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日・米・英にて行動診療やパピークラスを実施する動物行動コンサルティングはっぴぃているず代表。日本でまだ数十名しかいない獣医行動診療科認定医として幅広く活躍。
犬がペロペロと飼い主の手を舐める様子はとても可愛いものですよね。ですが、このような犬の舐めるという行為にはどんな理由があるのでしょうか? 今回は、動物行動コンサルティングはっぴぃているず所属の獣医師、フリッツ吉川綾先生に教えていただいた、犬が飼い主の手を舐める理由や舐めるときの注意点、やめさせ方などを解説していきます。
目次
- 犬が飼い主の手を舐める理由は?
- 舐める場所によって犬が伝えたいことは違う?
- 犬が飼い主の手を舐めるときの注意点は?
- 犬に舐められることで人に感染する病気はある?
- 犬の舐めぐせをやめせる方法は?
犬が飼い主の手を舐める理由は?
犬が飼い主の手を舐める理由は、大きく分けて2つあります。1つは友好的な理由の場合。もう1つはストレスを感じている場合です。それぞれどんな特徴があるのか見ていきましょう。
【友好的な理由の場合】
コミュニケーションのひとつ
精神的にも身体的にもリラックスした状態で、母犬が子犬を舐めるように優しく舐めることが多いです。
飼い主の気をひきたい
かまってほしい、遊んでほしいなどの催促として手を舐めます。優しく声をかけたり要求に応じたりすることで、より多くの場面で見られるようになるでしょう。
【ストレスを感じている場合】
友好的な理由の場合との見分け方は、ただ手を舐めるのではなく、顔や体を緊張させて耳を後ろにひくなどのストレスサインも示されることです。舐め方も早かったり激しかったりします。恐怖や不安が強いと少しだけ、こそっと舐めることもあります。
リラックスしようとしている
犬は同じ動作を繰り返すことで落ち着くため、信頼する飼い主の手を繰り返し舐めることでリラックスしようとすることもあります。
相手を落ち着かせようとしている
叱られた場合や相手が興奮している場合では、敵意がないことを示す行動として舐めることがあります。このことで相手との争いを避け、結果として相手を落ち着かせる効果があるのでしょう。
やめてという気持ちのサイン
自分や相手を落ち着つかせるために舐めるように、犬は嫌なことや怖いこと、不快なことがあるなど、心理的なストレスを感じた時に舐める行動を繰り返します。自分と相手をしずめる効果が得られるからでしょう。
【その他の場合】
食べ物や他の動物の匂いがついている
友好的な理由の場合やストレスを感じている場合以外に、飼い主の手に食べ物や他の動物の匂いがついていることも多いです。その気になる匂いを舐めて、確認することがあります。
舐める場所によって犬が伝えたいことは違う?
手以外の場所を犬が舐めることもあります。舐める場所によって犬が伝えたいことは違うのでしょうか。手以外の場所を犬が舐める場合の理由をそれぞれ見ていきましょう。
飼い主の足を舐める理由
特に足を狙っているわけではなく、犬の視線上、目の前に人の足がくることは多いでしょう。そのため、様々な理由で犬が舐めたい状況になったときに、目の前の足を舐めると考えられます。
飼い主の顔や口を舐める理由
オオカミなど野生のイヌ科の動物は、服従心を示すために相手の顔を舐めることがあります。犬も相手との争いを避ける手段として低姿勢で近づき、相手の口の周辺を舐めることがあります。
飼い主との関係の中では、上下関係を築かないとされるため、服従を表すとは考えにくいですが、叱られた後などに飼い主を落ち着かせようと舐めることはあるでしょう。また、離乳期の子犬は、母犬に食べ物をねだる際、口周りを舐めることがあります。もし、要求のために飼い主を舐め、その要求が叶えられた経験があれば、おねだりの行動として定着することも考えられます。
犬自身の体を舐める理由
一般的に多いのは正常なグルーミング(毛繕い)の行動です。犬は自分の体を舐めることで体についた埃などを除去し、体を清潔に保ちます。しかし、皮膚が赤くなったり、脱毛したりするような場合には、皮膚に痒みや不快や違和感があるなど、身体的な問題が関連しているかもしれません。また、不安や恐怖、退屈などの心理的なストレスによっても体を舐めることがあります。
犬同士で舐め合う理由
敵意のない関係の中では、相手を舐めることがあります。特に同居している犬どうしでは、飼い主に対する友好的なコミュニケーションと同じように示される行動でしょう。
床や物を舐める理由
一般的なのは、匂いや味の確認のためです。食べ物をこぼした際など、人間の気づかないようなわずかな匂いでも犬は察知することができます。それ以外には、胃腸の調子が悪い場合にも見られることがあるので、食欲減少や嘔吐、下痢などの症状があれば動物病院へ行くことをおすすめします。さらに、恐怖や不安、退屈などの心理的なストレスが関連することもあります。
犬が飼い主の手を舐めるときの注意点は?
