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かどのペットクリニック院長。皮膚科や小児科、産科分野に興味があり、特にこれらの分野は院内の診療の中でも力を入れている。
シロクマのような見た目でどっしりと存在感のあるグレート・ピレニーズ。古くから番犬として活躍してきたことから、防衛能力が高く、独立心が強い犬種です。穏やかで家族に対して愛情深い一面を見せる一方、大型犬ならではのトラブルが起きると周囲に危険がおよぶ恐れもあるため、飼うときには注意が必要です。今回は、グレート・ピレニーズの性格や飼うのに向いている人、お手入れの際に注意することなどを、かどのペットクリニック院長で獣医師の葛野莉奈先生監修のもと解説します。
目次
- グレート・ピレニーズの歴史やルーツは?
- グレート・ピレニーズの体高・体重は?
- グレート・ピレニーズの平均寿命は?
- グレート・ピレニーズの毛色の種類や特徴は?
- グレート・ピレニーズの外見や吠え声の特徴は?
- グレート・ピレニーズの性格の特徴は?オスとメスで違いはある?
- グレート・ピレニーズを飼うのに向いている人は?
- グレート・ピレニーズを飼う上で気をつけることは?
- グレート・ピレニーズのしつけを始める時期やおすすめのしつけ方法は?
- グレート・ピレニーズの食事の注意点は?
- グレート・ピレニーズにおすすめの遊びは?
- グレート・ピレニーズを散歩させる際に気をつけることは?
- グレート・ピレニーズがかかりやすい病気やアレルギーは?
- グレート・ピレニーズの日常のお手入れで気をつけることは?
グレート・ピレニーズの歴史やルーツは?
「ピレネー犬」「ピレニアン・マウンテン・ドッグ」とも呼ばれるグレート・ピレニーズ。はるか昔から、フランスとスペインの国境である寒冷のピレネー山地で、牧羊犬や護衛犬として活躍していました。その祖先は、放浪をしていた遊牧民がアジアから連れてきた犬ともいわれています。中世にはフランスの城館の番犬として活躍し、ルイ14世やマリー・アントワネットの護衛犬も務めていました。
グレート・ピレニーズの体高・体重は?
大型犬に分類されるグレート・ピレニーズ。平均的な体の大きさと体重を確認しておきましょう。
体高
グレート・ピレニーズの平均的な体高は、オス約70~80cm、メス約65~75cmです。
体重
平均的な体重は、オス約45~57kg、メス約39~52kgです。
グレート・ピレニーズの平均寿命は?
グレート・ピレニーズの平均寿命はおよそ10~12歳。大型犬の平均寿命が10~13歳なので、その範囲内におさまる標準的な寿命といえるでしょう。
グレート・ピレニーズの毛色の種類や特徴は?
シロクマを彷彿とさせるふさふさの毛が印象的なグレート・ピレニーズ。ここからは、グレート・ピレニーズの毛色の種類や毛質など、被毛の特徴をご紹介します。
毛色の種類
グレート・ピレニーズの毛色は白が一般的ですが、部分的に別の色が混ざった毛色など、いくつかのバリエーションがあります。
白
全身が真っ白な毛で覆われた、グレート・ピレニーズのもっとも代表的な毛色です。
グレー、薄いイエロー、ウルフカラー、オレンジ
白を基調としながら、頭部や耳、尾の付け根などにグレー、薄いイエロー、黒のウルフカラー、オレンジなどの差し色が濃淡さまざまに混ざった2色の毛色を持つグレート・ピレニーズもいます。
被毛の特徴
グレート・ピレニーズはダブルコート(上毛と下毛の二層構造)の長毛種です。オーバーコート(上毛)は長めの硬い毛、アンダーコート(下毛)は短くてふわふわとしたやわらかい毛です。アンダーコートは保温の役割を果たしているため、暖かい季節が近づくと多めに抜ける傾向があります。
グレート・ピレニーズの外見や吠え声の特徴は?
