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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
手術後の犬が装着するエリザベスカラー。傷口を舐めたり噛んだりしないために必要とされていますが、犬にとっては不便さからストレスにつながります。今回は、エリザベスカラーを装着する理由や装着時の注意点、嫌がった時の対処法を、動物行動学を研究する獣医師の茂木千恵先生に解説していただきます。
目次
- 犬がエリザベスカラーをストレスに感じる理由は?
- 犬にエリザベスカラーを装着する理由は?
- 犬がエリザベスカラーを装着する必要があるのはいつ?
- 犬にエリザベスカラーを装着させる時の注意点は?
- 犬にエリザベスカラーを装着する時に飼い主がやってはいけないこととは?
- エリザベスカラー装着時の犬のストレスを軽減する工夫は?
- 犬がエリザベスカラーを装着しているときに飼い主ができる工夫は?
- 犬のエリザベスカラーはいつになったら外していい?
犬がエリザベスカラーをストレスに感じる理由は?
犬がエリザベスカラーをストレスに感じるのには理由があります。どういった理由でエリザベスカラーを負担に思うのか見ていきましょう。
周囲からの情報が得られにくい
気になる方へ顔を向けても、エリザベスカラーが視野に入ってきて本当に見たい周囲の出来事を見ることができません。音と匂いも前方向からくるものは認知できますが、横や後ろからの音や匂いには気づくことが難しいです。そのため、突然ものが視野に入った場合に驚いてしまいます。
周囲のものにぶつかりやすい
犬は自分の頭のサイズで通過できるかを判断します。しかし、カラーの幅が大きすぎて、フード皿、トイレ、クレート、ベッドなど生活上アクセスする必要のある場所へ移動するときに、通り抜けられなくなることがあります。他にも階段の昇降、リビングからの出入り口を通る時など、困難に感じられる場合があるでしょう。
つけてすぐの頃はエリザベスカラーの幅が分からず、ぶつかったり引っかかったりして驚くことがあるでしょう。ぶつかることが怖くなり動き回れなくなってしまう犬もいます。
食事がうまくできない
エリザベスカラーをつけると、カラーが邪魔をして、それまでのように飲食することが出来なくなります。口を大きく動かすことができなかったり、飲み込むのが困難になったりすることもあるでしょう。だんだんと慣れていきますが、カラーが邪魔となってごはんや水に口が届かないのは要注意です。その際は、皿に高さをつけてあげるなどの工夫が必須です。
犬にエリザベスカラーを装着する理由は?
エリザベスカラーは手術後の傷口や、痛みとかゆみが発生している皮膚を犬が引っ掻いたり舐めたりしないようにすることができます。
手術などの大きな傷では、傷口が犬の口腔内細菌に感染することで、化膿する危険があります。そのため、傷が閉じるまではエリザベスカラーで傷口をしっかり保護することが大切です。
また、手術後だけでなく、外傷、皮膚炎、眼科疾患などで痛みやかゆみがある場合もカラーをつけることがあります。その部分を気にして舐めたり掻いたりして、症状を悪化させないためにもカラーの装着が重要になります。
犬がエリザベスカラーを装着する必要があるのはいつ?
犬がエリザベスカラーを装着するのは傷口の保護が主な理由ですが、どういったタイミングでつけることが多いのでしょうか? 装着が必要な、主な場面を見ていきましょう。
避妊・去勢手術後
避妊・去勢手術後、しばらくは体液が術後の切開した部分からしみだしてくることがあります。加えて、縫合による皮膚の違和感などが犬にとってはとても気になるものです。
手術をした部分を舐めたり、かじってしまうと縫合糸が取り去られて新たに傷口が開いたりしてしまう場合も。傷口が完全に閉じるまでは犬が触ってしまわないように、また細菌感染を防ぐというためにもエリザベスカラーを使用します。
皮膚の病気の治療
皮膚の自然治癒力を高めるために、犬が触らないように患部を保護する目的でカラーを使用します。犬の皮膚病は、主に皮膚の一部、または全身が赤みを帯びて、湿疹が見られるようになる状態のこと。中には強い炎症が起こる場合もあり、経口薬が必要なケースもあります。いずれの場合も、やはりかゆみが気になり、舐めたり引っ掻いたりすることによって、さらに状態が悪化することが多いです。治癒をサポートするためにもカラーの装着が必要になります。
また、重度の皮膚炎では塗るタイプの薬を使うこともあります。この薬には油分が含まれていて、塗ったらすぐに舐めてしまう可能性も。薬の効果を高めるために、薬が皮膚に吸収されるまでの数十分間、舐めないようにすることが鍵になります。その際には、犬の口が届かないようにカラーをつけて保護することがあります。
耳の病気の治療
犬は長い耳道を持っているため、外耳炎や内耳炎など、かゆみと痛みを伴う耳の疾患が起こりやすいです。発症すると、耳の周りをひっかく行動がよく見られるようになります。引っかき行動がエスカレートすると、傷がついたり腫れたりして、そこに細菌が感染すると、状態がさらに悪化していきます。そのため、患部を保護する目的でカラーを使用します。もちろん服薬や塗り薬での治療も重要です。しかし、その治療効果をより高めるのがカラーによる保護です。
目の病気の治療
犬の目に傷ができたり、目やにが大量に出たりした場合、目の周りの不快感から、前足で目をこするようになります。かゆみが強いと強くこすってしまい、爪などで目をさらに傷つけてしまうことも。犬が目を気にしている場合はすぐに対処する必要があります。薬を使っての治療ととともに、カラーで目を保護することが重要となります。
犬にエリザベスカラーを装着させる時の注意点は?
