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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
「愛犬がどんなことを思っているのか知りたい」というのは、多くの飼い主に共通する願いでしょう。実は、犬の気持ちはしぐさや尻尾の状態、鳴き声、表情などからある程度読み解くことができます。さまざまな場面で犬の気持ちを汲めるようになれば、愛犬との関係性をいっそう深めることができるかもしれません。今回は、動物行動学専門の茂木千恵先生に教えていただいた、犬の気持ちを読み解くポイントを解説します。
目次
- 犬の気持ちを理解するために大切にしたいことは?
- 尻尾から分かる犬の気持ちとは?
- 吠え方(鳴き方)から分かる犬の気持ちとは?
- 行動から分かる犬の気持ちとは?
- 表情から分かる犬の気持ちとは?
- 犬の気持ちを理解するのに役立つ「カーミングシグナル」
犬の気持ちを理解するために大切にしたいことは?
人間と犬が共生を始めたのは約1万数千年前まで遡ります。犬とコミュニケーションをとる私たちの能力は、長い共同生活の過程で獲得された習性と言えるでしょう。
犬と人間がある程度理解し合えるのは事実ですが、私たち人間は、しばしば犬を人間の目線で「理解したつもり」になってしまいがちです。犬は人間のように話すことができないので、彼らの意思表示は耳・鳴き声・尻尾・口・目、そして体全体を使って行われます。犬とコミュニケーションを取るときは、常に犬の様子に気を配りましょう。
犬の行動や表情の意味、発するサインなどに気付いて理解し、反応を返すことができれば、犬はあなたを「自分のことを分かってくれる人」と認識します。そうしたコミュニケーションを重ねることができれば、犬からの信頼を得られるようになるはずです。
尻尾から分かる犬の気持ちとは?
尻尾は犬にとっての感情のバロメーター。尻尾の角度や動かし方で、そのときに抱いている気持ちがわかります。
尻尾が上がっている
犬が尻尾を振らずに高く上げているときは、強気になり、優位性を誇示したいと思っています。高く上がった尻尾は集団の中でも目立つため、存在をアピールしたいときに使うサインです。
尻尾が下がっている
従順さ、不安、気分の悪さを表現しています。しっぽを垂らしている時は体を小さく見せることで、自分の存在を目立たなくさせたいと考えていることが多いです。なので、恐怖や服従心が芽生えている時などによく見られます。尻尾を足の間に巻き込むのは、服従を表していたり、体を小さく見せて自分の存在を目立たなくさせようとするしぐさ。恐怖心を抱いているときに行います。
尻尾を振る
尻尾を高く上げて左右に大きく振っているときは、感情がたかぶっています。相手と遊びたい気持ちや親しみを表現していることもあります。ただし、小刻みに素早く振っているときは、目の前の相手に対して警戒心を抱いています。高く上げて小さくゆっくり振っているときは、威嚇のサインの可能性があります。水平にゆっくり振っている時は行動を決めきれず不安を感じている状態にあります。
自分の尻尾を追いかけて何度も回る
不安や葛藤を抱いています。近くに苦手な人や動物がいるとき、苦手な場所に連れて行かれたときなどに、不安を紛らせようとして行います。ただし、一概に葛藤しているだけと軽視することなく、回転の頻度が増してきたら獣医師に診てもらうと良いでしょう。
吠え方(鳴き方)から分かる犬の気持ちとは?
