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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
私たち人間と同じように、犬も食べ物を見たりお腹が空いたりすると自然とよだれを垂らします。生理現象ならば心配ありませんが、愛犬のよだれがあまりに多いと病気を疑ってしまいますよね。異常なよだれの場合、早期に発見をして迅速な対応をすることが重要です。今回はchicoどうぶつ診療所所長の林美彩先生に教えていただいた、犬のよだれの原因や異常なよだれの見分け方、対処方法などについて解説していきます。
目次
- 犬がよだれを垂らす原因とは?
- 犬の正常なよだれとは?
- 犬の異常なよだれとは?
- 特によだれが出やすい犬種
- 犬がよだれを異常に垂らしているときに疑われる病気は?
- よだれに加えてどんな症状が出ていたら犬を病院に連れて行くべき?
- 犬が異常によだれを出しているときの対処法はあるの?
- 犬によだれを異常に分泌させないために、普段からどう気をつければ良いの?
- 犬のよだれから人間が感染症にかかることはあるの?
犬がよだれを垂らす原因とは?
犬のよだれにはさまざまな原因があることをご存知ですか? 生理現象として起こる正常な反応だけでなく、自律神経の乱れによる心因性や病気によるものなど多くの要因が考えられます。ここではひとつずつ原因について簡単に解説していくので、それぞれの違いについて理解してみてくださいね。
生理現象によるよだれ
生理現象として発生するよだれは、食べ物の匂いなどに対して生じます。食べる際の準備として唾液が分泌されるためです。また、体温調節の際にもよだれが分泌されます。唾液を大量に分泌し熱を逃がすためです。犬は人間のように汗で体温調節ができないため、暑いときは口をあけて呼吸をするパンティングをおこないます。
心理的な原因によるよだれ
心因性のよだれには自律神経の働きが関わっています。自律神経は、活発なときは交感神経、リラックスしているときは副交感神経に切り替わり、自身でコントロールすることはできません。どちらの神経が優位になっても唾液は分泌されますが、過度なストレスや緊張状態などで交感神経が活発になると大量のよだれが出ることがあります。
刺激物によって起こるよだれ
外部からの刺激物でよだれが過剰に分泌される場合もあります。例えば、薬を飲んだときなどに大量のよだれが出るのは、苦味を和らげるためです。刺激物によるよだれは、お水やフードを与えることで落ち着きます。ただし、洗剤などのように化学物質や中毒性物質を誤って口に含んでしまった場合は、すぐに動物病院へ連れていきましょう。
病気によるよだれ
愛犬のよだれでもっとも気を付けるべきは病気が原因のものです。考えられるのは口腔内疾患、唾液腺疾患など口の中で起こる異常や、消化器疾患、神経疾患による熱中症があります。もし、愛犬のよだれが病気によるものだった場合、早めの治療が重要です。後ほど詳しい状態や対処法についてまとめていますので、チェックしてみてください。
犬の正常なよだれとは?
病気の心配がないよだれは、生理現象や心因性によるものです。先ほどご紹介した通り、食べ物を見たときや食事の最中には唾液が多く分泌されます。緊張状態にあるときのよだれも病的なものではないので、リラックスさせてあげるなどの対策を講じてあげましょう。
犬の異常なよだれとは?
正常なよだれと、異常をきたしているよだれに大きな差はないのが現実です。ただ、ひどい悪臭がしたり、少し茶色みがかったよだれが見受けられたりする場合は病気の可能性がありますので注意しましょう。また、白っぽい泡を大量に出している場合も疾患が疑われます。病気のサインなので、普段から愛犬のよだれをよく観察すると良いでしょう。
特によだれが出やすい犬種
犬種によってもよだれの出やすさは変わります。例えば、1つは超大型犬です。マスティフやセントバーナードなど体の大きな犬は唾液も多いため、垂れるほどよだれが出ることがあります。超大型犬でなくても、ドーベルマンやシェパードのような胸の深い犬種もよだれが出やすいです。これらの犬種は胃拡張や胃捻転が起こりやすいと言われています。胃の異常に関するリスクは後述しますが、命に関わる症状のため注意が必要です。そのほか、歯周病のリスクが高い短頭種やシニア犬もよだれが出やすいと言われます。
犬がよだれを異常に垂らしているときに疑われる病気は?