犬にエリザベスカラーを装着させる時に気をつけるべきポイントは以下の通りです。
鼻が出ないようにする
サイズ小さすぎて、エリザベスカラーから鼻が出てしまうと、患部に口が届いてしまいます。口が患部に届かないよう、カラーから鼻が出ない適切な大きさのものを選びましょう。
首周りのサイズを確認する
エリザベスカラーを首に装着するときに気になるのは首への負担です。装着した時に、首とエリザベスカラーの首に接している部分に、人差し指と中指が差し込めるくらいのゆるさがちょうど良いでしょう。それ以上緩めてしまうと、ずれたり、犬が引っ掻いて取ろうとした時に頭から抜けて外れてしまうことがあります。 指が入れば締め付けすぎではありませんので、抜けない程度に、サイズを調節してみてください。
また、ボタン付きのエリザベスカラーは細かな調節ができないことが多いです。そのため、ゆるすぎる時はバンダナなどで首から後頭部にかけての隙間を埋めて、調整するのもおすすめです。フラップ式のものはわずかな調整も可能にしてくれます。しかし一方で、引っかいた時に外れやすい場合も。使ってみて犬が使い心地が良さそうなものを選ぶようにしましょう。
コーンの広がりを確認する
コーンには広がりがあまりなく顔の周りに沿うようなもの、広がりが大きくて顔の横に大きく広がるものと、中間くらいの広がりのものなど、さまざまなタイプがあります。コーンの広がりが無いと動きやすいですが、視界がさえぎられる感覚に陥りやすいというマイナス面もあります。一方で、広がりが大きいタイプは視界が良く、閉塞感も少なくなりますが、狭いところを通過しようとするとつかえてしまうことも。コーンのタイプは、家具の配置やライフスタイル、犬の性格に合わせて選びましょう。
犬にエリザベスカラーを装着する時に飼い主がやってはいけないこととは?
犬がエリザベスカラーをつけた時に飼い主がやってはいけない行動があります。どういった行動がNGなのか知っておきましょう。
罪悪感を持って犬を見ない
犬がエリザベスカラーをつけて不安そうにしたり悲しそうな顔をしたりしていると、罪悪感を持ってしまう飼い主もいます。ですが、これは治療のために必要な行為です。積極的に犬の生活をサポートしてあげましょう。
つけ始めて最初の数時間は犬を放置しない
エリザベスカラーをつけてから数時間は、犬も戸惑って飼い主に助けを求めることがあります。その際はすぐにサポートできるよう、装着し始める時間帯も考慮しましょう。
犬が嫌がってるからとすぐにエリザベスカラーを外してしまう
食事の時以外の場合は、常につけておくようにしましょう。ほとんどの場合、2〜3日で慣れることが多いです。犬が嫌がるからといって、すぐカラーを外すのはご法度です。傷口を引っ掻いてしまい、さらなる治療が必要になり犬自身への負担が増えてしまいます。やむを得ず外す場合は、目を離さないようにしてください。また、外したら再度装着することも忘れないようにしましょう。
エリザベスカラー装着時の犬のストレスを軽減する工夫は?
