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バーニー動物病院千林分院分院長。ペット薬膳管理士、中医学アドバイザー。動物病院でペットの診療にあたる傍ら犬猫の手作りご飯教室や問題行動のカウンセリングを行う。
ゴールデンウィークが明けた頃から、なんとなく気力が下がり、体のだるさを感じる「五月病」。五月病は医学的な病名ではありませんが、経験がある人もきっと多いはず。実は、犬にも五月病のような症状があるのをご存知でしょうか。この記事では、犬の五月病について、その症状や対処法などを、バーニー動物病院千林分院 分院長の堂山有里先生監修のもと詳しく解説していきます。
目次
- そもそも五月病とは?
- 犬も五月病になるの?
- 犬が五月病になる原因は?
- 犬が五月病になった場合の症状は?
- 犬が五月病になった場合の対処法は?
- 犬が五月病にならないための対策は?
- 愛犬が五月病になった場合、動物病院に連れて行った方がいい?
そもそも五月病とは?
やる気が出ず、食欲も下がり、疲れやすくなったり眠れなくなったり。こうした症状が5月のゴールデンウィーク明け頃から見られるのが「五月病」です。五月病は医学的な病名ではありませんが、たくさんの方が経験したことがあるのではないでしょうか。五月病の主な原因は、環境の変化などによるストレス。さらに、「春」という季節も大きく関係しています。
漢方などの中医学では、春は「肝」の季節。「肝」とは、感情のコントロールや自律神経の働き、血の巡り、気の流れなどの機能と関係するものです。4月になって新しい環境に身を置くことで、緊張や疲労が過度になることは、「肝」を消耗して弱らせます。そのため、精神不安定、気力低下といったいわゆる「五月病」の症状が現れると考えられているのです。
犬も五月病になるの?
犬も五月病のような症状が見られることがあります。5月など、季節の変わり目は犬にとってメンタルや心身の不調が出やすい時期です。そのため、気力の低下が見られたり、なんとなく落ち着きがなくそわそわしたり、不眠になったりなどの症状が見られるでしょう。
そもそも人間の五月病は、年度変わりが4月であることや、ゴールデンウィークが5月初めにあることが関係しています。ただ、犬にとって、年度やゴールデンウィークは関連がありませんので、5月が体調不良に直接的に関わりがあるとは必ずしも言い切れません。しかし、「犬は飼い主の状態を映し出す鏡」とも言われます。飼い主が5月を迎えて情緒不安定になっている時、犬の情緒にも影響を与えることがあるのです。5月頃に犬の体調不良が見られる場合には、飼い主自身の心身状態にも注意するとよいでしょう。
犬が五月病になる原因は?
犬に五月病のような症状が見られる原因として、以下のようなことが考えられます。
環境の変化
新年度になると、一緒に暮らしていた家族が就職や進学で家からいなくなって家族構成が変化したり、引っ越しで住まいが変わったりと環境の変化が起こりがちです。こうした環境の変化が犬にとってストレスになることがあります。
気温の変化
春から初夏にかけては、気温の変化が大きく、体温調節が難しい季節です。体温調節は自律神経によって行うので、この季節は自律神経をフル活動することで体内の恒常性を保とうとします。しかし、あまりに激しい変化は自律神経を消耗させて体調不良を引き起こすことも。
家族の状態
犬は飼い主の心の変化を敏感に感じ取ります。飼い主が不安そうだったり、気持ちが落ち込んだりしているのを見ると、犬も元気がなくなることがあります。
犬が五月病になった場合の症状は?
犬が五月病になった場合の症状は以下の通りです。5月などの季節や環境の変わり目には、このような症状が出ていないか、愛犬の様子をよく見てあげてくださいね。
犬の五月病の症状
- 軟便・下痢になる
- 食欲がない
- 嘔吐
- 震え
- 呼吸が浅く速くなる(パンティング)
- 散歩に行きたがらない
- いつも以上に吠えたり唸ったりする
- 飼い主の手足をいつも以上に舐める
- 粗相、家具やペットシーツをかじる、自傷行為などの問題行動
- 眠りが浅くなる
犬が五月病になった場合の対処法は?
