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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
人間に睡眠が必要なように、犬にも睡眠が必要です。そこで気になるのが、犬にはどんな寝床が適しているのか、どのような場所だったら愛犬がぐっすり眠れるのか、飼い主としては知っておきたいですよね。今回は、どんな場所が犬の寝床に適しているのかと寝床に置く犬用ベッドの選び方について、動物行動学を研究する獣医師の茂木千恵先生監修に解説していただきました。
目次
- 犬の寝床はどのような場所が良いの?
- 犬の寝床に適していない場所は?
- 犬の寝床に犬用のベッドを使うメリットは?
- 犬用ベッドを選ぶ際のポイントは?
- シニア犬や介護が必要になった犬に適したベッドとは?
- 犬用ベッドの洗い方や掃除の仕方とは?
- 犬用ベッドの種類はどんなものがあるの?
- 犬の年齢ごとの必要な平均睡眠時間は?
- 犬が飼い主と一緒に寝る際の注意点とは?
犬の寝床はどのような場所が良いの?
犬の寝床に適した場所にはいくつかの条件があります。一つずつその条件を見ていきましょう。
犬は暗くて狭い場所が好き
犬は野生で生きていたころから巣穴を住処とする動物でした。つまり、犬は本能的に暗くて狭くて静かな場所を好む習性を持っています。必要なときに逃げ込んで休息し、体力を回復するためにぴったりの場所だったのです。なので、ケージやクレートを休息するための暗い場所として飼い主さんの気配のある場所に設置してあげると良いでしょう。怖がったり神経質になったりしたときに犬が逃げ込める安全な場所にもなるので精神的な安定にもつながります。
犬が落ち着ける場所に設置する
犬は日中も浅い睡眠を繰り返しています。これは野生時代に身の安全の確保と狩りの成功率を高めるために常に周囲に注意を払っていた習性が残っているからです。そのため、たとえ寝ていても人が動く気配などを察知すると目覚めてしまいます。目覚めて動き回るとおなかを空かせたり、トイレに行きたくなったりしますので、夜間はなるべく人の気配のない場所で休ませるようにしたほうが良いでしょう。
トイレと寝床は別の場所にする
子犬であっても、食べたり、睡眠をとったりするためのエリアを清潔に保つという自然な本能を持っており、その場所から離れたところでトイレをしたいという欲求があります。なので、トイレと寝床は分けてあげた方が良いでしょう。これは子犬のトイレトレーニングをする際にも役立ちます。
犬の寝床に適していない場所は?
犬の寝床に適した場所を紹介しましたが、逆に犬が苦手だったり、長時間過ごせなかったりと寝床に適していない場所もあります。間違ってそのような場所に寝床を設置しないよう、寝床に適していない場所はどういったところなのかを見ていきましょう。
直射日光が当たる窓辺
直射日光が当たる窓辺は屋内でも時間帯によって温度差が大きくなる場所です。寒すぎたり暑すぎたりすると、犬も居心地が悪くなってしまいます。また、窓に面する場所は外の様子が目についてしまい、縄張り防衛の本能から犬自身も落ち着けない気分を感じやすくなります。
エアコンの風が直接あたる場所
エアコンは設定された室温を保つために、その室温と異なる温度の風が常に吹き出します。犬にとっては熱すぎたり、冷たすぎたりする風は体温の維持を困難にし、疲労させてしまったり、体調が崩れてしまったりする原因ともなります。
テレビやトイレの近く
テレビやトイレは家族が頻繁に通ったり利用したりするスペースとなります。休みたくても休めない状況は犬に不安や葛藤を感じさせて、攻撃的にさせる要因となります。
キッチンやダイニングテーブルの下
キッチンやダイニングテーブルの下は家族が使う時間帯にはとても魅力的な美味しそうな匂いがしたり、食べ物が落下してきたりする場所です。飼い主が動くことにとても敏感に反応するようになってしまうことが懸念されますのでおすすめできません。メインとなる寝床とは別にリビングルームにも休めるスペースを置くと、快適な場所でリラックスしたり、居眠りしたりしながら家族との団らんの中にいることができます。
犬の寝床に犬用のベッドを使うメリットは?
