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海動物病院所属。潜水士免許保有。動物検疫所、製薬会社での勤務を経て、海動物病院に所属。自宅で猫、実家で犬を飼っており、最近は自宅でも犬をお迎えしようか検討中。
人間と同じように犬も糖尿病になることを知っていましたか? 糖尿病は犬の日々の生活にも支障をきたし、悪化すると合併症を引き起こす可能性があるので、早期発見と治療がとても大切です。今回は、獣医師の鈴木佐弥香先生に教えていただいた、犬の糖尿病とはどんな病気なのか、糖尿病になった犬の症状や治療法、予防のポイントなどについて解説していきます。
目次
- 犬の糖尿病とは?
- 犬が糖尿病になる原因は?
- 犬の糖尿病の症状は?
- 犬の糖尿病が引き起こす可能性のある合併症は?
- 糖尿病になりやすい犬種やライフステージは?
- 犬の糖尿病を病院で診てもらうタイミングは?
- 犬の糖尿病の診断方法は?
- 病院での犬の糖尿病の治療法は?
- 犬が糖尿病になるのを予防する方法は?
- 犬の糖尿病を早期発見する方法は?
- 犬の糖尿病の注意点は?
犬の糖尿病とは?
犬の糖尿病は、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」の分泌が足りていないことや、インスリンが分泌されていても、その作用が効きにくくなってしまうこと(インスリン抵抗性)により、血糖値が高い状態が続いてしまう病気です。
血糖値が高い状態が続くと飲水量や尿量が増えたり、食欲があるのに体重が減少したりといった症状が出ます。重症になると神経障害や昏睡を起こすこともあるため、命の危機にもつながる病気です。
犬が糖尿病になる原因は?
犬が糖尿病になるのにはさまざまな原因がありますが、大きくは以下の2パターンに分けられます。
インスリンの不足
インスリンは膵臓のβ(ベータ)細胞から分泌されるホルモンで、血糖値を下げる働きがあります。何らかの要因によってβ細胞が壊されてしまったり、うまく機能しなかったりすることによって、人間のⅠ型糖尿病のようにインスリンの不足が起こります。自己の免疫がβ細胞を壊してしまう場合があり、自己免疫疾患ともいわれます。
インスリンが不足するそのほかの要因として、犬に多いクッシング症候群(グルココルチコイドという血糖値を上昇させる機能があるホルモンが過剰に分泌される病気)や、避妊していないメスの黄体期に黄体ホルモンやコルチゾールが多量に分泌されることによって、インスリンの作用が効きづらくなってしまうことがあげられます。結果としてより多くのインスリンが必要になるため、インスリン不足が起きるのです。このような糖尿病では治療としてインスリンの投与が必要になることがほとんどです。
インスリンが出ているが作用しにくい
インスリンの分泌が減ってしまっているか、インスリンが分泌されているけれども、肝臓や筋肉などの細胞がインスリンにうまく反応しなくなってしまい、血液中のグルコース(ブドウ糖)が細胞に取り込めなくなることによって糖尿病になることもあります。いわゆる人間のⅡ型糖尿病のような症状です。遺伝的要因のほかに、生活習慣や肥満などが原因となります。この場合の治療では、インスリンの投与が必要ではないこともあります。
人の糖尿病との違いは?
人がかかる糖尿病の多くは、高カロリー食や運動不足などが要因といわれるⅡ型糖尿病です。犬は主にβ細胞が壊されてインスリン分泌が不足してしまうⅠ型糖尿病が多いといわれています。しかし、始めはⅡ型糖尿病から発症し、病院で受診する頃にはⅠ型糖尿病の容態に変わっていた、というケースも考えられます。犬も肥満などが糖尿病の発症につながることもあるので、注意が必要です。
犬の糖尿病の症状は?
犬の糖尿病にはどのような症状があるのでしょうか。主な症状を見ていきましょう。
おしっこが多い
血液中のグルコースの濃度が高くなることによって尿中のグルコースの濃度も高くなり、尿細管での水分の再吸収がおさえられ、おしっこの量が増えます。
おしっこの匂いが甘い
血糖値が高くなると、体内でグルコースを消費しきれずに尿と一緒に排出します。そのため、おしっこから甘い匂いがすることがあります。
水をよく飲む
糖尿病では血液中のグルコースの濃度が高い状態になっているため、その濃度差によって細胞内の水分が血液中へ移動します。それによって細胞の水分が減り、喉が乾きます。また、糖尿病の症状のひとつである「おしっこが多い」ことによっても体内の水分が減るため喉が乾き水をよく飲むようになります。
体重が減少する
初期の症状として、食欲があってきちんとごはんを食べているのに体重や筋力が減り、痩せてしまうことがあります。これはグルコースをうまくエネルギーとして利用できず、体内の脂肪やたんぱく質をエネルギー源として利用することによって起こります。
食欲の低下、下痢、嘔吐
糖尿病によって自律神経が障害されてしまったり、糖尿病性腎症などの合併症があったりすると食欲の低下や下痢 嘔吐といった症状があらわれます。
毛質が荒くなる
細胞内の水分が減ってしまったり血液の流れが悪くなったりすることによって、皮膚や被毛に酸素や栄養が行き渡らなくなってしまいます。そのため、毛質が荒くなり、皮膚が乾燥してしまいます。
神経障害
犬では珍しいケースですが、高血糖の状態が続いてしまうことによって神経障害が起こることがあります。神経障害では食欲の低下や便秘、下痢、吐き気、めまい、肢の痺れや筋力低下などといった症状があらわれます。
犬の糖尿病が引き起こす可能性のある合併症は?
