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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
人間同様に犬も年齢を重ねると体のあちこちにトラブルが出てくるようになります。その病気のひとつとして、「椎間板ヘルニア」と呼ばれるものがあります。犬は他の動物よりも椎間板ヘルニアになりやすいと言われています。飼い主さんのなかには、ヘルニアという言葉は聞いたことがあるけれど、「犬もなるの?」と驚かれた人もいるのでは。今回はchicoどうぶつ診療所所長の林美彩先生に教えてもらった犬の椎間板ヘルニアについて解説していきます。
目次
- そもそも犬の椎間板ヘルニアとは?
- 犬は椎間板ヘルニアになりやすい?
- 椎間板ヘルニアになりやすい年齢や犬種はあるの?
- 犬が椎間板ヘルニアに! どのような症状・見極めるポイントは?
- 犬が椎間板ヘルニアになった場合、散歩はどうするの?
- 犬が椎間板ヘルニアになった場合、普段の生活で気をつけることは?
- 愛犬が椎間板ヘルニアになっているかもと思った時、動物病院に行くべき見極めのポイントは?
- 犬が椎間板ヘルニアになった場合、どのような治療をするの?
- 犬が椎間板ヘルニアにならないようにする予防法は?
そもそも犬の椎間板ヘルニアとは?
椎間板ヘルニアは人に起こる症状として有名ですが、犬にも起こりえます。どのようにして起こるのか、紹介していきます。
犬の椎間板ヘルニアとは?
椎間板というのは背骨同士をつないでいるゼリー状の組織です。さらに、椎間板を詳しく観察するとゼリー状の部分を線維輪という組織が取り囲んでいます。椎間板があることで骨と骨の間でクッションのような役割を果たし、背骨にかかる衝撃を吸収してくれるのです。犬の椎間板ヘルニアとは何らかの原因でこの組織が逸脱し、背骨の中の神経である脊髄を圧迫してしまうことで生じる病気なのです。犬が椎間板ヘルニアを発症すると脊髄が衝撃を受けるため、背中などの痛みといった神経症状が見られるようになります。
犬の椎間板ヘルニアには種類がある
ひとくちに犬の椎間板ヘルニアといっても種類があり、ハンセン1型とハンセン2型に分けられています。
ハンセン1型は、椎間板の髄核(ずいかく)が逸脱し、脊髄を圧迫してしまうタイプを指します。ハンセン1型は、若い年齢のうちから椎間板の変性を起こす犬種もいて、急に発生する場合があります。特に軟骨異栄養症(なんこついえいようしょう)という遺伝を持っている犬種は、ハンセン1型になりやすいと言われています。軟骨異栄養症とは、軟骨が通常通り形成されないことにより骨の発育が悪くなり、骨が短くなってしまう病気です。
一方ハンセン2型については椎間板が変性し、厚みを持った線維輪が脊髄を圧迫してしまうものです。成犬から老犬(シニア犬)に多く見られるタイプの症状で、慢性的に経過していくヘルニアと言われています。
犬は椎間板ヘルニアになりやすい?
犬は個体差もありますが、他の動物に比べ椎間板ヘルニアになりやすいと言われています。理由としては前述のように犬種による遺伝や生活習慣が背景にあるためと考えられています。詳細についてご紹介していきます。
遺伝のため
遺伝については軟骨異栄養症を起こすやすいと言われる犬種(軟骨異栄養性犬種)が、遺伝的に椎間板ヘルニアを起こしやすいと言われています。これらの犬種は骨格がつくられる際、通常ならば大きく伸びるはずの骨が障害によって伸びなくなってしまうのです。また、遺伝によって顔が丸っこくなってしまいます。こうした遺伝的なものが関係し、若年で椎間板が痛みはじめ徐々に椎間板ヘルニアへ移行してしまう傾向にあるのです。
軟骨異栄養症の遺伝を持つ犬種は、具体的には胴長短足の犬でダックスやコーギーなどが当てはまります。
生活習慣のため
遺伝以外においては犬の生活習慣が原因とされています。生活習慣によって肥満となり、他の関節をかばうために腰に負担がかかっている場合があります。他にも冷えなどの影響により、血流が滞り筋肉が凝り固まってしまうことからヘルニアに至るという場合もあります。特に犬は部屋の中で生活することも多く、人工的に作られた環境で過ごすことも多いため、他の動物よりも椎間板ヘルニアになりやすいとも考えられています。
椎間板ヘルニアになりやすい年齢や犬種はあるの?