吠え方や鳴き方も犬の感情を知る手掛かりになります。気持ちを正しく把握するには、吠え方の特徴を知るだけでなく、吠えるに至った経緯や、これまでの犬の経験を振り返りましょう。
ワンワンと大きく吠える
このような吠え声は、実は犬同士ではほとんど使わないもの。人間との共生の過程で獲得した吠え方だと言われています。喜びや恐れ、怒りや注目されたい、欲求不満など、さまざまな感情を人にアピールするために吠えています。
ウーッと唸る
警告や自分より弱い者に対しての威嚇に使います。「自分との距離を広げてほしい」と主張しているようです。なお、少し高めの「ウーッ」という声を発するのは、遊びたい気分のとき。低いうなり声を出すときに聞こえるゴロゴロ音や歯をチラつかせる表情を伴わないため、ある程度は判別が可能です。
キャンと高く鳴く
痛みを感じている時によく発します。苦痛を警告の形ではなく友好的に伝えようと使う鳴き声のため、きちんと反応してあげましょう。鼻を鳴らすと同時の長めの高い音は、飼い主が長い仕事の終わりに戻ったときなどの強い興奮を示すときに聞かれます。この時、他にはなめる、ジャンプする、吠えるなどの行動が伴います。
ウォーンと遠吠えをする
遠吠えによって「仲間が欲しい」「ひとりは寂しい」などと主張しています。他の犬がそれに反応して発する遠吠えは、「自分はここにいるよ!」という返事です。
クーンと鼻を鳴らす
食べ物、おもちゃ、注目などを要求するときに鼻を鳴らします。例えばドアの前で鼻を鳴らすときは、「ドアを開けてほしい」と訴えているのかもしれません。
また、不安や恐れ、痛みを感じているときも鼻を鳴らすことがあります。どんな意味を込めているのかは、その場の状況や他のボディーランゲージを考慮して判断しましょう。
行動から分かる犬の気持ちとは?
犬はさまざまな行動によって、私たち人間や他の犬とコミュニケーションを取ります。よく見られる行動が示す意味を把握しておきましょう。
片方の前足を上げる
ボクサー犬に多い行動で、さまざまな状況で前足を使って自分の要求を表現します。ポインターなどの猟犬が、獲物の手がかりに気付いたことを飼い主に知らせるときにも行います。
また、人間を遊びに誘いたいときに前足を上げる犬もいます。相手が遊びたいかどうか確信が持てない場合は、片方の前足を上げ、頭を傾けながら相手の反応を探ることもあるでしょう。
人の足を鼻でつつく
尻尾を振りながら行う場合は、挨拶のような友好的なサインです。つつかれたときにすぐに犬に注意を向ければ、この行動を学習し繰り返し行うようになります。
一方、うなり声を上げながらつつくときは腹を立てており、特定の行動をやめるように主張している可能性も。人間が無理に抱っこをしたとき、触ってほしくないときなどに行います。
飼い主の体を舐める
飼い主がどこに行っていたのか、何を食べていたのか確認するために体を舐めます。また、飼い主に何かを伝えたいとき、遊んでほしいとき、おやつをねだるときなどに舐めることもあります。
穏やかに舐めるのは、飼い主を信頼していることを伝えたいとき。飼い主が怒っているときに舐めてくるのは、相手の怒りを鎮めようとしていると考えられています。
おなかを見せる
服従を示すサインですが、不快感や恐怖を伝えようとするときにも行います。叱られている時に不安を感じると寝転がり前足を床から離してお腹を見せます。
息が荒い
犬は呼吸で体温調節を行うので、体温を下げるための生理的な反応として呼吸が早まる時があります。運動していないとき、涼しいときに息が荒い場合は、ストレスを感じていると考えられるでしょう。
背を向ける
ストレスを感じると、その要因から離れようと顔を背けたり背を向けることがあります。
飼い主さんのそばに来て背を向ける行動は、飼い主さんを信頼していることをアピールしています。背中を撫でてと要求している場合もあります。
動かなくなる、何もしなくなる
不安を感じていると、動きを止めて本能的に体を地面に伏せようとします。突然動きを止めたり、自分を小さく見せようと伏せたりしているときは注意しましょう。
表情から分かる犬の気持ちとは?
