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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
犬の「分離不安症」をご存知でしょうか。分離不安症とは、犬が飼い主さんの不在に耐えることができずに大騒ぎしたり、部屋を荒らしてしまったりするなどの問題行動や、ストレスから精神的・肉体的に不調を起こす病気のことです。実際に「帰宅したら部屋が荒れていた」「フローリングで粗相をしていた」という経験のある方もいらっしゃるでしょう。今回は、そんな分離不安症の原因、具体的な症状、対処法などについて獣医師の林美彩先生に解説していただきました。
目次
- 犬の分離不安症とは?
- 犬の分離不安症の症状とは?
- 犬の分離不安症の原因とは?
- 犬の分離不安症の対処法とは?
- 犬の分離不安症を改善する方法とは?
- 犬が分離不安症になりにくい習慣とは?
- 犬の分離不安症による行動がつらくなったときは?
犬の分離不安症とは?
犬の分離不安症とは、飼い主などの特定の人と離れる不安による精神的・肉体的な不調や、不安からさまざまな問題行動を引き起こしてしまうことを指します。アメリカでは、「犬の問題行動のうち、20%~40%は分離不安症によるもの」という研究結果も明らかにされています。
犬の分離不安症の根底にあるのは、飼い主と離れることに対する不安です。飼い主の姿が見えなくなることで、「もう二度と帰ってこないのではないか」「留守番をしている間に、何か危険なことが起こるかもしれない」といった気持ちで落ち着かなくなってしまうのです。
こうした不安は、過去の恐怖体験や、生活環境の大きな変化などがトラウマになって生じます。この他にも、飼い主が甘やかしすぎたことによって、離れることに不安を感じやすい性質になっている場合もあります。
犬の分離不安症の症状とは?
分離不安症の犬に共通するのは、飼い主と離れたときに大きな不安や恐怖、強いストレスを感じること。主な行動の例としては、「くっついて離れようとしない」「離れると吠えたり鳴いたりする」といったものがあります。
分離不安症が進行すると、次のような場面で問題行動を頻繁に起こすことがありますのでその具体例を紹介します。
飼い主の不在時
・部屋を荒らす、物損
・寂しさの表現や嫌がらせとしての粗相、トイレの失敗
・下痢嘔吐、食欲低下などの消化器症状
・無駄吠え
・自傷行為
・食糞
飼い主の帰宅時、在宅時
・“うれション”など、喜びの感情による粗相
・飼い主の姿が見えないとパニックを起こす、無駄吠えをする
・飼い主がトイレやお風呂に入っているときに、ドアを引っ掻いたりかじったりする
・飼い主が外出しようとしたときに、吠えたり噛みついたりしてくる
・食糞
・同じところを歩き回るなど、落ち着きのない行動が見られる
・呼吸が速くなったり(パンティング)、よだれを垂らしたり、震えが見られたりする
・瞳孔が開いている(興奮状態)
上記のような問題行動の多くは、飼い主が近くにいないことに対する不安や恐怖を飼い犬が紛らすためのものと考えられています。
犬の分離不安症の原因とは?
犬の分離不安症は、次のような原因によって起こります。
生育環境によるもの
・捨てられるなどして、飼い主が何度も変わった
・子犬のときに長時間の留守番を経験した
・母犬の育児放棄があったり、幼いうちから母犬と離別したりした
・保護施設などで多くの犬とともに育ち、複数人から世話をされていたことでしつけが不足していた
過去の恐怖体験によるもの
・過去、留守中に雷や地震、不法侵入など恐怖を感じる体験をした
・飼い主が長期間不在となり、強い不安や恐怖を感じた
生活環境の変化によるもの
・引っ越しや家族の状況の変化(進学や就職、出産、死別、離別など)があった
・ペットホテルや病院、他人の家など自分の家とは違うところに預けられた
・退屈を感じている
病気、疾患によるもの
・甲状腺機能亢進症
・副腎皮質機能亢進症
・神経疾患
・脳疾患
犬の分離不安症の対処法とは?
