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アメリカ獣医行動学会会員、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表。問題行動の治療を専門とし臨床に携わる。
「アニマルセラピー」とは、動物との触れ合いによって心と体に良い影響をもたらす療法のこと。高齢者施設などで、犬とお年寄りと触れ合う姿を想像する人も多いのではないでしょうか。とはいえ、具体的にどんなことをするのかは意外と知られていません。療法の種類、得られる効果など、犬によるアニマルセラピーについて、「ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets」代表で獣医師の石井香絵先生に解説していただきました。
目次
- アニマルセラピーとは?
- 動物介在活動(Animal Assisted Activity, AAA)とは?
- 動物介在療法(Animal Assisted Therapy, AAT)とは?
- 動物介在教育(Animal Assisted Education, AAE)とは?
- アニマルセラピーで得られる効果は?
- アニマルセラピーに用いられる動物は?
- セラピードッグに選ばれるのはどんな犬?
- 人と動物のふれあい活動(Companion Animal Partnership Program, CAPP)とは?
- アニマルセラピーの問題点は?
- アニマルセラピーの注意点は?
アニマルセラピーとは?
アニマルセラピーとは、人が動物たちと触れ合って行う療法のことです。動物たちとの触れ合いやコミュニケーションが、人の心を穏やかにしたり、病気の回復を向上させたり、生きる喜びを与えたりと、人の心身にとてもよい影響をもたらすことが、科学的にも証明されています。
アニマルセラピーの種類は?
動物との触れ合いを通じて行う活動は、国際的に「動物介在介入(Animal Assisted Intervention)」と呼ばれます。その目的によって「動物介在活動」「動物介在療法」「動物介在教育」の3つに大きく分けることができ、それぞれの実施形態よって、受けられる場所もさまざまです。私たちがよく耳にする言葉では「アニマルセラピー」と呼びますが、本来は「動物介在介入」が正式な名称です。
アニマルセラピーの歴史は?
アニマルセラピーの歴史は長く、最初に犬を介在させた療法が日本で取り入れられるようになったのは1900年頃と言われています。歴史を紐解くと、古代ローマ時代にはすでに馬を活用し兵士のリハビリとしてアニマルセラピーが行われていたそうです。また、1972年には、イギリスの精神障害者施設で、小動物を飼育させることで自制心を養う試みも実施されていました。
動物介在活動(Animal Assisted Activity, AAA)とは?
「動物介在活動」とは、具体的な治療目標などを持たず、生活の質の向上のために動物と触れ合う活動のことです。一般的にアニマルセラピーと言われる活動が、これにあたります。
具体的な改善目標は必要とされていませんが、動物と触れ合うことで表情が豊かになったり、ベッドから起き上がれるようになったりと、プラスの効果が見られることも多いです。
動物介在活動を受けられる場所
学校、高齢者施設、障害者施設、個人宅など
動物介在療法(Animal Assisted Therapy, AAT)とは?
「動物介在療法」は、疾病または障碍がある人の心身機能を回復させることを目指す療法です。医師、理学療法士、臨床心理士などの福祉分野の専門家が、専門的業務の治療の目的を設定して行います。動物介在活動とは違い、明確な治療の目標と改善経過を記録して行われます。
動物介在療法を受けられる場所
北里メディカルセンター、聖マリアンナ医科大学病院などの医療機関
動物介在教育(Animal Assisted Education, AAE)とは?
「動物介在教育」とは、学校で行われる教育活動の1つです。動物について知ったり、触れ合ったりすることで、動物福祉や倫理などを学ぶことを目標としています。ふれあい教室やイベント、学校の授業の一環として実施されることもあります。
動物介在教育を受けられる場所
幼稚園、小学校など
アニマルセラピーで得られる効果は?
