車の下から飛び出し選手権 全国大会2023
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目次/ INDEX
DIYに失敗はつきもの。そう分かっていても、失敗が怖くて二の足を踏んでしまう方も多いでしょう。でも、その怖さは、DIYへのハードルでもあると同時に、醍醐味や楽しさでもあります。作ったものがちょっと傾いても、後から壊れても、作ったプロセスがあるから、結果的に愛おしく感じてしまうものです。
恋に、仕事に、生活に、自分の理想を目指して失敗を繰り返しながら体当たりで学んでいく。そんなDIYを体現するようなキャラクターを描き続けてきたのが、漫画家のコナリミサトさんです。
コナリさんは現在、DIYをテーマにした漫画『黄昏てマイルーム』を連載中。都内で働くOL・八重樫紀子が、別れた恋人に家財道具を持ち逃げされたことでDIYをはじめる、というストーリーのこの作品には、初心者でも再現しやすいDIYのアイデアが満載です。
こうしたアイデアは一体どのように生み出されたのでしょうか。今回はコナリさんに作品づくりとDIYの関係や、DIYの失敗談、そしてホームセンターの使いこなし方まで、さまざまなトピックを語り尽くしていただきました。
コナリミサト
漫画家。埼玉県出身。ファッション雑誌『CUTiE』(宝島社)への連載で漫画家デビュー。代表作に『凪のお暇』『珈琲いかがでしょう』『恋する二日酔い』『宅飲み残念少女ズ』など。2019年から『黄昏てマイルーム』をWebメディア「ダ・ヴィンチニュース」で連載中。2021年に『珈琲いかがでしょう』がドラマ化決定。
※取材はリモートで実施しました
──コナリさんのお仕事場、カスタマイズっぷりがすごいですね。どこから突っ込もうか迷いますが、そのカーテンは駐車場でよく見るのぼり……ですか?(取材はお仕事場でご対応いただきました)
コナリミサト そうなんです。カーテン代わりにしていますが、入ってくる光の量がいい感じで気に入っています。
──その発想はなかった……。あ、横に見えているその棚は『黄昏てマイルーム』にも登場したラブリコの棚ですね?
©️コナリミサト
コナリミサト そうです。ツーバイフォー材とラブリコ(※:壁や床を大きく傷つけることなく柱が立てられるグッズ)で柱を立てて、徐々に棚を増やしていきました。
基本的に、作中で紹介しているものはすべて自分で作っています。キャスターつきの木の箱やセメントタイルのコースター、インスタントセメントの植木鉢などなど。
©️コナリミサト
©️コナリミサト
『黄昏てマイルーム』で描いているのは、要するに私の仕事場なんです(笑)。
──漫画を読みながらコナリさんの生活に思いを馳せられるわけですね。その他、お仕事場でDIYされたものはありますか?
コナリミサト これは漫画に載せていませんが、フロアタイルです。いまの仕事場、前はオフィスとして使われていたようで、引越した当初はこんな風に床が青い絨毯に覆われていました。
これが気に入らなかったので、木目調のフロアタイルを取り寄せて、絨毯の上に敷き詰めました。簡単に取り外せるので、賃貸物件でも使えますよ。
あと、作業はこれからですが、壁紙シートを貼ろうと思っていて。今、色のサンプルとにらめっこしながら「何色にしようかな〜」と悩んでいるところです。こちらも後から剥がせるので、賃貸派には心強い。
──床と壁で部屋の雰囲気がガラっと変わりますよね。こんなに簡単に床と壁をカスタマイズできるなんて、DIY初心者も勇気付けられると思います。あと、ずっと気になっていたんですけど、コナリさんの後ろに見えているのはトナカイの剥製……ですか? まさかこれもDIYで?
