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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
愛犬が前足を片方だけ浮かせる仕草をする、足をかばうようにケンケン歩きをする、でも痛くないみたい……。たとえ痛くないように見えたとしても、そうした仕草が続けばケガや病気じゃないか心配になりますよね。犬が片足を上に浮かせる原因には、さまざまなことが考えられます。愛犬がどの症状に当てはまるのか見極めて、適切に対処していきましょう。
目次
- 犬が足を浮かせるのはなぜ? 症状と原因
- こんなケースは要注意、速やかに動物病院へ
- 愛犬が足を上げる、ケンケン歩き。痛がらないなら、もしかしたら仮病かも!?
- まとめ
犬が足を浮かせるのはなぜ? 症状と原因
愛犬が歩いているときに、片方の足をかばうように歩いたり、止まっているときに片方の足を床や地面につけずに上げたままにしていたりしたら、次に紹介する症状から原因を探り、適切に対応しましょう。
犬が足を浮かせる症状。次のことを確認して
愛犬の様子をよく観察して次のことを確認しましょう。
- いつも足を痛がっているかどうか、触ると痛がったり嫌がったりしないか
- 上げる足を頻繁に舐めていないか。足裏にトゲが刺さっていたり、異物が挟まったりしていないか
- 上げる足に、出血や腫れがないか
- いつから、どんなときに足を上げたり、片足で歩くようになったりしたか
- 歩けるか、歩き方はおかしくないか、いつもとどのように歩き方が違うか
歩き方が変!? 足を浮かせて歩く? 足を引きずって歩く?
犬の歩き方がいつもと違う場合は、何らかのケガや病気のせいかもしれません。
一般的に、足を引きずるようにして歩く場合は神経性の疾患の疑いがあり、片方の足を上げたままにしたり、足をかばって跳ねるように歩いたりするときは、整形外科関連の疾患の可能性があります。
犬は個体差がありますが、少しくらいの痛みは隠してしまう傾向にあるため、歩き方に異常が出るほどの症状が見られる場合は、病院へ連れて行って診察を受けた方がよいでしょう。
犬が足を引きずる原因や対処法についてもっと詳しく知りたい方はこちらもおすすめ!
>犬が足を引きずっている!?原因と対処法、病院に連れて行くべき症状を解説【獣医師監修】
犬が足を浮かせる際に考えられる原因
犬が足を浮かせる原因には、次のようなケースが考えられます。対処法と合わせて紹介します。
▶上げている足に、痛みや違和感がある場合
1 爪が伸びている、巻き爪になっている
定期的に爪切りなどのケアを心がけましょう。また巻き爪は化膿して痛みを伴います。自宅での爪切りが難しい場合は動物病院やトリマーに相談するのもひとつの選択肢です。
2 足裏や肉球の間に異物が挟まったり、トゲが刺さったりしている
犬は足裏に違和感があって、足を上げている可能性があります。また、夏季は熱いアスファルトを歩いて火傷をしたり、冬季は凍った雪で肉球が切れたりすることがあります。
火傷の場合はまずは患部をよく冷やし、しばらく休ませます。それでも、足を引きずっている、足裏をよく舐める、歩くのを嫌がる、肉球の色が普段と違うといった症状が見られる場合は速やかに動物病院へ連れていきましょう。
冬季の肉球の切り傷は細菌感染の心配があるため、同じように足をかばうような仕草が見られたり、外傷があったりした場合はすぐに動物病院に相談しましょう。
3 足のしびれ
同じ姿勢をずっと取った後などに一時的に足がしびれて、足を上げていることがあります。直前までずっと同じ姿勢でいなかったか、思い出してみましょう。足を上げているのが一時的であれば特に問題はありませんが、その状態が続いたり、何度も繰り返したりするようであれば、動物病院を受診しましょう。
4 筋肉や骨、関節のケガや疾患
止まっているときに足を上げている場合、多いのが関節炎です。関節の疾患は、加齢によって起こりやすくなるため、シニア期の犬は、関節に急に大きな負担をかける動作に注意が必要です。特に高所から飛び降りさせないようにしましょう。
また、小型犬に多い膝蓋骨脱臼(パテラ)や、股関節や膝・肩の脱臼、じん帯断裂、捻挫、骨折などのケースもあります。なお、膝蓋骨脱臼については次章で詳しく解説します。
5 関節の可動域の低下
股関節や肘の異常によって関節可動域が狭くなって、健康な方の足の歩幅と合わなくなると、片足歩きのようになることがあります。普段からスマートフォンで犬の姿勢や散歩など歩いている姿を撮影し、以前より歩幅が変わってきた、片足歩きのようになってきた場合は動物病院に相談してみましょう。
▶上げている足に、痛みや違和感がない場合
1 ストレス
