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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
犬をおうちに迎えることが決まったら、どのスペースでどのように飼うか、何を食べさせるかなど、飼い主は考えることになるでしょう。そこで、最も忘れてはいけないのは、愛犬が家族の一員として生活するためにきちんと「しつけをすること」です。今回は、獣医師の林美彩先生に教えていただいた、犬のしつけの基本について解説していきます。
目次
- 犬のしつけはどうして必要?しつけの目的とは
- 犬のしつけはいつから始めるべき?
- 犬のしつけの基本1<新たな環境に慣れさせる>
- 犬のしつけの基本2<アイコンタクトが取れるようにする>
- 犬のしつけの基本3<トイレトレーニング>
- 犬のしつけの基本4<食事のルールを作る>
- 犬のしつけの基本5<人に触れられることに慣れさせる>
- 犬のしつけの基本6<甘噛みや破壊行動の対策>
- 犬のしつけの基本7<無駄吠え対策をする>
- 犬のしつけの基本8<遊びのルールを教える>
- 犬のしつけの基本9<散歩に慣れさせる>
- 犬のしつけの基本10<お留守番とハウストレーニング>
- 犬のしつけの基本11:社会に慣れさせる練習をする
- 犬の健康管理のためにワクチン摂取を忘れない
- 犬のしつけのポイントは褒めてあげること
犬のしつけはどうして必要?しつけの目的とは
飼い主には、飼い犬が周りに迷惑をかけないようにしつける義務があります。世の中には犬が苦手な人もいますし、その人が嫌な思いをすることがあるかもしれません。また、災害の多い日本では、いざというときに飼い主の指示に従うようにしつけることは、犬の命を守るという観点でも大切です。なにより、犬と家族が快適に暮らしていくために、ある程度のルールを決め、犬に覚えてもらう必要があります。
犬のしつけはいつから始めるべき?
犬を迎えたら、いきなりしつけるのではなく、まずは新しい環境に慣れて落ち着いてくるまで1週間から10日ほど様子をみましょう。成犬を迎える場合、新しいルールを覚えてもらうまでに時間がかかるかもしれません。一方、生後1ヶ月〜3ヶ月ほどの社会化期と呼ばれる時期の犬は吸収が早い反面、まだ理解できないこともあります。いずれにせよ、犬の性格や年齢、様子を観察しながら焦らずに行うことが大切です。
犬のしつけの基本1<新たな環境に慣れさせる>
新しいおうちに来た犬は、人や音、景色などの新たな刺激にさらされています。そんな中、飼い主さんがしつけを焦るのは逆効果です。迎えて間もない頃に一番優先すべきなのは、「休ませてあげること」です。静かな場所やクレートの中でゆっくりと休ませてあげましょう。いきなりしつけを始めたり、広い場所で遊ばせたりしてしまうと、ストレスを抱えたり、体調を崩したりします。むやみに触ったりせず、犬の方から近づいてきた場合は優しく接して、安心してもらうように意識しましょう。
犬のしつけの基本2<アイコンタクトが取れるようにする>
アイコンタクトはすべてのしつけの基本と言ってもいいでしょう。目を合わせて「注目させる」ことがしつけのポイントになります。アイコンタクトができると信頼関係が築きやすくなり、離れたところにいても、呼び戻しがスムーズになります。そして、次第に興奮を抑えたり、危険行動の回避ができるようになったりします。
犬のしつけの基本3<トイレトレーニング>
犬と気持ちよく生活するうえで、トイレトレーニングはとても大切です。とくに室内飼いをする場合、トイレ以外の場所で排泄するようになると、お部屋の匂いや汚れの原因となってしまいます。
トイレの場所を決める
まずは、どこで排泄して欲しいかを考え、トイレの場所を決めましょう。犬は眠る場所での排泄を本能的に嫌うものです。人と同じように落ち着ける場所にトイレを作ってあげてください。トイレトレーを用意する場合は、大きめのものを選んだほうが排泄しやすいです。
トイレのしつけ方