コナリミサト いえいえ、これは既製品なのですが、置物に見えて実はライトなんです。こんな風に灯りがポッとともります。かわいいですよね。
──びっくりした……。DIYの範疇から少し外れますが、こうしたお部屋の雑貨もこだわりが詰まっていますね。
コナリミサト 仕事がツラいので、テンションを上げるために好きなものしか置いてないんです。
その一つが、中華テイストの雑貨です。『らんま1/2』に登場するシャンプーというキャラクターの影響ですね。あと、雑貨屋めぐりをよくしていた時は、「大中」(※:2018年に閉店)や「宇宙百貨」(※:2021年2月現在は名古屋市内の店舗が営業中)、「文化屋雑貨店」(※:2015年1月に実店舗は閉店。2021年2月現在はオンラインショップで営業中)、高円寺の「雑貨!未完成」や江古田の「ガラクタやネバーランド」(※:いずれも実店舗で営業中)なんかに通って、キッチュな中国雑貨を集めていました。今でも、トイレの壁はこんな感じになってます……。
──中華料理屋さんだ!
コナリミサト あと、ここまでの写真でなんとなくお気づきの方もいらっしゃると思いますが、雑貨も含めて、とにかくピンク色のものが好きで。油断すると家中がピンク一色になっちゃうんです。このすのこで作ったテレビ台も。
この植木鉢も、すぐピンク色に塗っちゃう。
余談ですが、私の理想の家の外観は、中目黒にある「明天好好(ミンテンハオハオ)」という台湾料理店です。壁一面が薄いピンク色で、通りかかるたび「あんな色の家に住みたいな〜」って思っています。
──そんなお部屋のカスタマイズが得意なコナリさんならきっと、昔からDIYがお好きだったんですよね?
コナリミサト それが、木で棚を作る、みたいな本格的なDIYに手を出したのは『黄昏てマイルーム』の連載がはじまってからなんです。
──それは意外です。『黄昏てマイルーム』を読んで、てっきりDIYの玄人なのかと思っていました。
コナリミサト ずっとやってみたかったのですが、そろえなきゃいけない道具があるからと、二の足を踏んでいました。でも、「漫画に描くならやるだろう」と思ったんです。私、貧乏性なので……(笑)。(『黄昏てマイルーム』の主人公である)紀子もDIYの初心者という設定なので、連載中は一緒に成長している感じですね。
──ということは、これまで何度も失敗されてきたんじゃないですか?
コナリミサト 手先も不器用なので、そりゃもう(笑)。例えば、箱を作るために買った安いベニヤ板がノコギリで全然切れず、バキっと折れてしまったことがあります。その時、ベニヤ板って、ノコギリで切るものじゃないんだ! と学びました。
あと、先ほどご紹介したラブリコの棚は、一回ドドッと倒れてきたことがあります。ラブリコのネジを長い間締め忘れていて、ネジが緩んでしまったんですね。1本倒れると芋づる式に倒れてくるので、インディージョーンズみたく壮大なシーンになりました(笑)。いや、実際は笑い事じゃなくて、買ったばかりのMac miniに倒れた柱が直撃しかけて肝が冷えましたね。ラブリコをお使いの皆さんは、定期的にネジを締めましょう。
──(めちゃくちゃ失敗談出てくるな……)
コナリミサト あと、インスタントセメントで植木鉢を作った時も、水はけの穴を開けていなかったことにセメントが固まってから気づくという(笑)。この鉢、ただの入れ物になってない? って。その時は結局、ドリルドライバーで強引に穴を開けました。ちなみに、ストローを刺した状態で固めると、綺麗な穴が開きます。
──『黄昏てマイルーム』はそんな膨大な失敗のうえに成り立っている作品なんですね。
コナリミサト そうなんですよ。いろいろカットして1話6ページにまとめたので、単行本のおまけページには、こういう失敗から学んだTIPSをいっぱい描こうと思っています。
漫画に載せていない事例を含めると、数えきれないほど失敗していますよ。例えば、ちょっと前にすのこでミシン台を作ったんですけど、壊滅的に安定しなくて……。
──私は失敗するのが嫌だから、ネットで調べ過ぎてしまうタイプなのですが、コナリさんは材料や工程をあまり調べないんですか?