グレート・ピレニーズの外見や吠え声にはどのような特徴があるのでしょうか?
外見
グレート・ピレニーズは「超」大型といわれることもあるほど体格の大きな犬で、どっしりとした存在感のある見た目をしています。寒さの厳しい山岳地帯に生息していたことから、骨太で筋肉質な体はふわふわの被毛で覆われており、もともと大きな体つきをより一層大きく見せています。
生まれた時は狼爪がある
オオカミに近い血統で、狼爪(ろうそう)と呼ばれる指が後ろ足にも生えているのが特徴的。狼爪とは、足の一番内側にある、人間でいうと親指に当たる5本目の指です。多くの犬種は前足のみにありますが、グレート・ピレニーズは生まれつき後ろ足にも生えています。なお、歩くときには狼爪以外の4本の指を使います。
吠え声
番犬として活躍していたことから、太くて迫力のある大きな声で吠えます。
グレート・ピレニーズの性格の特徴は?オスとメスで違いはある?
今では家庭犬として人気が高いグレート・ピレニーズですが、その性格にはどのような特徴があるのでしょうか?
穏やか
グレート・ピレニーズは、大型犬ならではのおおらかで穏やかな性格をしています。素直で思慮深い一面も持ち合わせており、小さな子どもとも仲良く遊ぶことができます。
愛情深い
群れに対する仲間意識が強いので、しっかりと信頼関係が築けると、家族に対しても愛情深く接してくれます。
独立心が強い
羊の群れを外敵から守る護衛犬として飼育されていたため、自分の仕事に対して高い意識を持っています。育て方によっては自己判断で行動することを好み、独立心が強くなることもあります。
縄張り意識が強い
特にオスは縄張り意識が強い傾向があります。攻撃行動が出てしまうと、大型犬なので大変危険です。トラブルにつながりそうな場合は、早い段階で去勢手術なども検討するべきでしょう。
忍耐強い
グレート・ピレニーズは番犬や牧羊犬として作られた歴史的な背景があるため、忍耐強く、恐れ知らずで、外敵に対しても果敢に挑んでいく一面を持っています。
オスとメスの性格の違い
穏やかで優しい性格をしていますが、興奮したり、けんかに発展したりした場合に、オスのほうが攻撃的になる危険性が高いです。力も強いので、日ごろから適切なしつけを行い、行動をコントロールできるようにしておく必要があるでしょう。
グレート・ピレニーズを飼うのに向いている人は?
グレート・ピレニーズは、どのような人が飼育するのに向いているのでしょうか?
体力に自信がある人
グレート・ピレニーズは体が大きい分、引っ張る力も強いため、制御するには対等かそれ以上の体力が必要になります。体力に自信のある人は飼育に向いているといえるでしょう。
散歩の時間がとれる人
グレート・ピレニーズは、十分な散歩時間を確保できることが飼育の条件になります。短距離で済ませるのではなく、運動欲求を満足させられるよう時間をとってゆっくりと歩く散歩が必要です。
広い飼育スペースがある人
体の大きさゆえに、狭いスペースでの飼育は困難です。成犬の大きさで考えて、飼育スペースがしっかりと確保できる環境で飼う必要があります。
グレート・ピレニーズは初心者向きの犬?
グレート・ピレニーズは、この犬種ならではの特性をしっかりと理解する必要があるため、初心者向きとはいいづらい犬種です。大型犬へのあこがれだけで、知識が不十分なまま飼い始めると、飼育に困難を感じるケースもあります。初めて飼う場合は、しつけや健康面などでサポートしてくれる専門家が身近にいると安心です。
グレート・ピレニーズを飼う上で気をつけることは?
