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アメリカ獣医行動学会会員、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表。問題行動の治療を専門とし臨床に携わる。
甲斐の国(現在の山梨県)で古くから猟犬として活躍した甲斐犬。たくましく凛々しい姿を持つ日本原産の犬種というイメージが強いかと思います。この記事では、甲斐犬を家庭に迎え入れる際には、どのような点に注意すればいいか、甲斐犬の性格や体格の特徴、気をつけるべき病気などを「ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets」代表で獣医師の石井香絵先生監修のもと、詳しく解説していきます。
目次
- 甲斐犬の歴史やルーツは?
- 甲斐犬の平均的な体高・体重、平均寿命は?
- 甲斐犬の平均寿命は?
- 甲斐犬の被毛のタイプや毛色の種類は?
- 甲斐犬の外見や吠え声の特徴は?
- 甲斐犬はどんな性格?オスとメスで性格の違いはあるの?
- 甲斐犬を飼うのに向いている人は?
- 甲斐犬を飼う上で気をつけるべきことは?
- 甲斐犬のしつけを始める時期は?
- 甲斐犬の食事の注意点は?
- 甲斐犬がかかりやすい病気は?
- 甲斐犬を散歩させる際に気をつけるべきことは?
- 甲斐犬におすすめの遊びは?
- 甲斐犬の日常のお手入れで気をつけることは?
甲斐犬の歴史やルーツは?
甲斐犬はもともと、南アルプスなどの山梨の山岳地帯でイノシシやシカ、ウサギ狩りの際の猟犬として重宝されていたそう。今も現役で活躍する甲斐犬もいると言います。その土地それぞれの特徴を持つ「地犬(じいぬ)」の中でも他の血とミックスすることなく保存されていることから、1934年に中型犬としては初めて国の天然記念物に指定されました。
甲斐犬の平均的な体高・体重、平均寿命は?
平均的な体高はオスで47cm〜55cmくらい、メスで44cm〜52cmくらいと言われています。平均的な体重は、オスは15~18kg、メスは13~16kgくらいです。
鹿犬型と猪犬型とは?
甲斐犬には鹿犬型と猪犬型の2種類が存在します。鹿犬型は、体がほっそりとしていて、岩場に飛び上がる力に優れているタイプです。シカやカモシカの猟で活躍しており、現在の甲斐犬はこの鹿犬型のみが残っているとされています。一方、猪犬型は現在は絶滅したと言われているタイプです。体ががっしりとしており、大きな拝み尾(尾の先が拝むように垂れている)を持っています。
甲斐犬の平均寿命は?
甲斐犬の平均寿命は12~16歳で、他の中型犬と比較すると長生きと言えるでしょう。
甲斐犬の被毛のタイプや毛色の種類は?
南アルプスの山々を駆け回っていた甲斐犬には、寒さを防ぐ被毛を持っています。被毛の特徴や毛色の種類についてそれぞれ見ていきましょう。
被毛の特徴
甲斐犬の被毛は、硬さがしっかりある直毛のオーバーコートと密生した柔らかいアンダーコートのダブルコートになっています。寒さにはたいへん強い反面、暑さには弱いのが特徴です。また、換毛期にはやわらかい毛がたくさん抜けるでしょう。
甲斐犬の毛色の種類
黒虎
ベースが黒で赤茶の縞模様が入ります。
赤虎
ベースが赤みのある茶色で黒の縞模様が入ることが多いです。
中虎
黒と茶色の中間色を持っています。
よく見かける毛色は黒虎で、赤虎や中虎は希少な色です。どの毛色も子犬の頃は黒一色で、成長すると虎毛模様が出現してきます。これらの毛色は山林で猟犬として活躍していた甲斐犬にとって、保護色としての役割も果たしているのです。
甲斐犬の外見や吠え声の特徴は?
