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完成までに4年かかったぬいぐるみを見て! 失敗を繰り返しても続けられる理由に胸が熱くなった

クリエイター

albERich

albERich

ぬいぐるみ作家。独学でフェイクファーを用いた作品のほか、頭を自由に動かせる『可動わんこ』シリーズを製作。主に店舗委託とイベント出展で活動中。

人間の腕に抱かれて気持ちよさそうに首を振り、リラックスした様子のキツネ。こんなに大きなキツネが人間の腕の中にいるなんて、動物園でも珍しい光景ですが、背景からして室内のように見えます。これは、一体どういうこと……?

アルベリヒさん 可動わんこ

実はこれ、リアルなキツネそっくりにつくられたぬいぐるみなんです! 中には骨格に見立てたパーツが入っていて、パペット人形のように動かせます。口や牙、首の動きまで本物のように再現されていて、本当に生きているキツネかのような完成度です。

制作したのは、ぬいぐるみ作家のalbERich(アルベリヒ)さん。リアルな動物や幻獣をモチーフにしたぬいぐるみで人気を集めています。特にこの「可動わんこ 狐」はTwitter上で話題になり、ぬいぐるみの動画を投稿したツイートは2万6千以上の「いいね」を集めました。

そんなアルベリヒさんですが、ぬいぐるみ制作はまったくの独学でやっているのだとか。専門の学校に通った経験はなく、これまで制作活動とは縁遠い生活を送ってきたといいます。なぜアルベリヒさんは、ぬいぐるみ制作をはじめるようになったのか。また、どのようにしてここまでクオリティの高い作品をつくれるようになったのでしょうか。話を聞きました。

偶然出会った「リアルなぬいぐるみ」に感動し、見よう見まねで制作を開始

アルベリヒさん ぬいぐるみ

──ここまでリアルなぬいぐるみをつくるにはかなりの技術が必要かと思うのですが、アルベリヒさんはどのようにぬいぐるみ制作の技術を学んだのでしょうか?

ぬいぐるみ制作を学んだことはなく、完全に独学なんです。大学は文学部を卒業していますし、ぬいぐるみ作家として活動する前は、会社員として働いていました。むしろ、ここ数年まで、制作とは縁遠い生活を送っていましたね。

──それは意外です。なのになぜ、こういったリアルなぬいぐるみの制作をしようと思ったのでしょうか?

大学を卒業後、2年ほど販売と事務の仕事をしていたのですが、体調を崩してしまい、お仕事を辞めることになりました。家でずっと休んでいた中、偶然ネットでリアルな動物のぬいぐるみをつくっている方を見つけたんです。作品の写真を見て感動して、自分でもつくってみたいなと思ったのがきっかけです。

私自身、もともと造形や手芸が好きで趣味でやっていたので、まずは見よう見まねで、失敗作をたくさん出しながら制作を続けていました。

アルベリヒさん 幻獣ぬいぐるみ

──見よう見まねで……! ただ、作品に感動して、そこから自分で自分でつくってみようって、あまりないことなのではと思います。

私自身、小さい頃から今まで、動物がすごく好きだったのが大きいです。そのリアルな動物のぬいぐるみを見た時、本当にリアルで生き生きしていて、これがぬいぐるみなの!? と、ものすごく感動しました。私もこの作家さんと同じように、自分の手で本物そっくりなぬいぐるみを生み出せたらいいな、と思ったんです。

──アルベリヒさん自身、動物に対しての強い思いがあったのですね。

2〜3歳ぐらいから動物に興味を持ちはじめて、誕生日プレゼントには毎回図鑑をねだるくらい好きでした。特に野生動物が好きで、生き物の種類一つをとってもそれぞれ個体差があったり、環境に対応していって変化していく部分に惹かれていました。

例えば、私が今までにつくったライオンやキツネとかって、動物園などで見ることはできても、家では飼えないですよね。そういった野生動物たちが自分の家にいたらどうなるんだろう、という気持ちでつくり始めました。

初めてのぬいぐるみ制作はわからないことだらけ。失敗を繰り返しながらやっと完成できた

アルベリヒさん 幻獣ぬいぐるみ

──初めはどんな動物の作品をつくったのでしょうか?

