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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
便の様子を知ることは、飼い犬の健康状態を知る上でとても重要です。しかし、近ごろ愛犬が排便しなくなった、あまりトイレをしている様子がないという場合は、便秘の可能性があるかもしれません。軽視されがちな便秘ですが、場合によってはさまざまな病気が潜んでいる可能性があります。今回は、chicoどうぶつ診療所所長の林美彩先生に教えてもらった、犬と便秘に関する基礎的な情報や対処方法について解説していきます。
目次
- そもそも犬の便秘とは?
- 犬が便秘になる原因とは?
- 愛犬が便秘になった場合、考えられる病気は?
- 便秘になりやすい年齢や犬種はあるの?
- 犬が便秘になった場合、食事はどうするの?
- 犬が便秘になっている場合、他に気をつけることは?
- 犬が便秘になった場合、自宅でできる対処法は?
- 犬の便秘でこんな症状が出たらすぐに病院へ!
- 犬が便秘にならないようにする予防法は?
そもそも犬の便秘とは?
犬が便秘になるというのはどういう状態なのでしょうか。そもそも、犬が便秘になることはあるのでしょうか。犬の便秘の基礎的な情報について解説します。
普段の排便回数から減った場合に便秘が疑われる
犬の便秘の目安は一概には言えませんが、普段の回数を把握し比較することが大切です。犬はそれぞれ個体差があり、排便のペースにも違いがあります。そのため、愛犬の排便回数を大まかにでも把握しておくことが大切です。
愛犬の便秘の判断は、通常の目安を把握しておき、その目安の回数から急激に回数が減った場合などに便秘の可能性が疑われます。続けて2日以上出ていない場合は動物病院へ連れていきましょう。
ちなみに、犬の排便回数の目安も、犬ごとに異なるので一概には言えませんが、一般的な目安として食事の回数±1くらいと考えましょう。年齢によっても排便の回数は変わりますが、子犬は排便の回数が多く1日のうちに5回以上する犬もおり、そこから成長と共に排便の回数が減っていきます。
犬の便秘の症状は排便以外にも現れるの?
犬が便秘になりお尻に痛みがある場合は、排便しようとすると鳴いたり、くるくると回っている場合があります。また、排便時にいきんでしまい、吐いてしまうこともあります。他にもいきんだ際は、脳圧が高くなり、痙攣をおこすことなどもあります。このような異常な行動が排便時に見られた場合も、便秘を疑ってみましょう。
犬が便秘になる原因とは?
便秘の原因には、食事によるものや生理的なものなどさまざまな理由があげられます。原因ごとに具体的にご紹介します。
食事内容・水分不足によるもの
便と直接関係があるものといえば食事です。例えば、食べたものによって便が硬くなり出づらくなるというパターンがあります。代表的な例としてあげられるのが、繊維質の食品を食べ過ぎることです。少量であれば犬の健康にもいいのですが、食べ過ぎは逆効果になります。代表的なものとして、さつまいもやキャベツなどが挙げられます。他にも十分な水分補給ができていない状況だと、便が固くなります。
ストレスによるもの
犬は生理的な原因でも便秘になり、その代表的なものにストレスがあります。ストレスは生活環境の変化などで感じることがあります。留守番や引っ越しなど普段と違った環境になることで犬が不安になり、便秘になることがあります。
また、排泄と大きく関わる場所として、トイレも重要です。トイレの場所が変わったり、汚れていたりしている場合は、その状態がストレスとなって便秘を引き起こす可能性もあります。トイレは清潔にしつつ、トイレの場所は人目が付かないところに用意してあげましょう。
運動不足
運動不足により便秘になることもあります。運動が減ると、腸の動きが低下し消化管の動きが悪くなり便秘を発症してしまうこともあります。また、運動不足などで肥満になるとより便秘になってしまう可能性が高くなります。
その他の要因
他の原因として、異物の誤飲が影響することもあります。毛が長い犬などは自分の毛などを飲みこんでしまい便秘になることがあります。他にも犬用のおもちゃや綿など小さいものを飲み込み発症してしまうこともあります。
また、何らかの病気で薬を服用している場合も、副作用などで便秘になる場合があります。服用を始めて便秘が見られた場合は、獣医師に相談するようにしましょう。その他、年齢による便秘も考えられ、老犬(シニア犬)や体が未熟な子犬では便秘になりやすい傾向があります。
愛犬が便秘になった場合、考えられる病気は?
