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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
犬と一緒にベッドで寝たら熟睡できた!という経験はありませんか? 実は近年、「女性の飼い主はパートナーと寝るより、犬と一緒に寝たほうが熟睡できる」という興味深い研究結果が報告されているのです。この記事では、女性の飼い主が犬と一緒に寝ると熟睡できる理由や、犬と一緒に寝る際の注意点、犬と一緒に寝る際に必要なしつけなどを、動物行動学を研究する獣医師の茂木千恵先生監修のもと、詳しく解説していきます。
目次
- 女性は犬と一緒に寝たほうが熟睡できる?
- 猫や人間のパートナーではダメ?
- そもそも犬と一緒に寝ることは良いこと?
- 犬と一緒に寝る際の注意点は?
- 犬と一緒に寝るために必要なしつけは?
女性は犬と一緒に寝たほうが熟睡できる?
アメリカのカニシャス大学とオーストラリアのセントラルクイーンズランド大学の研究者の(※1)によると、女性は同じベッドで一緒に睡眠をとるなら、人間よりも犬と寝るほうが熟睡しやすいそうです。この研究では、12人の成人女性(平均 50.8歳)とその飼い犬のペアが、平均10泊分の実験に参加。寝ている間、女性は手首に付けた活動量計「アクチグラフィー」で覚醒リズムを記録し、ビデオカメラでも女性と犬の動きを記録して、女性からは主観的な睡眠日誌も集めました。その結果、「犬によって睡眠を妨害された」と答えた女性はほとんどいなかったのです。
さらに、同大学が過去に行った、アメリカの成人女性962人を対象にしたオンライン(※2)でも、「同じベッドで寝ている犬は、一緒に寝ている人間のパートナーよりも女性の飼い主の眠りを妨害することが少ない」というアンケート結果が出ています。
女性が犬と一緒に寝た方が熟睡できる理由は?
女性は誰かと一緒に眠ることで睡眠の質に影響を受けやすい傾向があるそうですが、研究の中で、「犬と寝ることによって熟睡できる」と感じたのは、当然かもしれません。なぜなら、はるか昔から、人間と犬は共に生きてきて、人間は本能的に犬の存在を受け入れるよう進化してきたとも考えられているためです。もともと犬は、人間が狩猟生活を営んでいた時代から、寒い夜にくっつくことで人間を温めたり、野外の猛獣に吠えたりすることで人間を危険から守るなど、人間のパートナー的な存在だったのです。
また、確かに女性は犬と一緒に寝た方が熟睡できるという研究結果は出ています。しかし、女性はパートナーと一緒に寝たときの心理的恩恵が、睡眠妨害などの肉体的ストレスよりも重要であるとも捉えていて、このことは犬との添い寝にも当てはまるという研究結果(※3)も報告されているそうです。
猫や人間のパートナーではダメ?
猫や人間のパートナーとの睡眠では、猫やパートナーの寝返りなどを女性が感知して、睡眠が中断されてしまうそう。すると、女性は睡眠リズムを崩されてしまい、朝を起きた時に寝不足の感覚が残ることに。一方、主観ベースのオンライン調査データ(※2)では、犬と寝ることは、「猫や人間のパートナーと寝ることよりも安心できる」と答えた女性が多数。犬が寄り添ってくれることへの安心を感じながら就寝していると考えられます。
そもそも犬と一緒に寝ることは良いこと?
犬と一緒に寝ることには人にとって良いことだと言えるでしょう。理由としては、犬が関わる活動や治療を受けた人は抑うつ症状が少ないことや、睡眠障害や心的外傷後ストレス障害の人は、犬が添い寝することで犬から精神的サポートが得られることなどの報告があるためです。さらに、人間は犬とふれあうことで、心拍数が低下してリラックスすることなども明らかに。ただし、犬と人間が一緒に寝ることには、デメリットも考えられます。犬と一緒に寝ることのメリット、デメリットをそれぞれ詳しく見ていきましょう。
犬と寝ることのメリット
犬が飼い主の匂いで安心する
一晩中、飼い主の側で寝ることで犬は安心します。犬がひとりで夜中を過ごした場合に見られる、落ち着きなくウロウロしたり、吠えたり、不安を感じたりといったことがなくなるでしょう。
飼い主は癒される
犬とふれあうと、親愛の気持ちを感じる時に分泌されるオキシトシンという脳内ホルモンが飼い主により多く出ることが分かっています。オキシトシンが分泌されると、血圧が下がってリラックス状態に入りやすくなるでしょう。
早起きになる
犬と寝ることで早寝早起きになることが知られています。睡眠スケジュールが整って健康向上に役立つことでしょう。
犬と寝ることのデメリット
事故のリスクがある
寝ている間に、悪気はなくとも、犬にぶつかって犬がベッドから落とされたり、犬を下敷きにしたりする危険があります。また、寒い冬などは、寝具に包まることで犬に窒息や骨折の危険も。もし、どちらかがケガや病気をしている時は、予想外の動きが多くなるため、別々に寝たほうが良いでしょう。
犬がひとりで寝るのが難しくなる
通常は、ペットは自分の寝床を持っているのが最善です。また、飼い主と犬がいつも密接して寝ていると、飼い主が急用で不在の時や災害時など、いざというときに別々に寝ることが困難になります。
飼い主が熟睡できない可能性がある
犬は睡眠中に動き回ったり、夢を見て吠えたり、いびきをかいたりします。これらが飼い主の睡眠の質を下げることに。特に3歳頃までの犬は精神的に幼く、おとなしく過ごすことが難しいことも考えられるでしょう。
衛生面の心配がある
犬とベッドを共有するということは、ハウスダウトやノミ・ダニなどが犬の被毛に付いてベッドに運ばれる機会が増えるということ。飼い主がハウスダストなどにアレルギーがある場合は、寝室は同じでも、犬を同じベッドで寝させないことをおすすめします。
ズーノーシス(人獣共通感染症)の恐れがある
犬のよだれや排せつ物に触れたことから、病原体が人にうつる感染症(ズーノーシス)。犬ではたいした症状が見られなくても、人が感染すると発熱、皮膚炎など重い症状となることがあります。動物病院で定期的な健康診断やワクチン接種ができている場合、ズーノーシスの危険性は下がるでしょう。
犬と一緒に寝る際の注意点は?
