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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
犬のぷにぷにとした肉球に、可愛らしさを感じる飼い主の方も多いのではないでしょうか。肉球は犬が直接地面に触れるデリケートな部分です。そして、肉球はさまざまな役割を持っており、健康状態を知るバロメーターにもなっています。そこで、飼い主としては、犬の肉球をどのようにケアしてあげればいいのでしょうか。今回は、chicoどうぶつ診療所所長の林美彩先生に教えていただいた、犬の肉球の持つ役割や、起こりがちなケガや病気などのトラブル、その予防などを解説していきます。
目次
- 犬の肉球にはどんな役割があるの?
- 犬の肉球はどんな構造になっているの?
- 犬の肉球の異変でどんな不調が発見できるの?
- 犬が肉球を舐めている時、どんな意味が隠れているの?
- 犬の肉球のトラブルにはどのようなものがあるの?
- 犬の肉球にトラブルがあった場合の対処法は?
- 犬の肉球に異変を感じたとき、動物病院に行くべきタイミングは?
- 犬の肉球のケア方法は?
犬の肉球にはどんな役割があるの?
犬の肉球には、いくつかの役割が存在します。役割ごとに解説していきます。
足を保護する役割
犬用の靴はありますが、犬は基本的に裸足で生活する生き物です。犬は全体重が足先にかかっており、運動すると、それらの衝撃を全て直に受けてしまう状態になってしまいます。肉球は、犬の体重がかかる足先を保護する役割を持っています。肉球があることで、とび跳ねたりした際に関節や骨にかかる衝撃を和らげる「クッション」としての役目も果たしています。
ブレーキの役割
犬の肉球にはブレーキの役割もあります。犬は速いスピードで走ることができますが、急に止まったり、くるりと急カーブを曲がったりすることができるのは、肉球が滑り止めのようなブレーキ機能を果たしているからなのです。犬は肉球を自然と使うことによって、うまく体の速度を調整しています。
感覚を感じ取る役割
犬は肉球から地面の状況などを感じ取ることができます。肉球にはたくさんの神経や血管が通っており、温度を初め、触覚や痛覚などを感じることができます。
体温調節の役割
犬の体温調節は、基本的にパンティングという、舌を出して呼吸する行為で行います。犬はパンティングでハァハァと呼吸することで、体の中の熱を外に排出させています。しかし、それだけで体温調節ができない場合は、汗をかいて調節します。人間は汗を全身からかきますが、犬は肉球や鼻の頭など限定された場所からしか汗をかかないため、肉球は体温調整においても大切な役割を担っています。
犬の肉球はどんな構造になっているの?
犬の肉球は、正六角形のような形を隙間なく並べたハニカム構造とよばれる状態になっており、外側は硬い皮膚によって覆われています。皮膚は角質化していますが、内側は脂肪や繊維組織から構成されており、弾力があります。そして、表面は円錐状の突起で覆われており、ブレーキ機能を果たしています。
また、肉球には場所によってさまざまな呼び方があります。イラストを参考に、細かく呼び方を見ていきましょう。
前脚:爪
犬の爪は、スパイクのような役割を持っています。人間と同じく、犬の爪も赤い部分と白い部分に分かれており、赤い部分はクイックと言われていて、神経や血管が通っている部分です。犬によっては、黒い爪を持っている場合もありますが、これも同じく神経と血管が通っている部分です。また、白い爪よりも黒い爪の方が硬い傾向にあります。
狼爪(ろうそう)と呼ばれる爪もあり、犬によっては生えていない場合もあります。
前脚:指球
指球は、爪が生えている5つの肉球のことを指します。
前脚:掌球(しょうきゅう)
掌球は、前脚の裏の中心にある肉球です。犬の肉球の中では最も大きく、体重を支えたり、衝撃や地面との摩擦を軽減させたりする役割を担っています。
前脚:手根球
手根球は、狼爪の少し下の部分にあります。地面に接することがない肉球で、小さく丸い形をしています。犬の進化の段階で退化していった肉球と捉えられており、現代では使われることがない肉球です。
後脚:爪
前脚同様に後脚にも爪が生えています。前脚と同様の役割を担っています。
後脚:趾球(しきゅう)
趾球は、爪が生えている4つの肉球のことです。
後脚:足底球
足底球は、真ん中にある大きな肉球のことです。前脚の掌球と同じように、体重を支えたり、衝撃や地面との摩擦を軽減させたりする役割を担っています。
犬の肉球の異変でどんな不調が発見できるの?