便秘の中には、体のトラブルが要因となっている場合もあります。注意深く観察をして、状況次第では、かかりつけの獣医師へ早目に相談しましょう。
肛門周辺のトラブル
肛門に痛みが生じることで、排便を我慢してしまい、便秘になってしまうというケースがあります。肛門周辺のトラブルには、肛門に傷ができたり、肛門嚢に分泌物が溜まることで炎症を起こす肛門嚢炎(こうもんのうえん)という症状などがあります。
また、犬の会陰(えいん)ヘルニアが原因になることもあります。会陰ヘルニアとは、犬の肛門の周辺にある会陰部に臓器が飛び出してきてしまう症状で、これが原因となり便秘になってしまうことがあります。
消化管のトラブル
消化管に異物や腫瘍がある場合も便秘の要因になります。代表的なものに腫瘍やポリープなどがあります。また、大腸などの消化管の閉塞(腸閉塞など)や、食あたりなどによっても便秘を招いてしまうことがあります。
神経系のトラブル
犬の脊椎の中には、中枢神経である脊髄神経が通っています。この神経の末端は、腰椎の部分で馬の尻尾のように細かく分かれており、これを馬尾神経といいます。その馬尾神経が何らかの原因で圧迫され生じる痛みを、馬尾症候群と呼びます。これが原因となり便秘となってしまう場合もあります。また、馬尾症候群の要因にもなる椎間板ヘルニアも、便秘をもたらす原因のひとつです。
外傷や骨折
交通事故などに遭った場合、骨盤や四肢を骨折してしまうと、排便が難しくなります。そのため排便を我慢してしまい、便秘になってしまう場合があります。
前立腺肥大
雄の場合は便秘が前立腺肥大から影響している可能性もあります。前立腺は雄の尿道の周辺にあります。前立腺が炎症を起こし、腫瘍化してしまうと、細い形状の便を排泄したり、便秘になったりする症状が見られることがあります。
便秘になりやすい年齢や犬種はあるの?
便秘になりやすい犬種というのは特段ありません。しかし、年齢で見ると、体が未発達な子犬や、体が衰えてくる老犬(シニア犬)などに多い傾向が見られます。
注意したい老犬(シニア犬)の便秘
老犬(シニア犬)は、基礎代謝などが低下することによって便秘になりやすくなってしまいます。食事量や運動量の低下は、基礎代謝の低下につながります。また、食事をしても、胃や腸の消化機能が低下することで、さらに便が出にくくなってしまいます。
便を出す素振りがなかなか見られない場合や、トイレに居る時間が長いと感じた場合は、便を確認したり、犬のお腹を触ってみましょう。コロコロとした硬い便がみられたり、お腹が膨らんでいたりしている場合は、便秘を疑いましょう。
子犬の場合、特段注意することはありませんが、便秘が長く続くと体調不良を起こしやすくなってしまうので、注意深く観察し気になる場合は動物病院へ行きましょう。
犬が便秘になった場合、食事はどうするの?
便通を良くするためには、食事の見直しが欠かせません。日常の食事やおやつにおいて、お腹に優しいものを取り入れるよう心がけましょう。
食物繊維を取り入れよう
腸内環境を整えるためには、食物繊維を積極的に摂取するようにしましょう。ただし、食物繊維には水溶性のものと不溶性のものがあります。便秘と下痢が繰り返して引き起こされている場合は、水溶性の食物繊維を取り入れるといいでしょう。水溶性の食物繊維を含んだ食品には、りんごやキャベツ、ニンジンなどがあげられます。
腸の動きが低下していることで生じている便秘では、不溶性の食物繊維を摂取しましょう。不溶性の食物繊維としてあげられるのは、サツマイモやブロッコリーなどがあります。
食べやすいよう量を考えて、手作りの食事を与えてあげるのもいいでしょう。また、ダイエット用のドッグフードには、食物繊維が配合されているものも多いので、便秘中の食事として検討してもいいでしょう。
また、水分が不足している場合には、ドッグフードをふやかしたり、スープを与えるのも方法のひとつです。
乳酸菌も効果的
お腹にいい食事といえば、乳酸菌も欠かせません。腸内で善玉菌を増やすことで、腸内環境を整えるのに一役買ってくれます。代表的な食材には、ヨーグルトがあります。場合によっては、バナナやサツマイモなど、オリゴ糖や食物繊維が摂取できる食材を添えるのもおすすめです。
ただし、ヨーグルトは製品により、カロリーを取り過ぎてしまったり、犬によっては体調不良を起こしてしまう可能性もあるため、与える前に一度獣医師に相談しましょう。他にも乳酸菌が含まれているサプリメントもあります。
整腸剤を与えても大丈夫?
