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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
子犬を家に迎えることになったら、まず知っておきたいのが「社会化期」についてです。生後3~12週間頃に当たる社会化期は、体験することに順応しやすい時期。また、子犬が人間社会でより楽しく暮らすための術を身に付けるのにとても重要な時期とも言えます。この記事では、子犬に社会化期が必要な理由や、社会化期にしておきたいことなどを動物行動学を研究する獣医師の茂木千恵先生監修のもと、詳しく解説していきます。
目次
- 子犬の社会化期とは?
- 子犬に社会化が必要な理由とは?
- 子犬の社会化期にしておきたいことは?
- 子犬が充実した社会化期を過ごすために飼い主が気をつけることは?
- 子犬の社会化期に取り入れたいしつけは?
- 子犬の社会化期におすすめの遊びは?
子犬の社会化期とは?
生後3〜12週間までの時期を「社会化期」と呼びます。社会化期は、子犬が飼い主や他の動物との適切な関わり方を学習するための大切な期間です。ただし、社会化の期間は厳密なものではなく、犬種や個体によって差があります。例えば、洋犬よりは和犬の方が社会化期は早く終了すると考えられているそうです。また、大型犬は比較的社会化期が長く、16週間くらいまで続くことがあるでしょう。
子犬に社会化が必要な理由とは?
社会化期は子犬のメンタル面やストレス耐性に大きな影響を与えます。この時期に刺激を受けたり、他の犬や飼い主以外の人とコミュニュケーションを取ることで、その後柔軟な価値判断ができるようになるのです。また、社会化期の子犬は、感覚機能や運動機能が飛躍的に発達します。そのため、さまざまな刺激によって行動のレパートリーがグンと増えるでしょう。さらに、社会化期の子犬は警戒心よりも好奇心が勝るため、刺激を肯定的に受け取ることができます。そのため、先住犬や他の家族とも友好的な関係が築きやすくなります。しかし、子犬は12週をすぎた頃から、目新しい物へ恐怖心を抱くようになります。社会化期に周囲の仲間とのふれあいが少ないと、コミュニケーション能力が正常に発達せず、トラブルが生じることがあるでしょう。適切な社会化期を過ごさなかった犬は、具体的には以下のような行動を取ることが考えられます。
適切な社会化期を過ごさないとどうなる?
やたらと吠えるようになる
犬が吠えるのは「相手に要求がある」、あるいは「相手を遠ざけたい」という意志表示。ですが、子犬が吠えすぎた時に適切に母犬や周囲の人から吠えることを抑制されないと、子犬は自らの吠え声を聞いてさらに興奮し、吠えを自分ではなかなか止められなくなってしまいます。
怖がりになる
子犬の場合、社会化期に仲間から刺激を受けることが少ないまま、社会化期後半の8週間以降になると、脳のストレス反応を調節する能力が、刺激をたくさん受けて育ってきた子犬と異なると考えられています。すると、些細な状況の変化に対しても極端に、または常に、不安行動を示すようになることもあるでしょう。
子犬の社会化期にしておきたいことは?
大切な時期を充実して過ごすために、子犬の社会化期にしておきたいことは以下の通りです。
人に慣れさせる
離れて暮らす親戚や友人、家族など子犬が定期的に会わないであろう人々をはじめ、男性・女性・子ども・高齢者など、さまざまなタイプの人と触れ合う機会を作るようにしましょう。例えば、家に子どもがいない場合は、子どもと定期的に遊ぶ機会を作ることで、成長後に子どもと出会っても落ち着いていられるようになります。
いままで会わせたことのない人に子犬を紹介するときは、お気に入りのおもちゃやおやつなど、子犬にご褒美を与えてもらってみてください。そうすることで、子犬はその人自身や知らない人が伸ばした手をポジティブなものとして学ぶでしょう。また、子犬が「おすわり」を学んだ後は、その人にも「おすわり」と号令を出してもらい、子犬にご褒美を与えるのも、良い経験になります。このような関わりによって子犬は家族以外への適切な挨拶の仕方を学び、人に飛びついたりすることを抑えられるでしょう。
家の中や外の環境に慣れさせる
掃除機、ドライヤー、テレビの音、ピアノやサイレンの音、車、バイク、電車などの環境音に対し、聴覚が優れている犬は過敏に反応しやすいです。しかし、社会化期の子犬はこのような音も肯定的に受け取ることができます。社会化期に様々な音を繰り返し聞かせて、怖がらずに過ごしていることを褒めましょう。この積み重ねで、子犬が成長後に音を聞いたときに過度の恐怖を示さずに過ごせるようになるでしょう。たまにしか聞こえないからこそ大きな恐怖となりうる花火や雷の音も、音源などで聞かせて体験させておくといいですね。
さまざまなものに慣れさせる
