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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
犬といえば散歩が大好きなイメージがありますが、時には散歩に行くのを嫌がることもあります。愛犬が突然、散歩に行きたがらなくなったら心配になりますよね。犬が散歩に行きたがらないのにはさまざまな理由があります。この記事では、犬が散歩に行きたがらない理由や対処法などについて、動物行動学を研究する獣医師の茂木千恵先生監修のもと、詳しく解説していきます。
目次
- 犬が散歩に行きたがらない理由は?
- 犬が散歩に行きたがらない時はどんな行動をとる?
- 犬にとってなぜ散歩は大切なの?
- 犬が散歩に行きたがらない時の対処法は?
犬が散歩に行きたがらない理由は?
犬が散歩に行きたがらないと言っても、その背景には身体的・心理的なさまざまな理由があります。考えられる主な理由を見ていきましょう。
散歩中に怖い思いをした
過去の散歩中に怖い思いをしたことがあると、その後、散歩に行くのを怖がることも。犬は自分の身に危険が及びそうな状況に直面すると、それをすぐに記憶します。そのため、再び同じような状況に遭遇した時に思い出すことで、警戒してしまうのです。
子犬期の社会化不足
犬は、社会化期と呼ばれる生後4か月頃までは、周囲の状況に対して不安を抱きにくく、何でも肯定的に受け取ることができます。しかし、この時期に見知らぬ人や犬、車の音などに触れる機会が少ないと、散歩中に見知らぬ人が近づいてきた時などに恐怖を感じやすくなり、散歩に行きたがらなくなってしまうことも。
また、生後6か月〜1 歳頃までの時期は一時的に不安を感じやすいことがあるでしょう。不必要なほどに怖がったり、飼い主に反抗したりもするので、スムーズに散歩に慣れさせるのが難しい時期でもあります。
首輪やハーネスが合ってなくて苦しい
散歩中に首輪やハーネスをつけていると、犬が突発的な動きをした場合などに、行動範囲を制限することができ、結果的に犬をケガから守ることができます。そのため、簡単に外れないように装着することが必須です。しかし、サイズが合っていなくてキツ過ぎると、着用させた時に不快感が高まってしまうことも。その不快感はそのまま散歩への嫌悪感につながります。
首輪は飼い主の指1本が首と首輪の間に差し込めるくらいの緩みが必要です。ハーネスも、ろっ骨を締めすぎていないか、腋の部分に擦れがないかを自宅で確認してから使用するようにしましょう。
飼い主に甘えている
散歩に行きたくない様子を見せたら飼い主が優しい声をかけてくれた、おやつをくれたなど、犬にとって「得になった」と感じる経験をさせると、次からもその対応を期待して同じような態度をとることがあります。飼い主は、犬が本当に不安を感じているのか、ただ甘えているだけではないのか、ということを見極めることが大切です。本当に不安を感じている場合、犬は好きなおやつを見せても食べようとしなくなるので、愛犬の反応を見て判断すると良いでしょう。
体力がなくなっている
加齢や運動不足などによって筋力が落ち、少し歩くだけでもつらいと感じるようになると、散歩に出ることを嫌がるようになります。
ケガ・体調不良
ケガや体調不良などで身体的につらい状態だったり、どこかに痛みが発生していたりすると、散歩に行きたがらなくなることがあります。また、散歩に出た時に心臓や関節に負担がかかってつらくなった経験があると、散歩を避けるようになることも。
太っていて散歩が億劫
太っていると体が重くて前進するのがつらかったり、少し歩いただけですぐに息があがってしまったりするでしょう。そうした経験から、散歩に出ることを嫌がるようになってしまいます。
天気が暑すぎる・寒すぎる
気温が高いと、体温が上昇し、不快感が高まります。熱を放出して体温を一定に保つために、ハアハアと口を開けた浅速呼吸となり、心臓にも負担がかかるでしょう。また、多くの犬は寒さには強いですが、小型犬や子犬期、高齢期の犬は体温の調節がうまくできないことがあります。そのため、寒い屋外では不快感が続いてしまうことも。こうした理由から、暑さ・寒さを感じる日には、散歩に行きたがらない犬もいます。
犬が散歩に行きたがらない時はどんな行動をとる?
犬が「散歩に行きたくない」と感じている時によく見られる行動例をそれぞれ見ていきましょう。
散歩に行こうとすると隠れてしまう
飼い主が散歩に行く準備を始めると、見つからないように姿を隠すことがあります。本当に散歩に連れ出すつもりなのかどうか、飼い主の様子を伺いたい気持ちもあるので、隠れていても目や耳は飼い主の方に向けられていることが多いです。
リードをつけるのを嫌がる
通常、リードは散歩の時に使うことが多いアイテムです。そのため、リードをつけて散歩に行った経験があると、飼い主がリードを持つだけで逃げ出したり、リードを持って近づくと鼻にしわを寄せたり、唸ったりする場合もあります。
散歩に行ってもすぐ帰りたがる
散歩に出てもすぐに家に戻ろうとする行動がよく見られます。散歩が苦手な犬の場合、家から遠ざかっていく時はゆっくり歩き、家に近づくと足早になることも。これらは、家が犬にとって自分の縄張りで、不安要素が少なく安心できる場所と捉える傾向があるためです。
散歩に行っても動かなくなる
これ以上先に進みたくないということを態度で示します。それによって飼い主が引き返してくれた経験が過去にあると、「引き返してもらえるかも」と期待して再び同じ行動をとってしまうことがあるでしょう。
犬にとってなぜ散歩は大切なの?