犬の肉球は、体調変化を読みとる基準にもなります。犬の体調により肉球にはどのような変化が見られるのでしょうか。
かさつき・ひび割れ
通常肉球は弾力があり、しっとりとしたツヤ感があります。しかし、空気の乾燥などによって、かさかさになってしまうことがあり、乾燥が激しい場合は、ひび割れを起こしてしまう場合もあります。他の原因としては、手足の洗いすぎや拭き取りすぎも挙げられ、ごしごしと洗ったり拭き取ったりすることで、肉球の皮脂や潤いまで落としてしまい乾燥につながる場合があります。
湿っている・濡れている
犬の肉球がじわっと濡れていることがあります。これは、犬が何らかのストレスを受けたことによるものです。人は緊張すると手に汗をかきますが、犬も同様です。また、前述のように、汗をかくことで体温調節も行っており、肉球が乾燥することを防いでいるとも言われています。
色の変化・赤い場合は?
肉球の色が変化する原因はさまざまです。子犬の頃はピンク色の肉球をしていたのに、成長するにつれて色が黒っぽくなるという現象をみることもありますが、これは成長過程による色素の沈着や遺伝などが考えられ、病気と関係していないこともあります。
しかし、色が薄くなったり、赤みがかったりしている場合は注意が必要です。通常肉球は、色が薄くなるという変化は見られません。色が薄くなっている場合は、乾燥が原因となっていることが考えられます。また赤みがかっている場合は、やけどやケガ、ストレスやアレルギーによって、内出血や指間炎を起こしていることが考えられます。
その他の変化や原因
他にも肉球の変化には、縮小などの状態が見られることがあります。また肉球の変化があらわす体のサインには、脱水症状や栄養不足、貧血や冷え症、むくみといった症状が出た際も、肉球に表れやすいと言われています。そのため、普段から肉球の状態を把握しておき、変化したら獣医師に相談するようにしましょう。
犬が肉球を舐めている時、どんな意味が隠れているの?
犬を観察していると、肉球を舐める仕草をみせることがあります。肉球に何か違和感があるようにも見えますが、その違和感にもさまざまな要因が考えられます。
体に違和感を感じている時
犬が肉球を舐める時は、体になにか直接的な異変を感じ、肉球を舐めることがあります。例えば運動中にケガをしてしまい、肉球に傷がついている可能性です。また、かさつきやひび割れによって肉球が乾いている、アレルギーや虫さされによってかゆみを感じ、それを紛らわすために舐めていることも考えられます。
このように、肉球に直接トラブルを抱えていて、その状態が耐えきれずに舐めているということが考えられます。まずは肉球そのものに変化がないかを確認することが大切です。
ストレスを感じている時
直接的な要因だけでなく、ストレスなどの精神的なことが引き金となって肉球を舐めている可能性も考えられます。寝床などの環境変化や、散歩に行けないなどの運動不足が引き金となっているかもしれません。
また、長時間留守番をして、不安を感じている場合もあります。寂しくなってしまった犬が、その気持ちを紛らわすために、脚や肉球を舐めることもあります。体の状態に変化がない場合は、このような身の回りの環境に原因がないか考えてみましょう。
犬の肉球のトラブルにはどのようなものがあるの?
犬の肉球は地面に直接触れるため、生じるトラブルも多種多様です。また前述のように、犬の肉球の変化は体のトラブルを知らせるものでもあります。肉球のトラブルを避けるには、事前に起こるべきトラブルについて把握しておくことが大切です。
やけど・しもやけによるトラブル
夏場のアスファルトや砂浜は太陽熱によって非常に高温になっています。そのため、うっかり昼間に散歩へ連れて行くと、やけどを負ってしまう可能性があります。やけどを負った肉球は、赤く腫れてしまいます。
一方、冬場における長時間の雪遊びや雪道の散歩は、しもやけを起こすこともあります。歩くことを嫌がったり、歩きにくそうにしている場合は、肉球の状態を確認してみましょう。
ケガによるトラブル
犬の肉球にケガや傷ができている可能性もあります。散歩の途中などにガラスや小石を踏み、すりむいたりしているかもしれません。肉球を舐めている場合は、このようなことが原因で、足先に違和感を覚えているのかもしれません。
病気によるトラブル
犬には、肉球をはじめ鼻などの皮膚が固くなる「ハードパット」という症状が出ることがあります。これは、犬ジステンパーウイルス感染症という病気によるものです。感染力の強い病気で、発熱やせき、くしゃみなどかぜのような呼吸器症状や、下痢などの症状が現れます。犬ジステンパーウイルス感染症は、ワクチン接種が行われています。さまざまな体の不調を引き起こす病気でもあるので、事前に予防接種を受け対応するようにしましょう。
犬の肉球にトラブルがあった場合の対処法は?