椎間板ヘルニアになりやすい犬種は前述の通り胴長短足の犬です。具体的には以下のような犬種です。
<椎間板ヘルニアになりやすい犬種>
・チワワ
・ダックスフンド
・ヨークシャー・テリア
・ビーグル
・コーギー
・バセット・ハウンド
・シー・ズー
・フレンチ・ブルドッグ
など
以上の犬種は遺伝によって椎間板ヘルニアを発症する確率が高くなり、その場合2才前後で椎間板に傷みが見られ、3才頃に線維輪が硬くなり、衝撃によってひびが入ることで髄核が飛び出してしまい椎間板ヘルニアを発症すると言われています。
また遺伝だけではなく老化することでも、椎間板ヘルニアを発症する確率は高くなるので、年齢に関係なく愛犬に異変がないか確認しておきましょう。
犬が椎間板ヘルニアに! どのような症状・見極めるポイントは?
犬の椎間板ヘルニアは、大まかに5つのグレードに分けて症状が進んでいきます。そのグレードごとに症状・見極めるポイントについて、軽傷のグレード1から順にご紹介します。
グレード1
犬の椎間板ヘルニアのグレード1においては、階段などの段差の昇り降りが苦手になってきます。この段階では脊髄が圧迫されて痛みを感じている状態です。飼い主さんが愛犬を抱きかかえると、愛犬は背中や背骨、首や腰を急激に動かすようになります。そのため、愛犬が嫌がるような姿勢を見せるようになった時は注意が必要です。特に鳴き声を発する場合は痛みがあることが予想されます。
グレード2
さらに、犬の椎間板ヘルニアの症状が進行しグレード2の段階になると、後肢に軽いまひが見られるようになり、感覚が徐々になくなっていきます。そのため、ふらつきながら歩くことも考えられます。
グレード3
さらに、犬の後肢のまひが進行するとグレード3の状態になり、犬は自分で後肢を動かすことが困難になってしまいます。後肢の感覚がなくなってしまうため、移動の際も前肢だけで動くようになります。
グレード4
グレード4の段階になると犬が自力でおしっこすること(自力排尿)が難しくなります。ヘルニアが悪化してしまうとこの自力排尿が困難になり、飼い主の手によって犬の膀胱部分を圧迫させる圧迫排尿が必要となります。また、おしっこが出る状態でも自分でコントロールができず、垂れ流しの状態になってしまうケースもあります。
グレード5
グレード5に進むと、後肢の深部痛覚がなくなってしまいます。深部痛覚とは、骨など体の表面から離れた部分に痛みを感じる感覚のことです。この状態になると、鉗子などの器具を使い強めに後肢を挟んでも、痛みや反応が見られなくなり、いわゆる痛覚がない状態になってしまいます。
これらの状態を見極めるには、日頃から愛犬の様子に変化がないかを注意深く観察することが大切です。急に散歩を嫌がるような様子を見せたり、歩行に異常があったりという場合は、愛犬の体の異変を疑ってみて下さい。
犬が椎間板ヘルニアになった場合、散歩はどうするの?
椎間板ヘルニアを患った場合、症状のグレードに応じて散歩を行いましょう。
グレード1の場合は軽い散歩を
グレード1の状態ではいつもより軽い散歩を意識する程度でいいでしょう。極端に走りまわったりジャンプをしたりといったことをしなければ体に支障はありません。
グレード2の場合は外での散歩を控えよう
グレード2まで症状が進んでいる場合は外での散歩は控えるようにしましょう。基本はお家の中での活動になりますが、のんびり体を動かすことを意識して過ごしましょう。その際、階段の昇り降りやボール遊びといった遊びは避けて下さい。
犬が椎間板ヘルニアになった場合、普段の生活で気をつけることは?
