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バーニー動物病院千林分院分院長。ペット薬膳管理士、中医学アドバイザー。動物病院でペットの診療にあたる傍ら犬猫の手作りご飯教室や問題行動のカウンセリングを行う。
犬は、健康なときでも「ハアハア」と息を荒くすることがあります。しかし、飼い主から見て愛犬が苦しそうな場合や呼吸音がいつもと違う場合は病気のサインかもしれません。今回は、犬が息を荒くする理由と考えられる病気や対処法について、獣医師の堂山有里先生に教えていただいたポイントを解説していきます。
目次
- 犬の正常な呼吸とは?
- 犬の息が荒くなる主な理由は?
- とくに息が荒くなりがちな犬種はいる?
- 犬の息が荒いことで考えられる主な病気は?
- 犬の呼吸が荒い場合、すぐに動物病院に連れて行った方がいい症状は?
- 犬が息を荒くしている場合の対処法は?
犬の正常な呼吸とは?
犬の正常な呼吸とは、犬がリラックスしているときにする呼吸です。口を閉じ、胸がゆっくりと上下します。「ハァハァ」や「ゼーゼー」といった音は聞こえません。
犬の呼吸は、胸が膨らんで元に戻るのを1回と数え、1分間に10〜30回が正常な呼吸回数です。一般的に大型犬よりも小型犬、成犬よりも子犬の方が呼吸回数は多くなります。1分間に40回を超える場合は、異常に呼吸が多く、息が荒くなっていると言えます。
犬の息が荒くなる主な理由は?
犬が「ハァハァ」と速く荒い呼吸をすることを“パンティング”と言います。主に体温を調節するために行われる呼吸ですが、他にもさまざまな理由があります。詳しく見ていきましょう。
体温調節のため
犬は人のように汗をかくことで体温を下げられないため、外気温が高いと体温も高くなりやすいです。犬は呼吸により体内の熱を逃すので、体温が高くなると体温調節のため呼吸が速くなります。このときに体を触ると、いつもより熱く感じられることがあります。なので、普段から愛犬の体のあたたかさを知っておくと異常を見分ける際の参考になります。この場合は、涼しいところで休むと呼吸の速さが元に戻ります。
酸素を取り込むため
激しく体を動かした後は全身の酸素要求量が増えるため、たくさんの酸素を取り込もうと呼吸が速くなります。この場合は、しばらく休めば呼吸は元に戻ります。
興奮しているため
嬉しいときは交感神経が優位になるため、呼吸が荒くなります。この場合は原因となる事柄がなくなれば呼吸は正常に戻ります。
緊張や不安を感じているため
犬が恐怖を感じているとき、不安なときも交感神経が優位になるため呼吸が荒くなります。この場合は原因となる事柄がなくなれば呼吸は正常に戻ります。
呼吸困難のため
主に、誤飲・誤食によって喉に異物が詰まってしまう場合に多いです。息を吸ったり吐いたりできなくなるため、呼吸は速く荒くなります。合わせて、喉に詰まっているものを吐き出そうとする動作が見られることもあります。特に、舌が紫色になっている場合は呼吸困難によりチアノーゼに陥っている可能性があるため、早急に動物病院を受診してください。
ケガなどによる痛みのため
ケガにより痛みがあるとき、細菌の感染があるときなどは、呼吸が速く荒くなることがあります。飼い主に触られて嫌がるような場所がないか、傷ができて出血している場所がないかを確認しましょう。
酸素を全身に運ぶため
貧血になると、全身に酸素が行きわたりにくくなり、呼吸の回数を増やすことで酸素を多く取り入れようとします。貧血があると、歯茎や舌の色が白くなります。
犬の息が荒いことで考えられる主な病気は?