人間の場合、便秘になると整腸剤を服用することがありますが、この整腸剤を犬に与えることは、基本的に問題ありません。整腸剤を与えることにより、腸内環境を整え、便秘解消につなげてくれます。しかし、整腸剤と犬の腸内にいる善玉菌との相性はそれぞれです。相性が悪い場合は、下痢を引き起こしてしまうかもしれません。与える前に一度獣医師に相談し、悪化するなどが見られた場合は、すぐに投与を中止し動物病院にいきましょう。
犬が便秘になっている場合、他に気をつけることは?
食事以外の場面において、便秘で気をつけなければならないのは、冷えです。特に腹部や腰の部分を冷やさないようにしましょう。
腹部が冷えると…
腹部が冷えることによって影響されるのは、腸の冷えです。腸が冷えると胃腸などの消化管の動きが鈍り、便秘につながってしまいます。しっかりと腹部を温めることによって、消化器官の機能を向上させましょう。季節の気温差などにも気を配り、夏場などはクーラー(冷房)の風が直接当たらないようにし、冬場は床の冷えなどにも注意しましょう。
腰部が冷えると…
腰部の冷えは排便神経の流れを滞らせます。腰から下が冷えることによって、血液の流れが滞りやすくなってしまうのです。血の流れをよくするためにも、しっかりと腰部をガードして、冷やさないようにしてあげましょう。腹部や腰部の冷えにはタオルを巻いてあげたり、犬用の服を着させるなどもいいでしょう。
犬が便秘になった場合、自宅でできる対処法は?
自宅でできる愛犬の便秘の緩和方法としては、食事や冷えの対策とともに、以下の方法があります。
マッサージ
便秘の解消には、腸の動きを活発にさせるためのマッサージもおすすめです。お腹を程よい強さで押さえながら、ゆっくりマッサージをしてあげましょう。動かすポイントは、お腹の上からお尻の方へ向かうことです。便を動かすことを意識しながらマッサージすると効果的です。
浣腸はレクチャーを受けてから
排便を強制的に促す方法としては、浣腸があります。犬用の浣腸も市販されていますが、行う場合は必ず動物病院で獣医師の指導を受けてから行いましょう。
犬の便秘でこんな症状が出たらすぐに病院へ!
犬の便秘が何らかの病気によって影響している場合は、なるべく早く動物病院に連れていく必要があります。ただし、それ以外に変わった様子も見られず、便秘だけが続いている場合は、どのような基準で動物病院に連れていけばいいのでしょうか。
犬が便秘になった場合、動物病院に行くべき見極めのポイントは?
愛犬の便秘の継続が1日や2日程度であれば、様子を見ていてもいいでしょう。愛犬が便秘かどうかを知るには、日頃の排便ペースや1日の排便の回数を把握しておくことが大切です。そのペースから大きく間隔が開いている、普段の1日の排便回数から少なくなっている、2日以上排便がない場合などは動物病院に連れていきましょう。
他にも、犬がぐったりしていたり、嘔吐があったりした場合など、体調に明らかな変化が見られたら、できるだけ早めに受診するようにしましょう。
動物病院に行く前に準備すること
来院時は、便秘の症状だけでなく、通常の排便の回数や食事内容などを獣医師に伝える必要があります。症状が見られる前後の食事や環境に変化があれば、併せて伝える必要があるため、メモなどに書き記しておきましょう。また他の病気などで薬を服用している場合は、薬の名称などを用意しておきましょう。
犬が便秘にならないようにする予防法は?
愛犬の便秘は多くの場合、生活習慣の改善で予防することができます。犬を取り巻く日常を振り返りながら、注意すべき点を見直しましょう。
食事の見直し
日頃の食事を見直し、消化不良を起こしやすい食材などが使われていないか確認しましょう。また日頃から食事の中で水分を摂取させることも大切です。食事の際は、ドッグフードの横に水を入れた皿を並べて、一緒に水分をとれるようにしましょう。あまり水を飲まない犬の場合は、ドッグフードをふやかすなど、水分を取り入れられるよう工夫してみるのも、方法のひとつです。
運動不足の解消
体をしっかり動かすことは、消化管の働きを刺激するだけでなく、ストレス解消にも繋がります。また、運動して喉が渇くことで、自発的な水分補給にも繋がります。適切な運動量の中で、めいっぱい遊ぶ時間を与えてあげましょう。
マッサージ
犬にマッサージを行うことは、便秘中だけでなく便秘の症状が出る前からも予防として効果的です。日頃からマッサージを習慣化すると便秘を予防できる可能性が高まります。犬のお腹はデリケートです。そのため、あまり強く押しすぎると嫌がってしまいます。リラックスさせられるような強さを意識して、心地よい刺激を提供してあげて下さい。
第3稿:2021年2月15日更新
第2稿:2020年11月20日更新
初稿:2020年10月9日公開
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