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往診専門るる動物病院、TNRののいちアニマルクリニック 所属。小動物臨床15年、往診による一般診療、終末期医療、オンラインでの診療や相談にも積極的に取り組む。
犬は飼い主の顔をペロペロとなめることがあります。愛犬がよく顔をなめてくる場合、どんな理由があるのか、なめる場所によって意味があるのか気になっている方も多いでしょう。
今回は、愛犬が飼い主の顔をなめる理由や、犬がなめる場所によって考えられる意味について、往診専門ルル動物病院の岡田京子先生に解説していただきます。愛犬の何気ないしぐさに隠れている気持ちを知り、愛犬とのコミュニケーションや日々のお世話に役立てましょう。
目次
- 犬が飼い主の顔をペロペロなめる理由
- 犬が顔をなめるのにはリスクもある
- 犬に顔をなめられないための対処法
- 飼い主の顔以外を犬がなめる理由と対処法
- まとめ
犬が飼い主の顔をペロペロなめる理由
犬が飼い主の顔をなめる行為は、子犬期に母犬をなめてゴハンをもらっていた名残と言われています。もし愛犬が飼い主の顔をなめてきたら、母犬のように大切な存在に感じるのと同時に、「大好き」「うれしい」といった気持ちでなめていると考えられます。
一方で、飼い主をペロペロとなめるしぐさには、他の意味がこめられている場合もあります。ここでは、少し意外な犬の気持ちについて詳しくみていきましょう。
「かまってほしい」「喜ばせたい」からなめている
愛犬に顔をなめられたときに飼い主がなでたり喜んだりしていると、犬は「なめればかまってもらえる、飼い主が喜ぶ」と覚えてしまうことがあるでしょう。またいいことが起こることを期待して、犬は飼い主の顔をなめているかもしれません。
たとえ飼い主が「なめないで」と騒いでいる場合でも、犬は飼い主が反応してくれたことをうれしく感じ、またペロペロとなめてくる可能性もあるでしょう。
「意外とおいしい」からなめている
愛犬が飼い主の口まわりを熱心になめていたら、食べ残しや食べ物のニオイなどが残っている可能性があります。一度なめてみたら、意外とおいしかったのかもしれません。口まわりからニオイや味がすることを犬が学習すれば、食べ物の味が目的でまたなめるのを繰り返すこともあるようです。
「なだめたい気持ち」でなめている場合も
愛犬が顔の下からなめてきたら、飼い主をなだめているのかもしれません。
犬は叱られたときなどに、「闘うつもりはないよ」「自分はあなたより弱いよ」という気持ちでなめることがあります。これは本能的な行為が変化したしぐさで、飼い主に対して「自分は弱い存在だよ」と伝えようとしているのでしょう。
ストレスや不安を感じている
愛犬がしつこくなめる場合は、退屈やストレスを感じているケースもあります。顔をなめるという行動が突然はじまった場合は、愛犬と触れあう時間や環境などに変化がなかったか振り返ってみましょう。もしストレスの原因がわかったら、適切に対処することによって愛犬が顔をなめる行為が改善されるかもしれません。それでも改善されない場合は、愛犬と触れあう時間を増やしてみたり、愛犬とのコミュニケーションを見直してみたりすることも一つの方法です。
犬が顔をなめるのにはリスクもある
犬が顔をなめることを、スキンシップの一つとして受け入れている飼い主も多いかもしれません。しかし、犬が顔をペロペロなめるのには、リスクもあることを覚えておきましょう。場合によっては大きなトラブルに発展してしまう可能性もあるため、注意が必要です。以下のようなリスクを想定しておきましょう。
人獣共通感染症
人間と犬ではかかる病気や症状が違う場合がありますが、「人獣共通感染症」という人と動物が共通に感染する病気や、動物が由来して人に感染させる病気もあります。
人獣共通感染症のなかでも、人に感染するリスクの高い病気として「パスツレラ症」があります。パスツレラ症の原因となるパスツレラ菌は、犬や猫などの口腔内に存在することが多い常在菌です。犬や猫のほとんどは無症状なので気づきにくいですが、人に感染すると菌が付着した部分に炎症を引き起こす可能性があります。持病を持っていたり、免疫力が弱っていたりする場合、パスツレラ菌が人の体内に入り込むと肺炎や気管支炎を起こすこともあるため、感染症には注意が必要です。
口腔内の雑菌がつく
犬の口腔内には人間に影響を与える菌だけでなく、多数の雑菌も存在しています。そのため、顔をなめられることによって雑菌が顔に付着して炎症や発疹などの症状を引き起こすケースもあります。お肌が弱い方はもちろん、顔に傷がある場合は雑菌が皮膚に入り込む可能性もゼロではありません。衛生的にもあまり良くないため、犬が顔をなめる習慣をつけてしまうことはおすすめできません。
犬に顔をなめられないための対処法
愛犬が顔をなめることが習慣化すると、制止するのが難しくなってしまいます。もし、顔をなめる行動が目立ってきた場合は、次のような方法で対処してみましょう。
冷静に対処する
