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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
SNSなどで人間の赤ちゃんと一緒に犬が寝ていたり、遊んでいる写真を見るとほっこりしますよね。でも、赤ちゃんと犬が同居するとお互いにどのような影響を与えるのでしょうか。今回は獣医師の茂木千恵先生に教えていただいた犬と赤ちゃんの同居について知っておきたいメリット・デメリットや注意点などについて解説していきます。
目次
- 犬と赤ちゃんが同居するメリットは?
- 犬と赤ちゃんが同居するときのリスクや注意点とは?
- 犬と赤ちゃんが同居するとき、トラブルを防止するためにすべきことは?
- 犬と赤ちゃんの同居、一緒に住み始めるタイミングはいつ?
- 犬を飼っている家庭で赤ちゃんを出産する前にしておくべきしつけは?
- 犬を飼っている家庭で赤ちゃんを出産する前にしておくべき準備は?
- 犬と赤ちゃんの同居が始まったら
犬と赤ちゃんが同居するメリットは?
同居を開始するタイミングやその時の犬の年齢にもよりますが、生後3ヶ月から10歳未満の小さな子どもとの同居は犬にとってあまりメリットはありません。ただし、飼い主さんがきちんと対策をしていれば話は別です。犬にとって赤ちゃんは良い遊び相手になるでしょう。大切な家族の一員として、犬を大切にしてあげましょう。
犬と同居することは赤ちゃんには健康面でメリットがある
犬と赤ちゃんが同居することは、赤ちゃんにとっては好影響を与えます。赤ちゃんが1歳未満の時期に自宅で犬を飼っていると、アレルゲンへの反応性が低下して、アトピー性皮膚炎の発症率も低くなることが報告されています。また、犬と暮らすことで喘息とアレルギー性鼻炎の発症予防効果が認められた臨床研究もあります。
さらに、イギリスでは犬を飼っている家庭では乳幼児期(3ヶ月から3歳)に食物アレルギーを発症する割合が顕著に低く、2頭以上の犬を飼っていると全く発症していないという研究結果も報告されています。いずれにせよ、犬と暮らすことで赤ちゃんの健康面に良い影響があることが伺えます。
犬の存在は、赤ちゃんの心に良い影響をもたらす
赤ちゃんが犬と一緒に過ごすことで、コミュニケーション能力が発達したり、精神が安定する可能性があります。例えば、犬を飼うことで社会性が増す可能性が高くなり、子どもの時のうつ病のリスク軽減も報告されています。犬を飼うことで、思春期の子どもの幸福度にも良い影響をもたらすこともわかっています。
現代では核家族化が進み、両親と子どもだけという家庭も少なくありません。両親に怒られた子どもが傷ついている時に、犬は癒しの存在になってくれているのかもしれません。
犬と赤ちゃんが同居するときのリスクや注意点とは?
赤ちゃんにとって犬との同居はメリットがあることがわかりましたが、気をつけなければならないこともたくさんあります。ここではそのリスクや注意点についてご紹介します。
病気のリスクについて
犬と赤ちゃんが同居する際、まず気をつけなくてはいけないのは病気のことです。例えば、パスツラレラ菌というものがあります。これは犬の約75%、猫のほぼ100%が口腔内にもっている菌で、赤ちゃんやお年寄り・病人など抵抗力の弱い人に感染すると、肺炎や炎症などを起こし、重篤な場合は死亡することもあります。
赤ちゃんは大人に比べ抵抗力も弱く、犬の持っている感染症にかかるリスクも高まります。犬から人にうつる人獣共通感染症としては、狂犬病、ブルセラ症、サルモネラ症、皮膚糸状菌症、エキノコックスなどがあり、またノミによるアレルギーも知られています。
これらは主に犬と接触したり、傷口や口を舐められたりすることで感染します。基本的に、犬と赤ちゃんとの接触を避けることで予防できます。犬自身の感染症の予防接種や定期検診は必ずしておきましょう。
事故のリスクについて
犬と赤ちゃんの同居では、事故も懸念しなければいけません。特に気にするべきなのは、赤ちゃんが犬に咬まれることです。傷が残ってしまう可能性もあり、死亡事故も起きています。予想外の動きをする赤ちゃんといることは、犬にとってストレスになることもあります。
赤ちゃんを床に敷いた布団などに寝かせていると、犬が近づき思いがけない事故につながる可能性もあります。愛犬が赤ちゃんを不意に噛んでしまわないよう、また踏んでしまうことがないように、ベビーベッドを用意し赤ちゃんはそちらに寝かせましょう。
犬と赤ちゃんが同居するとき、トラブルを防止するためにすべきことは?
