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バーニー動物病院千林分院分院長。ペット薬膳管理士、中医学アドバイザー。動物病院でペットの診療にあたる傍ら犬猫の手作りご飯教室や問題行動のカウンセリングを行う。
白くてふわふわな毛が特徴的な日本スピッツ。洋犬をルーツに持ちますが、その名の通り日本が原産の犬です。以前は無駄吠えが多い犬として知られていましたが、最近では穏やかな子が多いのが特徴です。今回は、日本スピッツの歴史や性格、しつけのコツ、飼う際に注意すること、かかりやすい病気などを、バーニー動物病院 千林分院分院長で獣医師の堂山有里先生監修のもと解説します。
目次
- 日本スピッツの歴史やルーツは?
- 日本スピッツの体高、体重は?
- 日本スピッツの平均寿命は?
- 日本スピッツの毛色の種類や被毛の特徴は?
- 日本スピッツの外見や吠え声の特徴は?
- 日本スピッツはどんな性格? オスとメスで性格の違いはあるの?
- 日本スピッツを飼うのに向いている人は?
- 日本スピッツの日常のお手入れで気をつけることは?
- 日本スピッツのしつけを始める時期やおすすめのしつけ方法は?
- 日本スピッツの食事の注意点は?
- 日本スピッツにおすすめの遊びは?
- 日本スピッツを散歩させる際に気をつけることは?
- 日本スピッツがかかりやすい病気は?
- 日本スピッツを飼う上で気をつけることは?
日本スピッツの歴史やルーツは?
日本スピッツは、その名の通り日本原産の犬です。1920年ごろ、シベリア大陸を経由して日本に渡来した大型の白いジャーマン・スピッツに、北半球の白いスピッツ系の犬を交配して改良したとされています。その後、改良を重ねて小型の白いスピッツとして固定された結果、1948年にジャパンケネルクラブに日本スピッツとして登録されました。
ちなみに、スピッツ(spitz)とはドイツ語で「とがったもの」を意味し、口先が尖り、耳が立っている犬の系統をスピッツと呼びます。
日本スピッツの体高、体重は?
ここからは、日本スピッツのオス・メスそれぞれの平均的な体高と体重を見ていきましょう。
体高
平均的な体高は、一般的にオスで30〜38cm程度です。メスのサイズは公式には定められていませんが、オスよりやや小さい傾向にあります。
体重
平均的な体重は、オスで9〜11kg、メスで7〜10kg程度でしょう。
日本スピッツの平均寿命は?
日本スピッツの平均寿命は12〜14歳と、やや短命です。
日本スピッツの毛色の種類や被毛の特徴は?
日本スピッツの毛にはどのような特徴があるのでしょうか?
毛色の種類
改良の際、白い毛色のみが日本スピッツであるとされたので、毛色は純白です。全身が純白で艶のある豊かな長い被毛で覆われていて、首から胸元、尻尾に飾り毛があります。
被毛の特徴
日本スピッツの被毛は2層構造のダブルコートです。上毛のオーバーコートは太くてしっかりした剛毛で皮膚を保護する役割を持ち、下毛のアンダーコートは密生した柔らかく短い毛で保湿・保温の役割を持ちます。
日本スピッツは毛量自体も多いので、春と秋の換毛期には抜け毛がかなり多くなる犬種です。体温調節のため、暖かくなる季節にアンダーコートが抜け落ち、寒くなり始める時期に古くなった毛がごっそり抜けて新しいアンダーコートが生えてきます。
日本スピッツの外見や吠え声の特徴は?
ふわふわと白い見た目が印象的な日本スピッツ。ほかにはどのような特徴があるのでしょうか。
外見
体高より体長がやや長く、バランスの良い大きさの頭部に三角の立ち耳、尖ったマズル、アーモンド形の目をしています。胸元と尻尾にある飾り毛は優雅さを感じさせるでしょう。
吠え声
戦後、多くの日本の家庭で日本スピッツが飼われていた頃は、「キャンキャンとうるさく吠える犬」という印象が定着するほど吠えやすい犬種でした。しかし、その後改良されたため、現在ではあまり無駄吠えのない穏やかな犬が増えています。
日本スピッツはどんな性格? オスとメスで性格の違いはあるの?
