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CaFelierペットクリニック院長。財団公益法人 動物環境・福祉環境evaの評議員、一般財団法人 犬猫生活福祉財団の評議員も務めている。
水頭症は脳室と呼ばれる空間に脳脊髄液が必要以上に溜まってしまう病気です。犬が水頭症になった場合、異常行動やふらつきなどさまざまな症状が現れます。実際に愛犬に水頭症の症状が見られたら、飼い主はどのように対処すればよいのでしょうか?この記事では、水頭症の症状や病院に連れて行くタイミング、治療法などをキャフェリエペットクリニックの獣医師である小林充子先生監修のもと、詳しく解説していきます。
目次
- 犬の水頭症はどんな病気?
- 犬の水頭症の原因は?
- 犬の水頭症の症状は?
- 犬の水頭症は見た目で判断できる?
- 水頭症になりやすい犬は?
- 犬の水頭症を診断する方法は?
- 犬の水頭症の治療法は?
- 犬の水頭症の予防法は?
犬の水頭症はどんな病気?
水頭症とは脳にある脳室と呼ばれる空洞に、脳脊髄液が過剰に溜まってしまう病気です。脳脊髄液が必要以上に溜まると、脳が圧迫されることでさまざまな障害につながります。
脳脊髄液が溜まってしまう要因は?
脳脊髄液が過剰に作られているため
腫瘍などが原因となり、脳脊髄液が過剰に増える場合があります。ただし、非常に稀なケースでしょう。
脳脊髄液の循環経路がつまっているため
循環経路の一部がつまっている場合、脳脊髄液の流れが妨げられて、脳脊髄液が溜まってしまいます。つまってしまう要因には先天性と後天性の2つがあります。先天性の場合、出生前にパラインフルエンザウイルスなどに感染したため。後天性の場合は腫瘍・膿瘍・炎症・外傷性損傷などのためです。
脳脊髄液の吸収に問題があるため
生まれつき脳室が拡大している場合、吸収がうまくいかず、脳脊髄液が溜まってしまうことも。神経や発育に関わる部分にまで溜まってしまい、何らかの障害が起きる可能性が高まります。
犬の水頭症の原因は?
犬の水頭症になる原因は、大きく先天性と後天性分けられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
先天的要因
遺伝的に水頭症を発症しやすい犬種の多くは、生まれつき脳室の容積が大きめです。そのため、脳室拡大が起こりやすいでしょう。脳室が拡大すると、水頭症の発症リスクが高まります。ただし、脳室の拡大がそのまま水頭症につながるわけではありません。脳脊髄液の増加により、神経症状が現れてはじめて水頭症と診断されます。
後天的要因
後天的要因としては頭部への外傷・髄膜炎・脳腫瘍・膿瘍などが考えられます。いずれも炎症によって、脳の一部が塞がれてしまうことで水頭症が起きます。通路が塞がれてしまうと、脳脊髄液の循環が滞り、脳室に溜まりやすくなるためです。
犬の水頭症の症状は?
ここまで水頭症のメカニズムや原因を解説しましたが、実際に水頭症を発症するとどのような症状が見られるのか、詳しく見ていきましょう。
落ち着きがなく、もの覚えが悪い
落ち着きがない、情緒不安定などの様子がよく見られます。他にも、学習能力が低かったり、覚えるのが非常に遅かったり、いつまで経ってもしつけができないなどの症状もあるでしょう。
行動異常
異常に寝る時間が長かったり、常にウトウトしていたりなど、活発さがまったく見られないケースがあります。一方で、過剰に興奮してしまう例も報告されていますが、どちらかというと稀です。
ふらつき
歩き方がおかしいなどの症状が現れることも。前足と後足のリズムが合っていなかったり、頭が下がっていたりすることで、ふらふらする様子が見られるでしょう。
痙攣発作
犬の水頭症では、痙攣発作が起きた事例も報告されています。
視力障害
片側または両眼に外斜視が見られる場合も。これは、発育期に眼の形に異常が現れることで、外向きの斜視が起こるためです。ただし、眼球運動は正常と言えます。
重度の場合の症状の違い
重度の場合、意識がもうろうとしたり、昏睡したり、瞳孔の散大・呼吸の異常などが見られるでしょう。特に、認知機能障害や盲目など神経機能の障害が起きた場合は、外科治療をしても回復の見込みが低いとも言われています。
病院に連れて行くタイミングは?
水頭症は急性疾患ではないため判断に迷うかもしれません。しかし、水頭症を発症しやすい犬種の場合は、異常行動や外見の症状が現れたら、まずは動物病院へ相談しましょう。
犬の水頭症は見た目で判断できる?
水頭症は頭がドーム状に膨らんだり、眼球が飛び出てきたりなど、外見に変化が現れる場合もあります。ただしこれらの症状だけでは水頭症と判断できません。必ずふらつきや視覚障害など、先ほど解説した臨床症状と合わせて判断します。
水頭症になりやすい犬は?
遺伝的に水頭症になりやすい犬種は以下の通りです。好発犬種の場合は、異常が見られた時点で動物病院を受診するよう心がけることが大切です。
犬の水頭症を診断する方法は?
まずは、好発犬種かどうか、症状や外見の変化があるかどうかなどを診察するのが一般的です。さらに、疑わしい場合にはCT検査やMRI検査によって確定診断を行います。
犬の水頭症の治療法は?
愛犬が水頭症と診断された場合、水頭症の治療としては、内科的治療と外科手術があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
内科的治療法
基本的には利尿剤を、静脈点滴または投薬します。点滴の場合、日帰り入院で治療できますが、費用は高めです。病院によっては1日あたりの治療費が数万円になることも。一方、投薬は比較的リーズナブルです。しかし、味が苦いため、犬によっては投薬が困難な場合があります。
その他、安価で自宅でも投薬できるステロイド、痙攣や発作が起こっている場合は肛門から入れるタイプの抗痙攣薬などが使用されるでしょう。
外科手術を行う
一般的な外科手術は、シャント療法です。脳室(側脳室)とお腹を管でつなぎ、過剰に溜まった脳脊髄液がお腹に流れていくようにします。専門性の高い手術なので、二次診療施設や大学病院など専門の病院で行うことが多いです。そのため、費用は高額になります。
水頭症はどれくらいで治る?
原因や症状の程度、選択する治療法によって、治療期間は異なるでしょう。ただし、認知機能障害や盲目など神経機能の障害が見られる場合は、手術を行っても回復する可能性は低いとも言われています。
犬の水頭症の予防法は?
犬の水頭症を予防するために、日頃から飼い主ができる予防法を詳しく見ていきましょう。
頭を強く打つことを防ぐ
水頭症の原因となる頭部への外傷を防ぐため、生活環境を整えることが大切です。ぶつかり防止のためのクッションを家具にあてる、サークルの中で過ごさせるなど、工夫してみてください。特に好発犬種の場合、水頭症の発症リスクが高いので、頭部に外傷を受けないよう普段から十分気をつけましょう。
早期発見・早期治療
日頃から愛犬の様子を注意深く観察し、行動異常や学習障害などが見られたら、早めにかかりつけ医に相談するようにしてください。早期に治療が開始できれば、視覚障害やその他の症状を残さず、完治することも目指せます。その他にも、物覚えの悪さや斜視を個性ととらえず、病気の兆候を見逃さないようにすることも大事ですよ。