トイレの場所が決まったら、排泄はトイレでするという決まりと、トイレの場所を覚えてもらいます。子犬のうちは排泄の回数も多めですので、排泄する時間をメモしておくと参考になります。タイミングを見はからったり、クルクル回ったりするようなしぐさ、お尻を高く持ち上げるなどの様子を見定めてトイレに連れて行きましょう。そして、成功したときには、ほめてあげましょう。しつけ全般に言えることですが、はじめのうちは失敗したときに叱らないでください。排泄はトイレでするものだということ、そうすれば飼い主さんが喜んでくれることを、犬に覚えてもらえるように上手に導いていきましょう。
犬のしつけの基本4<食事のルールを作る>
盗み食いや誤食を防ぐ上でも食事のしつけは重要です。食事のしつけについて、飼い主が意識すべきポイントを紹介します。
食事は決まった時間に食べさせる
食事のルールを作り、決まった時間に食べさせることは、犬の体調を整えるうえでも大切です。だらだら食べを習慣づけることは、食べ過ぎにもつながりますし、エサの鮮度が損なわれて衛生的にもよくありません。
「お座り、待て」を教える
基本的に飼い主さんの許可が下りてから食べ始めるように習慣づけましょう。「まて」を教えた後、「よし」の掛け声で食べ始めるようにしつけを行ってあげてください。食べたくてたまらずに威嚇したり吠えたりしても、そこでエサを与えるとしつけの意味がなくなってしまいます。毅然とした態度で行いましょう。
フードを追加するときはボウルを奪わない
食事中にボウルを取り上げてフードを足そうとすると、犬がエサを取られたと勘違いして吠えたりうなったりするかもしれません。食事の量は、排便の状態や嘔吐の有無、体重変動などを見ながら、分量を決めておくといいでしょう。ちょっと少なめだと感じたら、ボールを取り上げずにそのままエサを足してあげましょう。飼い主さんにとっても飼い犬がおいしそうに食事をする様子を見るのは楽しいもの。同時に犬にとっても楽しい食事タイムになるように気遣ってあげたいものです。
テーブルから食べ物を与えない
アレルギーのある子もいますし体重管理が必要なこともありますので、前にも述べたように犬には飼い主から与られたものを食べるという習慣づけが必要です。これを徹底するために、たとえおねだりされても、テーブルから食べ物を与えることはしないようにしましょう。
犬のしつけの基本5<人に触れられることに慣れさせる>
自宅での健康管理や人とのコミュニケーションのために、人間に触れられることに慣れてもらいましょう。まずは、飼い主さんが、比較的嫌がりにくい背中や胸元あたりからゆっくりと触るといいでしょう。落ち着いている時に、体の色々な場所を触って声をかけ慣らしていきます。なでる前に一度手の甲を向けて、下からゆっくりと差し出してあげると、これから触るよという合図になります。頭の上から突然触るのはトラウマになりやすいので注意しましょう。
子犬のうちから触れられる習慣をつける
慣れてきたら、耳、口の周り、爪、お腹やお尻などにも、小さい頃から触れられる習慣をつけると、スムーズに健康チェックができるようになります。足先や口元を触られるということに慣らしておくと、おうちでのケア(足ふきやブラッシング、歯磨きなど)、さらには病院での処置(耳掃除や爪切り、採血など)の際に役立ちます。また、家族以外の人に慣れさせるためにも、機会があれば来客の手からおやつをもらったり、触れてもらったりするのもいいでしょう。
触れることに慣れたら健康チェック
人に触られることに慣れたら、飼い主さんは愛犬に触れて、コミュニケーションを兼ねて健康チェックをする習慣をつけましょう。各部位のチェックのポイントについて解説します。
1,耳の中
黒い耳垢がないか、臭いがないかどうかのチェックをしましょう。後ろ足で耳を掻いたりするようであれば病院を受診してください。
2,目
目やに、涙が生理的範囲を超えて出ていないか、充血がないかどうかをチェックします。
3,鼻
鼻先が湿っているか、分泌物が過剰に出ていないかをチェックします。
4,口
口臭や歯石の有無、歯茎の色(ピンク色か否か)をチェックします。
5,足先
肉球の状態(かさつきがないかなど)、爪の伸び具合、冷えや熱感がないかどうか、足裏の毛が伸びすぎていないかなどをチェックします。
6,お腹、お尻