ここからは、日本スピッツの性格について見ていきましょう。
明るい
日本スピッツは明るく活発で、聡明な性格をしています。
好奇心旺盛
好奇心がとても旺盛で遊び好きの性格です。
温和
前述の通り、近年では改良され穏やかな性格の日本スピッツが増えました。
愛情深い
もともと愛想を振りまくタイプではありませんが、特に家族に対しては深い愛着を示します。
忠実
強い信頼関係を築いている飼い主に対しては忠実で、言うことをよく聞く犬種です。
警戒心が強い
家族以外の見知らぬ人や犬には強い警戒心を抱きます。
日本スピッツのオスとメスの性格の違いは?
犬にも個性があるので性格には個体差がありますが、オスの方が元気でやんちゃ、メスの方が穏やかで大人しい傾向にあります。
日本スピッツを飼うのに向いている人は?
運動欲求が比較的強い犬種なので、しっかり運動させる体力のある人が向いているでしょう。被毛のお手入れも欠かせないので、時間に余裕があるかもポイントです。
日本スピッツは初心者向きの犬?
警戒心が強いため初心者には多少難しいですが、以前ほど飼いにくい犬種ではなくなっています。
日本スピッツの日常のお手入れで気をつけることは?
被毛量が多くダブルコートなので、換毛期には抜け毛が多いです。こまめなブラッシングと月に2回程度のシャンプーが必要です。長期間洗わなかったり、シャンプー後に地肌をよく乾かさなかったりすると、細菌が発生し皮膚炎や匂いの原因となります。被毛が多く丁寧に洗うにはかなりの労力がいるので、トリミングサロンを利用されてもよいでしょう。
日本スピッツのしつけを始める時期やおすすめのしつけ方法は?
ここからは、日本スピッツのしつけについて詳しく見ていきましょう。
しつけを始める時期
生後1〜3か月頃は「社会化期」といって子犬が新しく出会うものや人に慣れやすい時期です。日本スピッツは、家族以外の人や慣れない場所では神経質になり警戒心が強まる一面があります。そのため、社会化期に、これからの生活で遭遇しやすい人やものの刺激に慣らしておくとよいでしょう。そうすると、初めて会った人や環境下でも穏やかに過ごすことができます。
おすすめのしつけ方法
日本スピッツは比較的しつけがしやすい犬種です。以下のポイントをおさえて子犬のうちからしつけましょう。
賢く物覚えがよい
日本スピッツは、賢く物覚えがよい犬種です。何かを教えるのに苦労することはあまりないでしょう。無理に教えようとしたり力で押さえつけたりすると、反発して人を噛んだり警戒心が強くなったりしてしまいます。よいことをしたときにしっかり褒め、やめてほしいことをするときには無視をするか、短く1回だけ「ノー」を言ってダメであることを伝えましょう。しつこく怒る、叩くなどは逆効果です。
楽しく教えて警戒心を和らげる
警戒心が強く神経質な面があるので、子犬の頃から見知らぬ人やものと楽しく触れ合う機会を持たせましょう。おやつを持ってお散歩に行き、公園などで初めて会う人からおやつをあげてもらうのがおすすめです。また、公園で他の犬や子どもの遊ぶ姿を見ながら、落ち着いておやつやフードを食べる練習をしてもよいですね。
集中力に欠けるので楽しく覚えさせる
日本スピッツは狼に近い原始的な犬のグループに属します。飽きっぽい一面があり、長時間同じことをするのは苦手なので、短時間で楽しく取り組めるよう工夫しましょう。
日本スピッツの食事の注意点は?
比較的太りやすい犬種なので、ドックフードの量に気をつけ、ライフステージに合った食事内容を選ぶ必要があります。フードは「総合栄養食」と記載のあるものを選んでください。皮膚疾患や流涙症がある場合にはアレルギー体質の可能性もあるので、動物病院で相談するとよいでしょう。
日本スピッツにおすすめの遊びは?