コナリミサト 腰が重くなるので、あまり調べないですね。思い立ったらすぐにホームセンターへ行っちゃいます。だって、ネットの記事って材料を過剰に多く書いていたりするじゃないですか。DIYって「やりたい!」と思ったその瞬間にやらないと、熱が冷めてしまう気がしていて。あと、ちょっとした失敗なら、2日たつと「ま、いっか」となるので大丈夫ですよ(笑)。
──木材を使うかどうかにかかわらず、これまでで一番印象深いDIYって何ですか?
コナリミサト 『凪のお暇』に出てくる扇風機のカラーリングですね。これも自分で一度試しています。
©️コナリミサト(秋田書店)2017
作中では黄色ですが、私はオレンジ色にカラーリングしました。ちょうど一人暮らしをはじめた頃、高価でおしゃれな扇風機が買えなくて、リサイクルショップで買った扇風機を自分の好きな色に塗ってみようとひらめいたんです。
でも、「一刻も早く動かしてあげたい」という思いから、塗装が乾いていないうちにスイッチを入れてしまって、壁がオレンジ色に(笑)。いろいろな意味で思い出深いですね。
──また失敗してる……。
コナリミサト 当時住んでいた物件は取り壊しで立ち退いたので事なきをえたのですが、本当に肝が冷えました。あと、ラッカースプレーを吹きかける時に換気を怠り、塗料の成分でグニャグニャになっちゃって、これも心に残っていますね……。皆さんは、塗装する時は必ずお部屋を換気してくださいね。
──『凪のお暇』の扇風機をはじめ、コナリさんの作品にはDIYや工作をモチーフにしたシーンがたくさん登場しますが、こうした工作は昔からお好きだったんですか?
コナリミサト そうですね。小学生の頃はプラバン(※:プラスチックの板にマーカーで絵を描いてカットし、トースターなどで熱して作るハンドメイドグッズ)がはやっていて、「幽白(幽遊白書)」のキャラ絵を描くと友達に喜ばれるので、たくさん作りました。
あと、図工の時間に粘土で作ったワニの小物入れは今でも覚えています。異常にデカい口のワニで、開いた口が小物入れになっているんです。職員室の玄関にあったガラスのショーケースに飾られて、これは私の数少ない自慢話です(笑)。
あとは、「白い恋人」の缶に裁縫道具を入れたり、少女漫画の雑誌を積み重ねた上に板を置いて即席のカウンターテーブルを作ったり。
──どれも素敵なアイデアですが、作るハードルは低いですよね。初心者は「これでもDIYなんだ」と安心できるように思います。それなら、一人暮らしをはじめてからは、ますます捗ったんじゃないですか?
コナリミサト そうですね。例えば、好きな漫画のコマをコピーして透明なカッティングシートに入れて、お風呂場一面に貼っていました。お風呂に入りながら好きな漫画のコマを読めるって最高じゃないですか? こういう実家暮らしだと難しい派手なカスタマイズは一人暮らしの特権ですよね。結局、シートの隙間から水滴が入って、カビちゃったんですけど……。
DIYはハードルが高いと感じる方は、好きな柄の布を買って100均のクリップで留めてカーテンにするとか、スカーフをキャンディ型に結んでティッシュボックスにするだけでもいいんです。DIYって要は自分の好きなものを自分で作ることなので、難易度は気にしなくていいと思いますよ。
──そんなコナリさんがDIYに興味を持ったきっかけはなんだったんですか?
コナリミサト 昔読んでいた漫画と、昔働いていたバーのマスターの影響です。漫画の方は、『CUTiE』に連載されていた安野モヨコさんの『ジェリー イン ザ メリィゴーラウンド』です。主人公が拾ったイスに画鋲を刺したり、ペイントしたりしてカッコよく加工するシーンがあるのですが、これを見て「いいなぁ」と思って。
©️Moyoco Anno / Cork
バーの方は、昔働いていた江古田のバーです。そこのマスターが、拾った流木でカウンターテーブルやドアを作ったり、内装を自分で手がけたりする、とても器用な方で。マスターが店の調度品をDIYする様子を見て、「こんなふうに好きなものをサッと作れたら楽しいだろうな」と思っていました。
──漫画を描くために本格的なDIYをはじめてから、ホームセンターにも通われるようになったのではないですか?