犬と赤ちゃんが同居する時にはトラブルが起きがちです。そうなる前に対策をしておきましょう。
赤ちゃんへの感染防止
犬から人へうつる感染症の他、犬自身には何も症状を引き起こさなくても、人にうつるとさまざまな症状を引き起こす病源体を持っていることも少なくありません。犬の飼育ケージ、食器や給水器、トイレなどの洗浄・消毒を定期的に行いましょう。また、赤ちゃんへの感染防止のためにも以下の点を心がけましょう。
<感染防止のためのポイント>
・犬と赤ちゃんが濃厚な接触をしないようにする
・犬を清潔に保つ
・犬の糞尿の処理は速やかに行う
・犬にさわったら必ず手洗いをする
・犬が使う食器やおもちゃは定期的に洗浄する
赤ちゃんと犬の空間を仕切る
赤ちゃんと犬のトラブルを防止するために、赤ちゃん専用の部屋を作りましょう。その部屋には飼い主さんの許可がない限り、犬は入れないようにします。入口にペットゲートを設置するのもひとつの手段です。犬は赤ちゃんが生まれるより前に、その部屋には入れないようにしておくと、いざ赤ちゃんと同居したときにトラブルが起きにくくなります。
また、同時に犬の居場所を快適にし、クレート(屋根がついた箱型のハウス)内にクッションなどを入れて、食べ物を与えます。そのうえで休んでいるときに褒めたりおもちゃを与えたりします。飼い主さんのそばではなく、その自分の居場所でくつろぐことを教えておきましょう。
犬と赤ちゃんの同居、一緒に住み始めるタイミングはいつ?
犬と赤ちゃんの同居を考える場合、住み始めるタイミングはどのように考えたらいいのでしょうか。2つのパターンでご紹介します。
赤ちゃんがいる家庭に、犬を迎える場合
犬を迎える予定のある家庭では、迎え入れるのは赤ちゃんの生後100日以降にすることをおすすめします。妊娠後期から出産直後は飼い主さんの体調も不安定なうえ、生まれたばかりの赤ちゃんは免疫がないため生後1ヶ月ほどは外出ができません。
もし、そのタイミングで犬を迎えてしまうと、日々の散歩や必要なトレーニングがおろそかになってしまう可能性があります。赤ちゃんと犬の双方の健やかな成長のためにも、ゆとりあるタイミングで迎えるようにしましょう。
犬がいる家庭に、赤ちゃんが同居する場合
すでに犬を飼っている家庭で赤ちゃんを出産する予定がある場合、出産前に犬を別の場所に預けるのはおすすめしません。犬にとっては家から離されただけでなく、帰宅したら見知らぬ赤ちゃんがいることになります。これは、犬にとって大変なストレスです。そのまま犬を家に住まわせ、出産後に落ち着いたタイミングで犬と赤ちゃんを会わせ、徐々に一緒に増やす時間を増やすようにしましょう。
犬を飼っている家庭で赤ちゃんを出産する前にしておくべきしつけは?
犬と一緒に暮らしている家庭で赤ちゃんの出産が控えている場合、事前に犬に覚えさせておきたいしつけがあります。
「待て」を覚えさせる
赤ちゃんのおもちゃは犬にとっても魅力的です。また、赤ちゃんの食事に興味を覚えたり、赤ちゃん自身にじゃれたくなってしまうこともあります。そんな本能的な行動を抑えるためにも、「待て」を覚えさせておきましょう。
飼い主さんの後を歩くよう教える
階段や廊下などの狭いところで、赤ちゃんを抱っこしている時に犬が足元をすり抜けると事故の原因にもなりかねません。必ず飼い主さんの後を歩くよう、犬に教えておきましょう。
散歩用に「つけ」を覚えさせる
興奮した犬がベビーカーの周囲を走ると、リードがベビーカーに引っかかったり、ベビーカーを横転させてしまうこともあり大変危険です。まだ「つけ」で飼い主さんと歩調を合わせて歩ける訓練ができていない場合は、まず「つけ」を練習しておきましょう。犬がリードをぴんと張るまで先に行こうとしたらすぐにリードを引き、犬が立ち止まったらご褒美をあげることで「つけ」を覚えさせていきます。
健康チェックに慣れさせる
感染症や病気のリスクを減らすためにも、愛犬の健康管理は重要です。日頃から健康チェックをできるよう、目や耳、口の中などをいつでも触れられるように犬を慣れさせておきましょう。
定期検診や予防接種を忘れずに
狂犬病と各種混合ワクチンの予防接種やフィラリアの予防、寄生虫(ノミ、ダニ)の予防などを定期的に行いましょう。また、毎日の被毛の手入れをすれば皮膚疾患を防ぐことができます。その他に季節ごとの健康診断を受けていれば、赤ちゃんへの健康面での悪影響も減らすことができます。
犬を飼っている家庭で赤ちゃんを出産する前にしておくべき準備は?