甲斐犬は、日本犬ならではの精悍な風貌が魅力です。甲斐犬の持つ外見や吠え声の特徴を詳しく見ていきましょう。
外見
大きな三角形の耳
三角形の耳はやや前傾しつつピンと立っていて、額には丸みが見られるでしょう。
目尻に丸みがある
切長の目を持つ他の日本犬と違い、目尻に丸みを帯びています。
筋肉質な四肢
すらっと細長い引き締まった四肢が特徴です。
キツネのように長い口もと
他の日本犬と比べるとマズルが長いでしょう。
舌の斑
舌に舌斑と呼ばれる黒っぽいシミのようなものができることがありますが、これは人間にとってのほくろのようなものです。
吠え声
比較的大きく通る吠え声です。狩猟犬としてルーツがあるため、獲物を威嚇する際に役立つためだと言われています。
甲斐犬はどんな性格?オスとメスで性格の違いはあるの?
甲斐犬は日本犬らしい気質を持つ犬種といえます。甲斐犬の性格について詳しく見ていきましょう。
性格
甲斐犬は警戒心が強く、野性味あふれる性格です。子犬の頃から適切なコミュニケーションを取り、信頼感を築くことで飼い主にとってのよきパートナーとなるでしょう。これが、まさに甲斐犬が「一犬一主」とい言われるゆえんです。また、他人に対して警戒こそすれあまり関心をもたないクールな性格は、日本犬らしいと言えます。猟犬として気質も色濃く残っており、不審な相手と感じれば攻撃的な態度を示すこともあるでしょう。一方で、飼い主には甘えん坊な一面を見せることもあります。
オスとメスの性格の違い
育った環境や個体差によりますが、一般的にはオスはメスと比べると、警戒心や縄張り意識が高いでしょう。また、その反面メスよりも飼い主に甘える一面を多く見せることがあります。
甲斐犬を飼うのに向いている人は?
甲斐犬を家に迎え入れる前に、甲斐犬を飼うのに向いている人の特徴を確認しておきましょう。
根気良く信頼関係を築ける人
甲斐犬はとても賢く、信頼関係で結ばれた飼い主への忠誠心はピカイチと言っていいでしょう。それだけに根気良く信頼関係を築ける人が、飼い主に向いています。
体力に自信があって、散歩や運動の時間を確保できる人
元気いっぱいの甲斐犬とコミュニケーションを取るには、体力にも自信がある人が良いでしょう。また、運動量が豊富な甲斐犬のために十分な散歩時間を確保できる人が好ましいです。
甲斐犬は初心者向きの犬?
体のサイズは他の中型の日本犬(北海道犬、紀州犬、四国犬)と比べて小柄ですが、初心者に飼いやすい犬種とは言えません。理由としては、俊敏性があり運動能力も高く、また警戒心が強いためです。日本犬である甲斐犬の気質を理解ができ、適切なしつけや社会化を行える方に向いているでしょう。
迎え入れる際はブリーダーから
甲斐犬はペットショップの店頭に並ぶことは珍しい犬種です。そこで、ブリーダーから譲り受けることをおすすめします。ブリーダーから迎える方法なら、家に迎える前に犬舎を見学させてもらうことができ、子犬の育った環境や親を知ることができるでしょう。また、母犬や兄弟たちと適切なコミュニケーションをとって育ったことで問題行動が少ない、気質の安定した子犬と出会うことができる可能性が高いです。
甲斐犬を飼う上で気をつけるべきことは?
