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バーニー動物病院千林分院分院長。ペット薬膳管理士、中医学アドバイザー。動物病院でペットの診療にあたる傍ら犬猫の手作りご飯教室や問題行動のカウンセリングを行う。
「扇風機」の風は人間に涼を感じさせ暑さを忘れさせてくれますが、犬にとってはどうなのでしょうか。犬はそもそも扇風機の風を涼しく感じるのかという基礎から、扇風機を使用する際の効果的な使い方や注意点まで、犬と扇風機についてバーニー動物病院千林分院分院長で獣医師の堂山有里先生に解説していただきます。
目次
- 犬に暑さ対策が必要なのはどんなとき?
- 扇風機は犬の暑さ対策に効果がある?
- 犬が扇風機を苦手なのはなぜ?
- 犬が扇風機を嫌がらないための対処法は?
- どんな犬に扇風機を使用すると良い?
- 犬に扇風機を使用する際のおすすめの方法は?
- 犬に扇風機を使用する場合の注意点は?
- 扇風機以外の犬の暑さ対策は?
犬に暑さ対策が必要なのはどんなとき?
犬はどんな状況で暑いと感じるのでしょうか。犬が暑さを感じていて、暑さ対策が必要な状況は以下の通りです。
犬が暑さを感じる気温・湿度は?
犬が快適に感じるのは、気温20〜25℃、湿度50%くらいです。犬には被毛があるため、人間の感覚だと少し肌寒いくらいが適温です。それを超えると犬は暑さを感じるようになり、暑さ対策が必要となります。
犬が暑さを感じる場面は?
遊びや散歩など体を動かした直後や、病院やトリミングなどで緊張したときなどは、犬の体温が上がり、暑さを感じるようになります。
扇風機は犬の暑さ対策に効果がある?
人間にとって扇風機の風は涼しく心地良いものですが、犬にとってはどうでしょうか。
犬は扇風機の風を涼しく感じる?
犬の汗腺は肉球にしかなく、そこにしか汗をかけません。そのため、人が皮膚に汗をかいた状態で扇風機の風に当たり涼しいと感じるような効果は、実は期待できないのです。しかし、風に当たることによって被毛の間にある空気の層を入れ替えることができるので、ある程度の熱を和らげることができると考えられます。
そもそも犬はどうやって熱を放出している?
肉球でしか汗をかけない犬は、口でハアハアと荒い呼吸(パンディング)をすることによって、体内の温かい空気を吐き出し、代わりに涼しい空気を吸い込んで体温を下げています。また、舌の表面で唾液を蒸散させることによって、気化熱で熱を逃してもいます。
犬が扇風機を苦手なのはなぜ?
犬に扇風機を使う際、嫌がる傾向があるそうですが、それはなぜでしょうか。
扇風機の風や音を嫌がる
すべての犬が最初から嫌がるわけではありませんが、扇風機に初めて触れた犬は、音をうるさく感じたり、風に慣れていないといった理由から、扇風機を嫌がる場合があります。
扇風機に吠える
扇風機の存在に慣れていないと、警戒して吠えることがあります。
犬が扇風機を嫌いになる理由は?
犬が扇風機を嫌うのは、社会化期(子犬が色々なものに慣れる時期)に安全なものとして認識しなかったために警戒している可能性や、扇風機を動かしたときに何か嫌な経験をしたことをきっかけに嫌いになっている可能性があります。例としては、扇風機から突然大きな音がしてびっくりしたとか、急に動いたり倒れてきたりして怖かったなどが原因に考えられます。風そのものを嫌う犬もいるので、風が吹いてくることを理由に嫌がっていることもあります。
犬が扇風機を苦手にならない理由は?
自転車のカゴの中で風に吹かれて嬉しそうにするなど元より風が好きな犬は、扇風機の風を好きなようです。過去に扇風機からの風に当たって気持ちの良い経験をしたことがあると、扇風機を好きになるといったことも考えられます。また、子犬のころに怖い経験をせず、安全なものと認識していた犬は、苦手にしない可能性があるでしょう。
犬が扇風機を嫌がらないための対処法は?
犬が扇風機を怖がるのは、慣れていないことが主な原因に挙げられます。少しずつ慣れさせていきましょう。
成犬に扇風機を慣れさせる方法
いつも犬が過ごしている部屋に扇風機を置き、まずはその存在に慣れさせます。最初は扇風機を起動させず、おやつを使って扇風機の近くまで誘導し、近くで食べる訓練をしていきます。犬は緊張しているとおやつを食べません。犬が扇風機に慣れてくるとリラックスしておやつを食べるようになります。扇風機がそばにあっても気にせず犬にリラックスした様子が見られるようになったら、風量の弱い状態から扇風機を使用していきましょう。
子犬に扇風機を慣れさせる方法
扇風機によって怖い経験をしないよう注意が必要です。また、成犬同様、扇風機を起動させない状態から慣れさせ、おやつを使って扇風機の近くまで誘導するなどし、徐々に使用して様子を見ていくと良いでしょう。
どんな犬に扇風機を使用すると良い?