犬が飼い主の手を舐める行動はやめさせたほうが良いのでしょうか? また、飼い主が気をつけるべきことを見ていきましょう。
基本的には手を舐めさせない
特に手に傷がある時などには、犬も飼い主も細菌感染やそれを摂取してしまうリスクが増すのでやめましょう。また、お年寄りや子供、体調を崩している場合など、免疫力が低下している可能性のある場合には、感染のリスクを避けるためにも舐めさせないようにすることが大切です。
舐められる前も舐められた後も手を洗う
人の手には犬にとって有害なものがついている可能性があります。犬が舐めてしまうと心配な場合には、舐められる前に手を洗っておくようにしましょう。また、犬は排泄物や肛門周辺など、人は口にしないような汚い物を舐めることも少なくありません。犬から人へうつる病気もあるので、犬に舐められたら手洗いを徹底しましょう。
家族以外の人の手を舐めさせない
犬が手を舐めることは、犬と人の両方に病気などのリスクがあることから、家族以外の人の手は舐めさせないようにしましょう。もし、舐めてしまった場合には、すぐに手洗いを促してください。
ハンドクリームにも注意!
ハンドクリームは防腐剤や油、アルコールなど多くの成分を含んでいます。そもそも、犬に舐められることを想定して作られた物ではありません。匂いや味があるためか、舐めたがる犬も多いのですが、舐めさせないように注意しましょう。どうしても難しい場合は、ハンドクリームの含有成分を確認し、天然素材のみを使用したものを選ぶなど、犬に害がある成分が含まれていないかを確認しましょう。
犬に舐められることで人に感染する病気はある?
犬に舐められた際に、菌をもらってしまい、感染しやすい病気が「パスツレラ病」です。犬の約75%が口腔内常在菌として保有している人獣共通感染症で、皮膚の化膿が主な症状ですが、呼吸器症状を引き起こすこともあります。免疫力が低下している場合や基礎疾患がある場合などは重症化し、敗血症や髄膜炎などで死に至る例も報告されているため、注意が必要です。
犬の舐めぐせをやめせる方法は?
犬が飼い主などの手を頻繁に舐めるのをやめさせるにはしつけが必要です。どのようにすればよいのか見ていきましょう。
子犬期から舐めさせる癖をつけない
飼い主を舐めることで犬の要求が満たされると学習してしまうと、成長してからもこの行動が定着してしまいます。子犬期や飼い始めたときから、舐めることを許さないようにしましょう。
すぐに舐められたものをよけ、その場から立ち去る
多くの犬は、舐めることで要求が満たされた経験から、その行動が定着していきます。犬に舐められたら手を上にあげる、その場から立ち去るなどして、舐め続けさせないようにしましょう。その際、舐めることに反応すると、犬の要求に応えてしまう可能性があるため、声をかけたり、触ったりはしないように注意してください。
ストレスの原因を取り除く
ストレスの原因が明確である場合はそれを取り除きましょう。犬が安心できる、快適な環境を用意するなど、動物福祉の指標である5つ自由「飢えと渇きからの自由」「不快からの自由」「痛み・傷害・病気からの自由」「恐怖や抑圧からの自由」「正常な行動を表現する自由」を満たせるよう、日々の愛犬との生活を見直してみましょう。
犬の欲求を満たし、より快適な環境作りをする
愛犬を幸せにするためには、愛犬の心理的・身体的な欲求を十分に満たすことが基本となります。そこで、飼育動物の立場から飼育環境を考えるための「環境エンリッチメント」という概念があります。この概念には大きく分けて「空間」「採食」「社会」「感覚」「認知」の5つの基準があり、それぞれの基準に沿って犬の飼育環境を見直すことで、幸せで快適な暮らしの実現につながるでしょう。
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