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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
日常生活の中で犬がゲップをする姿を見かけることもあるかと思います。あまりにも頻繁にしていると、病気や不調のサインかと心配になりますよね。今回は、犬がゲップをする理由や病気が考えられるケース、ゲップをした時の対処法を、ヤマザキ動物看護大学 准教授で獣医師の茂木千恵先生に詳しく解説していただきます。
目次
- 犬もゲップをするの?
- 犬はどんな時にゲップをするの?
- ゲップをしやすい犬の特徴は?
- 犬のゲップで注意が必要な場合とは?
- 犬が頻繁にゲップをする場合に考えられる病気や体の異常は?
- 病院に連れて行くべきゲップに伴う犬の症状とは?
- 犬が頻繁にゲップをする場合の対処法は?
犬もゲップをするの?
人間同様、犬もゲップをします。ゲップとは、胃から食道を上って口から出る空気の通過音で、少量の呼気が口から出ることがあります。犬がゲップをするとき、胃から空気が放出できたことを意味するので、数回のゲップなら特に問題ありません。むしろ、犬がゲップすることができない時こそ、注意が必要です。この場合、胃に閉塞が起こっている可能性があます。これは「胃拡張」という病気のサインでもあります。
犬はどんな時にゲップをするの?
犬がゲップをするのは以下のような時です。
ご飯を勢いよく食べたり、水をがぶ飲みしたりした時
食べ物や水と一緒に空気を飲み込んでしまい、胃に溜まります。それが放出されるのがゲップです。また、ガムなどを長く噛み続けることで空気を飲み込むこともあります。
ガスが発生しやすいような食べ物を多く食べた時
野菜中心のアルカリ性のフードは、胃酸と混ざるとガスを発生し、ゲップが増加します。また、ドーナツ型のドッグフードは、その形状のために食べるときに飲み込む空気を増やします。
短頭ゲップ
フレンチ・ブルドッグ、パグ、ブルドッグなどの短頭種は呼吸がスムーズでないときに口を開けてあえぎます。その際、口から空気を吸い込みやすく、胃に入った空気がゲップとして戻りがちです。
消化不良の時
胃酸が出にくくなると胃での食物の分解が滞り、ガスが発生しやすくなります。また、不安や緊張があると消化不良にもなりやすく、さらに緊張が強いとよだれが出やすくなり、飲み込むときに空気も一緒に飲む場合があります。
いつもと違う食事をした時
拾い食いをする犬は腐敗物を食べるリスクが高く、胃腸障害の原因ともなります。
炎症性腸疾患または細菌(細菌、ウイルス、寄生虫)感染
病原体によって引き起こされる胃の不調は、ガスも発生しやすくなります。犬の食欲が良好で、便も正常であれば、ときどきゲップをすることは心配ありません。ただし、犬がいつもよりゲップをする、食欲不振、おなかがキュルキュル鳴る、軟便になるなどの症状が見られる場合は、獣医師に相談してください。
ゲップをしやすい犬の特徴は?
ゲップをしやすい犬の特徴を見ていきましょう。
老犬
老化により、食べ物をうまく飲み込むことが困難となる「嚥下反射障害」が起こりやすくなります。また、空気を飲み込みやすく、ゲップが出やすくなりがちです。これに加えて、高齢の犬は胃腸機能の低下、胃酸の分泌が減る、消化酵素が減るなどの変化により、ガスが発生しやすくなります。
若い犬
どの年代の犬も食欲が旺盛ですが、若い犬は活発に動くことで消費エネルギーも多いので、空腹を感じやすいものです。特に、空腹時は急いで食べようとします。そのため、食事と一緒に空気を飲み込むことも増えてしまいがちです。
多頭飼いの犬
食べ始めた犬を見ると自分も食べたくなるので、同居犬がいる方が食事に積極的な傾向があります。これは、「社会的促進」といって仲間と同じことをしたくなる習性によるものです。早食いが気になる場合はクレート内で個別に食べさせる、仕掛けおもちゃの中にフードを詰めて与える、などの工夫をしてみてくださいね。
犬のゲップで注意が必要な場合とは?
犬が以下のようなゲップをしていたら、注意が必要です。見逃さないように、日頃から愛犬のよく様子を観察しましょう。
いつもより回数が多い
食後に数回起こるのは正常です。食後以外でも起こるときは回数を数えてみましょう。回数が増えてきていないかチェックすることも重大な病気の早期発見に繋がります。
匂いがおかしい
腎臓や肝臓の機能低下により、毒素の排出が滞ると、肺からその毒素を含むガスが放出されて、ゲップがアンモニア臭くなることがあります。
ゲップや息が匂う時は、歯周病の可能性も。歯周病になると、歯垢や歯石から発生する臭いが強くなります。さらに進行すると歯肉が腫れたり、出血したりしてきつい口臭が発生することがあります。
また、食糞のあとにゲップをすると口から便の臭いがするでしょう。犬は、胃腸の不調や空腹感などから食糞することがあります。
ゲップ以外に咳、嘔吐、食欲不振などの症状がある
炎症性腸疾患、細菌(細菌、ウイルス、寄生虫)感染、胃拡張・胃捻転症候群の可能性があります。症状が急に発生して、さらに連続している場合は、すぐにかかりつけの動物病院を受診してください。
元気がない
胃腸の不調だけでなく、痛みを感じている場合もあります。ゲップをしていて、さらに食欲もない場合は獣医師に相談しましょう。
ゲップができない
さらに深刻なのは、犬がゲップをできないときです。胃内のガスが行き場を失って膨らみます。この状態は「胃拡張・胃捻転」という症状で、獣医師の治療が必要になることもあるため、早めの受診が大切です。
犬が頻繁にゲップをする場合に考えられる病気や体の異常は?
