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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
愛犬が震えていると、寒がっているのかそれとも病気などの体調不良のサインなのか飼い主としては心配になってしまいますよね。今回は、chicoどうぶつ診療所の所長である林美彩先生に、犬が震える原因や対処法、病院へ連れていくべき危険な症状などについて解説していただきます。
目次
- 犬はなぜ震えるの?
- 生理的な理由が原因の犬の震えの症状と対処法は?
- 病気やケガが原因の犬の震えの症状と治療法は?
- 精神的な理由が原因の犬の震えの症状と対処法は?
- 震えが起きやすい犬種は?
- 病院に行くべき犬の震えとは?
- 犬の震えを予防するには?
犬はなぜ震えるの?
私たち人間も寒さが厳しいときや排泄の後、そして発熱したときなどには震えることがありますよね。それと同様に、犬も生理的な理由や、病気やケガといった原因から震えることがあるのです。シニア犬の場合には筋力が低下していることも、理由としてあり得るでしょう。
犬の震えの原因は大きくわけて3パターンあり、生理的な理由が原因の震え、病気が原因の震え、そして精神的な理由が原因の震えがあります。3つ目の理由である心理的な要因には、ストレス、恐怖心、警戒心、神経症状、ホルモンの異常、甘えなどが考えられます。
震えの原因によって対処法や治療法が異なるため、まずは原因をしっかりと探ることが大切です。それぞれ詳しく見ていきましょう。
生理的な理由が原因の犬の震えの症状と対処法は?
生理的な理由が原因となる犬の震えには、以下が挙げられます。
【生理的な理由による犬の震え】
・寒さ
生理現象として体中の筋肉を細かく動かして熱を発生させようとするため、震えが起こります。犬が寒さから震えているときには、室温を温かくしたり洋服を着せたりすることで、落ち着きやすくなります。
【犬が寒がっているサイン】
・震えている
・飼い主とくっつきたがる
・暗いところ、狭いところに入る
・水を飲む量が減る
上記のようなサインが見られた場合は犬が寒がっている可能性があると判断してよいでしょう。
・排泄
排便をするときにいきむことで震えが起こったり、トイレに行きたいのを我慢していたりするときに震えることがあります。いきみによる震えは筋力トレーニング、我慢による震えはトイレの環境をよくすると、震えが改善できます。
・加齢による筋力の低下
加齢とともに筋肉が落ちると、踏ん張りがきかず、震えているような状態が見られます。改善や予防には、坂道や砂浜などを散歩したり、自宅内ではバランスボールなどを利用したりするなどして、筋力アップやキープを目指すとよいでしょう。食事でタンパク質を多く摂ることが推奨されますが、病気などでたんぱく質摂取が制限されている場合には、サプリメントで必須アミノ酸BCAAなどを追加するのがおすすめです。
病気やケガが原因の犬の震えの症状と治療法は?
犬は病気やケガが原因で震えることがよくあります。原因となる病気によって症状や治療法が異なりますので、犬がどんな様子かしっかり確認しましょう。
【脳障害による犬の震え】
・てんかん
てんかんは脳障害ではありますが、脳の構造そのものは正常で、機能にのみ異常が起こっている状態です。小さな発作から全身的な発作まで、多種多様な震えや痙攣が起こります。投薬による治療で、発作の頻度を減らしていきます。サプリメントなどで、神経の流れを整えることも有効でしょう。
・水頭症
脳脊髄液が正常量以上に貯留し脳に障害を起こす水頭症も、犬の震えの原因となります。脳脊髄液が圧迫している個所によって症状が変わり、震え以外には発作や行動異常、神経障害、視力障害などが起こります。チワワやシー・ズー、ポメラニアンなどによく見られます。治療は、内服薬を使用して脳脊髄液の貯留を抑えます。
・脳炎
脳炎にかかると、けいれん、震え、旋回行動などが起こります。脳炎の中には「パグ脳炎」や「壊死性白質脳炎」などが含まれます。脳炎になる原因は不明で、遺伝的素因が影響しているといわれており、短頭種で見られやすい傾向にあります。抗けいれん薬やステロイドなどを使用して治療を行いますが、完治は難しいとされています。中には安楽死を選択するケースもあります。
・脳腫瘍
腫瘍が脳を圧迫する脳腫瘍によって、発作、震え、ふらつき、神経異常などが起こります。外科的処置を行う他、抗がん剤などの内服薬で治療をします。
【中毒症状や低血糖による犬の震え】
・中毒症状
薬品や細菌、食べ物などによって中毒を起こすと、震えが生じます。中毒の原因によって対処法・治療法も異なります。
・低血糖
震え、元気消失、ふらつきが起こります。子犬と成犬では原因と対処法が異なります。
子犬の場合、栄養吸収不全や空腹などが原因で低血糖になります。食事の回数を増やす他、緊急時には砂糖水やシロップなどを与えて対応します。
成犬の場合、アジソン病や重度感染症、インスリノーマ、肝臓腫瘍などが低血糖の原因となることがあります。その他にも、糖尿病の治療で使用しているインスリン量が適正でないと、低血糖に陥ることも。低血糖の原因が疾患の場合には疾患の治療を行い、緊急時には砂糖水やシロップを与えます。
子犬の場合も成犬の場合も、意識がはっきりしていないときに砂糖水やシロップを無理やり飲ませると、誤嚥性肺炎などを引き起こす可能性もあります。数滴ずつ垂らしたり、歯茎に塗ったりするなどして対処してください。
【代謝や排泄をする臓器の機能障害による犬の震え】
・腎機能不全
腎機能不全(腎不全)も犬の震えの原因になります。腎臓からの老廃物排泄が滞ることで尿毒症となり、毒素が影響して体に震えやけいれん、嘔吐、下痢などが生じます。治療法としては、腎不全に準じた治療を行います。
・肝機能不全
肝機能不全(肝不全)によってデトックス臓器である肝臓の機能が低下すると、全身に毒素が溜まります。腎不全同様、溜まった毒素が影響して震え、食欲不振、元気消失などが起こります。肝臓に対する治療を行うことで、震えが落ち着くことがあります。
【痛みによる犬の震え】
・椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアになると、 震えの他、鳴いたり動きが鈍くなる、動かなくなるなどの症状が見られます。症状が進行すると麻痺となり痛みを感じなくなることから、震えが止まるケースも。シニア犬や、ダックスフンドやコーギーなどの胴が長い犬種や、短頭種に起こりやすい病気です。治療には手術を行う他、鍼灸で緩和治療をしたり、内服薬で様子を見たりすることもあります。
・脊髄の疾患
脊髄にできた腫瘍が神経を圧迫することで痛みが生じ、震えが起こります。シニア犬の場合は脊椎の変形が見られることから可動域が狭くなり、痛みから震えることもあります。治療法として、原因が腫瘍の場合は手術や緩和治療が行われます。脊椎の変形が原因の場合は、鍼灸や内服薬、サプリメントなどでの緩和治療が行われます。
・ケガ
ケガの痛みから震えが生じることは十分考えられます。治療には、怪我に対しての処置を行う他、痛み止めなどを使うなどして震えを抑えます。
精神的な理由が原因の犬の震えの症状と対処法は?