犬の分離不安症はそれぞれ症状が重い場合と軽い場合で意識することは変わってきます。それぞれ次のことを意識して対処してみましょう。
症状が軽い場合
症状が軽い場合は家の中でできることを中心に行うことで、症状和らげることができる場合が多いです。次のようなポイントを意識して生活してみてください。
・一人の時間を作って、独立心を育む
・犬から見て楽しいと思えるような住環境づくりをする
・過度なスキンシップを避ける
・留守中の粗相や失敗を叱らない
・短時間の留守番を繰り返して、おとなしく過ごせたら褒める
症状が重い場合
症状が重い場合は家庭での習慣づけなどではどうしても対処が難しい場合があります。そういった時はサプリメントや内服薬を利用したり、または行動療法を取り入れているしつけ教室や訓練所に通わせたりするのも良いでしょう。問題行動はすぐに収まるものではありませんが、地道に訓練することで改善が期待できます。
犬の問題行動によって強いストレスを感じている場合は、一時的な対処法として、預かりトレーニングをできるドッグトレーナーなどに預けるのもひとつの方法です。
犬の分離不安症を改善する方法とは?
犬の分離不安症を改善するには、まず「飼い主が近くにいなくても、自宅では安心して過ごせる」「飼い主は出かけても必ず帰ってくる」と覚えてもらうことが大切です。外出時、在宅時にはそれぞれ次のようなことに取り組んでみましょう。
短時間の留守番からさせてみる
まずは短時間の留守番から始めて、少しずつ時間を延ばしていくなどして段々と留守番に慣れさせていくようにしましょう。ドアを隔てて、犬をひとりで過ごさせるのも効果的です。短時間の留守番を繰り返すことで飼い主が出かける、目の前からいなくなるのは当たり前だと認識してくれます。
留守番中の失敗を叱らない
留守番に慣れていない場合、家にあるものを破壊したり、フローリングやカーペットに粗相してしまったりすることがあります。その時に強く叱ってしまうと、関心を持ってくれたと勘違いして、イタズラを繰り返すようになります。失敗やイタズラに対しても毅然とした態度で対応しましょう。
留守番しやすい環境を整えてあげる
留守番中はとにかく寂しくならないようにしてあげましょう。中にフードが入るおもちゃを与えてフードを出すことに集中させたり、部屋におもちゃを隠して獲物探しをできるようにしたりと、犬自身で楽しめる環境を提供することも重要です。使い慣れた毛布などのアイテムを配置するのも効果的です。
犬に気づかれないように静かに外出してみる
外出する前に飼い主が名残惜しそうにしたり、帰宅時に過度なスキンシップを取るのは、留守時に犬の不安をあおってしまいます。あくまで毅然とした態度で接することで、「外出しても帰ってくるから大丈夫だ」と安心させてあげましょう。また、愛犬が興奮しているときは相手をせず、落ち着いてから対応するようにしてください。
在宅中に構いすぎない
在宅中に過度に構いすぎることは分離不安症にさせる場合があるので、適度な距離感を保って生活をするように気を付けましょう。また、一緒に寝るなどの生活習慣が当たり前になっていると飼い主と共にいることが当たり前であると認識してしまうので、過度に依存心を持ってしまう場合があり、分離不安症を起こしやすくなります。
犬が分離不安症になりにくい習慣とは?
分離不安症を抱える犬は精神的な刺激が不足している傾向があります。常に一緒にいることが必ずしも良いことではありません。犬に習慣づけるのには少し根気が要りますが、
・散歩や食事のスケジュールを明確にする
・おもちゃを使ったり、お皿からあげるのをやめたりするなどエサの与え方を工夫する
・要求に素直に応えない
などといった自律的な生活を習慣づけることで予防効果を期待することができます。
犬の分離不安症による行動がつらくなったときは?
犬の分離不安症による問題行動を負担に感じたときは、まず普段の習慣やしつけを見直してみましょう。分離不安症だと思っている症状は、実は退屈や運動不足のストレスによるものかもしれません。
また、別の病気の症状や薬の副作用によって、分離不安症と似た症状が生じている可能性もあります。心配なときは獣医師に相談し、他に原因が隠れていないか診てもらいましょう。
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