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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
「うちのわんちゃんと別の犬種のわんちゃんで、性格だけでなく行動パターンも何か違う気がする」と感じたことがある方もいるでしょう。犬種によって性格に違いがあるのは過去の研究で知られていますが、さらにどんな行動パターンに違いがあるのかということが最新の研究によってわかりました。ヤマザキ動物看護大学で獣医動物行動学を研究する獣医師・茂木千恵先生のコラム。今回のテーマは「人気犬種(ミニチュア・ダックスフンド、トイ・プードル、チワワ、柴犬)の行動パターンの違い」についてです。
遺伝的に受け継がれている犬種の性格とは?
日本で飼育頭数が多く人気犬種ランキングの上位に入っているのは、小型犬のいわゆる愛玩犬です。みんな小さくて可愛いというイメージで、違いは見た目だけとも思われがちですが、犬種によって性格は違います。多くの犬種は人間が人為的に行った育種(子の世代に求める特性をもとに選択した両親犬を交配させ繁殖させること)によって生まれており、それぞれの祖先の性質や性格が遺伝的に受け継がれていると、過去の研究から明らかになっています。まずは、ミニチュア・ダックスフンド、トイ・プードル、チワワ、柴犬といった、人気ランキングTOP4常連の犬種の性格を挙げてみましょう。
ミニチュア・ダックスフンド
元々は猟犬であったため、獲物を追いかけたがる性質がありスタミナが豊富。食いしん坊で盗み食いをしてしまうことも。他の犬には友好的で落ち着きがある様子を見せるが、見知らぬ人への警戒心は強い。
トイ・プードル
スタンダード・プードルだけでなく猟犬であるテリアの性質を引き継いでおり、興奮しやすく吠えやすいがしつけもしやすい。警戒心が高く、利口・活発・従順な性格。オーナーへの愛情欲求が高く、遊び好き。
チワワ
メキシコ古代文明のころに存在した野生犬種を育種した歴史から、野性味があって機敏で注意深く勇敢な性質。オーナーへの愛着が強いが、子供への攻撃性も高い。他の犬とは友好的である一方、見知らぬ人に警戒して吠えやすく興奮しやすい。遊び好きではない傾向も。
柴犬
古来、人間が狩りに行くときに、熊に襲われないよう知らせてもらう役割で連れていた犬種のため、忠実で感覚が鋭く、警戒心に富んだ性格。1人の人にしか懐かないという頑固な側面も持つ。
最新の研究によって判明した人気4犬種の行動パターンの違いとは?
わんちゃんのどんな行動パターンに違いがあるのかがわかったのは、2020年3月に発表された論文(※)によります。この研究では、わんちゃんの行動パターンの違いの分析を目的に、わんちゃんの日常的行動に関するアンケートを、わんちゃんを飼っているオーナーに対して行いました。
【調査方法】
ドッグランなどでの対面とWeb上で行われたアンケートの合計解答923件のうち、飼育頭数の多い人気の4犬種(ミニチュア・ダックスフンド、トイ・プードル、チワワ、柴犬)についての解答294件のみ抽出し、調査しました。
アンケートの内容は、対面の質問紙アンケートでは20設問、Webアンケートでは8設問、主にわんちゃんの日常の行動パターンについて発現頻度を問うというものです。
質問紙アンケートでは各項目をオーナーの印象で「全くない(1点)」「あまりない(2点)」「どちらでもない(3点)」「ある(4点)」「よくある(5点)」の5段階、Webアンケートでは、各項目を「ない(1点)」「たまに(2点)」「ときどき(3点)」「いつも(4点)」の4段階で選択してもらい、点数の平均値と同犬種内での個体差(標準誤差)を出しました。
【調査結果】
調査の結果、以下の7つの行動パターンに違いが見られました。(1)〜(5)は質問紙アンケートで、(6)(7)はWebアンケートで調べた行動パターンです。
犬の行動パターンの意味とは?オス・メスによっても発現頻度に違いが?
