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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
犬から血尿が出てしまった場合、飼い主としては心配せずにはいられません。人間と同じように、尿の変化は犬の体の状態を示すサインです。そのため、通常の尿とは違う変化が見られた場合は、何らかの不調のサインというだけでなく、膀胱炎や尿路結石などの病気の可能性も考えてしまいます。もし、血尿が出てしまった場合、どのような対応をすればいいのでしょうか。今回は、chicoどうぶつ診療所の所長である林美彩先生に教えてもらった、犬の血尿の原因や血尿と間違えやすい症状、対処法や予防のためにできることなどについて解説します。
目次
- そもそも犬の血尿とは?
- 犬が血尿を出す原因とは?
- 血尿を出しやすい年齢や犬種はあるの?
- 犬の血尿と間違えやすい症状は?
- 犬が血尿を出している場合、食事はどうするの?
- 犬が血尿を出している場合、普段の生活で気をつけることは?
- 犬が血尿を出している場合、病院に行くべきかどうかの見極めポイントは?
- 犬の血尿の予防方法は?
そもそも犬の血尿とは?
「血」という文字から、血尿と聞くと真っ赤な尿を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、血尿といっても必ずしも真っ赤なものが出るとは限りません。
犬の血尿は血の量により色もさまざま
血尿とは文字通り、尿に血液が混じっている状態のものを指します。しかし、一言で血尿といっても、含まれる血液の量が、多い場合と少ない場合によって色が異なって見えます。
例えば、出血量がかなり多い場合、尿は赤くなります。一方、少ない場合は、ピンク色やオレンジ色に見えることがあります。血尿は、必ずしも尿全体の色が変わるわけでもありません。血液量が少ない場合は、点のようにところどころに血が混じって出ている場合もあります。また、尿の中に血が塊となって排泄されることがあります。愛犬の血尿がどのような状態なのか、冷静になって確認してみましょう。
犬が血尿を出す原因とは?
血尿が出る原因には、さまざまな要因が考えられます。また、性別特有の病気等から血尿が排出される場合などもあります。
犬が血尿を出す原因とは?
《病気が原因の場合》
膀胱炎
ストレスや細菌による感染、薬剤などによって膀胱炎を起こしてしまい、血尿が排泄される場合があります。特に神経質な犬の場合は、ちょっとした生活環境の変化などが、ストレスになり膀胱炎につながってしまうことがあります。
膀胱炎の原因として多くあげられるのが、菌による感染です。悪化すると、腎臓など膀胱以外の場所も細菌感染する可能性があるので、発熱の有無なども注意して様子をみましょう。
尿路結石
子犬から老犬(シニア犬)までなりやすい病気としてあげられるのが、尿路結石です。尿路とは尿の通り道です。そのどこかにミネラルの集まる結晶や結石ができると、排尿時に尿路を傷つけて血尿が出る原因となります。
特に腎臓と膀胱に結石ができた場合は、血尿が多くなります。結石は肉眼で見ることができるので、尿の中にキラキラとしたものがあった場合は、結石が疑われます。放置しておくと腎臓の機能にも影響を及ぼし、重症化する可能性があるので注意が必要です。
急性腎不全
尿路結石によって腎臓の負担が増加した場合、急性腎不全を引き起こし、血尿が見られるようになります。急性腎不全は血尿のほかにも、血便や下痢、嘔吐や食欲不振などの症状も併せて見られます。また犬がレーズンや玉ねぎなどを食べてしまい、中毒症状を引き起こすことで発症することもあります。腎不全は場合によっては数時間で体調が悪くなり、最悪の場合は死に至ることもある病気です。疑わしい症状が見られたら、すぐに動物病院で診てもらうことが大切です。
《性別特有のトラブル》
性別によって見られる血尿の原因には、性別特有のトラブルもあります。
オスの場合
過剰なマウンティングなどによって性器に傷がつき、出血してしまい血尿が出ることがあります。また、ホルモンバランスの崩れから前立腺疾患になり血尿になることもあります。例えば、前立腺が何らかの理由で腫れてしまうことで前立腺肥大になり、尿道が圧迫されることで血尿がでる場合もあります。特に去勢手術を受けていない犬は、注意が必要です。
メスの場合
膣炎や子宮の炎症、子宮蓄膿症といった生殖器に関係する病気が原因となっているなど場合があります。また、雌は細菌による感染が多いのも特徴です。避妊手術をしていないメスの場合、生後7か月くらいに最初の発情期を迎え、数週間ほど陰部から出血することも。発情による出血(生理)が尿に混じったものなのか、泌尿器トラブルからくる血尿なのかどうかを確認する必要があります。
血尿を出しやすい年齢や犬種はあるの?
体つきや体質などにより、犬はそれぞれ健康状態やかかりやすい病気も異なります。血尿が出やすい犬というのは、血尿が出る症状を引き起こしやすい犬種となります。
尿路結石を起こしやすい犬種は注意
血尿の要因となるひとつに結石があります。犬の中でも特に結石のできやすい犬種として、ミニチュア・シュナウザーやシー・ズー、ヨークシャー・テリアなどがあげられます。これらの犬種が必ず結石ができるというわけではありませんが、体質的にできやすいということを意識しておきましょう。結石によって起きる、尿路結石については病気の項目で詳しく説明していきます。
犬の血尿はどの年齢でも起こる
犬の血尿は、子犬などではあまり症状はみられません。しかし、若年齢の犬から老犬(シニア犬)まで、血尿はどの年齢でも起こすリスクを秘めています。ストレスなどが原因となることもあるため、日頃の生活習慣や環境の変化など、気をとめてあげることが大切です。
犬の血尿と間違えやすい症状は?
