです。
夏場も要注意
普段家の中に居る場合、冷房によって体の不調がでることがあります。咳や鼻水と同時に、下痢や嘔吐が見られると、クーラー(冷房)が原因となっているかもしれません。夏場の体調不良においては、室内の温度管理なども意識しながら、健康観察をするようにしましょう。室温は22℃くらいで、湿度は60%くらいを保ってあげましょう。
犬が吐いた場合、動物病院に行くかどうかの見極めポイントは?
動物病院に連れていく場合は、嘔吐物の色や異物の有無を確認することが大切です。またその後の犬の様子を観察しましょう。
動物病院へすぐ行くべき場合は?
犬の吐いた嘔吐物に血混じりの嘔吐物が見られたり、嘔吐が止まらない、元気食欲が落ちてしまっている場合などには、すぐに動物病院を受診してください。犬が元気で他の症状がない場合は、さほど気にする必要はありません。しばらく家で様子を見てあげましょう。
受診時に用意しておくべきことは?
動物病院に行く際は、犬の嘔吐物が治療の判断材料になります。嘔吐物がどんなものかわかるように実物を持参し、獣医師に見せるようにしましょう。嘔吐物を拭き取ったティッシュや、付着したトイレシーツなどを、ビニール袋などに包んで持参しましょう。また持参できない場合は、写真などに撮っておくといいでしょう。
嘔吐物以外にも、嘔吐の回数や、思い当たる事象などがあればそれらもメモしておき、問診時に伝えるようにしましょう。様々な情報があることによって、スムーズに診断と正確な治療を行うことができます。
犬が吐かないようにする予防法は?
犬が吐かないようにするには、安全でストレスがない環境を犬に提供してあげることが大切です。
食事に関する注意
食事においては、空腹時間が長くならないよう意識することが大切です。空腹時に吐くなどの症状が見られた場合は、繊維質のものを食べさせると効果的です。代表的なものにさつまいもやキャベツなどがあります。しっかり食べさせた後は、しっかり休ませるようにしましょう。すぐに走って遊んでしまうと、吐く原因になってしまいます。また、急な食事変更も、犬の体が驚いてしまう可能性があるので、注意しましょう。
普段の生活面に関する注意
生活面で注意したいのは誤飲の防止です。散歩の途中などでは、拾い食いなどをさせないようにしましょう。除草剤のまかれている草むらや、タバコなどのゴミが落ちている場所に連れていくことは控えるようにしましょう。拾い食いなどを防止するには、食事に関するしつけをトレーニングで対応していきましょう。
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