犬の寝床として犬用のベッドも市販されています。犬用のベッドを使うことは犬にとってメリットがあるんです。どんなメリットがあるのか、それぞれ見ていきましょう。
犬がくつろげる場となる
ベッドには自分の匂いが染み込むため、犬がリラックスできる場所となります。また、持ち運びができるベッドもあるので、車で出かけるときはお気に入りのベッドを車中に設置した犬専用のドライブボックスやドッグキャリー内に入れてあげれば、車内でも安心して過ごせます。ドッグカフェや犬と泊まれる宿泊施設など犬にとって初めての場所であっても持参したベッドがあればすぐに落ち着けるでしょう。
身体の負担を軽減させる
ベッドは適度な柔らかさと保温性を持ち、眠るときに体への負担が少ないものが多く作られているので、乗っている時の身体の負担を軽減できることがあります。ただし、柔らかすぎると体勢を保つのに無駄に筋肉を使いますので、形が崩れないしっかりとした構造のものを選ぶと良いでしょう。
暑さや寒さ対策になる
夏は冷感素材のベッド、冬は保温性のある素材で暖かい感触のベッドなどが販売されています。そういったベッドを使用することで、犬が四季を通じて快適に寝ることができる居場所づくりが可能になります。
大型犬やシニア犬にはぜひベッドを用意して
犬は高齢になるほど、関節炎や変形性脊椎症などを発症する可能性が高まります。また、筋力の衰えとともに活動性が下がり、同じ場所で同じ姿勢で過ごすことが増えてきます。大型犬では床に接する体の一部に負荷がかかり、長時間同じ姿勢をとりつづけると痛みを伴います。このような痛みを和らげるために、体重を分散し支えてくれる犬用ベッドが必要です。加齢に伴う身体の不快を軽減し、健康維持にも効果があるでしょう。
犬用ベッドを選ぶ際のポイントは?
犬用ベッドのメリットがわかったところで、犬用ベッドを選ぶ際のポイントをご紹介します。
洗濯やお手入れがしやすいか
犬用ベッドの掃除のしやすさは非常に重要です。日々使うものですから、ベッドには外から持ち込む汚れや毛が付着しやすく、時には細菌や真菌などが繁殖することも。常に清潔な状態を保つために、少なくともベッドカバーは洗えるものを選びましょう。ベッド自体もできれば洗えるウォッシャブルタイプのものを選ぶと良いでしょう。
耐久性のある素材かどうか
犬用ベッドの素材を噛みちぎるのが好きな犬は多いです。壊れやすいものを壊すのが好きな犬の場合、ベッドの素材によっては引き裂いて、すぐ壊してしまうこともあります。お手入れがしやすいことの次は素材の耐久性に不安がないか、具体的にはベッド裏の部分が薄くなっていないか、縫製が緩くないかという視点で選ぶと良いでしょう。
素材が異なるものを複数用意する
犬用ベッドの生地は、柔らかさを重視したものの方が犬に好まれることが多いですが、保温性に優れたものや、通気性に優れたもの、体圧分散などの機能を見比べて、季節や愛犬の健康状態に合わせて取り替えることを前提に複数用意しておくのが良いでしょう。
愛犬に適したサイズか
持ち運ぶことを考えるとあまりにも大きいものはおすすめできません。サイズの目安としては、犬が丸まって眠る姿勢になった時に床に触れる面がすべてベッドに乗ることができるものを選びましょう。体を伸ばして寝る犬の場合、一般的には犬の鼻から尾までの長さがあると十分ですが、体長より少し大きい物であればより快適でしょう。側面の立ち上がりのないマットレスベッドは平らに寝るのに適しています。一方で、小型犬は大きすぎると不安を感じることもあります。ベッドの上は安全であると感じさせる構造が必要です。多くの場合、周りに立ち上がりのある側面を持っているか、乗った時に温かさを感じるとリラックスさせることができます。
犬にはそれぞれ好みがありますが、複数のベッドを用意しておくのが最善です。そうすれば、犬が自身の体調や好みに合わせてベッドを選ぶことができ、常に快適でいられることでしょう。
愛犬に適した厚みがあるか
犬が乗って横たわった時に体が床に接しない厚さが必須です。床に触れる部分があるとその箇所だけ皮膚や組織の損傷が起こる懸念があります。
求める機能があるか
犬がそのベッドを好むかどうかを優先しますが、他にはそこでくつろぐ犬にとってより快適性を高めたり、体調に配慮したりする機能があるかどうかも考えましょう。いったんそのベッドを気に入ってもらえると、持ち運ぶことで外出先でも愛犬を安心させられるメリットがあります。
シニア犬や介護が必要になった犬に適したベッドとは?
主に骨や関節の健康維持と動きに配慮したベッドが「整形外科用」として設計されています。低反発性で体圧分散機能がついていて、長時間同じ姿勢で寝ていても床ずれしにくいというベッドです。高齢の犬や骨格筋が少ない犬は、体を沈めるのに十分な重さがないため、厚みのあるベッドを快適に感じることができない場合があります。その場合は、柔らかくて沈み込むようなマットレスが良いでしょう。
また、排泄したときの水分がベッドにしみ込んでしまう場面も多くなります。カバーが取り外せて洗えるのはもちろん、防水加工のライナーが付属していると汚れを最低限にとどめることができます。
高齢犬は、ソファや人間のベッドなどの高い場所からの昇降が難しい場合があるため、床からの高さがあまりないものがおすすめです。介護が必要な犬の場合、丸まって寝るよりは体を伸ばした状態で寝ていることが増えます。そのため、以前に使用していたマットより一回り大きいサイズを選ぶと良いでしょう。
犬用ベッドの洗い方や掃除の仕方とは?