グレート・ピレニーズを飼うときの注意点を確認しておきましょう。
温度・湿度管理
寒冷地に生息していたグレート・ピレニーズは、高温多湿な日本の気候を苦手とします。とくに夏場は、室内でも暑くなり過ぎないように、クーラーなどで室温を下げてあげましょう。
噛み癖防止
顎が大きく力も強い犬種なので、一度噛むことを覚えてしまうと、たとえ本気ではなかったとしても、人に大怪我をさせてしまう危険性があります。子犬の時期から噛むことはいけないことだとしっかりとしつけることが大切です。
床の滑り止め
体を支えるために筋力が必要であること、高齢になるにつれて筋力が衰えて四肢への負担が大きくなること、犬種の特徴として股関節に先天的な異常を持つケースがあることなどから、フローリングにはマットなどを敷いて滑らないように工夫すると安心です。
グレート・ピレニーズのしつけを始める時期やおすすめのしつけ方法は?
大型のグレート・ピレニーズを飼うときに、非常に重要になるのが日頃のしつけです。適切な時期、適切な方法でしつけをすることで、愛犬の問題行動を防ぎましょう。
しつけを始める時期
グレート・ピレニーズは警戒心が強い性格をしていることから、できるだけ小さいうちからしつけを始めることをおすすめします。家族との信頼関係を築きながら、いけないことはいけないと教えるしつけを子犬の時期から始めましょう。社会化期には、環境音やほかの犬と触れ合う機会をつくり、新しい刺激に慣らしておくことも大切です。
おすすめのしつけ方法
グレート・ピレニーズにしつけをするときは、次のポイントを押さえておきましょう。
警戒心を和らげる
護衛犬としての役割を果たしていた歴史から、高い警戒心を持つ傾向があります。刺激に対して過敏に反応することもあるので、飼い主がおおらかな気持ちで接しながら育ててあげましょう。
無理強いしない
忍耐強い性格のため、過度に無理強いするとストレスを溜め込んでしまう恐れがあります。しつけは長期戦です。決して無理強いはせず、愛犬の性格に応じたしつけの方法を探すようにしましょう。
根気強く訓練する
大型犬のため、いたずらをしたときの破壊力は非常に大きなものになります。人に大怪我を負わせる危険性があるので、しっかりと行動をコントロールできるよう、しつけが定着するまで根気強く訓練を続けましょう。
グレート・ピレニーズの食事の注意点は?
胃拡張・胃捻転症候群になりやすい犬種のため、空気を吸いながらの早食いは防止したほうがよいでしょう。早食いを防げる食器の使用もおすすめです。
また、加齢に伴い筋力が低下したときや、先天的に股関節に異常をもっている場合、肥満は四肢に大きな負担を与えます。食事の管理を徹底し、肥満の予防に努めましょう。
グレート・ピレニーズにおすすめの遊びは?
グレート・ピレニーズは、遊びを通して飼い主との信頼関係を築くことが大切です。具体的に、どのような遊びを取り入れるとよいのでしょうか?
おやつ探し
忍耐強い性格のグレート・ピレニーズには、おやつを探す遊びがおすすめです。一人遊びだと飽きてしまうこともありますが、お気に入りのおやつを使えば見つかるまで一生懸命に探します。飼い主とのスキンシップの一環として行うとよいでしょう。
ボール遊び
ボール遊びも、スキンシップの一環としておすすめです。「もってこい」というコマンドを使い、持ってきたときにきちんと飼い主に渡すよう遊びながらしつけると、より深い信頼関係を築けるでしょう。
引っ張り合いっこ
ロープなどのおもちゃを飼い主がもち、愛犬に口で引っ張らせる引っ張り合いっこも、グレート・ピレニーズに向いている遊びです。飼い主と近い距離で遊ぶことから、愛情を育むスキンシップになります。ストレスを発散させると同時に、ロープを口から離して飼い主に渡す練習としても活用できます。
ただ、誤ってロープやおもちゃを飲み込む恐れがあるので、大型のグレート・ピレニーズに適した太さや強度のものを選ぶとよいでしょう。
ノーズワーク
忍耐強く穏やかな性格のグレート・ピレニーズにとって、知的なノーズワークも楽しみながら取り組める遊びのひとつです。飼い主との信頼関係を構築した上で、少しずつやり方を教えながら一緒に遊ぶことで、愛犬はより楽しく遊べるでしょう。
ラリーオビディエンス
ラリーオビディエンスとは、犬と人間が共同で行うドッグスポーツです。しつけで使うようなコマンドでコミュニケーションを取りながら、アジリティのような競技をします。四肢への負担もかかりにくいので、安心して遊べます。
ドッグラン
広いドッグランでのびのびと遊ぶことができれば、運動欲求を満たすことができ、ストレスの発散にもつながります。大型犬ゆえにほかの犬とトラブルになった場合、相手を怖がらせたり、致命的な攻撃を与えたりする危険性もあるので、マナーが守れるようにしつけを徹底した上で出かけるようにしましょう。
グレート・ピレニーズを散歩させる際に気をつけることは?