前足の片方を上げる仕草をしているけど足が痛いわけではない場合は、何らかのストレスを感じていて、気持ちを落ち着かせようとしていることがあります。これは、『カーミングシグナル』といわれるボディランゲージのようなものです。近くに知らない犬がいる、慣れない場所にいるなど、犬が何にストレスを感じているのか飼い主が見極めましょう。
2 期待したり注目している
前足を片方だけあげるとき、嬉しいことを期待している場合もあります。飼い主さんの手元におやつを持っているのを見ると、前足を持ち上げることがあります。
何か対象物を凝視して前足を片方あげる仕草は、狩猟犬でよく見られます。それは、対象に完全に集中した状態を示します。体は緊張し、対象が少しでも動けば追跡したり突進したりするでしょう。
3 仮病
何らかの理由で飼い主の気を引こうとしているのかもしれません。仮病の場合に見られる仕草や対処法もこの後詳しく解説します。
足を上げる理由で小型犬に多いのが“膝蓋骨脱臼(パテラ)”
犬の膝蓋骨脱臼は、後ろ足の膝関節のお皿(膝蓋骨)が、正常な位置から内側か外側へとはずれてしまった状態(脱臼)のことをいいます。超小型犬、小型犬に多く、ほとんどが生まれつき、または子犬の頃から発症して徐々に進行していきます。
膝蓋骨脱臼は、程度によってグレード1から4まで設定されており、グレード1だと症状は軽く、自覚症状はほとんどありませんが、状態が悪化してグレードがあがると痛みや違和感が生じて足を上げて歩くことが増えていきます。
足をかばって浮かせて歩くことが続く場合は、動物病院を受診して適切な治療を受けましょう。
愛犬が膝蓋骨脱臼の場合、あるいは膝蓋骨脱臼が起きやすい犬種の場合は、足が滑りにくい床材にしたり、ソファやベッドから飛び降りたりしないようにステップを設置するなど、脱臼しづらい住環境を意識して作ってあげるとよいでしょう。
膝蓋骨脱臼についてもっと詳しく知りたい方はこちらもおすすめ!
こんなケースは要注意、速やかに動物病院へ
愛犬が足を上げる仕草をしてもすぐにやめる、歩き方に異常はない、食欲も元気もある、という場合は、しばらく自宅で様子を観察しましょう。
ただし、食欲や元気がない場合、足に出血や腫れなどがある場合、立っているときも足を全く地面に着地することができない場合は、治療が必要な状態だと考えられます。速やかに病院へ連れて行きましょう。
また、緊急を要するほど深刻な症状はなくても、何だか歩き方が不自然だ、と飼い主が感じる場合も病院へ行きましょう。
病院では犬が緊張して、不自然な歩き方をしなくなることがあるため、スマートフォンで犬の歩く様子を動画で撮って、獣医師に見せられるようにしておくとよいでしょう。動画を撮影する場合は、一方向からでなく、さまざまな角度から撮っておくと獣医師が症状を見落とすことなく、正確な判断がしやすくなります。
愛犬が足を上げる、ケンケン歩き。痛がらないなら、もしかしたら仮病かも!?
「家の中では足を上げてぴょんぴょんと歩くのに、病院へ連れて行くと普通に歩ける」、「散歩に出るといつも通り歩ける」ということがあります。その場合は、足が痛いような仕草を見せて、飼い主の気を引こうとしているのかもしれません。
犬はこれまでの経験で、「こうすれば飼い主が優しくしてくれる」と学習しているのです。仮病のような仕草をする背景には、飼い主とのコミュニケーションを望んでいる、もっと構ってほしいという思いがあります。
犬が片方の足を上げている際に、犬がわざとやっているのか、痛みや違和感が原因なのかの見極めが重要です。例えば、これまでに一度も足に問題を起こしたことがない場合は、痛がるまねをすることは難しいため、演技である可能性は低いでしょう。しかし、これまでに何度か同じ仕草を繰り返していて、すぐにケロッとしている場合は演技である可能性も疑います。
そこで注意したいのが対処法です。獣医師の診察の結果、ケガや病気の可能性が否定され、構ってほしくて演技をしている可能性が高い場合は、犬が足をあげたり痛がるそぶりを見せたときに飼い主さんが犬との関わりをスタートさせないほうが良いのです。病気のふりをしても、決してよいことは起こらないと分かるまで、構う、叱るなど特別な反応をしないようにしてください。
そして愛犬が足を痛がる仕草をしないときに、たっぷりとコミュニケーションの時間を取り、愛情が感じられる機会を作ってあげてください。
まとめ
前足を片方だけ浮かせる、足をかばうようにぴょんぴょん歩くなどの仕草が見られたら、まずは足に痛みや違和感がないかを確認しましょう。利口で飼い主の反応をよく観察している犬は、わざと痛いふりをすることがあります。仮病なのか、本当にケガや病気を抱えているのか、飼い主が見極めることが大切です。
もし痛みを感じているようなら、すぐに動物病院へ連れて行って診察を受けましょう。特に小型犬で多い膝蓋骨脱臼は、症状が進行しないように早めの対処が必要です。