扇風機を嫌がる犬もいますが、以下のような犬には扇風機を使うと良いでしょう。
扇風機を使用すべき犬の状態
犬がハアハアと荒い息(パンディング)をしているのは、犬が暑いと感じている証拠です。その場合は、すぐにエアコンをつけて室温を下げましましょう。扇風機を一緒に使うと、冷たい空気を満遍なく行き渡せられ、室内をさらに涼しくすることができます。
また、犬の体温がかなり高くなっている場合は、犬の体を濡らすか濡れタオルをかけた上で、扇風機の風を当ててください。気化熱で犬の体温を下げることができます。ただし、熱中症が疑われる場合は、必ず動物病院で診てもらいましょう。
扇風機を使用したほうが良い犬種
ダブルコートの犬種や被毛が長い犬種は体内に熱がこもりやすいので、扇風機をエアコンと併用して、部屋中を冷たい空気で循環させると良いでしょう。
扇風機は犬の皮膚トラブルや嗅覚に影響する?
インターネット上の一部では「犬に扇風機の風を当てると肌が乾燥する」などと言われていますが、そういった事実はありません。嗅覚についても同様です。匂いは鼻の奥の粘膜にある嗅細胞で感じますが、扇風機の風で乾燥することはありません。
犬に扇風機を使用する際のおすすめの方法は?
犬に扇風機を使用する際は、より効果的に体温を下げるためにちょっとしたコツがあります。おすすめの方法を以下にまとめましたので、それぞれご紹介していきます。
犬の体に直接的に風を当てず補助的に使う
特にシニア犬など、自分で自由に動けない犬の体に風を直接当て続けると、体温を下げすぎてしまう恐れがあります。そのため、部屋の天井に向けて扇風機を回したり窓に向かって回したりして、空気循環を目的に使用したほうが良いと言えます。
エアコンと併用する
扇風機を天井に向けて使用すると部屋の空気を循環させられ、部屋中満遍なく冷やすことができます。
霧吹きと併用する
犬の体に霧吹きをかけて濡らして扇風機を使用すると、気化熱で犬の体温を下げることが可能です。犬が暑がっていない場合は、併用する必要はありません。
扇風機とサーキュレーターの違いは?
室内の空気を循環させる目的にはサーキュレーターを。犬の体に風を当てて被毛付近の空気の層を入れ替える目的には、扇風機を使うのがおすすめです。
扇風機に保冷剤をつけて使用する
扇風機の背面に保冷剤をつけて使用すると、扇風機からの風を涼しくさせることができます。扇風機専用の保冷剤も市販されていますので、必要に応じて活用すると良いでしょう。
犬に扇風機を使用する場合の注意点は?
犬に扇風機を使用する際には、いくつか注意すべきポイントがあります。以下にまとめましたので、それぞれご紹介していきます。
扇風機使用を注意すべき年齢層
子犬は体が小さく冷えやすいため、扇風機の風を直接当てることは避けましょう。また、シニア犬は自律神経の働きが衰えて寒さに弱くなっていることが多いため、足先の温度などをチェックし冷えすぎに注意しながら使うと良いでしょう。
エアコンとの併用時は冷えすぎないよう注意
エアコンの設定温度を下げすぎず、扇風機の風量を調節するなどして活用してください。扇風機の風が犬に直接当たらないように、扇風機は天井に向けたり、首振り機能を使ったりして使用しましょう。
扇風機の使用中は飼い主が見守る
特に扇風機に慣れていない子の場合、思わぬ事故に巻き込まれる危険があります。扇風機を使用する際は、転倒や巻き込みに注意して、飼い主が見守ってあげましょう。
扇風機が倒れないように固定
犬がぶつかって扇風機が倒れないように、専用クリップで丈夫な家具や壁に固定したり、床にテープを貼って固定するなどして、扇風機の転倒を防いでください。
感電しないようにコードなどをカバー
犬が扇風機のコードやコンセントで遊ぶ可能性があります。感電の恐れがありますので、いたずら防止用のカバーや、噛み防止のしつけスプレーなどをうまく活用し、予防してください。
扇風機の羽でケガをしないように気をつける
回る扇風機の羽でケガをしないように、扇風機に指挟み防止のカバーをかけたり、柵で囲んだりして、犬を近づけないようにしましょう。
扇風機以外の犬の暑さ対策は?
扇風機だけでは犬の暑さ対策はできません。暑い日には以下のような点に注意し、しっかり対策をしましょう。
散歩は日中を避けて、朝夕の涼しい時間に
日本の暑い夏の屋外は、タイミングによって犬には危険なほどの酷暑になるケースがあります。日差しが強くなる時期から日中の散歩はできるだけ避け、早朝か日が暮れた時間に行うことがおすすめです。
どうしても日中に散歩へ出る必要がある際は、火傷防止の靴下や保冷剤の入ったバンダナやベストを活用しましょう。散歩後は犬の様子をよく観察し、熱中症など体調の変化がないか確認することが大切です。
部屋の中でも快適に過ごせる工夫を
以下の点を夏用に切り替えて、犬が快適に過ごせる環境づくりを意識してみてください。
室内を涼しくする
- 直射日光が当たらないよう遮光・遮熱カーテンを利用したり、涼感素材のクッションやマットを敷いたりする。
- サーキュレーターや扇風機を使用し、室内の空気を循環・換気する。
食事に工夫
- ふやかしたドライフードやウエットフードなどのいつもの食事をコング(知育玩具)に詰めて、凍らせてから食べさせる。
- 水分補給がどこでもできるよう、新鮮な水を入れた容器を室内に複数置いておく。
- 新鮮な水が循環する給水機を使用する。
- 水に氷を浮かべて冷たい水を飲めるようにする。
トリミング
- 被毛が長い犬種はサマーカットにする。ただし、ポメラニアンなどは短く切った後に毛が伸びなくなることがあるため注意が必要。
ベッド
- 犬の寝具を冷え冷えマットや涼感素材のベッドに替える。また、ケージ内にアルミボードや大理石ボードを置く。