犬が散歩に行きたがらない原因について解説してきましたが、そもそも犬にとって散歩をすることはどういった意味を持つのでしょうか。なぜ散歩が大切なのか、その理由を詳しく見ていきましょう。
運動不足解消
散歩で、自由に体を動かしたり、思い切り走ったりする時間を設けることで、犬本来の行動を発揮することができ、精神的にも落ち着くでしょう。スタミナがある犬が多く、行動範囲が限られた屋内でずっと過ごしていると欲求不満になってしまいます。
気分転換
屋内の限られた領域で過ごしていると、視覚、嗅覚、聴覚への刺激が単調になります。すると、「運動したい」「食べたい」という本能から来る欲求が満たされず、ストレスを抱えやすくなるでしょう。散歩で屋外の様々な刺激を体感することで、効果的に気持ちをリフレッシュすることができます。
社会性を身につけるため
知っている人や犬と楽しく交流することは、犬の社会性を高めるのにとても役立ちます。そうした機会を得ることができる散歩は、犬にとって欠かせません。社会性を高めると、見知らぬ人や犬に対しても友好的にふるまえるようになります。すると、相手の犬も友好的な態度を返してくれるようになるでしょう。それがまた楽しい交流へとつながっていきます。
愛犬と飼い主のコミュニケーションの向上
飼い主と犬が同じ時間を共有することで、コミュニケーションの向上へとつながります。犬が飼い主を見上げた時、飼い主が穏やかな態度で見つめ返したり、触れ合って褒めたりすると、犬はより一層、飼い主を信頼するようになるでしょう。また、家の中では強気にふるまう犬であっても、外では飼い主を頼ることが多いです。外で飼い主が自信に満ちたふるまいをすることで、犬からの信頼が得やすくなります。
肥満防止
犬はもともと食べるのが大好きです。また、狩りをして飢えをしのいでいた先祖の名残で、いつでも食べられるものを探そうとする習性もあります。そのため、食べ過ぎて摂取カロリーが消費カロリーを上回ることが多く、肥満を防ぐには散歩で適度に運動させることが大切です。
犬が散歩に行きたがらない時の対処法は?
犬が散歩に行きたがらない時は、その原因を取り除いて散歩に行けるよう対処してあげる必要があります。まずは、以下の対処法を試してみてください。
首輪やハーネスを変える
首輪やハーネスが適切なサイズで装着できていない場合は、すみやかに交換しましょう。初めて装着するものであれば、犬が嫌がることを想定し、ゆっくりと時間をかけて慣らしてあげてください。大好きなおやつを与えながら装着の練習をするのもおすすめです。
短い距離・時間で慣れさせる
まずは、犬が不快を感じない程度の距離・時間で散歩に出ると良いでしょう。短い距離であれば肉体的負担が少なくなり、短い時間であれば精神的負担も減ります。散歩に不快な要素が無いとわかれば、だんだんと嫌がらなくなるでしょう。愛犬が嫌がらない程度をキープしつつ、距離と時間を徐々に延ばしてみてくださいね。
散歩コースや時間帯を変える
散歩コースのどこかに苦手な場所がある場合、別の散歩コースにすると楽しく往復できるようになります。また、気温が高すぎる時間帯や、視認性が落ちて不安が高まる夕暮れ以降の時間帯を避けるようにすると、比較的嫌がらずに散歩できるようになることもあるでしょう。
外の世界に慣れさせる(自宅の庭など)
屋外で出会う人や犬、車などに対する社会化が進んでいない場合は、まず屋外の雰囲気に慣れさせるところから始めましょう。自宅の庭、自宅の周囲などは、不安を感じさせずに屋外の雰囲気を体感するのに最適です。
ケガや体調不良がないか確認する
散歩に出ることで痛みや不快感が発生している可能性がある場合は、まず獣医師の診察を受けてください。体の表面だけでなく、内臓や骨格に異常が無いかを確認してもらうことで、潜在的な病気の早期発見につながることもあります。適切に治療をすれば、痛みや不快感が緩和され、散歩に出ることも嫌がらなくなるでしょう。それでもなお散歩を嫌がる場合は精神的な原因があるかもしれないため、対処方法を変える必要があります。
おやつなどのご褒美を活用する
「なんとなく不安である」という理由から、散歩に行きたがらない犬も少なくありません。散歩に対する悪い印象は、おやつなどのご褒美を活用することで、良い印象へと変えることができます。犬が嫌がる場面があらかじめわかっていれば、嫌がる前に号令を使って従わせるようにし、ちゃんと従ったらご褒美を与えましょう。号令に従った時にご褒美を与えることで、「嫌がったらご褒美がもらえた」と誤解させることなく、散歩の印象を良くすることができますよ。