皮膚の状態の確認や、お腹やお尻の肉のつき方を見て、太りすぎではないか、反対に痩せすぎではないかに気をつけながら、適正体重の確認をします。
7,尻尾
毛に汚れがついていないか、ちゃんと振ることができているかをチェックします。
8,全身
触ってイボなどのしこりの有無、お腹が膨らんでいないか、触られて嫌がるところや怒るところがないか、肋骨の触れ方(触れる、触れないなど)、くびれがあるかどうかなどをチェックします。
子犬のうちから慣らしておいた方がいいこと
子犬は経験していることが少ないので、あらゆるものが刺激になり得ます。そういった刺激に対して段々と慣れさせていく、恐怖感を取り除くことが飼い主さんの役目となります。まずは身近なものの匂いを嗅がせて、褒めてみたり、短時間で良いので抱っこしながら外に出てみたりしてあらゆる刺激からの不安感を取り除いてあげてください。
ただし、ひたすらにこうした生活を続けていると、飼い主さんへの依存度が高くなってしまい、脳の成長を阻害したり、飼い主さんがいないところでイタズラや粗相をしてしまう「分離不安症」になってしまったりすることがあります。極度に甘えさせることは避けて、適度な距離感を保ちつつしつけていくようにしましょう。
犬のしつけの基本6<甘噛みや破壊行動の対策>
好奇心旺盛な犬の中には、なんでも噛んで試してみたくなる子がいます。これが習慣になるとベッドやソファ、タオルや家具までも噛み跡をつけられてしまって困ったことになります。噛むことや破壊することが癖になる前にしっかり対策をしておきましょう。
甘噛み、破壊対策をする
対策としては、噛んでもいいおもちゃを与えたり、子犬同士で遊ばせて加減を学ばせたりするのもいいでしょう。また、噛まれて困るものに関しては、スプレーなどを用いるのも一つの方法です。ストレスや体力を持て余して、噛む行動に走っている場合もあるので、散歩などに連れ出すのもいいでしょう。噛まれても、叩いたり叱ったりはしないようにして、噛む原因を取り除く工夫をしましょう。
犬のしつけの基本7<無駄吠え対策をする>
犬が吠える場合、要求吠え・威嚇吠え・恐怖吠えと種類を分けることができ、それぞれによってしつけの方法も変わります。
要求吠え
構いすぎずに、人が犬より立場が上であると印象付けます。犬に要求が通ったと思われないように、飼い主さんが「お座り」などの命令をしてから応じると良いと思います。
威嚇吠え
危険ではないということを知らせて安心させ、お座りやハウスなどのコマンドを出します。吠えないようになったタイミングで褒めるようにするといいでしょう。
恐怖吠え
怖がる犬から恐怖を取り除き安心させてあげることが重要です。怖がって吠えている様子が見られたら、落ち着ける環境に移動し、しばらく寄り添って恐怖心を取り除いてあげてください。
犬のしつけの基本8<遊びのルールを教える>
飼い主さんとの遊ぶことは犬にとっても楽しみな時間です。そこで、遊び始める前に「おすわり」などの簡単な指示を出して、それができたら遊ぶことを習慣づけましょう。時間を決めて遊ぶなど、ルールを守ってもらいやすくなります。ただし、同じような指示のもと繰り返し遊んでいると、学習能力がつきづらくなってしまうので遊び方を工夫しながら楽しんでください。
犬の好きなおもちゃ
飼い主さんの手や足をおもちゃ代わりにすると、甘噛みが行き過ぎてしまうようになるかもしれません。遊ぶ際はおもちゃを使うなどして、体の一部を使わないようにしたほうがいいでしょう。また、犬が好きなおもちゃとしては、音の出るもの、引っ張るなどして体を使えるもの、遊びながら工夫するとエサが出てくるなどの知育おもちゃがあります。
犬のおもちゃの注意点
小さすぎるおもちゃやかみちぎれてしまうようなものは、誤飲のリスクが高くなりますので要注意です。
犬のしつけの基本9<散歩に慣れさせる>
犬といえば散歩ですが、実はお迎えしてすぐに散歩に連れ出すのはNG。散歩を始めるタイミングや散歩ができるようになってから気をつけるポイントについて解説します。
散歩を始められる時期
飼い主さんはすぐにでもお散歩に連れ出したいかもしれませんが、子犬期の最終のワクチン接種を終えて2~3週間ほど待つのが安全です。それまでの間にお散歩時に必要なリードと首輪・ハーネスに慣れさせておきましょう。お部屋の中でリードを付けてトレーニングをしてから、短時間の散歩からスタートしてみてください。