赤ちゃんを出産する前には、犬のしつけの他に準備しておくべきこともあります。その詳細を項目ごとにご紹介します。
ベビーベッド、ベビーサークルの用意
赤ちゃんを犬から守るため、犬が超えられない高さのものを用意しましょう。寝室に犬を入れない場合でも、日中を過ごすリビングに赤ちゃん専用の柵のあるベッドを用意すると安心して家事ができます。
犬のためのサークル、クレート
こちらは逆に赤ちゃんから犬を守るためのものです。興味津々な赤ちゃんが犬を触ろうとした場合などに、犬にとっての逃げ場になります。赤ちゃんが超えられず、犬は飛び越えられる高さにしましょう。
入院中・産後に犬の世話をする人を決めておく
飼い主さんが女性である場合、出産入院中や産後の犬の世話と散歩は他の家族やシッターさんにお願いしましょう。一度、産前に犬のお世話をお願いしてみると様子が分かって安心です。事前に犬のお世話をしてもらうことで、犬もその状況に慣れることができます。
ベビーカーの練習をしておく
飼い主さんがベビーカーを押しながら犬の散歩をする予定の場合は、産前にベビーカーを入手して練習しておきましょう。ベビーカーは思ったより取り回しにコツが要り、犬によってはおびえてしまうこともあります。たたみ方もベビーカーの種類によって違います。その時に赤ちゃんだけでなく犬も巻き込まれることがないように注意しましょう。
犬と赤ちゃんの同居が始まったら
いよいよ赤ちゃんと愛犬の同居が始まったら、双方の様子に注意しましょう。赤ちゃんも犬も言葉で訴えることができないため、何かしらサインを出していることがあります。
飼い主さんも赤ちゃんの出産後は、これまで通りに生活はできません。先に犬を飼っていた場合、これまでは犬の行動(エサ、散歩など)が優先することも多かったと思いますが、これからは赤ちゃんが泣いたら赤ちゃんのケアが優先される生活になります。犬は自分の要求を聞いてもらえないことに戸惑ってしまいます。そこで起きやすい事故を防ぐための方法をいくつかご紹介します。
犬と赤ちゃんだけにしない
事故防止のためにも、目を離さないようにしましょう。特に大型犬では、犬自身が赤ちゃんに危害を加える気がなくても、思わぬ事故につながる場合があります。
号令を活用する
赤ちゃんに「飛びつく」「噛みつく」ことがダメだということを愛犬に教えましょう。赤ちゃんに飛びつこうとする、急接近するなどの行動があれば、すぐに号令「待て」「おいで」でコントロールします。すでに噛んでしまった場合は「いけない」などと一喝し、号令「おいで」で赤ちゃんから離します。その際、体罰は厳禁です。かえって赤ちゃんに対して攻撃性を高めることがあります。
犬がうなり声をあげた時の対処法
犬のうなり声は警告のサインです。犬が赤ちゃんといて不快だということを示しています。この時、罰を与えてはいけません。犬がかえって興奮して赤ちゃんを更に傷付けてしまうこともあるからです。赤ちゃんへの注目を他の物(おもちゃ、おやつなど犬が好むもの)へと引きつけて赤ちゃんから引き離します。
そのために、犬が不快に感じたときに逃げ込めるような、犬が落ち着ける場所を用意しておきましょう。犬が落ち着いてから、赤ちゃんと同じ部屋にいる時に褒美をあげるようにします。赤ちゃんがいない時にあげてはいけません。これを繰り返すことで「赤ちゃんがいればご褒美をもらえる」と赤ちゃんの存在を良いものとして認識するようになります。
赤ちゃんに犬アレルギーがある場合の対処法
赤ちゃんが犬に対するアレルギーを発症することもあります。犬のフケ、唾液、尿などがアレルゲンとなってくしゃみや咳、鼻水や目の充血、湿疹などの症状があらわれます。アレルゲンをカットするために、部屋はこまめに掃除をしましょう。
犬の便、被毛などはこまめな掃除が必要です。犬を定期的にシャンプー・ブラッシングするのもいいでしょう。アレルゲンは空気中にも浮遊しているので、こまめに換気をし、併せて空気清浄機を使用することをおすすめします。
赤ちゃんに教えていきたいこと
赤ちゃんにも、犬への接し方など教育をしましょう。犬にしてはいけないことなどの新しいルールは、幼いからと先送りするのではなく日常的に繰り返し教えていきます。犬が嫌がることや触ってはいけない場所、犬にしたら喜ぶこと・ダメなことなども教えていきましょう。
飼い主と犬との関係性も忘れずに
赤ちゃんを連れて出ない散歩で、飼い主さんと犬との1対1の関わりも継続しましょう。飼い主さんは赤ちゃんのお世話に多くの時間を割くようになるため、犬と関わる時間が短くなってしまいます。そのため、犬をリフレッシュさせたい時には散歩に赤ちゃんを連れていかず、愛犬と1対1の時間を増やすようにしましょう。
やがて犬と赤ちゃんが互いの存在に慣れたら、一緒にお散歩に行くこともできます。お散歩は犬にとって大切な時間です。その時間を赤ちゃんと共有することで家族の一員としての認識を強めてくれます。過ごしやすい時間帯を選んで、愛犬と赤ちゃんとの散歩を楽しんでください。
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。