「虫コナーズ」へ禁断の質問。効果を実感できない問題をKINCHOに聞いてみた
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おしゃれなデザインが豊富なマスキングテープ。文房具としてはもちろん、暮らしを彩るアイテムとして今や私たちの日常にすっかり溶け込んでいることは、みなさんご存じのとおり。
このマスキングテープ、もともとは工業用として使われていたものだという。それを“かわいい雑貨”としていち早く世に広めた企業が、岡山県倉敷市に本社を置くカモ井加工紙株式会社だ。創業は1923年。当時製造していたのはハエ取り紙だった。
ハエ取り紙からスタートした企業が、どのようにして大ヒット商品を生み出したのか。トップクラスのシェアを誇る同社のマスキングテープブランド「mt」の開発に携わった、専務取締役の谷口幸生さん、営業部の高塚新さん、坪井啓示さんに話を伺った。
専務取締役 谷口幸生さん
カモ井加工紙が創業したのは、今ほど衛生環境がよくなかった大正時代。「薬品を使わずに、集まってくるハエを駆除できないか」と考えた創業者が着目したのが“粘着”だったという。
「粘着剤をつけた紙にハエをくっつけることで、安全・手軽に駆除できる『カモ井のハイトリ紙』の製造を開始しました。その後、リボン状に加工して、吊るしておくだけでハエがとれるタイプも開発。当時はニーズが高く、大ヒットしました」(谷口さん)
90年以上の歴史を持つリボン型の「カモ井のリボンハイトリ」。現在も薬剤の使えない現場で活躍する
ハエ取り紙で成長してきたカモ井加工紙だが、1960年代に高度経済成長期を迎えると売上が激減。そこで新たに着目したのが、ハエ取り紙で培ってきた粘着技術を応用した和紙粘着テープの開発だった。
「当時は自動車の需要が高まっていました。そこで、自動車を修理する際の鈑金塗装用テープの需要が今後は伸びるだろうと考えたんですね。紙に粘着剤を塗るという点ではハエ取り紙とも似たようなもの、ということで開発に着手しました。これが、当社で作った最初の和紙粘着テープです」(谷口さん)
1962年に発売された和紙粘着テープ「No.110」
その後、梱包資材が木箱から段ボールに変わってきたことを受けてクラフトテープを開発。1970年代には、「屋外では和紙粘着テープがくっつきにくい」というお客様からの声を受けて、布粘着テープの発売をスタートした。
さらに、1980年代には建物の外壁の隙間を埋める、シーリング作業用の和紙粘着テープを発売。これもまた、「はがす際に破けず、もっとラクにはがせるテープがほしい」という、建築現場で働く人の悩みを受けて開発したものだった。これが、のちの文具・雑貨用マスキングテープにつながる。
シーリング用和紙粘着テープ「No.3303」。発売開始から30年経った今も定番商品のひとつ
常に時代のニーズを半歩先取りして商品開発を進めてきたカモ井加工紙。世の中が変わるなかで、“これからどんな商品が求められるか”の見極め方は、初代の頃から変わらないDNAとして同社に根付いてきたのだという。
「商品開発のヒントは、商品が使われている現場に落ちているものです。当社では営業担当が現場を訪ね、商品を使っているお客様がどんな悩みを抱えているのかをヒアリングすることを大切にしています。
『お客様がほしいものを開発する』というのが、当社のものづくりの根幹にある考え方。シンプルな方法ですが、お客様の悩みを解決することがヒットへの近道だと思います」(谷口さん)
お客様の悩みを解決する商品開発に一貫して取り組んできたカモ井加工紙。シーリング用和紙粘着テープは大ヒットし、シェアNo.1に。しかし、こうしたヒット商品の裏で、失敗作を含む数々の挑戦があったことは想像に難くない。
「ダメだった商品もありますよ。例えば、粘着式ねずみ取り。実はこれ、アース製薬さんの『ゴキブリホイホイ』のあとに出した商品なんです。ハエ取り紙で始まった当社としては、ゴキブリを粘着剤で捕獲する商品は、やっぱりうちがやりたかった。粘着を追求する企業として、悔しいですよね。
その後にねずみ取りを発売しましたが、ノウハウを持つアース製薬さんには勝てませんでした」(谷口さん)
こうした数々の挑戦の背景に垣間見えるのが、「粘着のことなら負けたくない」というカモ井加工紙のプライドだ。「粘着を応用すれば、いろいろな商品を作れる」と谷口さんが話すように、粘着を軸にした柔軟な商品開発は同社の強みになっている。
この延長で生まれたのが、マスキングテープブランド「mt」だった。