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あおば動物クリニック所属
犬は人間のように話すことができません。だからこそ、鳴き声から愛犬の気持ちを知りたいと考える方も多いでしょう。また、突然大きな声でワンワンと吠えたり、ワォーンと遠吠えしたり、ウーッと唸ったりと普段とは違う鳴き声のときは、とくに気になるのではないでしょうか。状況によっては近隣に迷惑をかけてしまうこともあるため、鳴き声が目立つ場合は適切なトレーニングも必要になってきます。
今回は、愛犬の気持ちをより理解するために、よくある犬の鳴き声の一覧とその裏に込められた意味について、あおば動物クリニックの牧村さゆり先生に詳しく解説していただきます。
目次
- 犬の鳴き声には必ず理由がある
- 犬の鳴き声1:大きな声でワンワン、キャンキャンと吠える理由は?
- 犬の鳴き声2:高い声でクゥーン、キューンと鳴く理由は?
- 犬の鳴き声3:ワォーン、クォーンと遠吠えする理由は?
- 犬の鳴き声4:ウーッ、ガルルルと低い声で唸る理由は?
- 犬の鳴き声5:キャンと突然鳴く理由は?
- 犬の鳴き声がうるさい理由と対処法
- 鳴き声が気になる犬のトレーニング方法
- 留守番中の犬の鳴き声への対処法
- まとめ
犬の鳴き声には必ず理由がある
犬が鳴くのは、いたって普通のことです。もともと犬は、牧畜や狩猟、そして防犯など、「人の役に立つため」に人間と生活するようになりました。吠える能力が高くなければ、求められる仕事ができません。つまり、犬はもともと、吠えることを能力として備え付けられた動物であり、犬が鳴くときは必ずその理由が隠れています。
犬の鳴き声1:大きな声でワンワン、キャンキャンと吠える理由は?
犬が「ワンワン」「キャンキャン」と大きな声で吠える理由は、「警戒しているとき」「興奮しているとき」「要求しているとき」の3種類があります。それぞれ具体的に紹介していきましょう。
警戒しているとき
愛犬がお散歩中に他の犬に吠えたり、自宅を訪れた見慣れない来訪者に対して「ワンワン」と吠えたりするのは、警戒心の表現です。自分のテリトリーに部外者が侵入してきたことや、相手や犬に対して単純に怖いと感じています。
よく玄関チャイムが鳴ると吠える犬がいますが、これはチャイムの音自体に驚いているのではありません。今までの生活で「チャイムが鳴る=見慣れない人が来る」と学習した結果、チャイムを合図に警戒体勢に入るようになったためです。
興奮しているとき
犬は、嬉しいことや楽しいことなど、ポジティブな出来事があって興奮したときに吠えます。お散歩や食事の準備をしていると、嬉しくて「ワンワン」と吠えている愛犬の姿をよく見る方も多いでしょう。愛犬が吠えていると思ったら玄関が開いて家族が帰ってきた、という経験をしたこともあるかもしれません。このように、犬は自分にとって嬉しいことが起きていると分かったときに、「ワンワン」と吠えることがあります。
要求しているとき
犬はケージから出してほしい、飼い主の食事の際に分けてほしいと、吠えるケースもあります。これはいわゆる要求の気持ちで、どこかで「吠えれば要求が通る」と学習してしまった結果と考えられます。とくに食事に関しては、「犬が欲しがっているから」と人間用の食べ物を分け与えてしまうのはNGです。体調不良や肥満の原因になりますので、絶対に避けてください。
犬の鳴き声2:高い声でクゥーン、キューンと鳴く理由は?