散歩中に気をつけるポイント
散歩中は犬が吠えないように気を配りましょう。無駄吠えはトラブルを招くこともあります。他の犬とのコミュニケーションは苦手な犬もいますので、無理に行うことはありません。落ち着かないようなそぶりがあればおやつを与えたり、座らせたりして落ち着かせてあげましょう。また、マーキングをしないように気を付けるのも重要です。うっかりしてしまった場合はトイレシートや水を使ってきれいにし、排泄物については持ち帰るようにしましょう。
犬のしつけの基本10<お留守番とハウストレーニング>
飼い主さんの生活のためには、留守番を覚えてもらわなくてはなりません。まずは、ケージやサークルに慣れさせることから始め、短時間の留守番からスタートします。クレートやケージへ誘導し、その中に入ったら褒めることを繰り返し、その後、扉を閉めて、数秒したら扉を開けて褒める、というのを繰り返します。クレートやケージの中で安心していられるように、根気よく慣らしていきましょう。留守番が苦手な子には、テレビやラジオを付けたままにしておいたり、おもちゃを用意しておいたりするといいかもしれません。
犬のしつけの基本11:社会に慣れさせる練習をする
前述しましたが、社会に慣れさせる「犬の社会化」は、家族以外の人とのコミュニケーション、外界の音など新しい刺激に慣れさせることを指します。これらに慣れていないと、警戒心がいつまでも解けなかったり、病院にいけなかったりと、普段の生活に支障が出てしまいます。以下のような方法でだんだんと慣れさせていくことが可能なので、無理のない範囲でトライしてみましょう。
・自宅に人を招く
・散歩に行く時間帯やルートを変える
・電話のベルやテレビの音などいろいろな生活音を聞かせる
・家族以外の人に触れてもらう
犬の健康管理のためにワクチン摂取を忘れない
ワクチン接種が完了していない場合には、抱っこをして外を歩き他の犬たちを眺めるのも社会に慣れる練習になります。ワクチン接種が完了した後は、他の犬と遊ばせたり、パピー教室を利用したり、家族以外の人や犬と触れ合う機会を多く持ち、社会性を育むことが大事です。触れられることに慣れて獣医師に診てもらうことができれば、ワクチン接種もスムーズになります。ワクチン摂取で予防ができる主な病気には以下のようなものがあります。
ジステンパー
犬ジステンバーウイルスによる伝染性の疾患で、空気や飛沫により感染します。感染の初期には発熱の症状しか見られませんが、症状が進んでしまうと2週間〜数ヶ月で死に至ってしまうことがあります。
犬パルボウイルス感染症
犬パルボウイルスが主に口から入ることで感染します。症状としては小腸の粘膜を破壊して、下痢や嘔吐を招いたり、白血球を破壊して免疫を低下させたりします。症状が重篤となることが多く、場合によっては突然死してしまうこともあります。
犬アデノウイルス感染症
犬アデノウイルスには1型、2型と種類があり、1型は犬伝染性肝炎、2型は犬伝染性喉頭(こうとう)気管炎と呼ばれています。1型の主な症状としては食欲の低下や発熱、嘔吐があり、重篤化することがあり、致死性が高いです。2型は単体では症状が重篤化しないですが、伝染性が高く、肺炎を引き起こす場合があります。
パラインフルエンザウイルス感染症
パラインフルエンザウイルス感染症に感染すると、咳や発熱などの風邪と同様の症状が現れます。他の病原ウイルスと混ざって症状を引き起こすことがあります。
犬のしつけのポイントは褒めてあげること
犬のしつけにおいて、犬自身がとった行動を褒めてあげることは犬自身で考えさせる習慣をつけることにつながります。「留守番中にいい子にしていたら、褒めてもらえた」とか、「お手をしたら、おやつをもらえた」などと自身の行動を振り返ることを促すことができるので、良い行動をとる訓練にもなります。
ただし、人間に接するように言葉だけでは犬には伝わりません。撫でてあげたり、おやつを与えたり、何かしらのご褒美とセットで伝えるようにしましょう。
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。