犬の息が荒いことで考えられる病気には、次のようなものがあります。
気管支炎
細菌やウイルス感染、ハウスダストなどに対するアレルギー、タバコの煙や排気ガスなどの化学物質、誤飲などにより気管支に炎症が起き咳やパンティング、元気消失、食欲不振などの症状が出ます。悪化すると呼吸困難を起こすこともあります。
気管虚脱、気管支虚脱
加齢や何らかの原因で、気管や気管支が丸い形状を保てずに潰れてしまい、空気の通り道が狭くなることで呼吸が苦しくなる病気です。興奮時に咳が出やすく、悪化すると「ヒューヒュー」や「ゼーゼー」といった異常な呼吸音が聞こえることもあります。
肺炎
感染、アレルギー、腫瘍などが原因で肺に炎症が起き呼吸が苦しくなる病気です。同時に熱や咳が出たり元気・食欲がなくなったりすることも。ひどくなると呼吸困難に陥ることがあります。
肺水腫
主に心臓の疾患などが原因で、肺に水が溜まったような状態になる病気。息ができず呼吸が苦しいため、口を開けて「ハァハァ」と荒い呼吸をします。横になると片方の肺が潰れて呼吸がより苦しくなるため、おすわりのままで上を向き荒い呼吸をすることがあります。
僧帽弁閉鎖不全症
心臓の弁という部分の異常があるため、全身に血液を送り出す心臓のポンプ機能が低下する病気です。犬の活動性が低下する、なんとなく元気がない、お散歩で歩く距離が短くなった、朝方に咳をするなどの症状が出ます。
初期の症状は分かりにくく、ただの老化と捉えられてしまいがちです。早期に発見し治療をスタートできるよう、日頃から動物病院にて健康診断を受けておくといいでしょう。ひどくなると肺に水が溜まる肺水腫になり、呼吸困難に陥ることもあります。
心筋症
心臓の筋肉が異常に分厚くなったりペラペラに薄くなったりすることで、心臓の正常な働きができなくなる病気。心臓は全身に血液を送り出す役目をしているため、血液の流れが悪くなり活動量の低下や咳などが見られることもあります。血栓の合併症が起こることがあり、突然の強い痛みや後ろ足が動かなくなるなどの症状が出ます。
熱中症
環境中の高温やストレス、肥満などが重なり犬の体温が異常に高くなる状態です。体温調節を呼吸でまかないきれないと熱中症となります。短頭種、肥満の犬、ストレスを感じやすい犬などで発症しやすい病気です。
フィラリア症
蚊に刺されることでフィラリアという寄生虫が犬の体内に侵入し、やがて肺や心臓に到達し、肺炎や心不全を引き起こす病気です。血尿が出たり咳をしたりすることもあります。
犬の呼吸が荒い場合、すぐに動物病院に連れて行った方がいい症状は?
犬の呼吸が荒い場合でも、様子をみていい場合とそうではないケースがあります。どういった時にどんな対応を取ればいいのか、見ていきましょう。
様子をみてもいい場合
犬が呼吸を荒くしたら室温を涼しくして2~3分安静にすることで呼吸が楽になれば大丈夫です。口を閉じている、舌の色がピンク色、リラックスして横になっている場合は様子を見てもいいでしょう。
すぐに動物病院を受診した方がいい症状
・長時間のパンティング
・運動や興奮もしていないのに息が荒い
・ゼーゼー、ヒューヒューなど呼吸音の異常がある
・舌の色が青や白、あるいは紫色をしている
・胸が大きく上下し苦しそうに息をしている
・横になって眠らず荒い呼吸をしている
・おすわりの状態で上を向き荒い呼吸をしている
・じっとして動かない
・伏せができない
・横になれない
・咳が止まらない
・呼びかけに反応しない
・泡や水っぽいものを吐く
こういった症状が見られたら、すぐにかかりつけの動物病院に相談しましょう。
犬が息を荒くしている場合の対処法は?
まずは、安静にして部屋を涼しくします。体温が高い場合は、脇の下や足の付け根をアイスノンなどで冷やしてあげると体温が下がりやすいです。また、犬のストレスの原因だと思われるものがあれば取り除きましょう。
基本的には、うつ伏せの状態なら肺が広がりやすく呼吸が楽になります。ですが、犬の意識がある場合は、伏せやおすわりなどすでに犬にとって一番楽な体勢をとっていることがほとんどです。無理に体勢を変えさせる必要はありません。
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