犬が高い声で「クゥーン」「キューン」と鳴くときは、「甘え、おねだり」「悲しさ、不安」などの感情を抱えていることがあります。それぞれ具体的に紹介していきましょう。
甘えたい、おねだりしたいとき
「クゥーン、クゥーン」や「キューン、キューン」というような鳴き声で飼い主に近寄ってくるときは、甘えたい気持ちやおねだりの感情でいっぱいのときです。例えば、遊んでほしい、撫でてほしい、ごはんがほしい、などの感情のとき、鳴いておねだりなどをしてきます。しかし、エスカレートしていくとワガママの領域に進んでしまう可能性があるため、そうならないように、気持ちは汲みつつもしっかりとルールを教えていく必要があります。
悲しさ、不安を感じているとき
「クーン」などとかすかに鳴くときは、悲しさや不安を感じている可能性があります。鳴きながら震えていたりする場合は、恐怖心の表われです。このようなときは、その気持ちの元となっている原因について、思いつく限りリストにあげて、可能性の高い物から解決していく必要があります。恐怖の対象を取り除いてあげることは、犬が飼い主を信頼する大きなきっかけにもなります。
犬の鳴き声3:ワォーン、クォーンと遠吠えする理由は?
「ワォーン」「クォーン」という犬の遠吠えは、遠く離れたところにいる仲間とのコミュニケーションを取るためや、本能的な意味合いで吠えている場合があります。
コミュニケーションの手段
遠吠えには、オオカミ時代の名残として、遠くにいる仲間との連絡手段として行っていることがあります。飼い主を仲間に近いものと考え、留守中に寂しさから飼い主に向けて遠吠えする犬もいるようです。
他に、救急車などのサイレンに反応して遠吠えする場合もあります。これは一説によると、サイレンの音が他の犬の遠吠えのように聞こえていることが理由だといわれています。このように、遠吠えは犬の本能的な意味合いから行っていると考えられている行動です。
認知症の場合
高齢になって認知障害が現れている犬でも遠吠えすることがあります。睡眠パターンが変化して昼間に寝てしまい、夜中に起きてきて吠え続けることが認知障害の症状の1つです。
認知障害にはほかにも、同じところをぐるぐる回る、すぐに忘れてしまう、トイレができなくなってしまうなどの症状が見られます。犬は9歳を越えると認知症のリスクが高まるといわれていますので、他にも認知障害のサインがないか注意深く見守ってみてください。
犬の鳴き声4:ウーッ、ガルルルと低い声で唸る理由は?
犬が唸るという行為は、威嚇とともに攻撃性のあらわれです。「ウーッ」や「ガルルル」という感じの声が出ます。このような唸り声と一緒に低いトーンで連続して「ワンワン」と吠えるときは、攻撃的な気持ちが強く、いわゆる臨戦態勢なので注意が必要です。
犬の鳴き声5:キャンと突然鳴く理由は?
犬が「キャン」と鳴くときは、体のどこかに痛みを感じていることが多いです。突発的にしっぽや足を踏まれたというようなときもあれば、病的な要因からくる痛みで「キャン」と何度も鳴くケースもあります。明らかな原因が思い当たらないのに頻繁に鳴くようになったときは病気やケガの可能性があるので、早めに病院へ連れて行ってあげましょう。
他には、他の犬への降参という意思表示や、助けてほしいという気持ちの表現でキャンと鳴くこともあります。
犬の鳴き声がうるさい理由と対処法
犬が鳴く原因により、適切な対処方法が変わってきます。それぞれ具体的にご紹介します。
警戒心や恐怖、不安から鳴いている場合は原因から遠ざかる
犬が警戒心や恐怖、不安から鳴いている場合は、その原因を取り除く、もしくは遠ざける・気持ちをそらすなどの対処が大切になります。お散歩中に他の犬が見えたら、行く方向を変えてみる、おやつやおもちゃを使って飼い主の方へ興味を向ける。来訪者の予定が決まっているのであれば、離れた部屋で落ち着いて過ごせるように配慮してあげましょう。サイレンなどの音に反応する場合は、部屋の防音を考えてあげるのもひとつの手段です。