ケガや病気など、肉球にトラブルが生じた場合は、原因に応じて対処を行うことが必要です。慌てずにまずは考えられる原因を推測し、場合によっては動物病院の受診も考えましょう。
やけど・しもやけの場合
やけどの場合は人間と同じように、すぐに患部を冷やすことが鉄則です。水で洗い流す、保冷剤をタオルに包んで冷やすといった対応で、様子を見ましょう。このとき、犬が嫌がっていても、しっかりと冷やしてあげることが大切です。保湿剤などがあれば、塗布してあげることで状態が落ち着く場合もあります。しかし、痛みが伴っている場合や、肉球がただれて表面がはがれている場合もあるので、早目に動物病院を受診しましょう。
しもやけの場合、患部を温めなるべく早く動物病院へ連れていきましょう。
ケガの場合
外への散歩などが原因で犬の肉球にケガを負った場合、汚れがある場合はまず患部を清潔にする必要があります。ゆっくりと流水で洗い、出血がある場合は圧迫止血を行って下さい。ケガの場合は素人では対応できないこともあるので、なるべく早目に動物病院を受診することをおすすめします。
病気の場合
病気の場合、症状により対応が異なるので、まずは動物病院を受診し検査によって原因を突き止めましょう。そして、検査や診断結果によって、治療法を獣医師と相談しましょう。その他にも、脱水やむくみの対策、食事の栄養バランスなど、注意点を聞き、自宅で実践しましょう。
また、犬ジステンパーウイルス感染症と診断された場合、犬ジステンパーウイルスを治療する方法はないため、下痢や発熱など、犬に出ている症状を抑える対処療法を行います。また食事内容や衛生環境などを整え、免疫を高める治療も行います。
犬ジステンパーウイルスに感染しないように、しっかりとワクチン接種を行い予防に努めましょう。
犬の肉球に異変を感じたとき、動物病院に行くべきタイミングは?
肉球に異変があっても、すぐに動物病院に行くべきかどうか迷うことがあります。軽度の変化であれば、様子を見る程度でいいかもしれません。しかし、肉球のはがれや痛み、悪臭がしている、熱感・冷感がある、出血しているなど明らかに変化がある場合は、早急に対応しなければ症状がひどくなるかもしれません。このような状態が見られる場合は、早目に受診するようにしましょう。
犬の肉球のケア方法は?
日頃から対策や予防を行うことで、肉球のトラブルを未然に防ぐこともできます。日常の中のさまざまな場面に気を配りながら、大切な肉球をしっかり守ってあげましょう。
犬の散歩前に注意すること
散歩の時は犬の肉球が直接、外の地面に接するタイミングです。そのため日差しに照らされた夏場のアスファルトや砂浜は大変危険です。散歩の時間は気温が低い朝の時間や、日が暮れた夜間などに行うようにしましょう。散歩前にアスファルトの温度を確認し、事前に状態を確認してから出かけるといいでしょう。
犬の散歩後に注意すること
犬の散歩から帰ってきたら、肉球や肉球の間に異物が挟まっていないかを注意して観察してください。その際、肉球に傷などがないかも注意して確認してあげましょう。汚れが見られる場合は、しっかり洗い流しましょう。洗った後は、生乾きの状態だと、細菌が繁殖して皮膚炎をおこす場合があります。そのため、しっかり乾燥させることが大切です。
クリームで肉球を保護しよう
肉球専用のクリーム等を使い、マッサージをしてあげることで、乾燥などから肉球を守ることができます。クリームを両手の親指で広げるように塗りこみ、しっかり肉球や肉球の間に馴染ませてあげましょう。犬が嫌がらず、リラックスしている様子であれば、しばらく続けてあげましょう。マッサージをすることによって、血行が促進するだけでなく、ストレスの解消にもつながるので、定期的に行うと効果的です。
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。