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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
ブラッシングは、愛犬が毎日を快適に過ごすために欠かせない、大切なお手入れのひとつです。体に触れ合うことで、飼い主が愛犬とのコミュニケーションを深める時間にもなります。間違ったやり方をして犬がブラッシング嫌いになることがないように、正しい手順を確認したうえで行うようにしましょう。ブラッシングが必要な理由や適切なやり方、気をつけたほうが良いポイントなどについて、動物行動学を研究する獣医師の茂木千恵先生に解説していただきました。
目次
- なぜ犬のブラッシングが必要なの?
- 犬のブラッシングをしないとどうなる?
- こんなブラッシング方法は絶対NG!
- 犬のブラッシングの適切な頻度は?
- 犬のブラッシングに必要な道具は?
- 犬のブラッシングの正しい手順は?
- 犬にブラッシングに慣れさせるコツは?
- ブラッシングを嫌がる犬への対処法は?
なぜ犬のブラッシングが必要なの?
犬のブラッシングは、日常的に落ちる毛を除去することで、通気性を良くすることが目的です。人の手でブラッシングして毛を取り除くのを手伝ってあげることで、犬はより快適に過ごすことができます。必要のない毛を取り除くことで、次のような効果が得られます。
皮膚トラブルの防止
通気性が良くなることで雑菌の温床が無くなり、皮膚トラブルの防止につながります。また、皮膚疾患やイボ、赤み、脱毛箇所、フケなどの有無にも気づきやすくなります。獣医師の診察では、最も病変が起こりやすい場所を重点的に見て診断していくため、全身をくまなく見ることはなかなかできません。飼い主が愛犬の些細な変化に気づいてあげることはとても大切です。
ノミやダニなどの寄生虫の早期発見
ブラッシング中にノミやダニが寄生していることにいち早く気付けます。寄生虫が皮膚炎や貧血、脱毛やかゆみなどを引き起こすことがありますので、こまめに見てあげることが大事です。
抜け毛を少なくする
自然に抜け落ちる毛だけでなく、抜けたのに他の毛にくっついて落ちていない毛を除去することで、ブラッシングをしているとき以外に抜ける毛を減らすことができます。
毛並をよくする
ブラッシングには毛束をほどく効果があり、毛並みを整えることができます。また、体表が分泌する皮脂は不均一に被毛に付着していますが、ブラシを通すことで均一に行きわたります。皮脂、つまり天然オイルが被毛の1本1本をコーティングしてくれるため、全体的に毛ヅヤが良くなります。
血行促進
ブラッシングにはマッサージ効果もあります。皮膚に直接触れるようにブラッシングしなくても、十分にマッサージ効果が得ることができます。このとき重要なのは、毛の流れ(毛流)に沿ってブラッシングしてあげること。上から下、前から後ろという方向を守りましょう。
愛犬とのコミュニケーションを図れる
愛犬が気持ちよさそうにしているのを目にすると、ブラッシングしている飼い主も癒されたり、嬉しくなったりすることでしょう。このようにブラッシングを介して愛犬とのコミュニケーションを図ることができます。
犬のブラッシングをしないとどうなる?
ブラッシングをしないと毛玉になり、毛玉によって通気性が悪くなると犬の体表からの放熱が妨げられてしまいます。特に春から夏にかけての「換毛期」には毎日のブラッシングが欠かせません。夏の時期に注意が必要な熱中症の予防にもつながります。
また、耳にできた毛玉を放置してしまって、耳表面の血流が滞ってしまう例が多く見られます。引っかかったり、引きつったような感覚を伴いますので、日常的なイラつきの原因にもなります。毛玉は静電気を帯びやすく、抜け毛の発生源にもなるため、毛玉を作らないようにすることがとても大切です。
こんなブラッシング方法は絶対NG!
犬の被毛は、「上毛」と「下毛」という二重の層になっていますが、下毛(アンダーコート)が多い犬と多くない犬という風に大きく二つに分けることができます。下毛が多い犬はブラッシングによって下毛を抜き取る作業がメインですが、下毛が多くない犬では絡まった毛をほぐす作業がメインになります。
犬のブラッシングの適切な頻度は?
毎日1回行うのが最適です。ブラッシングには先述したようにたくさんの効果があります。継続することで毛玉などの問題が減っていきますので、犬はブラッシングがより気持ちの良いものと感じるようになります。
タイミングとしては、愛犬が寝る前の時間帯にコミュニケーションの一環としてブラッシングを行うのがおすすめです。動物は睡眠欲求を感じたときに寝床を整えたいという本能的な気持ちが湧いてくるもの。寝る前はセルフグルーミングも起きやすい時間帯です。動物の自然な欲求にあわせるかたちでブラッシングをしてあげることで、違和感なくお互いにリラックスできる時間になるでしょう。また、ブラッシングのマッサージ効果によって、一時的に体温が上がります。人も動物も体温が下がる時に眠気が起こりますので、入眠に最適な状態を作り出すことができます。
犬のブラッシングに必要な道具は?