寂しさから鳴いている場合はスキンシップを取る
寂しさから、犬が鼻を鳴らす、遠吠えなどをしているのであれば、普段からスキンシップをしっかり取るようにして、安心感を与える必要があるでしょう。また遠吠えを始めたら声をかけて、飼い主に気を向けるようにすると、吠えることを止める犬も少なくありません。
要求や甘え、ワガママから鳴いている場合はトレーニングをする
これらの場合は、忍耐強いトレーニングが必要です。ケージから出たくて鳴き始めても、すぐにはケージから出さないように心がけましょう。「待て」「お座り」という号令の声かけを行い、飼い主の指示に従うことで、そのご褒美として出してもらえるというルールを学習できます。鳴いたからといって、自分の要求は通らないと学ばせていくことが大切です。従ったら、しっかりと褒めてあげてください。
認知症が原因の場合は動物病院に相談
問題なのは犬が認知症の場合です。しつけることで鳴かなくなるというものではありません。ただ認知症と一括りにしても、病気などの痛みで鳴いている場合もあります。痛みがあるのであれば、治療が優先されます。その場合、まずは獣医師に相談し適切な治療を始めましょう。また老化への対応は長期間必要になります。飼い主をサポートしてくれるような訪問介護や在宅サポートなどに加えて、デイサービスやお預かりなどを実施している老犬ホームなどを検討するのもひとつの手段です。
認知症と診断されたとしても、視覚や聴覚の衰えで飼い主を身近に感じられず寂しさで鳴いていることもよくあります。犬の状態の変化をこまめに観察し、飼い主としてしっかりとスキンシップを取っていくと良いですね。
体力が余っている場合は散歩や室内遊びをする
体力が余っているときには、犬が問題行動を起こすことがあります。吠えるだけでなく、落ち着きなくうろうろと動き回ったり、物を壊したりするなどがよくある問題行動のパターンです。また、散歩に行きたいなどの要求として吠える場合と同じように、退屈した犬は刺激が不足しているために吠えることもよくあります。この場合の吠え声は通常繰り返され、単調なリズムと抑揚の少ない吠え方で断続的に続きます。
鳴き声が気になる犬のトレーニング方法
子犬のうちにしっかりとトレーニングを身につけると、愛犬の鳴き声が気になりにくくなります。今回は、散歩中に役立つ社会化トレーニングと、室内で過ごすときに役立つクレートトレーニングの方法を紹介します。
散歩中に吠える犬には「社会化トレーニング」
散歩中、他の犬や車、歩行者などが刺激になって吠えてしまう場合は、1歳を迎えるまでを目安に社会化トレーニングを行いましょう。
社会化トレーニングでは、まず室内で掃除機やドライヤーなどの音や動きがあるものに慣れさせていきます。「お座り」「待て」などの指示をして、吠えるのを我慢できたらおやつ(トリーツ)を与えてみてください。室内でのトレーニングが身についてきたら、散歩中にも同じ方法でトレーニングをしましょう。
子犬期であれば比較的社会化を進めやすいですが、ある程度年齢を重ねている場合はドッグトレーナーを頼るのもおすすめです。成犬の場合は時間がかかる前提で、あきらめずにトレーニングに取り組む辛抱強さが必要です。
室内で吠える犬には「クレートトレーニング」
玄関のチャイムや窓から見える車などに吠えてしまう場合は、クレートトレーニングが効果的です。
クレートトレーニングではその名の通り、犬が落ち着ける場所クレートやサークルを設置します。「ハウス」と指示を行い入るよう誘導し、自ら入ったらおやつを与えて褒めてください。クレートトレーニングに使うおやつは、ガムのように犬が集中しやすいものを選ぶと効果的です。
クレートトレーニングが身につくと、ペットホテルや動物病院にも預けやすくなります。お留守番が苦痛になると飼い主にとっても犬にとっても大変ですので、早めにトレーニングしておきましょう。