犬が頻繁にゲップをしている場合、以下の病気や体の異常が考えられます。
異物を飲み込んでしまった
消化不良になる、ぜん動運動が起こりにくくなる、腸へ消化物が流れにくくなる、などの原因でガスが発生しやすくなります。異物は、レントゲン撮影などで発見可能な場合もありますが、プラスチック製品などは写りません。そのため、診断が遅れることがあります。
消化不良
早食い、食べすぎ、冷えなどにより消化不良を起こすと、臭いゲップが頻繁に出るようになります。胃腸の病気が原因の場合もあるため、経過をよく観察しましょう。
胃拡張・胃捻転
胃拡張・胃捻転症候群は、ジャーマン・シェパード、シベリアン・ハスキー、スタンダード・プードル、ドーベルマンなどの大型犬、特に胸の深い犬種に多いです。吐きそう、よだれが出続ける、座っていられない、息苦しそう、ゲップが出る、もしくは出そうで出ない、といった症状が見られます。
たいていは、早食いや食後すぐの激しい運動によって胃に負担が強くかかり、胃がねじれてガスが溜まることで発症します。命を落とすこともあるので、緊急の治療が必要です。
食物アレルギー
アレルギー反応がある食べ物を繰り返し食べさせている場合、消化不良が発生しやすくなります。
短頭種の場合
短頭種は暑い時期に呼吸困難となりやすく、口呼吸を頻繁に行います。そのため、たくさんの空気を飲み込んでしまい、ゲップをしやすくなります。
ストレス
犬は、ストレスを抱えると胃酸が不足し、消化不良を起こす可能性もあります。
病院に連れて行くべきゲップに伴う犬の症状とは?
頻繁なゲップに以下のような症状を伴っていたら、早めにかかりつけの動物病院を受診しましょう。
お腹が膨らんでいて、頻繁にゲップをしている
胃拡張・胃捻転症候群の可能性があります。ゲップ以外にも下痢や嘔吐、よだれなどの症状がないか、ぐったりしていないか、犬の様子をよく観察しましょう。歯ぐきや舌が薄い紫色に変わっていたら、呼吸困難も併発しています。すぐに動物病院で治療を受けないと命に関わります。
吐こうとしているのに何も吐かない
この症状も、胃拡張・胃捻転症候群の恐れがあります。前述した併発症状がないか、よく注意してください。胃拡張・胃捻転症候群は、命を落とす恐れのある病気のため、早期治療、早期発見が大切です。
下痢や嘔吐、痙攣
異物や腐敗物を食べたあとに、急にゲップだけでなく下痢や嘔吐、痙攣を起こした場合は、要注意です。食べたものに含まれていた成分による中毒かもしれません。その際は、緊急の治療が必要です。
犬が頻繁にゲップをする場合の対処法は?
早急に病院を受診する必要はないものの、犬が頻繁にゲップをする場合は以下の方法で対処してみましょう。
ご飯の器を変える
少量ずつ食べられるように工夫されたお皿や、ノーズワークマット、仕掛けおもちゃの中にフードを入れて与えるのがおすすめです。一気に食べることができないので、早食い予防に繋がります。
ご飯の種類を変える
フードを変えると、ガスの発生量が少なくなる可能性があります。その逆の場合もありますので、フードを変えるときは1割混ぜて様子を見て大丈夫なら混ぜる量を増やしていくようにしましょう。
ご飯の回数を変える
1日1、 2回の食事ではなく、少量を複数回に分けて与えるのも効果的です。消化率を改善し、腸内細菌による過剰発酵を減らすことができます。また、少量のこまめな食事にすると、毎回空腹になりすぎません。そのため、食べる速度が落ち、飲み込む空気の量が減ります。
食器の高さを変える
中型から大型の犬種は、食事中に空気を飲み込むのを防ぐために、台の上に乗せたボウルから給餌ほうが良いでしょう。
食事中に犬に近づかない
犬がボウルから食べている間、犬を安心させてください。食事中にボウルを持ち去ると不安が生じ、攻撃的な行動につながる可能性があります。犬が食事中にボウルに少量のフードを追加してください。そうすれば、犬は近づく飼い主さんを好意的に受け入れられるようになり、そばに人がいても焦らなくなります。
食卓から人の食べものを与えない
一度でも家族から食べ物をもらってしまうと、家族が食べているときに、おねだり、盗み食い、よだれを垂らす、注意を引こうとする、吠える、といった行動を助長します。この時に空気を飲み込んでしまうことがあります。
食後すぐに運動させない
食後30分以内に犬を散歩に連れて行くのは控えましょう。食後すぐの運動は、腸のぜん動運動を促すので、過剰な腸内ガスが発生する可能性があります。
息を切らした犬にまとまった食事を与えない
運動後、まだ息が上がっているときにすぐ食事を与えると、たくさんの空気を飲み込んでしまいます。数分待って呼吸が整ってからフードを与えてください。また、運動は食後すぐではなく、空腹時にさせるのが安全です。
マッサージをしてあげる
犬が頻繁なゲップをしている際は、マッサージをしてあげるのもおすすめです。ミ・サ・キ・動物病院院長、西依三樹先生に教えていただいたマッサージ方法を下記にまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。
【犬の胃と横隔膜を緩めるマッサージ】
ゲップにより犬が不快そうにしているのを鎮めるには、胃と横隔膜を緩めるマッサージが効果的です。まず、第7胸椎から第12胸椎あたり(肩甲骨の後ろから肋骨の尾側ら2番目あたり)を上から下に優しくマッサージしてあげましょう。次に胸からおへそに向かって、優しく撫で下ろすようにマッサージをします。最後に、前足の手首中央の少し上にある内関(ないかん)というツボを、優しく押してあげてください。これは、右でも左でも大丈夫です。