実は、最初の作品は動物ではなく、アニメに出てくる犬のキャラクターをつくりました。野生動物と同じ動機で、二次元のキャラクターが現実に現れたらいいな、と思いまして。

──制作にはどれくらい期間がかかったのでしょうか?

約3ヶ月ほどかかりました。最初は型紙をつくっては失敗してを何回も繰り返しましたね。

アニメを見ながら型紙を作るのですが、線を引いた紙を実際に形にすると、足が細くなってしまうんです。型紙って、もとは一枚の紙だったものを丸めたりして完成形をつくっていくのですが、それを想定せず、直線の長さで線を引いてしまっていました。なので、丸くする分を見越して太く線を引かないとダメなんだ、って気づいたりして。初めの方は、そんな段階から失敗していました。

──本当に初期の段階から独学で進めていったのですね。

あとは、顔の造りにもすごく時間がかかりました。目のバランスがとにかく難しかったです。

私の作品はフェイクファーを使っているので、それを形にすると、型紙よりも実物が膨らみます。その分目が小さく見えてしまったり、隠れてしまったり、ほっぺが膨らむので、顔全体の比率と目の大きさが合わなくなるんです。それを気にして目を大きめにすると、逆に寄り目になってしまったり。納得のいくバランスにするまで、試行錯誤を重ねました。

──作品が完成した時は喜びもひとしおだったのでは。

そうですね。すごく嬉しかったです。「完成させたぞ!」という達成感ももちろんあったのですが、それ以上に、好きなキャラクターが形になった、やっと会えたという気持ちが大きくて。これでいつでも一緒にいられるな、と感無量でした。

──制作の中で失敗やうまくいかないことが続いても、途中でやっぱやめよう、とはならなかったのですか?

今もですが、その時はとにかく「好き」が原動力でした。ただただ「現実になったらいいな」という気持ちでつくり続けていましたね。

私自身、今までつくったものの中でも、投げ出しっぱなしのものはたくさんあるんです。でも、それも積み重ねとして。完璧なものを1個つくるより、失敗作とか、50点の完成品を10個、20個つくっていったほうが100%に近づくのではないか、というモチベーションでやっていました。

最初は完全に趣味で続けていた制作。今ではSNSでの反応が活動の励みに

アルベリヒさん ぬいぐるみ

──そこからどのようにぬいぐるみ制作が続いていったのでしょうか?

1個できたら次もいけるんじゃないか、と思いまして。最初の作品をつくってみて、反省点がいくつかあったので、それを改善したら次はもっとさらに上のものを目指せるんじゃないかと考えました。つくってみたい動物はたくさんいますし。残っていた材料で、2作品目、3作品目をつくっていきました。

──最初は趣味の範囲で制作をしていたと。

そうです。なので、最初は作品として売り出すとか、販売することは考えてもいませんでした。自分が楽しんで、友達数人がかわいいと言ってくれればそれで満足でしたので。ただ、SNSで発信し続けていたらいろいろな反響をいただくようになり、今に至ります。

アルベリヒさん 幻獣ぬいぐるみ

──SNSの力で、もとは初心者だったアルベリヒさんが今や作家として活動しているのですね。

SNSがなかったら、いくら好きという気持ちがあっても、ここまで続けられていないと思います。Twitterでいいねやリツイートしてもらえるのはすごく嬉しいですし、次の作品をつくるモチベーションにも繋がります。何より、自分のぬいぐるみをお迎えしてくださる方がいるのが一番ありがたいです。

──ちなみに、アルベリヒさんのぬいぐるみが初めてお迎えされた時って、いつだったのでしょうか。

ぬいぐるみ制作を始めてから半年後です。友人が売ってくれないか、と声を掛けてくれました。私としては、自分がほしい物をつくっていただけだったので、それをほしがってくれる人が他にいるのが驚きでした。友人が声をかけてくれた時、自分のぬいぐるみをかわいいと思っているのは自分だけではなかったんだ、と嬉しい気持ちになったのを覚えています。

完成までに4年かかった「可動式ぬいぐるみ」

アルベリヒさん 可動わんこ

可動わんこ

──パペット人形タイプのぬいぐるみは、いつごろ生まれたのでしょうか。

制作活動を始めてから2年半後、とあるイベントへ出店した際に、展示物としてつくったのが始まりです。イベント会場で動物が動いていたら面白いだろうな、と最初は可動式のわんこをつくりました。その時はお迎えしてもらうことを想定してなく、顎をパクパクする機構も100均のプラスチックのものを使ったりと、完全に自分用のものだったんです。

それが好評だったので、次はお迎えしてもらう用の可動ぬいぐるみもつくってみようと、本格的に制作をすることにしました。そのためには、多少衝撃を受けても壊れない頑丈な物にしないといけないので、その材料探しだったり、つくり方を模索していき、形にするまでに結局4年ほどかかりました。

可動ワンコ 制作途中

──特に大変だったのはどの部分ですか?