散歩以外でも椎間板ヘルニアの犬にとっては、日常の中で注意する点がいくつかあります。
階段やソファーなどの段差に注意
まずは階段やソファーです。元気な時は階段やソファーに飛び乗っていたかもしれませんが、椎間板ヘルニアになるとそういったことが難しくなります。飛び乗れるような場所は、体に負担がかかる危険な場所になってしまうので、段差がある場所の昇り降りは控えるように対策や注意を払ってあげることが大切です。
床やフローリングなどの滑りやすいものに注意
普段生活している床やフローリングにも注意が必要です。特に滑りやすい材質が使用されている場合は、とても危険です。歩行の負担を少しでも軽減し、危険を避けるためにも、滑り止めのマットなどを敷いてあげてください。
肉球間の毛をカットしよう
室内環境以外にも、犬自身のケアについても目を向けましょう。肉球間の毛が伸びてしまっている場合は、グリップが効かなくなってしまいます。そのため、室内で犬が滑ってしまう可能性があるので、滑り止めの床の設置だけでなくこまめな毛のカットも心がけて下さい。
肥満に気をつけよう
椎間板ヘルニアの要因には肥満も挙げられます。安静にしていても同じ食事を続けていればさらに体重が増え、体や腰に負担がかかってしまいます。そのため、肥満が原因となっている場合は少しずつダイエットをさせていくことが大切です。1か月に体重の2~3%程度減少できることを目標に、体質改善に取り組んでいきましょう。
愛犬が椎間板ヘルニアになっているかもと思った時、動物病院に行くべき見極めのポイントは?
普段のお散歩を嫌がる、抱きかかえたときにキャンと鳴いたりする、ソファに飛び乗らなくなったなどは、ひとつの指標なので注意深く観察しましょう。また、犬が椎間板ヘルニアになると、まひしている脚は感覚がありません。そのため、当然飼い主さんが脚を触っても痛がることはありませんが、背中などの患部を触ると、痛がるような反応をみせるので、疑わしい状況があればすぐに動物病院を受診しましょう。
そして、異変を感じたらその様子を注意深く観察することが大切です。動物病院に行く場合は、獣医師に愛犬の様子を詳細に説明することが大切です。普段の行動とはどのような点に違いが見られるのか、その様子を細かくメモして記録しておきましょう。特にその症状が見られる前と後での行動の違いは、診断時の材料にもなるので、しっかりと記録しておくことが大切です。メモ以外の方法では、スマホなどで動画を撮影することも有効でしょう。
犬が椎間板ヘルニアになった場合、どのような治療をするの?
犬の椎間板ヘルニアの治療は、症状により内科的治療と外科的治療を行います。治療の種類ごとに説明します。
内科的治療とは?
内科的治療については、鎮痛剤や炎症止めなどの注射、投薬などの治療となります。また鍼治療やレーザー治療などを行う場合もあります。逸脱してしまった椎間板が安定するまでは、安静にする期間が必要です。
外科的治療とは?
外科的治療になると手術を行います。特に症状のグレードが上がってしまった犬の場合は外科治療が検討されます。手術では原因となる逸脱した椎間板の物質を摘出するため、CTやMRIなどを使ってヘルニアになっている場所を特定してから手術を行います。手術が終わった後はリハビリを行うことになります。
他にも、自宅療法においては投薬治療の他に、炎症が落ちついた段階でマッサージや温灸を行うこともあります。温灸は温灸器以外に小豆カイロなどを使用して温めることも可能です。いずれにしても獣医師の指示に従い行うようにしましょう。
犬が椎間板ヘルニアにならないようにする予防法は?
犬の椎間板ヘルニアの予防で大切なのは、遺伝的なものを除けば犬の生活習慣の管理です。特にエサを与え過ぎている、運動をあまりさせていないという場合は、肥満のリスクが高まります。犬の適正体重を知り、太り過ぎを避けることが大切です。
他にも、しつけやこまめなケアにも目を向けましょう。滑りやすいフローリングなどでは走らせないように対策する、足の裏の毛は定期的に刈ってあげるようにしましょう。また縦抱っこや仰向けに抱くといった無理な姿勢を取らせないことも重要です。健康状態のチェックは日頃のコミュニケーションの中でも行うことができます。マッサージで犬の体の巡りを整えたり、筋肉のコリをほぐしてあげたりすることで、犬の健康を気遣ってあげましょう。
第2稿:2020年11月20日更新
初稿:2020年9月2日公開
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。