犬の震えの原因が精神的な理由の場合、改善には飼い主の寄り添いが特に必要となるようです。
【精神的な理由による震え】
・恐怖心や警戒心
不安や緊張といった理由から、犬は震えることがあります。震えの原因となるものを遠ざけ、自分で身を守れるような場所(テリトリー)を用意してあげると、震えが消えて落ち着くこともあります。飼い主が寄り添ってあげることで落ち着くケースもあります。
・ストレス
環境の変化(引っ越しや来客など)がストレスとなり、犬は震えることがあります。あらかじめ犬が落ち着ける場所を用意してあげることで改善しやすくなります。ペットホテルなどに預けるときや、引っ越しで新たな場所での生活が強いられるときは、犬自身や飼い主さんの匂いがついたタオルなどを入れておくとストレス軽減につながることもあります。
・経験(学習)
あまり多くはありませんが、以前に何かが刺激となって震えた経験があると、再度同じ状況になったときに震えが生じる犬もいます。対処法として、飼い主がなるべく寄り添ってあげるとよいでしょう。
震えが起きやすい犬種は?
チワワは特に震えが起きやすい犬種です。遺伝的な理由で寒さに弱いため、他の犬種に比べると震えが見られやすい傾向にあります。水頭症も起こしやすい犬種なので、水頭症による震えが起こる可能性もあるでしょう。
寒さに弱く震えが起きやすい犬種には、チワワ以外にも次のような犬種が挙げられます。
【寒さに弱く震えが起きやすい犬種】
- トイ・プードル
- ヨークシャー・テリア
- イタリアン・グレーハウンド
- フレンチ・ブルドッグ
- ミニチュア・ピンシャー
病院に行くべき犬の震えとは?
犬が震えているときにすぐに病院へ連れて行くべきかどうか、見極めるポイントをご紹介します。
ひとまず様子見でも大丈夫な犬の震え
犬が震えているとき、まずは元気や食欲があるかをチェックしてください。それに加えて歩行にも問題がないときには、ひとまず自宅で様子を見てもよいでしょう。痛みがあったり病気が隠れていたりする場合には、犬に元気や食欲がなく、歩行に問題が出るケースが多いからです。
すぐに病院へ連れて行くべき犬の震え
犬が震えているとき、動かず触っただけでキャンと鳴く場合には、すぐにかかりつけの病院で相談しましょう。他にも、震えのレベルがけいれんにまで達しているときや、意識障害が起きているときは、かなり危険な状態ですので、すぐに病院へ連れていってあげてください。
犬の震えを予防するには?
犬の震えを予防するにはどのような方法をとるのが良いのでしょうか。震えの原因別にその予防方法を見ていきましょう。
恐怖心や警戒心、ストレスによるもの
まずは、ストレスとなるものを排除するのが予防に繋がります。雷など自然災害によるものの場合であれば防ぎようがないので、普段から精神安定を図るようなハーブやオイルなどを使っておくのも良いかもしれません。
筋力低下によるもの
日頃のたんぱく質摂取量の見直しやマッサージ、坂道を上るなどの筋トレをするのが良いと思います。
脳障害によるもの
すでに障害が起きてしまっているので、それに対しての治療や、EPA/DHAサプリメントを取り入れて脳の炎症をケアするのも良いと思います。
痛みによるもの
鎮痛剤などを使う、炎症がなければ温めてあげるなども良いと思います。
寒さによるもの
外出する時は洋服を着せたり、室内でも犬用腹巻きを着用させたりしてもよいでしょう。飲み水を温めてから与えるのもおすすめです。また、洋服に頼り切るのではなく、普段からしっかり運動させて筋肉をつけて寒さに強い体をつくることも必要です。
第6稿:2021年11月19日更新
第5稿:2021年8月19日更新
第4稿:2021年4月15日更新
第3稿:2021年1月27日更新
第2稿:2020年10月9日更新
初稿:2020年5月11日公開
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