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日・米・英にて行動診療やパピークラスを実施する動物行動コンサルティングはっぴぃているず代表。日本でまだ数十名しかいない獣医行動診療科認定医として幅広く活躍。
低気圧が近づくと、頭痛がしたり体がだるく感じたりすることがありますよね。「犬も低気圧の影響を受けているかも」と思ったことはありませんか? 実際に犬は低気圧によって体調に影響を受けるのか、気圧の変化のよる体調不良や対処法などについて、動物行動コンサルティングはっぴぃているず所属の獣医師、フリッツ吉川綾先生に解説いただきます。
目次
- 犬も低気圧の影響を受けることがある?
- 低気圧の影響を受けやすい犬の持病は?
- 低気圧の影響を受けている犬の行動とは?
- 低気圧による犬の不調にどうやって対処すればいい?
- 低気圧の時に散歩に行っても大丈夫?
犬も低気圧の影響を受けることがある?
人に個人差があるように、犬の場合も気圧の影響を受ける犬とそうでない犬がいます。そもそも低気圧による体への影響は、内耳にある気圧センサーを通じて自律神経が乱れることによる考えられています。しかし、気圧の変化は、気温や湿度、天候、雨音、風の強さといった気圧以外の変化も伴うもの。そのため、犬の体調に影響しているのが低気圧そのものなのか、気圧以外の変化なのかがはっきりと分からない場合も多いです。
雷や大雨が苦手な犬は多く、嵐の接近に伴ってストレスの指標となる「コルチゾール値」が増えるという報告があります。中には、人よりも早く天候の変化を察知して普段と異なる行動をとる場合も。低気圧や急な天気の変化が予想される日は、いつも以上に注意深く犬の行動を観察してみてください。愛犬に行動の変化がみられたら、いつ頃からどのような変化があったのかを記録しておくといいでしょう。
気圧の影響を受けやすい犬には、以下のような特徴があります。
不安になりやすい犬
日頃から大きな音を怖がったりさまざまな刺激に過敏に反応したりする犬は、気圧の変化による影響も受けやすいと考えられます。台風を怖がる犬の場合は、飼い主様の後をついて歩いたり、掃除機やドライヤーなどの生活音に対して逃げたり隠れたりするなど、普段から不安や恐怖からくる行動がみられることも多いです。
疾患や痛みがある犬
脊髄空洞症やてんかんなどの持病がある犬は、気圧の変化によって症状が出たり体調を崩したりすることがあります。関節炎などの慢性的な痛みを持つ犬も、気圧が変わることで痛みが悪化すると言われています。
低気圧の影響を受けやすい犬の持病は?
下記の持病がある犬は、気圧の変化に影響を受けやすいので注意しましょう。
てんかん
脳内で異常な電気信号が生じることで痙攣、体の一部の引きつり、体や顔のこわばり、暴れるなどさまざまな症状が表れます。てんかんを持つ犬は多く、そのうち1割ほどが気圧の変化による影響を受けると言われています。気圧が上がったり下がったりする過程や気圧が下がりきったときなど、発作を起こしやすいタイミングはさまざまです。
水頭症
脳の周りや脳室にある「脳脊髄液」という水が異常に溜まってしまい、脳が圧力を受けることで引き起こされます。主な症状は、痙攣発作、意識障害、麻痺、嗜眠(しみん/強い刺激を与えないと目覚めて反応しない状態)、元気や食欲がなくなるなど。気圧が急に下がると脳圧が上がり、症状が悪化しやすくなります。
脊髄空洞症
脳脊髄液の流れが変化したことにより、脊髄の中に液体が溜まって空洞ができます。症状は空洞ができた場所と広がり具合によって、無症状から重度の麻痺までさまざまです。痛みや不快感から首を掻きむしるほか、歩き方が不自由になったり元気や食欲がなくなったりします。
関節炎など慢性の痛みがある犬
気圧が下がることで血管が広がったり関節包が膨らんだりすると、その周りの血管や神経が圧迫されて痛みが悪化すると考えられます。
腎臓に疾患がある犬
腎臓が悪い犬は、水をよく飲む、おしっこの回数や1回の量が多い、食欲が低下する、痩せるなどの症状がみられます。低気圧によって血管が膨張し血流が滞るため、血液のろ過作用がうまく働かず体に毒素が溜まりやすくなります。
雷(雷雨)恐怖症の犬
雷恐怖症の犬は、雷が来る前の変化を覚えていきます。雷雨の前ぶれとして低気圧を察知すると、低気圧に対しても恐怖反応を示すようになります。初めのうちは雷や雨の大きな音が鳴っている時だけ怖がっていた犬が、空が薄暗くなったり遠くに稲光が見えたりするだけで反応するようになることも多いです。
低気圧の影響を受けている犬の行動とは?
下記のような行動をしていたら、気圧の影響を受けているサインかもしれません。
・いつもより大人しい
・甘える、飼い主の周りをついてまわる
・普段活動している時間に寝ている
・いつもと違う場所で寝ている
・暗いところや狭いところでじっとしている
・落ち着きなくハアハアしている、行ったり来たりしている
・イライラしている
・食欲がない
・室外でリードを引いて家に引き返そうとしたり、動かなくなったりする
・クンクンと鳴く
・よだれが出る
・パニック、破壊行動
ただし、これらの行動の変化がみられたときに飼い主が、疾患によるものか、恐怖や不安からくる問題行動によるものかを判断することは難しいでしょう。気圧の変化の他に考えられる原因がない場合は、これらの行動をしていてもしばらく様子を見て大丈夫です。
丸1日以上症状が続く場合や、激しい下痢、パニックになってケガをしたなど深刻な症状があるときは、かかりつけの動物病院に問い合わせ、天候が落ち着いたタイミングで受診してください。
低気圧による犬の不調にどうやって対処すればいい?
まずは、日頃から犬が安心できる居場所をいくつか作ってあげましょう。飼い主の姿がよく見える場所、暗くて一人で過ごせる場所、窓から遠くて外の音が聞こえにくい場所などが望ましいです。また、クッションやベッドだけでなく、クレートやケージのように周りが狭く囲われた場所もあるとより良いでしょう。犬が自由に使える居場所として尊重し、そこで犬がくつろいでいるときは邪魔しないようにしてください。低気圧時は、犬が心身の状態に合わせて自分で選んだ場所で過ごせると良いでしょう。
また、飼い主が犬の行動をよく観察して記録することも大切です。このときに心配そうに見つめ続けたり、なだめる、むやみに触ったりといったことはせず、明るく穏やかに、いつも通りに振る舞ってください。低気圧が過ぎて犬の症状が落ち着いたら、観察記録を持って動物病院を受診し、今後の対策を相談してみてください。
低気圧の時に散歩に行っても大丈夫?
低気圧時に体調不良の犬は、無理に散歩に連れ出さないでください。犬が散歩に行きたがっているときは、以下のポイントに気をつけて連れて行ってあげましょう。
・雨よけグッズを使う(レインコートなど)
・雨や風の弱まるタイミングで行く
・雨や風が吹き込まないコースを選ぶ
・いつもより短時間にする
・車通りが多い場所は避ける
・散歩後は体をよく乾かす
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。
第2稿:2021年8月15日
初稿:2021年6月5日