ブラッシングブラシ、歯ブラシ、ハウス、首輪、リード、ケージ、サークルなど、犬の暮らしを衛生的で安全に過ごすために必要なケアアイテムに慣れさせておきましょう。ケアは子犬にとっては楽しいことではない場合が多いですが、子犬の健康のためにもやらないわけにはいきません。だからこそ、物事への肯定的な反応が期待できる社会化期に始めることが重要です。ケアは、ほんの数秒間体験させるだけのステップから始めると、嫌悪感を抱かせずにスタートできるでしょう。また、子犬にとっては、広いリビングはかえって落ち着けないこともあるため、クレートなどの狭くて静かな空間を用意して、その中で安心して過ごせるよう仕向けることも重要です。
他の犬と遊ばせる
社会化期の子犬にとって、母犬や兄弟犬以外の犬との出会いも大事です。なぜなら、犬はもともと群れで暮らす習性があり、散歩に出て他の犬と出会ったり遊んだりすることが心身のリフレッシュになるためです。他の犬との関わり方を身につけずに成長すると、見知らぬ犬と出会う散歩がストレスとなってしまう可能性があるでしょう。
トイレやハウスの認知
犬には「お気に入りのパーソナルスペースを汚さないために、決まった場所に排泄したい」という習性があります。これを利用して、子犬を家に迎えたら、すぐにトイレの場所を教えるレッスンを始めましょう。ハウスは、屋根があって側面は壁のようになり、出入り口があるものを子犬も成犬も好みます。薄暗くて暖かくて静かな場所、まるでほら穴のような形状が好ましいです。生活動線から外れた室内に設置することで、自分にとって安心できる「パーソナルスペース」としての認識が進みやすいでしょう。
体や口を触れられることに慣れさせる
歯磨きやブラッシングなど、犬の体や口を飼い主が触ることも健康管理のためには欠かせません。社会化期にそうした場所を触られることに慣れさせておけば、その後のケアがスムーズに受け入れられるようになります。
簡単なしつけを始める
ハウストレーニング、トイレトレーニングのほか、簡単な号令も学習させると毎日の犬の行動管理に役立ちます。「おいで」「待て」「伏せ」あたりは、社会化期にはレッスンを始めたいですね。理由としては、社会化期が終わると一時的に恐怖心が高まり、飼い主からの号令への反応が低下することが考えられるためです。
車に乗せるトレーニング
子犬の体格や性格によっては、車酔いをしたり、外の犬に向かって車内から吠えたりすることも。これでは、飼い主が犬を連れて車で出かけることをためらう原因になってしまいかねません。初めて車に乗せるときはエンジンを切ったままで乗せて第一印象を良くすると、トレーニングを順調に進めやすいですよ。
子犬が充実した社会化期を過ごすために飼い主が気をつけることは?
いろいろなことを経験させたい社会化期に、飼い主が気をつけるべきことは以下の通りです。
無理強いをしない
子犬が嫌がる状況を無理強いすることは飼い主への印象を悪くしてしまい、不信感を抱かせる原因ともなります。そのため、自発的に行動するように環境を整えたり、積極的に声掛けをしたりするのが良いでしょう。
大声で怒ったり、叩いたりしない
大声での叱責は恐怖を、体罰は身体的ストレスを子犬に感じさせます。また、子犬は自己防衛のために攻撃的になる場合も。短時間で子犬に大きな恐怖を感じさせてしまう可能性があるため、絶対に止めましょう。
遊びながら信頼関係を築く
子犬にとって、飼い主と関わる時間が楽しいと感じる雰囲気作りが重要です。「楽しいことが飼い主によってもたらされる」と学習すれば信頼感が育ちます。そのためには、飼い主自身が「犬と関わる時間は楽しい」と感じることが第一です。犬は、言葉は理解できなくとも、飼い主の心情は声のトーンやわずかな仕草、吐く息に含まれる匂い物質などから感じ取れると考えられているからです。
子犬の性格や体調に合わせる
子犬の性格は犬種や成育環境によって変わります。同じように刺激を受けても、喜ぶか、怖がるかは犬によって違うでしょう。また、性格だけでなく、空腹や痛み、恐怖を感じているとき、あるいは満足しているときなど、体調や環境によって反応は変化します。飼い主への興味が高まっているときに関わり、静かに寝ているときは休息を与えるようにしてください。
散歩デビューはワクチンプログラムの終了後に
子犬は生後すぐに母犬の初乳(産後すぐに作られる母乳)を飲むことで、母犬から感染症への抗体をもらい受けます。しかし、この抗体は生後2~3か月ほどで消失するため、生後3か月を過ぎると感染症にかかる危険性も考えられるでしょう。ワクチンプログラムとは、子犬が罹患すると重症化する恐れのある感染症に対し、十分な免疫力を付けるためのワクチン接種スケジュールです。子犬はとくに免疫力が弱いので、ワクチンプログラム完了前に散歩に連れ出して外を歩かせることは避けましょう。ただし、地面におろさない状態などであれば外出も可能です。屋外の音やものに慣らすためにも、抱っこなどをして出かけるのをおすすめします。
子犬の社会化期に取り入れたいしつけは?