口元や歯の再現ですね。

ネットでとにかくいろいろ検索して、どんな素材を使ったらいいのかとか、先人はどういった方法でつくっているのかなどをリサーチした結果、歯はフィギュアをつくる際に使うウレタン樹脂を使っています。ねんどでつくった歯型をシリコンで取り、ウレタン樹脂を流し込んでつくる方法に行き着きました。

可動わんこ

──動物の歯型を取るのって大変そうですが、型はどのようにつくっているのでしょうか?

動物図鑑や動画を見て観察しながら、自分で粘土で形をつくっています。

──ええ。3Dプリンターなどではなく、完全に手作業なのは驚きです。

逆にそういったデジタル系のものは使っていないんです。アナログ人間なので、3Dプリンターも使ったことがないですし、一切できないですね。

ぬいぐるみ制作への思いは、5年経ってもずっと同じ

アルベリヒさんのぬいぐるみ作品

──今までたくさんの作品を生み出してきたアルベリヒさんですが、ぬいぐるみが完成した時って、どんな気持ちになるのでしょうか。

ぬいぐるみが完成する時は、毎回同じように嬉しい気持ちになります。もともとは布の塊だったものが、動物の形になることに感動するんです。「こんなにかわいい子が生まれたの!?」って、時々自分でも驚くくらい。今まで5年間制作を続けてきていますが、その気持ちはずっと変わりません。

アルベリヒさん 幻獣ぬいぐるみ

──想像ですが、見るたびに「私の子!」って愛おしくなりそうです。

うーん。私としては、自分の子だ!って意識はあんまりなくて。作家の中では珍しいタイプなのかもしれませんが、私の中で自分の作品というよりは、そのぬいぐるみがうちに来てくれたという感じです。

自分自身と作品は完全に切り離して考えていて、自分と重ねたり、自分から生まれたって感覚はないですね。

自分でぬいぐるみ制作をする前は、他の作家さんがつくった動物のぬいぐるみをお迎えすることもありましたが、自分の中で感覚は変わらないんです。自分がつくったものも、他の作家さんがつくったものも、どっちも同じくらいかわいくて、大切で、思い入れがあります。

「好きだから」が何よりの原動力。自分のペースで楽しく続けることが大切

アルベリヒさんのぬいぐるみ作品

──お話を聞いていると、アルベリヒさんの一つの物事を突き詰める姿勢はすごいなと思います。そういう心の持ち方はどのように培われたのでしょうか。

そんなかっこいいものではないんです。

私自身も挫折をたくさん経験しましたし、投げ出したこともたくさんあります。そもそも、ぬいぐるみ制作をはじめたのも、もともとやっていた仕事が合わずに辞めて、時間ができた、というのがきっかけですし。

振り返って感じるのは、苦手なものは突き詰めない方がいい、ということだと思います。ここまで私が続けてこられたのは、ものづくりも動物も、やっぱり好きだからというのが一番大きいです。

アルベリヒさん ぬいぐるみ

ぬいぐるみをつくっている最中にも、それこそ可動わんこの制作が行き詰まった時もありますし、その度に寄り道も気分転換もたくさんしてきました。だからこそ、4年も時間がかかったと思うんです。

やっぱり、根詰めてやりすぎないのが大事だなと。体調を崩してしまったら、全部台無しになってしまうので。

50パーセントでも完成できたなら御の字、という気持ちでやってみる。自分の納得いくものができない、もう投げ出したいと思ったなら、思い切って一回投げ出してみて、買い物とか違うことをやって、気分転換をする。そうして気が向いたらまたやってみる、という意識をしたら、案外長く続くのではないかと思っています。

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