アニマルセラピーは、心身ともに、とても良い効果を与えるという研究結果が出ています。私たちの脳からは、通称「幸せホルモン」と呼ばれる「オキシトシン」というホルモンが分泌されています。このホルモンには、心を癒したり、痛みを和らげたりする効果があります。
アニマルセラピーで動物と触れ合ったり、見つめ合ったり、話しかけたりすることで、このホルモンが体内で増加。その結果、リラックスしたり、心拍や血圧が安定したり、痛みを軽減したりといった効果が得られるのです。
アニマルセラピーに用いられる動物は?
アニマルセラピーで最も活躍している動物は、犬です。その他に猫や、小動物である鳥、ウサギ、モルモットなどもよく用いられています。大型の動物では、馬もアニマルセラピーで活躍しています。馬によるホースセラピーは、乗馬クラブ、牧場などで提供されています。
セラピードッグに選ばれるのはどんな犬?
セラピードッグに選ばれる犬は、特に犬種が限定されているわけではありません。適正な気質を持っていれば、保護犬もセラピードッグとして活躍するケースがあります。
セラビードッグに向いている犬
セラピードッグに向いているのは、体のサイズを問わず、以下のような気質を持つ犬です。
- 社会性が高く、明るい性格
- 人が大好きで、人とのコミュニケーションを好む友好的な気質
- 環境の変化やストレス刺激に強い
セラピードッグに向いていない犬
逆に、セラピードッグにあまり向いていないのは、以下のような気質の犬です。
- 興奮しやすく、吠えやすい
- 苛立ちを表に出す
- 過度にシャイ
- 状況によって、ハンドラー(犬をコントロールする人)の指示を聞けなくなる
大型犬ではゴールデン・レトリーバーやラブラドール・レトリーバー、小型犬であればトイ・プードルやマルチーズなどがセラピードッグに適しているとされていますが、犬種の制約はありません。上記の犬種以外でも、個々の持っている能力を適切に見極め、正しい訓練を受けることで、セラピードッグとして働くことができるようになります。
人と動物のふれあい活動(Companion Animal Partnership Program, CAPP)とは?
「人と動物のふれあい活動(Companion Animal Partnership Program, CAPP)」は、人と動物との絆をスローガンとし、日本で1986年から始まったボランティア活動です。このボランティアでは、先述した動物介在活動、動物介在療法、動物介在教育の3つの活動を行っています。獣医師、飼い犬と一緒にボランティアをしたい飼い主、ペットは飼っていないけれどアニマルセラピーのボランティアをしたい人、募金や寄付によって支援したい人などが、活動に参加しています。
CAPPでは、動物たちと動物をコントロールするハンドラーが、老人ホームや障害者施設、病院などを訪問します。動物との触れ合いの中から、心身のバランスや精神の安定、やすらぎなどを得ることが期待されています。2020年3月末までに、訪問回数は2万2,000回を超え、のべ12万6,000頭を超える犬が活動に参加しました。
アニマルセラピーの問題点は?
高齢者施設で行われたアニマルセラピーの活動を見学した際に感じたことですが、どんなにアニマルセラピーに向いた気質を持っている動物でも、その日のコンディション(健康面、メンタル面も含めて)によってはストレスを感じやすくなるときもあります。また、訪問先の方々の、動物に対する接し方に課題を感じたこともあります。
ハンドラーは、アニマルセラピーを提供する動物の日々の状況を判断し、どのような間隔でセラピーの仕事をさせるかを検討したり、セラピーの仕事を終えた動物へのアフターケアを行ったりするなど、きちんと配慮する必要性があるでしょう。人と動物、双方が楽しくコミュニケーションができることで、アニマルセラピーの効果は最大限まで引き出されると思います。
アニマルセラピーの注意点は?
訪問先には、動物が苦手な方や動物のアレルギーがある方もいます。例えば「猫は大丈夫だけど、犬は苦手」「小型犬は好きだけれど、大型犬は怖い」など、さまざまな事情を抱える方がいるため、訪問にあたってあらかじめ体質や嗜好について確認することが大切です。
また、人と動物の共通感染症のリスクをきちんと考慮し、アニマルセラピーで活躍する動物の健康チェックはきちんとすることも重要です。