犬のベッドの手入れにもコツがあります。どのくらいの頻度で洗ったり、掃除をしたりすればいいのかを確認しておきましょう。
犬用ベッドを洗う頻度
犬がベッドを汚す頻度にもよりますが、夏場など雑菌が繁殖しやすい高温多湿の時期は1週間に1度くらいの頻度で洗うのがおすすめです。
犬用ベッドの洗い方
洗濯表示に従って犬用の洗濯洗剤を使用して洗います。洗剤量も指示に従いましょう。しっかりと水分を切り、風通しの良いところに干して乾燥させてください。
犬用ベッドの掃除の仕方
使っていた状態のままでそのまま洗濯機に入れてしまうのはいけません。ベッドに着いた毛などが洗濯機を故障させることがあります。洗濯機に入れる前に粘着シート等で付着した毛を取り除いてから洗濯してください。
犬用ベッドの種類はどんなものがあるの?
犬用ベッドにもいくつか種類があります。それぞれどういった特徴があるのか見ていきましょう。
ボックス型
ベッドの縁が盛り上がっている形状で、正式には「カドラー」と呼ばれています。盛り上がっている部分に顎をのせたり、枕代わりにしたりできます。視線を高く保てるため不安傾向のある犬に好まれます。サイズが体格に比して小さすぎると体がボックス内に収まりません。丸まった時に収まりがよく、なおかつ少し体を伸ばしても入れるような適度なサイズを選ぶ必要があります。
ボルスター型
ベッドの1辺に縁の盛り上がりが付いていないタイプ。1辺だけは乗り越えなくともベッドに乗れるため、高齢犬にも好まれます。盛り上がりがなく、広々と使えるので体を伸ばしやすいベッドです。大型犬や高齢犬に適しています。
マット型
平面のマットのようなタイプは、幅も取らないので置く場所もそれほど困らず、クレートやケージに入れて使うこともできます。サイズ展開が多く、大きめの商品もあるので、体格に合わせやすいタイプです。大型犬にも使いやすいものです。側面の立ち上がりが無い物なので乗り越えるのが難しい子犬やシニア犬でも使いやすいでしょう。
ドーム型
巣穴タイプのもので、保温性に優れており、冬場や室温が低すぎて寒さを感じている犬に好まれることが多いでしょう。夏場でもエアコンの直風を避けることができるメリットがありますが、構造的に湿気がこもりやすいので、洗濯の頻度を高める必要があります。閉じ込められることに不安を感じる犬の場合は、ドーム型ベッドの中に入ることを躊躇することもあるので注意してください。
犬の年齢ごとの必要な平均睡眠時間は?
犬は年齢ごとに必要な睡眠時間が変わります。どんな時期にどれほどの長さの睡眠が必要なのか知っておきましょう。
子犬の平均睡眠時間
生後4か月頃までは1日のほとんどを寝て過ごします。生後5か月頃になると、14~16時間程度と少し短くなります。
成犬の平均睡眠時間
成犬の平均睡眠時間は、12~15時間と言われています。まとまってこれだけの長時間を寝続けるわけではなく、日中は細切れの睡眠が正常です。
シニア犬の平均睡眠時間
小型犬で8歳以上、大型犬で7歳以上のシニア期には、合計して平均18~20時間程度の睡眠時間が必要です。
犬が飼い主と一緒に寝る際の注意点とは?
犬とベッドを共にする飼い主も多いでしょう。愛犬と一緒に眠ると、気持ちもリラックスしますよね。一緒に寝ることのリスクや注意点もあるので、しっかりと理解するようにしましょう。
犬と一緒に寝ることのリスク
犬は散歩の際にダニやノミが体に着いたまま自宅に上がってしまうことがあり、一緒に寝た飼い主がダニやノミのアレルギーを引き起こしてしまうことがあります。また、飼い主が寝返りしたときに犬が下敷きになってしまい、犬に恐怖を感じさせることもあるでしょう。一方で犬が飼い主のスペースを圧迫し、飼い主自身の睡眠の質を下げてしまうこともあります。このようなリスクがあるので、飼い主と犬の寝る場所は分けたほうが良いでしょう。
犬と一緒に寝る際に気をつけること
どうしても愛犬と一緒に寝たいという場合は、犬も飼い主も快適に過ごせるよう十分な広さが必要です。夜中に犬が排泄したくなった時のためにトイレを設置しておくことで飼い主が夜中に起こされる頻度を減らすことができます。犬が散歩時に外のごみや汚れを体に付着させて戻ってくることがあります。シーツや布団はそういった犬の汚れがつくので、頻繁に洗濯する必要があります。
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