コナリミサト そうですね。最初はネジの種類も板の材質の違いも分かりませんでしたが……。ツーバイフォーって何のこっちゃ! みたいな。通ううちに分かるようになってきました。
──それが分かったらもう上級者だ……。ホームセンターを使いこなすうえで、心がけていることはありますか?
コナリミサト 店員さんに質問することですね。「このネジとこのネジは形が違うんですか」と素直に聞いてみましょう。忙しい時だと冷たくあしらわれることもありますが、諦めず何回か通ううちに、優しく教えてくれるはず。なので、普段から聞きたいことをまとめておきましょう。
あとは、配送まわりのサービスを確認すること。私のように都内に住んで、車を持たない人間が快適にDIYするのは案外難しい。中には、そうした人にぴったりの配送サービスを用意しているお店もあります。まぁ、理想を言えば、スーパーのように、買ったその日に買ったものが自宅に届くサービスがあると最高なんですけどね……。
最後に、普段から家のあらゆるところの寸法をメモしてスマホに撮影・保存しておくこと。このメモがあると、ちょっとした空き時間にホームセンター行っても、材料を買いやすいんです。
──すごく実用的なアドバイスですね。とはいえ、ホームセンターの初心者は店へ行っても、あまりの広さにたじろいで、何を買っていいのか迷うことも多いと思います。コナリさんが、最近買ってよかったものを教えてください。
コナリミサト まずはドリルドライバー。これを買うと、DIYせざるを得なくなります。漫画に描くまでDIYをしなかった自分が言うのもなんですが、自分を追い込むために用意してはいかがでしょうか。
次にジョイントパーツ。先ほどお伝えしたように、私は車を持っていないので、大きな木材は持ち帰るのが一苦労。とはいえ、買ったものはすぐにいじりたい。なので、お店で長さを半分に切ってもらい、電車に持ち込んでいます。ちょっと恥ずかしさもあるんですが……。切った板もジョイントパーツを使うと接合できるので、便利ですよ。
あと、木材を切るなら、マイターボックスをぜひ買ってください。ツーバイフォー材をまっすぐ切ることができます。これを買うまで、椅子と椅子の間に木材を渡してノコギリで切っていたのですが、世界が変わりましたね。
お部屋の雰囲気を変えたいなら、キングバンブーはいかがでしょうか。私も大切に育てています。ちなみに、植木鉢は先ほど紹介したインスタントセメントで作りました。
──在宅ワークの方も増えているので、参考になりそう!
コナリミサト DIYは思い立ったが吉日。熱が冷めないうちに動きはじめましょう。
──自分の好きなものは自分で作る、思い立ったらすぐ作る、というコナリさんの性格はDIYに向いていますよね。
コナリミサト もともと、他人と一緒に仕事をするのが苦手で、今の仕事も「全て自分のせいになる仕事がいい」と思って選んでいます。そういう意味では、DIYは性に合っているのかもしれませんね。ゼロイチのものって、組み立てられなかったら自分のせいじゃないですか。
──確かに。それを踏まえると、DIYって、考える時間や組み立てる時間も含めた「作る過程」を楽しむものなのかもしれない、と思いました。
コナリミサト 例えば、自分の好きな人が王子様みたいに現れるというシーンがあるとしますね。盛り上がるシーンですが、いろいろな段階をすっ飛ばして王子様がいきなり会いにきたら怖い。だから私は、その過程を丁寧に描きたいんです。
それはDIYでも同じだと思っていて。どんなに時間がかかっても、失敗しても、作ったプロセスを知っているからこそ、愛おしくなる。DIYを通して経験する一つ一つの試行錯誤が、人生を豊かにしてくれるのだと信じています。
──コナリさん、ありがとうございました!
※売り切れや取り扱い終了の場合はご容赦ください。
※店舗により取り扱いが異なる場合がございます。
※一部商品は、店舗により価格が異なる場合があります。