犬が糖尿病にかかると、糖尿病だけではなく別の病気も引き寄せてしまう可能性があります。どのような合併症があるのか見ていきましょう。
白内障
犬が糖尿病になると、ほぼ100%<白内障になるといわれています。
膀胱炎(ぼうこうえん)などの尿路感染症
神経障害によって膀胱内の尿を出し切れずにいると、そこから細菌が感染し、膀胱炎になることがあります。さらに、膀胱から管でつながった腎臓にまで炎症が広がると腎盂腎炎(じんうじんえん)を発症してしまうことがあります。
糖尿病性ケトアシドーシス
糖尿病をきちんと治療しないと、体内にケトン体が蓄積しやすい状態になってしまいます。ケトン体によって身体が酸性に傾くことによってケトアシドーシスを引き起こし、脱水、食欲低下、多飲多尿などだけではなく低血圧、頻脈、嘔吐、意識障害やがては死に至る危険もある危険な合併症です。
歯周病
糖尿病になると血液の流れが悪くなり、唾液の分泌量も減ります。そのため白血球がうまく機能しなくなり歯周病を引き起こす可能性があります。
糖尿病になりやすい犬種やライフステージは?
糖尿病になりやすい犬種やライフステージについて以下のようにまとめました。愛犬が当てはまるかどうか確認しておきましょう。
犬種
純血種よりもミックス犬の方が糖尿病になりやすいといわれています。純血種では、ミニチュアシュナウザー、ミニチュア・ダックスフンド、ビション・フリーゼ、パグ、ビーグル、プードルなどが、糖尿病にかかりやすい犬種です。
ライフステージ
遺伝が原因のこともあるためどの年齢でも起こりますが、主に5歳以上の中高齢が多いでしょう。また、避妊していないメスはオスの2倍、糖尿病になりやすいと言われています。
肥満の犬は糖尿病になりやすい?
肥満の犬は糖尿病になりやすいと言われています。これは、肥満が脂肪の代謝障害(脂肪を作ったり、エネルギーに変えたりする正常な働きをさせなくすること)を引き起こし、膵臓に負荷をかけてしまうためです。
そのほかに、以下の場合にも糖尿病を発症するリスクがあるといえます。
●歯周病
●慢性的な精神的ストレス
●インスリン抵抗性を示すステロイド剤を長期投与している
●遺伝(太りやすい犬種や、上記に記載した犬種など)
●膵炎(すいえん)
●クッシング症候群
犬の糖尿病を病院で診てもらうタイミングは?
暑い季節でもないのに「いつもより水を飲む量が増えた」「おしっこの量が増えた」「食べているのに体重が減ってきた」などといった症状があったら、糖尿病に限らず他の病気が隠れている可能性があります。なるべく早めに動物病院へ連れて行ってあげるといいでしょう。
犬の糖尿病の診断方法は?
多飲多尿があるなどといった症状から糖尿病やクッシング症候群などを疑い、血液検査や尿検査を実施して糖尿病の診断をします。
血液検査では、空腹時の血糖値や、グリコアルブミン、フルクトサミンなどの値を調べ、血糖値を上手くコントロールできているかをみます。尿検査では、尿中に糖分やケトン体があるかを調べます。
病院での犬の糖尿病の治療法は?
病院ではどのような治療をするのか、費用の相場もあわせてご紹介します。
治療方法
多くの糖尿病の犬には、インスリン補充療法と食事療法がメインとなります。インスリン補充療法では、1日2回決まった時間に食事をした後に、インスリン製剤を注射します。食事療法は、食後の血糖値の上昇が緩やかになるようなものが急激に上がらないようにすることが大切です。主に低炭水化物、良質なたんぱく質、高繊維、低カロリーのものなどが糖尿病用の療法食で用いられていることが多いです。
治療費の相場
治療を始めたばかりの頃は、インスリンの必要量を調べるために血糖値測定を数時間おきにするので、数日間入院することがほとんどです。
糖尿病性ケトアシドーシスを発症しているような場合には、インスリンの点滴もしなくてはなりません。その他に、膵炎(すいえん)やクッシング症候群などの病気も併発していないかの検査をすることもありますので一概には言えませんが、インスリン注射の費用として毎月2〜3万円程度(※入院費は別途)かかります。
犬が糖尿病になるのを予防する方法は?
犬の糖尿病を予防する確実な方法はありませんが、栄養バランスのよい食事と日々の運動は効果的です。おやつの与えすぎや運動不足を避け、適切な体重を維持してあげるようにしましょう。また、メスには避妊手術をしてあげることも発症のリスクを下げることができます。
犬の糖尿病を早期発見する方法は?
犬の糖尿病は、見た目だけで飼い主が判断することはできません。ですが、「痩せてきた」「おしっこや水を飲む量が増えた」「おしっこから甘い匂いがする」などといった症状がでたら、早めに病院へ連れて行ってあげましょう。日頃から水を飲む量やおしっこの回数や量を把握しておいてあげると変化に気づきやすくなります。
犬の糖尿病の注意点は?
犬にインスリン注射を打ってから数時間後に元気がなくなってしまう場合は、インスリンの量が多いために低血糖を起こしている可能性があります。もし、そのような症状が見られた場合にはすぐに糖分を補給してあげて(ガムシロップや蜂蜜など)かかりつけの動物病院へ連れて行ってあげましょう。
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