家庭で甲斐犬を飼う際に気をつけたいポイントを押さえておきましょう。
外飼いではなく室内で飼育する
甲斐犬は犬種としては外飼いでも対応できますが、可能であれば室内飼いをおすすめします。夏場の高い気温と湿度で体調を壊す可能性が高いためです。室内飼いであれば愛犬の体調の異変に早く気づき対応ができるでしょう。また、飼い主とも密なコミュニケーションが取れるので、脱走して迷子になることなどを防ぐことができます。
他のペットや子どもがいる家庭は注意する
他のペットや子どもに対して攻撃的な一面を見せることがあります。特に小動物(鳥、ウサギ、ハムスターなど)と一緒に暮らす場合は、本能的に襲うこともあるので住み分けが必要です。そのため、他のペットや小さな子どもがいる家庭では、迎え入れる前に慎重に検討することをおすすめします。
逃げてしまわないよう注意する
運動能力が優れているため、庭などで遊ばせていると柵などを越えて逃げてしまう可能性があります。まずは脱走してしまわないよう日頃から密なコミュニケーションを取ること、また、高い柵を設置するなどの対策を行いましょう。
暑さに気をつける
甲斐犬は密なダブルコートを持ち、寒さには強いですが暑さは苦手です。特に夏場は、適正に温度管理された室内で飼育してください。
甲斐犬のしつけを始める時期は?
信頼関係を大切にする甲斐犬のしつけのポイントと、しつけのコツをそれぞれ見ていきましょう。
甲斐犬のしつけを始めるのに適した時期は?
社会化やしつけ、トレーニングを始めるのは、早ければ早いほど良いです。統一したルールを家族で決め、しつけは家に迎え入れたその日から開始しましょう。
しつけの際に気をつけるべきポイント
飼い主は統一したルールを作り安定した感情で犬に接する
家庭内のしつけや飼育ルールを統一させてあげることで犬のストレスが減り、穏やかに生活ができるようになります。飼い主が信頼できるかによって犬の様子も変わってくるもの。感情的に叱るのではなく、犬の感情や行動を常に観察して、愛犬の気持ちを理解することが、信頼関係を構築する上でとても大切です。また、叩く、叩くふりをする、マズルや体を強い力で拘束するなどの体罰を伴うしつけは絶対に行わないようにしましょう。
子犬の頃から多くの経験をさせる
可能であれば子犬の頃から、さまざまな人に触れ合わせてあげましょう。他の犬、車、バイク、病院など、いろんな刺激と楽しいことを結びつけて経験させてあげることが、しつけの役に立ちます。経験を重ねることで、屋外でも過度に興奮したり怯えたりすることがなくなり、自分らしく行動することができるようになるでしょう。怖がりや神経質の気質を持つ犬には、特に時間をかけて新しい刺激に慣らせてあげてください。
甲斐犬の食事の注意点は?
年齢にあわせたフードと新鮮な水を与えることが、甲斐犬の健康につながります。ドッグフードのパッケージに明記されている体重別に記された1日の摂取量を参考にして与えてください。その際は、犬のボディーコンディション(太っているか痩せているか)を見ながら分量を調整することをおすすめします。フードは1日1回ではなく1日2~3回に分けて提供しましょう。
甲斐犬がかかりやすい病気は?
甲斐犬を飼うにあたって、日頃から気をつけたい病気がいくつかあります。甲斐犬がかかりやすい病気についてそれぞれ見ていきましょう。
アレルギー性皮膚炎
皮膚のバリア機能が低下し、アレルギーを引き起こす原因であるアレルゲン(ハウスダストやダニ、花粉など)が体内に侵入することで起きる皮膚炎です。症状としてはかゆみや炎症、脱毛、色素沈着が見られるようになります。ただし、類似した別の疾病もあるため、かゆがっていたり、皮膚が赤くなっていたりするときは早めに病院で診断をしてもらいましょう。アレルゲンが特定できたら、できるだけ接触させない環境をつくることが大切です。
白内障
