日傘のスキをなくしたら妖怪っぽくなった話
リンクをコピーしました
PR
目次/ INDEX
日本における「オーガニック」の認知・普及は、欧米に比べて10年遅れていると言われている。漠然と“良いもの”というイメージがありながら、なぜ日本ではオーガニックが正しく理解されないのか。
カインズでチーフバイヤーを務める深澤潔(グリーン・ガーデン部)は、この問題に悩み続けた末、2017年、オーガニックの啓蒙・普及のための商品開発に着手した。それはいわゆる「オーガニック食品の開発」ではなく、「家庭菜園でオーガニック栽培ができる農薬などの商品化」という新しいアプローチだった。
オーガニック栽培のために作った『ORGANIC STYLE』シリーズの一部
「消費者としてではなく、“作り手”としてオーガニック栽培に親しんでもらいたい。家庭菜園でのオーガニック栽培は簡単だとは言えませんが、形が悪くても、サイズが小さくても、苦労して収穫した野菜の味は本当に格別です」と深澤は力説する。
家庭菜園を起点にオーガニック文化の浸透を目指す将来へのビジョンや、オーガニック栽培の魅力、商品開発のウラ話などについて話を聞いた。
日本では、オーガニックについての誤解が広まっている。その典型的な例としてよくあげられるのが、「オーガニック=無農薬」だと勘違いしている人が多いという事実だ。
そもそも農薬には、大きく分けて2種類ある。ひとつは化学薬品を使った農薬、もうひとつは化学薬品を使わない農薬。どちらも「薬」という文字が使われているため誤解を生みやすいが、化学薬品を使わない農薬も存在する。つまり、化学的に合成された農薬や肥料でなければ、オーガニック栽培にも使用可能なのだ。
「オーガニックとは、簡単に言うと、化学物質に頼らない農法で作られた産物・加工品のこと。直訳すると“有機”です。でも、大半の人は“無農薬”とか“安全な”とか“カラダに優しい”だと誤解しているんです。カインズの店舗スタッフに聞いても、グリーン・ガーデンの売り場担当者でないと、正しく答えられる人は3割くらいでした」と深澤は嘆く。
「健康への意識が高い日本人とオーガニックとの相性は良いはず」と、自信を見せる深澤
加えて、日本では「負のスパイラル」が生じているのが大きな課題だと指摘する。
「意外だと思われるかもしれませんが、日本の消費者の多くは、オーガニックの農産物や加工品をあまり買いません。オーガニックの農作物が売れないと、農家も積極的になれず生産者が増えない。生産者が増えず、世に出回るオーガニック商品が少ないと、価格も高いままだから売れない。そんな負のスパイラルが、ずっと続いているんです」
こうしたオーガニック市場について問題意識を持っていた深澤は、ホームセンターのバイヤーとして何かできることはないかと悩んでいた。カインズの一部店舗では店頭で野菜も販売しているが、有機野菜をより多く販売したとしても根本的な課題解決には至らない。負のスパイラルを脱却するために考え続けた結果、ようやくたどり着いたのが「まずは家庭菜園からオーガニックを知ってもらおう」というひとつのアイデアだった。
家庭菜園から正しいオーガニック栽培を広めたいと考えた深澤が、そのモデルケースとして最初に考えたのが「クラインガルテン」だった。クラインガルテンとは、ドイツで200年ほど前から導入されている農地の賃借制度。実際、ドイツのケルンで現地視察も実施した。
「ドイツでは、都心部の一等地に広い農地が設けられているんです。その農地を国の管理のもと、区画単位で一般の人に貸し出しています。化学物質を含んだ農薬や肥料は使えないオーガニック縛りで、世界的に“オーガニックの象徴”とされているミツバチが、敷地内を盛んに飛び回っていました」
最低限のルールだけ守れば、敷地の使い方は借り主に委ねられている
視察に行った際の写真を見ると、まるでキャンプ場に遊びに行ったかのように、家族で農作業を楽しんでいる様子が見てとれる。国が管理しているので、費用はたったの年間250ユーロ(約3万円)。常に順番待ちの状態で、珍しく空きが出ると、抽選への応募が殺到するという。
ドイツでは、仕事が終わったあとの“アフター5”に農業や自然とのふれあいを楽しむ人が多い
「いつの日か、クラインガルテンのように気軽にオーガニック栽培が楽しめる『カインズ農園』をオープンさせたいんです。それはまだまだ先の話ですが……」
そんな夢を描きながらも、まずは地道に、家庭菜園でオーガニック栽培を実現するための商品開発に着手した。