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獣医師でありながら、トリマー、動物看護士、ドッグトレーナーとしての実務経験も持つ。病気の早期発見、未病ケアに努める0.5次医療を提唱し、精力的に活動。
多くの犬にとって口腔ケアは難しいもの。毎日、歯磨きをするのが理想的だとはわかりつつも、嫌がる犬が多いのでなかなかできていない飼い主さんも多いのではないでしょうか。しかし、そのまま放っておくと歯石につながりかねません。今回は、獣医師の箱崎加奈子先生に、怖い病気を引き起こしかねない歯石対策や病院での除去方法などについて解説していただきます。
目次
- 犬の歯石はなぜできる?
- 歯石が原因になる犬の病気は?
- 犬に歯石ができたときの対処法は?
- 自宅でも犬の歯石取りはできる?
- 犬の歯石取りは病院でやってもらえる?
- 病院で行われる犬の歯石除去の手順は?
- 犬に歯石ができないようにするための予防法は?
犬の歯石はなぜできる?
犬の歯石は、歯垢(プラーク)からできています。唾液中のカルシウムやマグネシウムといったミネラル成分が歯垢と結びつき、石灰化すると歯石になるのです。犬に歯石ができてしまうと歯の表面がザラついてしまうため、さらに歯垢がつきやすくなるといった悪循環が起こってしまいます。
そもそも、歯石のもととなる歯垢は、細菌の集まりとその細菌の代謝によってできています。そのため、歯磨きをして歯垢をしっかりと落とすこと(プラークコントロール)が歯石の予防につながります。
このように、歯石ができる原理を考えれば、毎日歯磨きやケアを怠らなければ歯石はできるはずがないと思われるかもしれません。しかし、実際には完璧なケアをするのは非常に難しいのです。人間でも毎日しっかりと歯磨きをしていても歯石がついてしまったり、虫歯ができてしまったりすることはありますよね。それと同じで、日頃のケアにプラスして定期的に動物病院で診てもらうことが必要なのです。
歯石が原因になる犬の病気は?
歯石が原因の病気「歯周病」とは?
歯石が原因となって起こる病気には、歯肉炎や歯周炎があります。この2つを総称して「歯周病」と言い、いずれも歯石が原因となって炎症が起こる病気です。犬がかかる病気の中でもっとも多いのが歯周病だとも言われ、飼い主のケアが鍵を握ります。
・歯肉炎
歯肉に炎症が起こる病気。治療で改善することができます
原因:細菌そのもの、歯垢が出す毒素
症状:歯肉の腫れ、赤み、出血、口臭、歯がぐらつくなど
・歯周炎
歯肉を含めた歯を支える歯周組織に炎症が起こる病気。歯肉炎が悪化すると歯周炎になり、治療すると改善は見られますが、下がってしまった歯肉などは元に戻りません。
原因:細菌そのもの、歯垢が出す毒素
症状:歯肉の腫れ、赤み、出血、口臭、歯がぐらつくなど。鼻や顎など歯周組織外にも症状が広がります
歯周病の治療方法とは?
歯石や歯垢を除去し、お薬を投与することが、歯周病治療となります。犬の歯石を除去する際には全身麻酔が必須なので、それだけで体への負担がかかってしまいます。さらに、歯石の除去とお薬だけでは治療が間に合わない場合には、抜歯をしなければならないケースもあります。
若い犬は歯周病の発症率が低いですが、年齢を重ねるにつれ増加します。そのため、乳歯が生えた子犬の時期から、しっかりと歯磨きの習慣をつけておくことが大事なのです。
犬に歯石ができたときの対処法は?
歯石が犬にできてしまった場合は、これ以上、歯石ができないように対策するしかありません。その対策とは、日常のケアとして歯磨きをすることです。毎日しっかりと歯磨きをすることが、歯石を作らない予防となりますので、怠らずに行いましょう。
自宅でも犬の歯石取りはできる?
飼い主が自宅で犬の歯石を取るためのグッズ(スケーラー、骨、歯石が取れるといわれているケア用品)は多いですが、獣医師の観点からはおすすめできません。
自宅で飼い主が歯石を取ろうとすると思わぬ事故につながる可能性もありますので、犬の歯石が気になる方は必ず病院で除去してもらってください。
犬の歯石取りは病院でやってもらえる?
歯石の除去は犬に痛みと恐怖を与えるため、全身麻酔をかけることが前提となります。ですので、必ず病院でお願いしてください。ただし、病院で行われる歯石除去は治療も兼ねているため、病院の治療方針や犬の状態によって、方法や費用に差が出ます。
費用はおよそ2~5万円ですが、動物病院は自由診療なので各院によって価格設定が大きく異なることも。気になる方は、かかりつけの病院で事前に聞いておくと安心でしょう。
病院で行われる犬の歯石除去の手順は?
病院で行われている犬の歯石除去の流れをご紹介します。
ステップ1:犬に全身麻酔
犬の歯石を除去する際は、痛みと恐怖を与えないために、まずは全身麻酔を犬にかけることからスタートします。全身麻酔の前には、犬が全身麻酔をかけられる状態かを調べるため、術前検査が行われます。検査項目は犬の状態や歯周病の進行具合によって異なりますが、一般身体検査、血液検査、レントゲン、心電図、超音波などです。
ステップ2:超音波スケーラーで歯石を除去
犬に麻酔がかかったら、「超音波スケーラー」という機械を使って歯石を除去します。超音波スケーラーは細かい振動と水圧が出る機械で、これを利用することで歯から歯石や歯垢を破砕することができるのです。一通り除去ができたら、歯石を削るときにできてしまう細かい傷を研磨します。
ステップ3:ルートプレーニングを行う
歯石の除去が終わったら、ルートプレーニングに移ります。ルートプレーニングとは、歯肉の内側(歯周ポケット)の汚れや、壊死した象牙質、セメント質を除去することです。こうすることで歯の根本(歯根=ルート)が滑らかになってプラークがつきにくくなり、歯肉が引き締まりやすい状態になります。
歯周病の予防には、歯石除去をした上でルートプレーニングをすることがとても大切です。残念ながら、ルートプレーニングができていない状態では歯周病へのアプローチがまったくできていないと私は思います。
犬に歯石ができないようにするための予防法は?
犬に歯石を作らせないための予防法は、毎日歯磨きをして歯垢をしっかりと落とすことが基本になります。犬に乳歯が生えた頃から歯磨きを初めて、毎日の習慣にしてください。
最近は、口腔内の細菌コントロールも注目されています。サプリメントなどもありますので、検討してみてはいかがでしょうか。