ストレス発散や筋力維持のためにも欠かせない散歩。グレート・ピレニーズに適した散歩の方法や注意点をご紹介します。
時間・頻度
四肢に負担がかからないよう、朝晩2回、60分程度の散歩をゆっくりとしたペースで行うのが理想的です。股関節の状態や体重などにより、適した散歩時間や頻度には個体差があります。かかりつけの獣医師に体重管理や筋力維持の一環としてアドバイスを受けながら、年齢や季節に応じて変化させられるとよいでしょう。
気をつけた方がよいこと
散歩させる際は、次の点に気をつけましょう。
食後は避ける
胃拡張・胃捻転症候群になる可能性が高いため、食後すぐの運動は避けたほうがよいでしょう。
熱中症予防をする
もともと涼しい気候の地域で生活していた犬なので、高温多湿な日本の気候は苦手です。被毛の多さなどから熱がこもりやすいので、夏場の暑い時期はとくに、散歩時間を調整し無理をさせないよう配慮しましょう。
グレート・ピレニーズがかかりやすい病気やアレルギーは?
愛犬と長く一緒に過ごすため、健康維持には気を配りたいものです。グレート・ピレニーズがかかりやすい病気とその予防法について知っておきましょう。
三尖弁閉鎖不全症
心臓の右心室と右心房の間にある三尖弁は、心拍によって血液を送り出す働きをしています。閉鎖不全症は、この弁がうまく閉鎖しないために血液の逆流が起こる病気です。聴診・心電図検査・超音波検査・レントゲン検査などが必要で、治療方法は内科的治療と外科的治療があります。外科的治療には専門的な技術が必要なため、循環器を得意とする動物病院や高度医療の病院で処置を行うケースが多いといえます。
胃拡張・胃捻転
食事のときに興奮したり、食後に運動をしたりすると、空気をたくさん吸い込むことで胃が拡張して捻転してしまいます。そのままにしておくと命の危険につながる恐れも。腹部をかばうように伏せたままにして動かない、激しい嘔吐などの症状がある、という場合はすぐに動物病院を受診してください。食事はゆっくり食べる習慣をつけ、食後すぐに散歩をしないよう配慮することで予防できます。
股関節形成不全
先天的に股関節の形状に異常が見られ、運動時や座っているときなどに違和感や痛みが生じる疾患です。はっきりとした痛みにつながる前から、歩き方や座り方がおかしいなどのサインが見られることも多くあります。違和感を覚えたら、動画を撮るなどして記録し、診察時にその様子を見てもらってください。
腫瘍(骨肉腫)
骨肉腫は、骨にできる悪性の腫瘍です。四肢にできた場合は腫れや歩き方の変化によって気づくことが多いですが、部位によっては見つけづらい場合もあります。おかしいなと感じたら、動画を撮影した上で速やかに受診をし、触診やレントゲン検査などを受けると安心です。多くの場合、治療には外科的な処置が必要になります。
熱中症
被毛が多く暑さに弱い犬種のため、熱中症にはとくに気をつける必要があります。散歩に行くときはもちろん、室内にいるときも温度管理をしっかりと行いましょう。