犬のブラッシングに必要なブラシなどの道具について、それぞれの特徴とどんな犬種に向いているのかを解説していきます。
スリッカーブラシ
スリッカーブラシは、「く」の字型に曲がった針金のついたブラシです。大抵のブラッシングの目的にかなったつくりになっており、毛量を減らし、下毛を除去し、毛玉をほぐすことができます。ふんわり仕上げたい場合は、毛量を減らさないようにスリッカーブラシは毛玉の除去にだけ使用し、仕上げはピンブラシのほうが良いでしょう。
ラバーブラシ
ビーグル、ラブラドール・レトリーバーなど短毛の犬種に使う、ゴムまたはシリコン製のブラシです。マッサージ効果が高く、余計な毛を取り除くこともできます。
獣毛ブラシ
豚などの毛が使われているブラシで、短毛の犬種に使います。犬が嫌がる静電気が起きにくいという特徴があります。他のブラシに比べて毛に艶が出やすいため、ショードッグの展示会ではよく使われています。
ピンブラシ
人が使うブラシに近い形状のピンブラシは、毛が柔らかい犬種でも、ブラッシングによって毛が切れたり抜けたりするのを防止し、ボリュームを保つことができます。ふんわり仕上げたいポメラニアンやシェルティに向いています。
ノミ取りくし
また、おでこや頬、耳下の毛や手を丁寧にとかすことができます。またピンポイントで目やにをほぐすといった用途で使います。
コーム
いわゆる櫛ですが、毛玉に引っ掛けたときに力がかかりすぎるうえに、毛をほどく効率が低いため、家庭で行うブラッシングには向いていません。ほどけた毛を整える目的でプロのトリマーが使用しています。
ブラッシングスプレー
ブラッシング時の静電気防止に欠かせないのが、ブラッシングスプレーです。犬は、静電気のバチッという音を嫌がります。その体験がもとでブラッシング嫌いになってしまうこともあるので、必ずブラッシングを行う前に使うようにしましょう。
犬の体に直接かけるのではなく、犬の上空に向けて2~3回スプレーして、自然に犬の体に降りかかるようにすると良いでしょう。それでも嫌がる様子を見せたら、スリッカーブラシやピンブラシにむけてスプレーする方法で使いましょう。
頑固な毛玉には、プロのトリマーが常用しているタングルリムーバーというスプレーを使う方法もあります。
犬のブラッシングの正しい手順は?
ブラッシングは、被毛の種類に関わらず、同じ手順で行います。ポイントは毛流に沿ってとかすこと。毛の流れを乱さないように注意しましょう。
体の部位のうち、犬が嫌がらない場所から始めます。基本は、首の後ろから背骨に沿って前から後ろ、上から下に向かってブラッシングし、徐々に範囲をお尻や足先など末端のほうへと移動します。無理に全体をやろうとするのではなく、飼い主が日常的にできる範囲で終えると良いでしょう。
末端は最も汚れが付きやすいのでこまめにケアしたい場所ですが、犬がブラッシングされるのを嫌がる場所でもあります。嫌がるようであれば、ブラッシング嫌いにさせないためにも、プロに任せることをおすすめします。
カーリーコートの犬種はブラッシングに要注意
プードルに代表されるカーリーコートには毛がきつく巻いている犬種もいますので、ブラッシングの際に毛を抜いてしまわないように、スリッカーブラシを使ってブラッシングするようにしましょう。
犬にブラッシングに慣れさせるコツは?
まずは、飼い主が「慣れさせることが大事」という意識を持つこと、またそれに則ったプロセスが大切です。犬は毛流を乱されることを一番嫌がるので、必ず上から下、前から後ろという毛流を意識したブラッシングを行うようにしましょう。この意識が伝われば、犬が体を撫でてもらうのを好むように、ブラッシングもしてもらいたがるようになります。
ブラッシングを嫌がっている犬にはおやつを与える方法もあります。ブラッシングの最中に与えると、その場にとどまらせることにはできますが、もっと欲しいという欲が出てきて大人しくしていられなくなることがあります。我慢できたら、ブラッシングが終わったタイミングでごほうびとしておやつを与えるようにすると良いでしょう。我慢できたごほうびだということがわかりやすいタイミングで、ブラッシングを大人しく受けさせる訓練になります。
ブラッシングを嫌がる犬への対処法は?
日ごろから少しずつブラッシングに慣らしていくことが大切です。全体をブラッシングしようとするのではなく、毛がほぐれていない箇所があればそこだけ少しほぐしてあげるなど無理のない範囲で行うと良いでしょう。このとき、毛を逆立てないこと、引っ張らないことに注意してください。膝に乗ってきた時にブラッシングをするなど、愛犬のタイミングに委ねてみるのも有効です。
やめてほしいという素振りや逃げようとする素振り、回避しようとする仕草などがみられたら中止して、一度、プロに任せるようにしましょう。目的が食い違わないようにお願いする時は、「ブラッシングに慣れさせたい」ということを明確に伝えてください。
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