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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
「なんだか最近、愛犬のおしっこの回数が増えた気がする」と思うことってありますよね。暑いからたくさん水を飲むからかな…と思う飼い主さんも多いでしょう。もしかしたら、それは病気のサインかもしれません。今回はchicoどうぶつ診療所所長の林美彩先生に教えてもらった平均的な犬のおしっこの回数や量、おしっこの異常から考えられる病気の種類、病気のサインである「多飲多尿」の見極め方について解説していきます。
目次
- 犬の多飲多尿はどうやって判断するの?
- 犬のおしっこの回数には習性が関係することも
- 犬の多飲多尿の原因として考えられる病気は?
- 犬が多飲多尿になる病気以外の原因とは?ストレスは関係ある?
- 愛犬に多飲多尿の症状が見られたらすぐ病院へ
- 犬の多飲多尿の対処法・応急処置は?
- 多飲多尿になりやすい犬種、犬の特徴とは?
犬の多飲多尿はどうやって判断するの?
犬の病気をおしっこの回数や量から探る時、よく「多飲多尿」という言葉が使われますが、これは「よく水を飲んで、おしっこの量や回数が増える」という意味です。多尿の場合には、ほとんどのケースで同時に多飲の症状が見られます。それぞれの判断の目安は以下のとおりです。
多飲と判断される犬の飲水量
多飲かどうかを判断するには、まずは愛犬が普段どのくらいの量の水を飲んでいるかを把握することが必要です。一般的に愛犬の体重×100mlを超える水を飲むと多飲だと言われています。多尿の目安は、愛犬の体重×50mlです。
犬が1日に飲む水量を計測したいときは、1日の初めに水を入れた容器の重さを測り、1日の終わりに再度水が入っている容器の重さを測ると、その差である程度の量が分かります。ペットボトル型の給水ボトルの場合には、メモリがついているようなものがありますので、それを使うのも良いかもしれません。
多飲と判断される犬の尿量
犬の1日のおしっこの回数は、成長段階や年齢によって変わってきます。体の小さな犬はおしっこを体内に留めておくことができないため、回数が多くなる傾向にあります。犬の個体差により差はありますが、一般的には以下の回数が目安になります。
子犬
1日に6~8回前後(月齢によっても回数差あり)成犬
1日に3~5回程度シニア犬
1日に4~6回程度
「多尿な気がするけどよくわからない」という場合に、簡単に判別する方法があります。愛犬の体重×50mlを1日の排尿回数で割った量(=おおよその1回分のおしっこ量)の水を用意して、それを愛犬のおしっこする時の高さからペットシーツやアスファルトにゆっくりと流してみてください。
水よりおしっこのほうが広がるようであれば、多尿の傾向があります。また、ペットシーツではおしっこを吸収しきれず水たまりのようになってしまうケースもあります。
犬のおしっこの回数には習性が関係することも
犬のおしっこの回数は飼育状況や個体差によっても違いがでてきます。外飼い犬ならばすぐにトイレに行けるため回数が多くなる傾向にあります。同じ室内犬であっても、ケージフリーで自由にトイレに行き来できる子とそうでない子とでも違いがあります。
また、水をたくさん飲む犬はおしっこの頻度も多くなりがちですが、中には回数は多くならず一度に大量のおしっこをする子もいます。雄の場合、マーキングの習性のために排尿しますが、これは習性のため1日の数にカウントする必要はありません。体調を管理するためにも、愛犬のおしっこの頻度と量を普段から把握しておきましょう。
犬の多飲多尿の原因として考えられる病気は?
