平成ギャルの、ガラケーを「デコる」技術。「デコ電」の歴史と作り方を専門家に教わった
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Twitterに投稿された、とあるロボットの動画が話題となった。
お肉を網の上に持つロボットと、ガスバーナーを構えるロボットが、視線を合わせて息ぴったりに肉を焼いてくれる動作に「かわいすぎる」「心が和む」「癒される」と多くのコメントが残されている。
動画の中で、焼き肉を美味しそうに食べている人物が、山田社長の名前で活動する山田康太さん。この焼き肉ロボットの製作者だ。
この動画は実は8年も前に撮影されたものであり、当時の山田さんは「ロボットを作りたすぎて、学校へ行く時間がもったいない」との理由で高校を中退した無職の状況。時間だけが無限にある環境下で、自室にこもりロボット製作だけに没頭する中で撮られた動画なのだ。山田さんのロボットは、8年の時を経て多くの人の心を掴んだ。
山田さんは、現在ロボット関連の企業にサラリーマンとして働きながら、空き時間に自分用のロボットを開発する日々。「休日は特別な用事がない限りは、1人でロボットを作っていたい」と満面の笑みで語るほど、その暮らしぶりは“ロボットに人生を捧げている”と言っても過言ではない。
ロボットに並々ならぬ情熱を傾けるきっかけや、今後のロボットとの付き合い方まで、果てしないロボット愛を詳しくうかがった。
Twitterで反響があったのちは、テレビ局から取材の申し込みが届いたそうだ。ロボットたちは、朝の情報番組で「料理をしてくれる全自動ロボ」として紹介。知り合いや親戚など近しい人たちからも、評判の声をもらえたという。そもそも、山田さんはなぜ8年も前の動画を今もう一度投稿しようと思ったのか。
「たまたまデータ整理をしていた時に発掘したんですけど、ロボットに肉を焼いてもらってる自分の様子が、随分と幸せそうだなぁと思ったんですよね。当時は無職だったんですけど、そのギャップが面白いんで投稿しました。実はそもそも肉を焼くロボットじゃなくて、ホットサンドを焼くために作ったロボットだったんですけどね(笑)」
山田さんの製作するロボットの特徴は、コメントの多くがカワイイと評している通り「人間味」を感じさせる愛らしい動きにある。首がぐるっと周りアイコンタクト、眉毛と目玉が動いて焼き始める。屈託のないそれらの動作に、ついついハートを掴まれてしまう。
「いわゆるテクノロジーというよりかは、動きや演出にこだわって製作しています。これまで作ってきたロボットも、速く歩くわけでなないけど、眼球だけは動いたり、ちゃんと頷けたり、とか。いわゆる意味のない要素が大好きなんです(笑)。
それに、世界観も大事にしています。ロボットが頷き合うタイミングとか、視線の方向や首が曲がる角度など。脚本とまではいかないですけど、演出をしっかり決めて作っています。ただ肉を焼くだけでなくて“お店屋さんごっこ”みたいな、そういった世界観で動くロボットがいいなって思うんですよね」
山田さんはこれまで合計15台ほどのロボットを製作している。そのすべてのロボットの目が動き、眉毛が動き、頷く。その徹底したこだわりこそが多くの人たちの心を掴んだのだ。
山田さんとロボットとの出合いは小学校1年生。両親に買ってもらった科学の本に付いてきた「ロボット大図鑑」を、とにかく夢中になって読んでいたそうだ。「一目惚れでした。その時の熱量がずっと今日まで続いている感じです」。
衝撃の出合いからロボットへの情熱に火がついた山田さん。本格的に作り始めたのは小学校3年生から。初めて作ったのは、タミヤのロボットキット。一方で友達のあいだで流行していたロボットアニメのプラモデルには見向きもしなかった。
「アニメーションの世界というよりは、本当にリアルな現実世界に惹かれていました。二足歩行のアシモや、ペットロボットのアイボとか。二足歩行ロボットの大会がテレビで放映されていた時は大興奮ですよ。こんなにもリアルなロボットが作れるんだ、すごい!って(笑)」
そうして山田さんは、お年玉やお小遣いを使って少しずつロボットの部材を購入。ほぼ独学でロボット製作にのめり込んでいく。
「はじめは両親から本を買ってもらったんですけど、ぜんぜん理解できなくて(笑)。それでも、少しだけわかる部分をかいつまんで、なんとなく作り上げていました。他人からのアドバイスといえば、秋葉原のロボットショップの店員さんくらいです」
取り憑かれたようにロボット製作にのめり込んでいく山田社長。二足歩行ロボットがプロレスのように戦う競技大会「ROBO-ONE(ロボワン)」を観戦時、とあるロボットの完成度に強い衝撃を受けたそうだ。
「ロボワンに出場しているロボットは、全国から集まったスーパースター。僕は大会が開始される何時間も前から最前列に陣取って観戦していたんですが、そこで出合ったのがロボットクリエイター・高橋智隆さんの作品。モーターや配線が一切見えてなくて、とにかくスタイリッシュなんです。二足歩行の技術もすごいんですけど、デザインに特に惹かれました」
山田さんが製作するロボットは、この時の記憶がルーツだという。実際、焼き肉ロボットたちもモーターや配線は一切見えていない。ロボットを製作する以上、やはり早く動いたり倒れない仕組みだったりという技術力は不可欠だ。しかし、自分がロボットで表現したいのは、デザインや世界観だと、この時に気づかされたのだ。
その経験を得てロボット製作に邁進した山田社長は、後に2010年のロボワンに出場。デザイン性や動きが評価され、テクノロジー賞を受賞する。
高校生になった山田社長だが、ロボットへの情熱は収まることをしらず。24時間365日をロボット製作に傾けたい欲求が湧いてくる。学校でのテスト勉強がだんだんと億劫に感じるように。その想いはどんどん膨らみ、ついに高校中退を決意。しかも高校2年生の3学期、卒業までもう少しというタイミングだった。
「学校も好きだったし、勉強も好きだったんですけど、ロボットを作りたいという欲求が好きを超えて爆発しちゃったんですよね(笑)。ロボットを作る時間以外がもったいないと思うようになっちゃって。親に『ロボットを作りたいから学校を辞めさせてください』とお願いしました。はじめは反対されましたけど、僕のあまりの懇願っぷりに諦めてました」
退学した後は、材料費を稼ぐため、たまに日雇いのバイトに行くくらいで、それ以外はずっとロボットを作る生活に。ついに製作に没頭できる環境を作り出したのだ。この時の山田さんの境遇は「高校中退の無職」。しかし、山田さんは悲壮感を感じることなど微塵もなく、部材調達へ行くホームセンター通いが楽しかったそうだ。
ロボットを次々に作っては、ニコニコ動画に投稿するという生活を送る毎日。焼き肉ロボットも、この頃の作品だ。そうした日々の中で山田さんの頭の中に「ロボットとカフェをやりたい」と目標が浮かび、徐々に固まっていったという。