よだれから考えられる病気は、口腔内疾患、唾液腺疾患、消化器疾患、神経疾患、熱中症があります。それぞれの病気について症状や、治療内容を紹介しますので参考にしてくださいね。
口腔内疾患
口腔内疾患で代表的なものは歯周病です。歯にこびりついた汚れが原因となり、歯垢や歯石内の細菌が歯周組織の炎症を引き起こします。初期状態は歯肉炎、症状が悪化すると歯周炎となり、歯ぐきからの出血だけでなく最終的には歯の脱落につながる恐ろしい病気です。歯肉炎の段階で、スケーリングなどで歯垢や歯石を取り除けば症状は緩和します。
唾液腺疾患
唾液腺の疾患としては唾液瘤、唾液腺炎、唾液腺腫瘍などがあります。唾液瘤とは唾液腺や、唾液を運ぶための導管に異常をきたす病気です。正常に唾液が運ばれず、違う場所から漏れ出ることで大量のよだれにつながります。治療方法は手術で唾液を吸い上げた後に、トラブルのもとになっている唾液腺の切除などを行います。
消化器疾患
消化器系の疾患では、胃拡張や胃捻転、胃潰瘍が挙げられます。いずれも胃に関するトラブルです。嘔吐などの症状がみられることもあります。
特に胃拡張や胃捻転は超大型犬や大型犬に見られ、胃にガスがたまり捻じれる病気です。治療は胃の空気を抜き、外科手術で捻転した胃を元に戻します。この病気は状態が急激に進行しやすく、気づいたときには手遅れになってしまうケースもあるので注意が必要です。
神経疾患
神経に異常がある場合、唾液が過剰に分泌され大量のよだれが出ることがあります。また、脳神経に異常がみられると顔が麻痺し口が閉じられなくなったり、嚥下ができなくなったりして、よだれを流れ出てしまうこともあります。治療は症状の原因によって、手術などの外科的治療か投薬などの内科的治療をおこないます。
熱中症
犬は汗が出ない分、パンティングにより体温調節をするとお伝えしましたが、夏場にパンティングがうまく機能せず熱中症を引き起こす危険性があります。初期症状ではパンティングが激しくなり、よだれが増えますので、水分補給や日陰での休憩を挟むことが重要です。
てんかん
てんかん発作が見られる場合も注意しましょう。てんかんとは脳の機能障害で、よだれが大量に出るほか、痙攣や硬直などの発作が起こります。四肢をばたつかせたり、同時に排尿や排便をしたりする症状もてんかん発作によるものです。症状により治療方法は異なりますが、基礎疾患がある場合は入院が必要な場合もあります。
よだれに加えてどんな症状が出ていたら犬を病院に連れて行くべき?
大量のよだれだけでは、病院へ連れて行くことを躊躇してしまうかもしれませんが、次の症状がみられる場合は早急な対処が必要です。
まずは、ふらつきなど歩行に異常が見られたり、泡を吹いていたりする場合。胃拡張や胃捻転、熱中症が起きているときに出る症状で、特に胃の疾患は対処が遅れると死亡のリスクがあります。
犬が異常によだれを出しているときの対処法はあるの?
愛犬が大量によだれを出している際の対処法をケース別にご紹介します。あくまで対処法ですので、症状の緩和が見られない場合や、前述した危険な症状が確認される場合はすぐに動物病院を受診してください。
胃拡張を防ぐための対処法
胃拡張および胃捻転は、食事のとり方などが原因になることが多いです。早食いや多すぎる食事は胃に大量のガスが溜まりやすくなり、胃拡張を引き起こしてしまいます。予防として、食事は少量ずつ回数を分けて与えるなどの工夫をしましょう。また、食後すぐの運動も胃拡張の原因となりますので、少し休憩を挟んでください。
異物誤飲が疑われる際の対処法
よだれの原因が、異物を飲み込んでしまったものだと考えられる場合は動物病院で対処する必要があります。飲み込んだものを吐かせたり、飼い主さんの手で取ったりすることは非常に危険です。消化管や口腔内の粘膜を傷つけてしまう可能性がありますので、愛犬の気道を確保しつつ、すぐに動物病院を受診しましょう。
炎症が見られる際の対処法
犬のよだれが出る要因として口腔内の疾患を挙げましたが、歯周病が進行すると口内炎や舌炎などの炎症が見られるようになります。その原因の多くは歯垢や歯石です。炎症がある場合は病院で口腔内を洗浄し、投薬治療をおこないます。早期に発見するためには日頃から愛犬の口腔内チェックを心がけましょう。そのほか予防法として、歯のケアを念入りに行うことが重要です。
犬によだれを異常に分泌させないために、普段からどう気をつければ良いの?
大事なのは口腔内の衛生を保つことです。歯周病を発症させないためにも、定期的に歯磨きをおこなうようにしましょう。歯磨きをする際に、愛犬の口腔内に変化がないかチェックする方法がおすすめです。
また、口内環境が悪化しているときの唾液は雑菌が多くなります。合わせて愛犬が遊ぶおもちゃなども清潔に保つようにしましょう。せっかく歯磨きケアを始めても、口に入れるおもちゃが雑菌だらけでは意味がありません。犬用の食器洗い洗剤などを使うと、効率よく洗えるので試してみてくださいね。
犬のよだれから人間が感染症にかかることはあるの?
実は犬の口に存在する細菌が原因となり、人間が感染する病気があります。代表的な感染症はパスツレラ症です。これに感染すると副鼻腔炎や気管支炎、痰が出るなどの症状がでます。敗血症性ショックを起こし、命の危機にさらされた方もいるので十分な注意が必要です。
傷口がある場合は愛犬に舐めさせない、唾液がついたらすぐに手洗いをするなど日頃から対策を心がけましょう。発症件数が多いわけではないですが、飼い主さんの健康に大きく関わりますのでしっかり理解して気を付けてくださいね。
ほかの犬への感染リスク
犬のよだれが出る要因として口腔内の疾患を挙げましたが、歯周病が進行すると口内炎や舌炎などの炎症が見られるようになります。その原因の多くは歯垢や歯石です。炎症がある場合は病院で口腔内を洗浄し、投薬治療をおこないます。早期に発見するためには日頃から愛犬の口腔内チェックを心がけましょう。そのほか予防法として、歯のケアを念入りに行うことが重要です。
第3稿:2021年2月15日更新
第2稿:2020年11月20日更新
初稿:2020年10月15日公開
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