社会化期は、しつけやトレーニングをするのにも良い時期です。どのようなしつけをするとよいか、具体的な方法を見ていきましょう。
トイレトレーニング
子犬が家に来たその日からトイレトレーニングを始めましょう。排泄をしても良い場所を覚えてもらうために、時間を決めてトイレ場所に連れて行ってください。排泄できるまで留まれるようサークルで囲うことで、失敗せずにトイレの場所を学習できます。
ハウストレーニング
ハウスは子犬にとっては「安全地帯」として愛着を持たせることができます。クレートのように狭くて暗くて静かな場所に身を横たえられることで、子犬は落ち着くでしょう。入っていたら落ち着けると感じられれば、そのハウスにすぐに愛着を持つようになりますよ。まずはフードをハウス内で与えるようにして、全身がハウス内に入っているときにご褒美を与えてください。
簡単なコマンド
子犬は好奇心が強く、探索したりかじったり、飼い主にとって不快な行動をとることも。それを止めさせるために役立つのがコマンドです。叱責して恐怖を抱かせるのではなく、「おすわり」「ふせ」「待て」など別の行動を号令で促せば、飼い主への不信感も抱かせずに対処することができます。
日常のケアに慣らすトレーニング
触れられることを受け入れられるようにすることが目標です。号令で動きを止めさせてケアをし、すぐに褒めてあげましょう。すると、子犬は「号令を聞いていたら褒められた」と喜び、日常ケアもポジティブに受け入れられるようになります。
散歩の練習
ワクチンプログラム完了を待って外出する、となると社会化期が終わってしまっています。そこで、社会化期のうちに屋外を抱っこして歩き回るようにし、外の環境が安全だと認識させましょう。散歩時に使う首輪やリードなどは自宅でつけておいて道具に慣らすことができます。自宅では、飼い主と歩幅を合わせて歩く練習をしておくと、外で初めて歩くときにも役立つでしょう。
以上のしつけやトレーニングを行う際に、子犬がパニックになっているように見える場合は、トレーニングなどの進度を少し戻してやり直してください。その際は、犬が何を怖がっているのか見極め、「絶対に好き」と言えるご褒美を使って、犬が状況をポジティブに受け取れるようにしてあげましょう。
パピークラスに通うのも選択肢に
パピークラスとは、生後8~16週間ごろまでの子犬を対象に、飼い主と一緒にさまざまなプログラムに参加する形式の教室です。感染症リスクの低い安全な環境で他の参加者や子犬とコミュニケションが取れるため、子犬の社会化を促すとても良い機会となります。また、参加者同士の交流もパピークラスに通うひとつのメリットです。近い月齢の子犬を育てる者同士で、同じような悩みを共有できたり、試してみた対応策の感想を教えあったりできることは、子犬育ての孤独感を解消してくれることでしょう。最近ではパピークラスの次にジュニアクラスを設定している施設も増えています。子犬の社会的交流継続のために定期的に通うのがおすすめですよ。
子犬の社会化期におすすめの遊びは?
好奇心旺盛な社会化期の子犬にぴったりの遊びは以下の通りです。
もってこい遊び
もってこい遊びは運動欲求や狩猟欲求が満たされるのでおすすめです。特にテリアやレトリーバーなどの狩猟犬をルーツに持つ犬なら、狩りの模倣になるため喜ぶことでしょう。運動欲求を満たすことは飼い主との時間を楽しくするのはもちろん、子犬の問題行動の予防となります。
引っ張りっこ
引っ張りっこは、犬自身の衝動をコントロールする能力を高めて、自信をつけさせ、犬と飼い主の絆を強めることができます。余分なエネルギーを燃焼させ、犬を肉体的かつ精神的にもリフレッシュさせることができます。また、犬の習性に合った遊びのため、ご褒美としても使えますよ。遊び方としては、1回10~15秒ほどで、興奮させない程度で止めましょう。この遊びの前に子犬には「放して」または「落として」というくわえた物を口から離す号令を習得させておくとスムーズです。
おもちゃでのひとり遊び
留守番を落ち着いてできないと、子犬にとってストレスとなるとともに、飼い主の負担も大きくなります。そのため、ひとりでいることを楽しむ方法を子犬に教えることも大切です。おすすめは、コングなどの食べ物を詰められるおもちゃ。ただし、ひとり遊びの際に与えるおもちゃやおやつは必ず安全と確信できるものを与えましょう。小さな物は窒息の危険がありますし、噛んだら壊れてしまうものは、破片を飲み込んでしまうと、消化管の損傷や閉塞などを引き起こす恐れも。また、新しいおもちゃを与えたときは必ず目を離さないようにし、壊してしまわないか、危険な遊び方をしないかなど、子犬の様子を観察するようにしてください。