留守番中の犬の鳴き声への対処法
留守番中など、飼い主の目が届かないタイミングで犬が吠えていることもあります。マンションなどの集合住宅に住んでいる場合は思わぬトラブルに巻き込まれる可能性もあるので注意してください。
留守番中の鳴き声が近所迷惑になることも
留守番中に退屈した犬が吠える場合、飼い主が対処できないので数時間続くことがあります。それによって、ご近所から苦情がきてしまうことも。迷惑問題から飼育放棄へと発展することがあり、予防や早期の対策が必要です。
また、飼い主の留守中に分離不安から吠え続けてしまうケースもあります。飼い主との分離が犬に強い不安を与えることが原因です。分離不安はそのままにしておくと進行して、家から脱出しようとして怪我を負う、飼い主が帰宅しても食欲不振が続く、嘔吐や下痢が起こるなどの心身への悪影響を生じます。
ほかにも、高齢になると高齢性認知機能低下のために吠えが見られることがあります。とくに夜になったら鳴き始める「夜鳴き」が飼い主を苦しめますが、留守番中に吠えていることもあります。吠えすぎることで脱水したり、心臓に負担をかけたりと高齢動物の体に影響が出る可能性もあります。
留守番中に犬が吠えるのを防ぐには
まず、留守番のときにだけ吠えているか否かの確認が必要です。ペットカメラを利用して愛犬の留守中の行動をチェックしてみましょう。留守番のときに吠えている状況から原因を推定し、分離不安や高齢性認知機能低下が疑われる場合はすぐに獣医師に相談しましょう。留守番をさせる前に以下のような対策をすることもおすすめです。
・留守番させる前に運動させる
留守番させる前に充分な運動を提供することは、犬の退屈を防ぐのに役立ちます。朝に充分な運動をさせると(犬が帰宅後に水を飲んで、ベッドに直行し横たわるくらい)、日中に昼寝をして過ごす可能性が高くなります。散歩に充分行けなかった日は、持ってこいや宝探しゲーム、引っ張りっこおもちゃで遊ぶ、庭の周りでサッカーボールを追いかけるゲームなどをするのが良いでしょう。短いクリッカーなどを用いた号令とご褒美がセットになったトレーニングセッションは、犬の脳を使いながら肉体的に余剰なエネルギーを燃焼させることができて効果的です。
運動だけでなく、犬の脳にもリフレッシュが必要です。ごはんをあげるお皿を仕掛けおもちゃにしたり、散歩コースをもっと起伏の激しいルートに変更したりしてみることを試してみてください。留守番中もおやつを詰めた仕掛けおもちゃか、噛めるおもちゃのなど複数のものをクレートやケージ内で遊べる状態にしておきましょう。
・ひとりでも落ち着けるスペースを用意する
ひとりにしたときに落ち着ける、安全なスペースを準備しておくことも必要です。クレートやケージは犬を安心させ眠りに誘うため、犬の退屈な吠えを防ぐのに役立ちますが、ひとりで家にいる間に物を破壊したり、逃走しようとしたりした犬が危険な状況に陥るのを防ぐことにも役立ちます。なので、ケージの中にクレートをセットするのがおすすめです。クレートは屋根付きの体にフィットするサイズの物の方が、より犬にとって落ち着く空間になります。ケージ内にはトイレと水も忘れずに用意しておきましょう。
まとめ
犬は鳴き声で飼い主に「遊んで」「構って」とおねだりすることもあれば、不安や警戒心、恐怖、痛みなどマイナスな感情を伝えることもあります。犬を安心させるためにも、鳴き声を聞き分けて気持ちを汲み取って、適切に対処しましょう。また、鳴き声の大きさやムダ吠えが気になる場合は、トレーニングで改善することも可能です。近隣の理解を得ながら犬と一緒に長く暮らすためにも、子犬のうちからトレーニングに取り組んでいきましょう。
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