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麻布大学獣医学部獣医学科小動物外科学研究室准教授。犬の心臓病における研究に携わり、麻布大学付属動物病院では循環器・呼吸器科(内科・外科)の診療科長。
人間と同じように、犬にも心臓病にかかるリスクがあります。犬の心臓病は加齢とともに発症率が高くなるといわれており、早期に発見して治療することが大切です。そこで今回は、獣医師の青木卓磨先生に教えていただいた、犬の心臓病の種類や初期症状、治療法などについて解説していきます。
目次
- 犬の心臓病の種類、症状とは
- 心臓病になりやすい犬種は?
- 犬の心臓病の初期症状、見分け方は?
- 犬の心臓病が進行してしまった場合の症状は?
- 犬の心臓病の治療法は?
- 犬が心臓病になってしまったときに普段の生活で気をつけることは?
- 犬の心臓病を予防、早期発見するためにできることは?
犬の心臓病の種類、症状とは
犬の心臓病には生まれつき生じる先天性と、加齢と共に発症する後天性、さらにフィラリア症などの感染症などがあります。
先天性の心臓病
先天性の心臓病では動脈管開存症がもっとも多く、子犬のころには約7割が無症状ですが、放置すると肺水腫や肺高血圧症と言った致死性の病気に進行してしまいす。この病気は生後なくなるはずの動脈管が、生まれた後も閉鎖しないことで生じる心臓病で、遺伝性疾患と考えられています。
他にも、肺動脈弁狭窄症や心室中隔欠損症など、心臓の弁が開かなかったり、心臓の中で穴が開いていたりする先天性の心臓病があります。
後天性の心臓病
後天性でもっとも多いのが心臓弁膜症で、心臓にある4つの弁のうち、左心房と左心室の間にある僧帽弁が最も病気になりやすいといわれています。この病気では僧帽弁が変性することで左心房に血液が逆流して肺水腫を起こしたり、大動脈への血流が減少したりして疲労するなどの症状が出ます。
大きくなった左心房が破裂すると「心タンポナーデ」という病態となり、心臓が圧迫されることで虚脱や失神してしまうこともあります。心タンポナーデは心臓と心膜との間にある心膜液(しんまくえき)が貯まることで心臓を圧迫してしまう心臓病で、心臓腫瘍で発症することがあります。
また、高齢化により不整脈も増えており、房室ブロックや洞不全症候群などのように失神や突然死を起こしてしまう心臓病もあります。自律神経に異常が生じることもあり、興奮や咳などによって失神してしまうこともあります。
感染症による心臓の病気
犬の感染症ではフィラリア症が有名です。蚊が媒介することで寄生虫が体内に入り、心肺機能の低下を引き起こします。しかし、予防薬で感染を防ぐことができるほか、もし感染してしまった場合は薬や外科手術などで治療を行います。フィラリア症は進行すると肺の機能が低下したり、心臓が変形したりすることがあるため、感染しないことがもっとも大切で、そのためにも蚊を避けたり、定期的に予防薬を投与する必要があります。
心臓病になりやすい犬種は?
心臓病の種類によって、なりやすい犬種や傾向が以下のように異なります。
・動脈管開存症…ビション・フリーゼ、チワワ、プードル、ダックスフンド、ポメラニアン、マルチーズ、ヨークシャー・テリアなど。※小型犬の雌に多い
・肺動脈弁狭窄症…イングリッシュ・ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、ミニチュア・シュナウザー、ヨークシャー・テリアなど。※雄に多い
・心室中隔欠損症…レークランド・テリア、ウェスティ、柴犬など。
・心臓弁膜症…チワワ、ダックスフンド、トイ・プードル、シーズーキャバリアなど。※小型犬の雄に多い
・大動脈体腫瘍…ボストン・テリア、シーズーなど。
・血管肉腫…ジャーマン・シェパード、ゴールデン・レトリバーなどの大型犬。
・不整脈…コッカースパニエル、ダックスフント、ミニチュア・シュナウザーなど。※雌に多い
犬の心臓病の初期症状、見分け方は?
早期発見が大切な心臓病ですが、初期症状は無症状なことが多いです。咳やお腹のふくらみが見られたり、体重が急に増減したりしたときは注意が必要です。先天性の心臓病は抱っこしたときに胸の鼓動とは異なる振動を感じることがあります。また、寝ているときに安静時の呼吸が1分間に40回を超えたり、肩で息をしていたりする場合は肺水腫の疑いがあります。異常を感じた場合はすぐに動物病院を受診しましょう。
犬の心臓病が進行してしまった場合の症状は?
心臓病が進行すると、肺水腫による呼吸困難、心臓が大きくなったことにより気管や気管支を圧迫して咳などの症状が出てきます。失神や呼吸困難、皮膚のむくみ、さらに筋肉が衰えることにより悪液質という病態となり、触ると骨ばっていることがあります。不整脈では失神が最も多いですが、自力で立てなくなったり、後ろ足がくだけるようにして倒れたりするなどの症状も起こります。
犬の心臓病の治療法は?
心臓病の主な治療法は、投薬、開胸手術、カテーテル治療、ペースメーカ植込み術などがあります。先天性疾患の多くは開胸手術がほとんどで、とても痛い手術でしたが、今ではカテーテル治療によって胸に傷を残さずに治したり、症状を改善することができるようになりました。後天性の心臓病は、薬による治療で生活の質の改善や寿命も大幅に伸びる一方で、複数の薬を毎日飲む必要があります。開胸手術では完全に心臓病を治したり、薬の量を減らすことも出来ますので、病気の種類によって治療法を選びながら愛犬を見守るようにしましょう。
犬が心臓病になってしまったときに普段の生活で気をつけることは?
心臓病と診断された場合は、散歩や食事など、日常のちょっとしたことで注意する必要があります。
散歩の仕方に注意
心臓病がある場合,症状が軽度の場合、日常通りの散歩でも問題ありませんが、心臓が大きくなった場合や心不全を発症してしまった場合は、リードをつけて全力疾走しないようしながら散歩させます。ドッグランなどで遊ばせたい場合は、あまり長い距離を走らせず、休憩をはさんで様子を見るようにしましょう。また、過剰な興奮状態にならないよう、ずっと吠え続けたり、他の犬に吠えられたりするような環境は避けましょう。
トリミング後のドライヤーに注意
心臓病の犬はトリミングで心不全を起こしてしまうことがあり、左心房の血圧は特に耳元にドライヤーをあてることで上昇することが分かりました。そのため、頭はタオルドライなどの方法がおすすめです。
食事の塩分に注意
犬には塩分の感受性がないため、食事で血圧があがることはほとんどありません。しかし、人よりも必要な塩分量が少ないため、塩分が制限された食事や手作りの場合は塩を加えないといった配慮が必要です。ただし、最低限のカロリー摂取は必要ですので、逆に食事自体を制限してしまうと症状が悪化することがあります。
犬の心臓病を予防、早期発見するためにできることは?
心臓病の予防はなかなか難しいのが現状です。遺伝性の病気は繁殖に用いないことが一番の予防になりますが、心不全の予防としては「過度な興奮を避ける」「人の食事を与えない」「点滴が必要な場合はゆっくりと行う」などという方法があります。
フィラリア症は特に本州以南では通年での予防が望ましく、予防薬を定期的に飲ませるようにしましょう。先天性の心臓病は動物病院での検診が重要ですが、後天性の心臓病の場合は家族の気付きも重要です。よく寝ている、疲れやすいなどの症状は加齢以外が原因のこともあるため、気になる症状が出たら動物病院に行くようにしましょう。
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