犬と一緒に寝ることのメリット・デメリットをきちんと理解した上で、犬と一緒に寝る際の注意点は以下の通りです。
犬や寝具を清潔に保つ
犬の被毛にはハウスダストや屋外から持ち帰る病原体などが付着している可能性も。また、犬のよだれにも有害な細菌が含まれることがあります。定期的に犬をシャンプーしたり、寝具を清潔に保つことで感染予防を心がけましょう。
寝具を洗う際は無添加洗剤を選ぶ
合成洗剤が寝具に残っていると、それが犬の健康を害する可能性があります。ペットが舐めたり顔をうずめて匂いを嗅いだりしても影響がない、化学物質が洗濯後の寝具に残らないような洗剤を選びましょう。
狭いベッドは避ける
ベッドが狭いと、就寝中に落ちたり接触したり、相手を下敷きにしたりすることが想定されます。また、その際に犬が驚いて本能的に身を守ろうとして飼い主を噛んでしまうことも。十分距離を保てる広いベッドを使うと良いでしょう。
犬は足元で寝かせる
就寝中に犬を下敷きにしてしまったりする可能性を避けるために、犬には飼い主の足元で、ベッドカバー上に寝るようしつけるのも良いでしょう。もし、犬が先にベッドに入っていたら、一旦犬をベッドから出し、飼い主がベッドに入ってから犬をのせるようにすると、下敷きにしてしまう危険を避けられます。
マットレスカバーをかける
水、汚れ、アレルギーに強い、防水仕様のマットレスカバーを使うことで、犬が毎日乗っても衛生的に使えるでしょう。
犬と一緒に寝るために必要なしつけは?
犬と安心して一緒に寝るために必要なしつけについて詳しく見ていきましょう。
トイレトレーニング
飼い主が寝ていても、犬が正しい場所で排泄できる習慣をしっかりと身に付けさせましょう。寝室の外にトイレがある場合は、外に出ることができず、排泄を我慢したり粗相したりすることも考えられます。就寝時だけでも犬用トイレを寝室に設けておくと良いですよ。
ひとりで寝る練習
飼い主といつも体が密接した状態で寝ていると、いざというときに犬がひとりで寝ることが難しくなります。そのため、同じベッドで飼い主とくっついていなくても、犬がひとりで寝られるようなトレーニングも大切です。そのためには、まず犬が乗っても良いベッドの領域を決めましょう。飼い主が寝返りを打っても犬にぶつからない場所を決めて、夜間はそこで過ごさせるように練習してみてください。
嫌がる場合は無理に一緒に寝させない
ベッドに一緒にいる人に対して犬が攻撃性を示す場合、一緒に寝ることは困難になります。これは飼い主がケガを負ったり、犬が健康を害したりする原因となるでしょう。犬が攻撃的にふるまうのは、そのほとんどの理由は不快と不安です。就寝中に不快や不安を感じると、犬自身の免疫力も低下させてしまう恐れもあるため、犬が嫌がっている場合は無理に一緒に寝かせないようにしましょう。
参考文献
(※1)Christy L. Hoffman, Matthew Browne, Bradley P. Smith Human-Animal Co-Sleeping: An Actigraphy-Based Assessment of Dogs’ Impacts on Women’s Nighttime Movements、February 11, 2020
https://www.mdpi.com/2076-2615/10/2/278
(※2)Christy L. Hoffman, Kaylee Stutz, Terrie Vasilopoulos, An Examination of Adult Women’s Sleep Quality and Sleep Routines in Relation to Pet Ownership and Bedsharing、November 13, 2018
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/08927936.2018.1529354
(※3)Linda Handlin, Eva Hydbring-Sandberg, Anne Nilsson, Mikael Ejdebäck, Anna Jansson, Kerstin Uvnäs-Moberg, Short-Term Interaction between Dogs and Their Owners: Effects on Oxytocin, Cortisol, Insulin and Heart Rate—An Exploratory Study、April 28, 2015
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.2752/175303711X13045914865385