愛犬のおしっこの量がいつもと違い増えたり減ったりしたとき、心配になりますよね。この状態で考えられる病気はいろいろあります。具体的にご紹介していきます。
泌尿器系疾患(膀胱炎、膀胱腫瘍、結石)
愛犬がおしっこする時に痛みから鳴いたり、おしっこの姿勢をしたのになかなか尿がでなかったりした場合には泌尿器系疾患を疑いましょう。細菌が侵入したり、外傷が原因で膀胱が炎症を起こす膀胱炎をはじめ、腫瘍や結石が出来ている可能性もあります。
ホルモン系の疾患(糖尿病、クッシング症候群)
犬のおしっこから甘い匂いがしたり、尿にアリがたかる場合には糖尿病の恐れがあります。人間もかかることのある病気ですが、人間との大きな違いは犬はほとんどの場合インスリンの投与が必要になることです。自然回復はしないので、「おかしいな?」と思ったら早めにかかりつけの獣医師に相談しましょう。
水を多く飲み、その分おしっこの回数が増え、皮膚が黒ずんできたらクッシング症候群の可能性もあります。これは内分泌系の疾患の一つで、副腎から出るホルモン(コルチゾール)が過剰に分泌されて体内に影響を及ぼす病気です。足腰が弱って散歩にも行きたがらなくなるため老化と間違われやすいのですが、老化との違いはおしっこの量や回数が極端に増えることです。
腎疾患(腎不全、尿崩症)
急激に腎臓の機能が低下する腎不全は、犬にもある病気です。最初は自覚症状もないのですが、だんだん尿が少なくなり、最後には全くおしっこが出なくなることもあります。犬自身もぐったりしてしまうため症状に気付きやすい病気ですが、発見が遅れると回復に時間がかかったり、回復が難しくなるケースもあります。
水をたくさん飲み、おしっこの回数が増えている場合には尿崩症(にょうほうしょう)の可能性もあります。これは、脳と腎臓の連携がうまくとれなくなる病気で、「水をたくさん飲んだからおしっこの回数が増える」ではなく「おしっこをたくさんして体の中の水分がなくなってしまったから、水を欲しがる」という状態になります。原因は脳、腎臓のどちらかにありますが、診察を受けなければ判断はできません。愛犬の様子がおかしいと思ったら、獣医師に相談しましょう。
雌の場合は子宮蓄膿症の可能性も
雌の場合には、細菌感染によって子宮に膿がたまる子宮蓄膿症の可能性もあります。おしっこの回数や量が増え、嘔吐の症状やお腹が張っていたら子宮蓄膿症を疑ってみましょう。出産経験のない、また避妊をしていない高齢の雌がかかりやすいので注意が必要です。子宮蓄膿症は、若い時に避妊手術をすることで防げる病気でもあります。
犬が多飲多尿になる病気以外の原因とは?ストレスは関係ある?
フードの変化
ドライフードの場合には水分が少ないためよく水を飲む傾向があります。また、尿石用のフードの場合にはナトリウムが添加されていることから飲水量が増えることがあります。
心因性(ストレス)
人間もストレスで暴飲暴食をするように、犬もストレスによって水をよく飲むようになることがあります。
下痢・嘔吐
下痢・嘔吐によって体内の水分が失われてしまい脱水状態になることで喉の渇きを感じ、多飲になることがあります。
薬や中毒によるもの
薬や中毒による腎障害が起こることで、飲水量が増えます。
愛犬に多飲多尿の症状が見られたらすぐ病院へ
犬のおしっこの回数に変化があった場合、飼い主さんとしては不安に思うことでしょう。犬のおしっこの回数に変化があった場合は、基本的には獣医師へ相談をしましょう。腎臓の病気などは対処が遅れると、回復が難しくなる場合もあります。
犬の多飲多尿の対処法・応急処置は?
動物病院では、血液検査や尿検査で病気の診断を行います。血液検査では、血糖値の上昇やカルシウム量などを調べ、糖尿病などを発症していないか判断します。尿検査では、犬のおしっこを採取し、膀胱炎や結石、糖尿病や腎不全の有無について調べていきます。
検査で病気が特定されたら、その病気に合わせた治療を行なっていきます。例えば、糖尿病では、症状に合わせて食事療法や運動療法、血糖値のコントロールのためインスリンの投与などを行います。病気により治療法は異なるので、獣医師の指示を仰ぎましょう。
自宅での対処法
犬は普段からの健康管理が大切になります。食事管理や運動管理を行ってあげましょう。食事は偏りなく、バランス良く与えるようにしましょう。また、病気の発症にはストレスが関与している場合もあるので、運動で運動不足にならないようにしつつ、ストレスの発散にも努めてあげましょう。
犬の多飲多尿の予防と注意点
犬の多飲多尿の予防するためには、まずは毎日の飲水量と排尿量を把握することが重要です。また、飲水量や排尿量を把握していない飼い主が多いため、病気の早期発見のためにも飲水量と排尿量の変化に敏感に感じ取ることが重要です。以前よりも水を飲む姿をよく見るようになったり、水の減り方が速い、トイレの回数や量が増えたり、散歩中もトイレの回数が多いということであれば、なるべく早く病院を受診し、血液検査や尿検査などを行ったほうが良いと思います。
多飲多尿になりやすい犬種、犬の特徴とは?
多飲多尿の症状が見られる病気の好発犬種が考えられますので、クッシングの場合であれトイプードルやミニチュアダックスフンド、糖尿病であればミニチュアシュナウザーやミニチュアダックスフンド、トイプードル、ビーグル、ミニチュアピンシャーなどが挙げられます。
その他、免疫性疾患などでステロイドを長期使用している子や、中~高齢雌犬(子宮蓄膿症による多飲多尿)、シニア犬(腎臓病による多飲多尿)などは多飲多尿になりやすいと言えるかもしれません。
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