犬に五月病のような症状が見られた場合、不安にならず以下のような対処法を取ってみてください。
エネルギーを発散する
長めの散歩などの適度な運動は、血や気の巡りを良くし、凝り固まった心と体をほぐします。また、適度な運動は脳内物質「セロトニン」を増やすことが知られています。セロトニンは増えるとストレス耐性ができるので、不安感や抑うつ感などに囚われにくくなるでしょう。ただし、エネルギーを使い過ぎると、逆に気力が湧かなくなるという副作用も。運動レベルは飼い主も犬も快適に感じる程度にしておくことが大切です。
睡眠をしっかり取る
脳と体を休めるためには、良質の睡眠が重要です。実は、睡眠の質を上げることにも役立つのが、セロトニン。セロトニンが少なくなると、睡眠に導いてくれる脳内物質「メラトニン」も減少します。セロトニン分泌量を増やし、眠りをより深く、寝つきをより良くするよう努めましょう。
腸内環境を整える
セロトニンは大部分が消化管(腸)に存在するので、腸内環境を整えることが、セロトニン増加につながります。「腸は第二の脳」と呼ばれ、精神活動と大きく関わるのもこのためです。
トリプトファンの含まれる食材を与える
セロトニンの材料となるアミノ酸「トリプトファン」を多く含む食材を、犬に食べさせるのも良いでしょう。具体的には、カツオやマグロ、チーズなどの乳製品、納豆や豆腐などの大豆食品、ナッツ類、バナナなどが挙げられます。アレルギーなども考慮しながら、愛犬が取りやすい食材を選び、いつもの食事にトッピングするのがおすすめです。
コミュニケーションをたくさん取る
飼い主とコミュニケーションの取れている犬はメンタルも安定しやすいです。なぜなら、大好きな人とのふれあいや関わり合いは、犬の幸福感や安心感を生み出すためです。ただし、心配のあまり四六時中かまい過ぎると犬も疲れてしまうので、様子を見ながら、時には適度な距離を取りましょう。
犬が五月病にならないための対策は?
犬の体調が悪そうだと、飼い主も心配になりますよね。そこで、犬が五月病にならないためには以下のような対策がおすすめです。
日光を浴びる
人間の場合、毎朝起きてすぐ15~30分、太陽の光を浴びることでセロトニンが増えると言われています。セロトニンはストレスに対して効果があると言われており、犬でも同様の効果が期待できるでしょう。
日頃からスキンシップをする
犬にとって、飼い主とのスキンシップは何よりのストレス解消になります。実際犬が人に撫でられているとき、幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンが犬にも人にも分泌されるそう。さらには、犬と人は目が合うだけでも、オキシトシンの分泌が互いに増加することも知られています。
日頃から様子をよく観察する
心や体の不調が本格的になる前に、不調のサインを早く見つけて対処することが予防になります。まずは普段から愛犬の様子をよく観察し、健康時の状態を把握しておきましょう。フードを食べる勢い、散歩中の歩く速さ、目の輝きや便の状態などは、とくに不調のサインが現れやすいポイントです。
愛犬が五月病になった場合、動物病院に連れて行った方がいい?
食欲不振や気力低下は五月病に限らず、病気のサインです。まずは動物病院に連れて行き、重大な疾患の可能性がないかを診てもらいましょう。ただし、自律神経の乱れなどが原因となる症状は、一般的な検査には異常として現れないこともあります。その場合はゆったり過ごし、ストレスケアをすることで体調が改善するかどうか見てあげましょう。動物病院の受診が必要な症状としては、以下の通りです。
動物病院に連れて行った方が良い症状
- 食欲不振
- 軟便または下痢
- 嘔吐
- 震え
- 呼吸が浅く速くなる(パンティング)
- 散歩に行きたがらない
- いつも以上に吠えたり唸ったりする(※)
- 飼い主の手足をいつも以上に舐める(※)
- 問題行動(粗相、家具やペットシーツをかじる、自傷行為など)(※)
(※)これらの症状は、行動診療科の診察が適切でしょう。一般的な動物病院で身体的異常がとくに見つからなければ、行動診療科に相談してみてください。