犬は人間ほど豊かな顔の表情を持ちません。しかし、犬の目線や耳の角度、口の開き具合によって、感情を読み取ることができます。
目で追う、目線を合わせる
飼い主を目で追っている場合は、飼い主の行動を見ながら、次に何をするのかに注目しています。尻尾を振り、目をキラキラと輝かせながら見つめてくる場合は、おやつやご飯などを要求している可能性大きいです。要求の場合はお座りしたり、上目遣いをしたりしながら見上げてくることもあります。
目を細めて見つめている場合は、相手への愛情や信頼を感じています。しかし、鼻にしわを寄せたり、歯をむき出しにしたりしながら凝視する場合は、拒否や怒りを示しています。犬が嫌がる行動をすぐにやめましょう。
目を合わせない
犬同士のコミュニケーションでは、長時間のアイコンタクトを友好的な意味で行うことはめったにありません。他の犬と目を合わせ続ける行動は、脅威や挑戦を表しています。また、人間に叱られているとき、「叱られるかも」と不安を感じているときも目を逸らします。
名前を呼んでも目を合わせてくれないのであれば、「苦手なことをされるかも」と不安になっている可能性も。ただし、単に眠いときや疲れているときも無視することもあります。
両耳の間が広くなっている
嬉しいときやリラックスしているときは、耳を後ろに倒して後頭部に沿わせます。垂れ耳の犬でも両耳の付け根の間が広がり、口がやや開くような表情を見せます。
ただし、姿勢が固まって緊張が感じられるのであれば、不安や恐怖を感じている可能性があるでしょう。
耳が前に傾いている
危険を察知すると、立てた耳を目の前の対象に向かって倒すことがあります。同時に相手を凝視したり、鼻にしわを寄せて犬歯を見せ、唸り声を上げたりすれば威嚇のサインです。
口を軽く開けている
口が緩んで舌が少し見える状態のときは安心や満足感を感じています。目が半分閉じられているなら、さらにリラックスしていると言えるでしょう。
ただし、口角が下がって歯が見えていないのであれば、不満を感じている場合もあります。
口を閉じている
興味があるものが視界に入り、注目したり、好奇心に駆られたときに見られます。しかし、尻尾が振られていなければ警戒のサインと言えます。
笑顔
人間の笑顔のように「口を開いて舌を出し、目を細める」表情をすることも。これは人間にだけ見せる表情で、親密な感情を表現しています。
目の白い部分が見えている
「ホエールアイ(クジラの目)」とも呼ばれる、犬のボディランゲージは、不安を惹起する対象に注目しながらも、不安な状況から離れたいとも思っている場合にでます。また見知らぬ人が近づいてくるときなどに見られる表情です。
犬の気持ちを理解するのに役立つ「カーミングシグナル」
「カーミングシグナル」とは、ノルウェーの著名な動物学者であるトゥーリッド・ルーガス氏が提唱した概念。犬が群れでの生活で平和を維持し、仲間同士のいさかいを避けるために自分の意図を相手に伝えるサインを27個に分類しています。
カーミングシグナルは自分と相手を落ち着かせるための行動で、受け手の存在を前提としています。単に感情を表に出すボディーランゲージとは異なり、カーミングシグナルは相手に何かを伝えるためのメッセージと言えるでしょう。
カーミングシグナルには次のようなものがあります。これらの行動が見られた場合は、ぜひその意図を汲みとってあげましょう。
あくびをする
状況的に眠くないと思われるタイミングでのあくびには、自分の不安を抑えたり、相手の興奮を鎮めたりする意図があります。
体を振る
体の硬直をほぐし、自分で緊張を和らげようとしたり、興奮状態を冷ましたりするための行動。また、緊張していないことを相手に伝えようとしています。
地面に伏せる
犬は、プレイバウ(play bow)と呼ばれる、前半身を地面すれすれまで下げ、お尻と尻尾を高くしてお辞儀のような姿勢をとることがあります。これは相手に敵意がないことをアピールし、一緒に遊びたいことを伝えるために行います。
地面の匂いをかぐ
相手が近づいてきているときなどの状況に不釣り合いなタイミングで匂いを嗅ぐのは、カーミングシグナルである可能性が高いと言われています。争う意志がないことを示し、相手を落ち着かせるための行動です。
鼻と口の周りを舐める
緊張や不安を感じたとき、自分を落ち着かせようとして見せるしぐさですが、相手に敵意がないことを示す意味もあります。鼻を舐めるために舌を出すことで、相手に攻撃することができない状態を明白に表現しています。
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