犬の尿には一見血尿そっくりに見えて、そうではないものも存在します。また、血尿であっても、一概に病気が原因ではないパターンもあります。
血色素尿
血尿とよく似たものに、血色素尿といわれるものがあります。これは赤血球中に存在する赤い色素のたんぱく質「ヘモグロビン」が尿の中に混じったものです。通常ヘモグロビンは尿の中に流れてしまうということはありません。血色素尿として出てしまうのは、何らかの理由で赤血球が異常をきたし、壊れてしまうためです。
その理由としてあげられるのが、たまねぎ中毒と呼ばれるものです。これは、ネギ類(たまねぎ、ねぎ、にんにく、にらなど)を犬が食べることで赤血球が壊れ、尿に混じってしまいます。犬にネギ類はダメとわかっている飼い主さんは少なくないと思いますが、手作りの食事などでうっかり入ってしまうことも考えられます。ネギ類を犬が食べてしまうと、血色素尿が排泄されてしまうので、注意が必要です。
メスの発情出血
メスの犬で避妊手術をしていない場合、生後7か月頃になると発情期を迎えるようになります。発情の時期が近くなると、犬は陰部から出血が起こる、発情出血というものが起きるようになります。発情出血が始まった後、本当の発情を迎えるというサイクルになります。発情期は年に1~2回の周期でやってきます。
発情期は陰部から鮮血が出るため、排尿時に混じってしまうことがあり、それが血尿のように見えることがあります。鮮血の色は徐々に茶色くなり、2~3週間たつと止まるようになります。
ストレスで血尿になることも
特に犬の体に異常がない場合でも、ストレスによって血尿が出てくることもあります。突然の環境変化や、精神的なストレスが大きな要因となっているかもしれません。そういった状態で血尿が出ているということは、そのストレスがかなり重度なものであることが疑われます。体に異常がなく、原因不明の血尿の場合は、犬を取り巻く周囲の環境にも注意して目を向けてみましょう。
犬が血尿を出している場合、食事はどうするの?
血尿が出たからといって、特段食事を変更する必要はありません。ただし、血尿の原因が生活習慣における病気からくるものは、食事管理を見直す必要があります。
結石ができた場合の食事
尿路結石や尿結晶が見られた場合は、食事療法がとられる場合があります。食事療法で、結石を作る原因となる成分を減らしていきます。結石にはさまざまな種類があり、結石の種類によってそれぞれ異なる食事療法が行われます。
例えば、結石の原因がマグネシウムやミネラルが多いために起こった場合、食事療法によってこのバランスを調整していきます。また、水分量が足りない場合、水分を多く含んだウェットフードを食べさせていく場合もあります。いずれにせよ、獣医師の指示を仰いだ上で行いましょう。
水分摂取を大切にしよう
血尿が出ていなくても、日々の水分補給は非常に重要です。取り入れた水は体の中を巡ります。そして、最終的に尿となって排出されます。健康な尿を排出するには、体の中の循環機能を整えることも大切で、同時にマッサージを行いながら、体の巡りを整えてあげることもいいでしょう。あまり水を飲まない犬の場合は、食事の中にチキンスープを加えたり、水分量の多い食事を取り入れたりすることで工夫してみましょう。
犬が血尿を出している場合、普段の生活で気をつけることは?
犬が血尿を出している場合、病院に行くべきかどうかの見極めポイントは?
血尿が出ている場合は、犬の体に何らかの異常があるサインです。可能であれば、すぐに動物病院を受診することをおすすめします。病気の原因を特定することができれば、適切な処置を施すことができます。また早ければ早いほど、重症化を防ぐことが可能です。
動物病院へ行く際の準備
動物病院へ行く場合は、血尿がどのような状態であるかを獣医師へ知らせる必要があります。そのため可能であれば、採尿を行ったうえで受診をすることで、より原因が突き止めやすくなります。もしも採尿が難しければ、血尿の写真や排尿時の動画などを撮影するようにしましょう。他にも白いペットシーツを使ったり、排尿後に犬の尿にティッシュを押し当てたりすることでも、血尿の状態を獣医師に伝えることができます。
また、食事内容や生活環境など、日常生活の中で変えたことや変わったことをメモしておきましょう。これらの情報があると、問診の際にも獣医師へスムーズに情報を伝えることができます。
血尿以外の症状はないか確認
血尿以外の症状がある場合も、同じようにその状態を事細かに伝えることが大切です。頻尿や下痢、嘔吐があるなど、気付いた症状はメモなどに残しておきましょう。また、ぐったりしている・歯ぐきや舌が青白くなっている場合は、すぐにでも動物病院を受診するようにしましょう。
犬の血尿の予防方法は?
犬が血尿を発症しないようにするためには、日頃の生活管理が大切です。健康的な生活が、予防につながります。
免疫力を高めよう
尿路結石や尿路感染症など、血尿には細菌が原因となって発症するものもあります。このような細菌に対抗するには、犬自身の免疫力を保つことが大切です。
ストレスを減らそう
ストレスを軽減するために、日々の散歩などで運動不足を解消したり、遊びなどを通じてコミュニケーションをとることも大切です。犬自身が安心できるように、ストレスフリーの状態の環境を整えてあげましょう。
腎臓にやさしい生活を心がけよう
腎臓は尿と関連性が高い臓器です。そのため、水分摂取が十分量行われていなかったり、犬を肥満のまま放っておくと、腎臓に負担をかけてしまう可能性があります。定期的な健診を受けることはもちろんですが、獣医師に適切な食事内容を相談してみるのもいいでしょう。また、場合によっては、犬用のサプリメントなど活用しながら、栄養バランスの整った食事を意識しましょう。
第4稿:2021年7月15日更新
第3稿:2021年4月15日更新
第2稿:2021年1月27日更新
初稿:2020年10月13日公開
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。