日本スピッツは活発で運動欲求が強い犬種です。しっかり運動させないとフラストレーションが溜まり問題行動に発展することがあります。
引っ張り合いっこ
日本スピッツはとても活発で人が好きなため、ロープや紐のおもちゃを持って引っ張りっこし合うという遊びはとても喜びます。楽しく引っ張り合いっこをしているうちに興奮してきてしまったら、いったんロープの動きを止めて犬が落ち着くまで待ち、興奮が冷めたらまた遊ぶようにしましょう。こうすることで、他の場面でも興奮をコントロールしやすくなります。
トリックトレーニング
トリックトレーニングは、犬と楽しく遊びながらジャンプや8の字くぐりなどのトリックを教える遊びです。犬と飼い主が息を合わせて行うトレーニングなので、飼い主と一緒にいることが好きな日本スピッツにはとてもおすすめです。練習を積み重ねるうちに犬との一体感と達成感が感じられ、絆が深まります。
ボール遊び・フリスビー
日本スピッツは活発で人と遊ぶのが好きな性格なのでボールやフリスビーでの遊びに向いています。「持ってこい」や「取って」などの号令も覚えられるので、楽しく遊んであげましょう。
ドッグラン
オフリードで自由に走り回ることができるため、ストレス発散にはとてもおすすめです。
ラリーオビディエンス
ラリーオビディエンスは、コースに置かれている標識の指示に従って複数のエクササイズをクリアしていくドッグスポーツです。途中で犬に声をかけたりおやつを使用したりすることができ、初心者やシニア犬でも楽しく取り組めます。
ノーズワーク
ノーズワークは、犬の優れた嗅覚を生かしたドッグスポーツです。隠されたおやつやアロマを見つけることは犬の本能を引き出すため、何歳になっても楽しめるのが魅力です。
日本スピッツを散歩させる際に気をつけることは?
日本スピッツを散歩させる際は、以下のポイントに注意しましょう。
時間・頻度
1日2回30分程度、散歩してください。ただ歩くだけでなく、広いところで走ったり、定期的にドックランなどに連れて行って走らせたりすると、運動不足解消になります。
散歩させる際の注意点
気温が高い時間帯を避ける、道路の温度を確かめてから散歩に出るなどし、熱中症にならないよう注意してください。
日本スピッツがかかりやすい病気は?
ここからは、日本スピッツがかかりやすい病気を見ていきましょう。
流涙症
涙の分泌量が多かったり、涙の排水システムに問題があったりして、涙が常に眼からあふれ出ている状態を流涙症といいます。あふれ出した涙が犬の目頭から鼻の横にかけての毛にこびりつくので、白い毛の犬の場合は特に目立ちます。原因はさまざまので、もし常に涙があふれているようなら一度動物病院で診てもらうとよいでしょう。
白内障
目の中でレンズの役割を果たしている水晶体が、何らかの原因で白濁した状態を白内障と呼びます。白濁する原因は遺伝性や加齢、外傷、糖尿病などさまざまで、現在のところ白くなってしまったものを元に戻す方法はありません。
治療法として白濁したレンズを取り出す外科手術が行われることがありますが、すでに網膜の異常によって視力を失っている場合もあるので、すべてのケースで手術が推奨されるわけではありません。白内障を疑うときは、まず主治医に相談して治療法を検討してください。
気管虚脱
鼻や口から肺に空気を運ぶ通り道である気管が、何らかの原因で潰れてしまい呼吸ができなくなることをいいます。高齢になってから症状としてはっきり現れてくることが多いですが、若年齢から高齢まで幅広い年齢で起こり得ます。軽度であれば経過観察し、重度であれば外科的に治療されます。
外耳炎