先述したとおり、顔をなめたときに飼い主がリアクションを取ってしまうと、愛犬は反応してもらえたのがうれしいと感じ、もっとなめてくる可能性があります。そのため、なめる行為をやめてほしい場合は、そっと顔を逸らしたり、その場から立ち上がったりなど、静かに対処してみましょう。その場で待って愛犬が落ち着いてから褒めてあげると、顔をなめなくても愛情が伝わっていることを表すことができます。また、愛犬が顔をなめそうになったら気を逸らすことも一つの方法です。
なめられた部分はしっかり洗う
愛犬に顔をなめられたときは、感染症や雑菌の繁殖を防ぐため、しっかり顔を洗うなどの対処をしましょう。なめられたときに問題がなくても、体の状態によってはトラブルが発生する可能性があります。また、メイクをしていたり、口のまわりに食べたものの成分が付着していたりする場合は、なめた犬にとっても良くない状態を引き起こすかもしれません。顔まわりや手は常に清潔な状態を保つように心がけましょう。
飼い主の顔以外を犬がなめる理由と対処法
飼い主の顔だけでなく、愛犬が特定の場所やものをペロペロとなめるときは、何か理由が隠されている可能性があります。愛犬の行動に隠された気持ちを読み取ることは、愛犬と良好な関係を築いていくうえで大切なことです。ここでは、愛犬が飼い主の顔以外をなめる例を4つ紹介します。
犬が自分の顔や体をペロペロなめるとき
犬が自分の顔や体をなめて毛づくろいすることを、グルーミングと言います。とくに食事の後で口のまわりが汚れていると、なめてきれいにします。そのため、愛犬が自分の顔や体をなめるのは異常行動ではありません。
ただし、いつも同じ部分をなめていたり、長時間なめていたりなどの行動がみられはじめた場合は、皮膚病の発症やストレスなどの原因が考えられます。そういった場合は、いつも以上に愛犬に気を配ってあげましょう。もし、しばらく様子をみても改善しない場合は、かかりつけの動物病院に相談することをおすすめします。
犬同士でペロペロなめあうとき
犬はお互いに敵意がないことを確かめるために、犬同士でなめあってコミュニケーションを取る習性があります。散歩中などに出会った犬や、一緒に暮らしている犬など、犬同士でなめあう行為は愛情や信頼を伝えあうという意味を持つため、とくに気にする必要はありません。
また、犬同士は顔だけではなくおしりのニオイを嗅いだり、なめたりすることがあります。これは肛門腺のニオイから相手の情報を知ろうとする行為の一つと言われています。もし相手の犬をしつこく追いかけてしまう場合には、きちんと引き離すようにしましょう。
床やベッドをペロペロなめるとき
床やベッドなど、いつもは気にしない部分を愛犬がペロペロなめる場合は、食べこぼしが落ちていたり、食べ物や飲み物のニオイが残っていたりするかもしれません。人間の食べ物や飲み物のなかには犬の体に害を与えたり、味が強すぎたりするものもあります。食べこぼしや飲み物の跡はきちんと拭き取り、部屋を清潔に保つように心がけましょう。
もし、いつも特定の場所や家具をなめる場合は、その箇所をなめることで犬に悪影響がないかどうかを確認します。しつこくなめる場合は、愛犬が退屈していたり、ストレスが溜まったりしている可能性があるため、愛犬とのコミュニケーションを意識して取ることを心がけるとともに、動物病院を受診しましょう。獣医師に相談の上、原因を特定することが大切です。
過度なストレスから、心を落ち着けるためになめている場合は心のケアや治療が必要です。退屈からの行動である場合は遊んで体力を使うことでストレスを解消できるでしょう。
他にも、なめていると飼い主が反応してくれることで気を引きたくてなめている場合もあります。この場合はやめさせた後にご褒美として他に舐めていいものや、噛んでもよいおもちゃなどを与えるなどのトレーニングを行います。
散歩中に地面や道路をなめるとき
犬が食べ物や飲み物など、食べられるもの以外をなめる習慣があるときは、栄養面や身体面に問題が発生しているかもしれません。たとえば、食事の栄養バランスが乱れていたり、脳の病気を患っていたりすると、食べられないものを口にすることもあると言われています。病気が原因である場合は、飼い主がやめるように言っても、しつこくなめ続けるケースが多くなっています。地面や道路をなめるのは衛生面でも良くないため、かかりつけの動物病院に相談するなど、専門家へ判断を仰いでみてください。
また、病気が原因でなくても、何かのきっかけによって地面や道路をなめることもあります。もし、過去に地面や道路をなめたことで愛犬に反応したような出来事があった場合は、気を引くためにやっている行為の可能性があるため、反応せずに冷静に対応することが効果的と言えるでしょう。
まとめ
愛犬が飼い主の顔をなめたり、特定の場所をなめたりするクセがあると気になる飼い主も多いかもしれません。愛犬が特定の場所をなめるのには意味がありますが、まずは愛犬がなめる場所やなめられた部位を清潔に保つように努めましょう。愛犬と日々一緒に生活をしていくなかで、愛犬の気持ちを汲み取ることはとても大切です。より円滑なコミュニケーションを目指してみてください。