白内障は水晶体が白濁する病気です。水晶体が濁ると、まるですりガラス越しに物を見ているように、物や景色をぼんやりとしか見ることができなくなります。進行すると、物にぶつかったりつまずいたりといった様子が見られるでしょう。初期には気づかないこともありますが、夜に散歩に行くことを嫌がるようになったり、不安や苛立ちが増える場合もあります。白内障の予防や進行を遅らすためには、抗酸化作用のあるサプリメントの活用、散歩の時間を配慮する、犬用サングラスを使うなど、強い紫外線を直接見ない工夫をしてあげると良いでしょう。
認知症
認知症とは老化により脳機能が衰えて起こる病気のことです。甲斐犬だけではなく、柴犬などの日本犬はシニアになると認知症になりやすい傾向があります。認知症になると、ボーッとしていたり、昼夜逆転して夜鳴きをしたり、徘徊をしたり、狭いところに入り込みそこから抜け出せなくなってしまったりといった行動が見られるようになるでしょう。
予防するには、規則正しいリズムで生活をさせ、気候が良く、体調もよさそうであれば、外にでて朝日を浴びるのがおすすめ。犬が歩けない場合でもカートに乗せて外出するだけでもリフレッシュし、五感を使うことで脳へのよい刺激となりますよ。また、整体やマッサージなどで体のバランスを整えてあげるのが効果的です。
外耳炎
外耳炎とは、外耳道が炎症を起こす病気です。外耳炎の原因はアレルギー、ダニ、細菌、真菌などさまざま。症状としては、炎症を起こして赤くなり、耳をかくしぐさが増え、耳垢が増えます。原因がなにかにより治療法も変わりますので、耳の異常に気づいたら早めに動物病院で診てもらいましょう。
甲斐犬を散歩させる際に気をつけるべきことは?
猟犬である甲斐犬は運動量が豊富なため、毎日の散歩は必須。甲斐犬を散歩させる際に気をつけたいポイントを押さえておきましょう。
散歩の時間と頻度
散歩は1日1~2回、それぞれ30分以上行ってください。愛犬との大切なコミュニケーションの時間になります。
散歩の際に気をつけるべきこと
坂道を歩いたり、走る運動も取り入れる
毎日同じ道を無言で歩くのではなく、散歩道を変える、公園などでロングリードに切り変えて思いっきり走る、おもちゃで遊ぶ、犬友達と遊ぶなどがおすすめ。犬の本能を上手に使える動きができる散歩メニューを考えてあげましょう。公園内の木々がたくさんある道を歩かせたり、におい嗅ぎを楽しんでもらったり、時には屋外で号令の練習としたりとさまざまなバリエーションで散歩をさせてあげましょう。時には一緒にジョギングしたり、緩やかな坂道をゆっくりと歩くのも良いですよ。
暑さ対策
甲斐犬は、暑さと湿度が苦手な犬種です。散歩に行く時間帯を気温の低い早朝や夕方にしたり、冷却効果のある首や体に装着するグッズなどを上手に活用しましょう。
甲斐犬におすすめの遊びは?
甲斐犬と遊ぶ際は、犬の本能欲求を満たすことができる遊びや、噛む欲求を発散できる知育おもちゃなどがおすすめです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
ノーズワーク
おやつを隠して探してもらうノーズワークなど、犬の本能要求を満たす遊びはどの年齢の犬でも楽しめるのでおすすめです。
取ってこい遊び
取ってこい遊びとは、ボールやおもちゃを投げて取ってきてもらう遊びです。特に若い甲斐犬の場合は何か噛みたい要求が高いため、耐久性の優れたおもちゃを使いましょう。
甲斐犬の日常のお手入れで気をつけることは?
甲斐犬は、短毛なためお手入れは比較的楽な犬種ですが、足拭き、ブラッシングやシャンプーを嫌がる傾向があります。子犬の頃から時間をかけて、足を触れる、足を持ちあげる、拭くなどの一連のお手入れの動作に慣れさせてあげましょう。甲斐犬の日常のお手入れで気をつけることは以下の通りです。
ブラッシングの頻度
甲斐犬は被毛が豊かで、抜け毛も多い犬種です。換毛期には朝晩ブラッシングをして抜け毛を取り除いてあげましょう。散歩のあとは被毛についたホコリやごみを取り除くという意味でもブラッシングしてください。
シャンプーの頻度
シャンプーはたくさん行うと、かえって皮膚のバランスを崩してしまうことがあります。体の汚れ具合を見ながら、1~3か月に1回程度の割合でシャンプーをしましょう。