アレルギーや細菌感染、真菌感染などが原因で、耳介から鼓膜までの外耳道に炎症が起きた状態を外耳炎といいます。独特の匂いが発生したり、痒みや痛みを感じて犬が耳を掻いたり頭をしきりに振ったりするような動作をすることがあります。軽度の場合は耳洗浄を行い、重度の場合や痛みを伴う場合は薬を投与します。
膝蓋骨脱臼(パテラ)
膝蓋骨脱臼とは、膝のお皿と呼ばれる膝蓋骨が横にずれて外れてしまう状態をいいます。原因は生まれつきお皿がはまる溝が浅い遺伝性と、怪我の影響や生活習慣の影響で外れやすくなる後天性のものがあり、小型犬で発症しやすいとされています。軽度であれば保存療法で、症状が重度であれば外科手術の対象となるとなります。
血友病
血液を固めるタンパク質が遺伝的に作られないタイプの犬で見られる血液凝固異常を血友病と呼びます。この病気になると、些細なことで出血しやすく、出血したときも血が止まりにくくなります。血友病は遺伝性の疾患で、ほとんどの場合発症するのはオスの犬です。
免疫介在性血小板減少症
薬剤・ワクチン・腫瘍・感染症などに続いて起こる「免疫介在性血小板減少症」と、基礎疾患が認められない「原発性免疫介在性血小板減少症」があり、後者の方が一般的です。ただ、原発性免疫介在性血小板減少症は遺伝が関与しているとされているため、予防法はありません。症状としては、皮膚や粘膜の紫斑・消化管出血・血便・血尿・鼻血・前眼房出血などが見られます。
ステロイドや免疫抑制剤の投与、貧血が重度の場合は輸血をして治療しますが、懸命に治療を行なったとしても死亡率が30%にまで達してしまう病気です。
皮膚疾患(落葉状天疱瘡など)
日本スピッツは特に皮膚疾患にかかりやすいです。落葉性天疱瘡は犬のまぶた・耳たぶ・鼻筋などに小さな水疱ができるもので、かゆみを伴うこともあります。
治療の際は、ステロイドと免疫抑制剤を組み合わせたものを犬に投薬します。
特発性てんかん
てんかんは、脳の電気活動が異常に亢進した結果起こる体のけいれんや意識障害のことです。てんかん様発作を起こす原因は腫瘍や脳炎などですが、MRIなどの検査を受けても脳に明らかな器質的異常が見つからずてんかん発作が繰り返される場合を特発性てんかんと呼びます。発症には遺伝的要因が関与しているといわれています。
軽度であれば無治療で経過観察を行いますが、発作が頻繁である場合や重度である場合は薬によってコントロールします。
熱中症
体温が異常に上昇して高体温や脱水症状に陥ることで生じる疾患で、血液が濃縮して血圧が低下したり、体のさまざまな臓器に障害が発生したりします。高温多湿の環境に長時間さらされていた、過度の運動を行った、暑い時間帯に散歩した、気管の病気や肥満防止により熱がこもりやすくなっていたなど、さまざまな理由で体温が上がりすぎることが原因となります。水分をたくさん与え、風通しがよく涼しい場所で休ませてあげてください。
日本スピッツを飼う上で気をつけることは?
日本スピッツを飼う際は以下のことをおさえておきましょう。
室内で飼育する
以前は屋外で飼われていたこともある日本スピッツですが、比較的警戒心が強く吠えやすいこと、暑さに弱いことから、室内で飼育することが推奨されます。室内で家族として飼育することで、穏やかな性格に育ちます。
熱中症対策をする
気温の低い国にルーツを持ち、豊かな被毛が特徴的な犬種なので、暑さには弱いです。真夏の散歩では熱中症にならないよう注意してください。
しっかり運動させる時間をつくる
運動欲求が強い犬なので、しっかり運動させてエネルギーを発散させる必要があります。運動が足りないと破壊行動や吠えなど問題行動につながりやすいです。
脱臼に注意する
膝蓋骨脱臼になりやすい犬種です。室内では滑らないようカーペットやマットなどを敷いておき、太らせすぎにも注意しましょう。
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