上記の表にある(1)〜(7)の行動パターンをわんちゃんがとるのには、それぞれ以下のような意味があります。
・(1)は「喜び」、喜びの感情を示す
・(2)は「不安・恐怖」、不安や恐怖の感情を示す
・(3)は「服従」、服従心を示す
・(4)は「要求」、愛着のある人への好意を示す
・(5)は「怒り」、威嚇や優位性を示す
・(6)は「主導権」、反抗性の一種
・(7)は「遊びたい気持ち」の表れ
この調査により、4犬種の中でどのような行動パターンに違いがあるのかがわかりました。つまり、(2)の発現頻度が最も高い柴犬は4犬種の中で一番不安や恐怖を感じやすく、(4)の発現頻度が最も高いチワワは、4犬種の中で一番オーナーに好意をアピールする犬種だということが言えます。
また、犬種だけでなく性別によっても、発現頻度に違いが見られた行動パターンもありました。(2)はチワワのオスほうがメスよりも、(5)はトイ・プードルのオスのほうがメスよりも発現頻度が高い結果に。(6)はミニチュア・ダックスフンドとトイ・プードルはオスに、チワワと柴犬はメスに引っ張りが多い傾向でした。(7)はミニチュア・ダックスフンド、チワワ、柴犬はメスにマウンティングが多く見られるのに対し、トイ・プードルはオスにマウンティングが多く見られたのです。
さらに、一部の犬種では避妊去勢手術の有無によっても結果に違いがありました。(7)は柴犬において、去勢していないオスにはマウンティング行動が見られないことが判明。一方で、メスは避妊手術を実施しているほうが、マウンティング頻度が高い結果となったのです。避妊去勢手術と行動の関連性は、今後さらなる研究が必要だと思われます。
理想のライフスタイルをよく考えて、自分に合った犬種選びを!
人気の4犬種は同じ小型の愛玩犬だから違いは見た目だけと思われがちですが、このように犬種によって性格や行動パターンに違いがあるのです。さらに、オス・メスで一部の行動パターンが異なる犬種もあります。「可愛い!」「目が合った!」という理由から飼った後に「こんなはずじゃなかったのにな……」とならないためにも、パートナーになるわんちゃんを選ぶ際は、犬種による行動パターンの違いを理解し、その上で自分がわんちゃんとどんなライフスタイルを送りたいのかを考える必要があります。そうすると、自分にあった犬種がわかってくると思います。
あなたのライフスタイルに合う犬種は?
調査した4犬種で考えてみると、たとえば、ご自宅でわんちゃんを膝に乗せてゆったりとした時間を過ごしたい方にはチワワがおすすめです。ドッグランなどで他のわんちゃんとも交流したいのであれば、ミニチュア・ダックスフンドやトイ・プードルがいいでしょう。決まった時間に散歩をするなど規則正しい生活を送りたいなら、柴犬もいいですね。オスかメスかも考慮に入れるべきでしょう。
問題行動の原因とは?
また、今回、調査したうちの(2)(5)(6)(7)は、問題行動そのものや、放置しておくと問題行動につながる行動パターンです。問題行動とはオーナーにとって不都合なわんちゃんの行動で、飼育放棄の大きな理由にもなりますが、わんちゃんが問題行動を起こすのは、オーナーがわんちゃんの生まれ持った性質に合わない環境で飼おうとしたり、正しいしつけを正しいタイミングで行えなかったりしたことが原因なのです。
拮抗条件付けトレーニングのすすめ
わんちゃんを飼っていて問題行動にお悩みの方には、「拮抗条件付け」と呼ばれるトレーニングをおすすめします。わんちゃんがいけない行動をしていたら、「おすわり」「ふせ」「まて」「おいで」という4つの号令を使って指示を出し、わんちゃんの行動をコントロールします。そして、わんちゃんがいけない行動をやめて正しい行動ができたら、おやつなどごほうびを与えるのです。「ダメ!!」と叱るのではなく、こうすれば、犬としては怒られたとは思いません。「拮抗条件付け」のトレーニングは、お迎えしたばかりのわんちゃんにも最適です。ぜひ試していただきたいです。
自分に合った犬種を選択し、その行動パターンを理解して、問題行動の芽を放置せず、「拮抗条件付け」で適切に対処する。そうして、わんちゃんと暮らす理想のライフスタイルを、末永く充実したものにしていただきたいと思います。
(※)論文
『小型犬の品種における行動傾向の相違:日常生活に見られる行動パターンの評価』
動物研究,2020年3月公開
著者:茂木 千恵・新井 淑惠・勝亦 弥香