エリザベスカラーは犬にとって必要ですが、やはり負担のかかるもの。できるだけ装着時のストレスを軽減する方法をご紹介します。
ストレスがかかりにくい設計・素材を選ぶ
ドーナツ型のもの
硬い素材を使ったカラーより、比較的自由に寝っ転がったり動いたりできます。ただし、柔軟性が高く、下半身に口が届いてしまうため、上半身に患部がある犬にのみ使用を検討してください。装着直後はよく観察し、口や足の可動範囲を調べて、傷口がきちんとブロックできているか確認しましょう。
ボタンがついていないもの
ボタンはエリザベスカラーを、首の周りに丸めて止めるのに使われますが、止めるときの「パチン」という音が耳元でするので驚いて嫌がる場合も。ボタンがついていないものは、ついているものに比べると外れやすいため、犬の様子を見て変えると良いでしょう。
布・スポンジ製のもの
ぶつかった時にも大きな音が鳴らず、肌に触れたときにやわらかな触り心地なので、つけた直後に嫌がりにくいです。休息が必要なときに、頭を横たえられるのもポイント。丸洗いすることができて、清潔に保てる生地のものも販売されています。しかし、生地が透き通っていないので視界がさえぎられてしまうというデメリットも。ジャンプなどの大きな動作をすることが好きな犬や、性格が繊細で神経質な犬には葛藤や不安を高める恐れがあるので、注意が必要です。
室内に障害物を置かない
室内にある家具同士の間隔が狭いと、カラーがぶつかってしまってスムーズな移動ができなくなります。これまで自由に行き来できていた空間で、移動するのが難しくなると、ストレスを感じてしまうこともあります。
気が紛れる環境をつくる
犬がエリザベスカラーに集中して不快な気分を高めないよう、気を紛らわせるためのおやつやおもちゃなどを準備しましょう。犬が夢中になるグッズがあれば、エリザベスカラーを気にせず過ごせる時間が増えていきます。特に装着直後は嫌がるので、すぐに散歩に連れて行ったり、おもちゃで遊んだりして気を紛らわせてあげるのが良いでしょう。
エリザベスウェアを着せる
エリザベスカラーが口や首の動きを制限して傷口を守るのに対して、エリザベスウェアは患部を含めて体の表面を覆うことで患部を保護します。エリザベスカラーよりも、比較的自由に動きやすく、普段通りに近い生活を送ることができます。
ただし、耳や肛門付近、足先などはエリザベスウェアではカバーできません。また、患部がウェアで覆われていたとしても、かゆみや痛みが強い場合は犬がウェアを噛みちぎってさらに傷口を痛めてしまうことも。その際はウェアの誤飲が起こる恐れもあります。エリザベスウェアを使用する際は、まず獣医師に相談してみましょう。
人目が届くときは外してあげる
手術の経過観察などで獣医師から特に指示がない場合に限り、犬の散歩中、またはおもちゃなどの活動に集中していて患部から注意が逸れている時なら、エリザベスカラーを外すことができます。また、飼い主が号令によって、犬が患部を触ろうとする行動を止めることができる場合も、外すことができるでしょう。
ただし、飼い主に嫌がる様子を見せたら外してもらえると、犬が学習することもあります。エリザベスカラーは傷が治癒するまでは継続して装着することが基本です。繊細な犬には頻繁な着脱がかえってストレスとなることもあります。できるだけ継続して装着するのが良いでしょう。
犬がエリザベスカラーを装着しているときに飼い主ができる工夫は?
犬がエリザベスカラーをしている時に少しでも快適に過ごせるよう、飼い主にできる工夫はあるのでしょうか? どんな工夫をすれば犬にとっての負担が軽減するのかをご紹介します。
食事の皿は高い位置に置く
せっかく食べたいフードが目の前にあるのに、エリザベスカラーが邪魔して食べられないのは葛藤を生むことに。その場合には、普段使っている皿を台の上に載せることで食べやすくなります。深い容器というよりは、足つきの適度な深さの容器だと、口がフードに届きやすいです。皿が大きすぎるとカラーの縁に当たってしまうため、カラーとのサイズバランスも考慮してみてください。
滑り止めのある食器を使う
カラーが引っかかって食器がひっくり返ってしまったり水がこぼれてしまったりというアクシデントが起こることもあります。長時間のお留守番をさせる場合などには、食器が滑らないように、裏が滑り止め加工された食器を使いましょう。
犬が動き回るときにサポートをする
装着直後は部屋のドアを通り抜けるときや、階段の昇り降りをサポートしてあげましょう。エリザベスカラー装着直後の犬は特に、想定外に幅があるカラーによって、引っかかるたびに驚きます。
カラーをつけたまま食事ができるか確認する
食事用の皿を壁から離して、カラーをつけていてもフードや水に口が届くようにします。カラーが深すぎて口が届かず食べられない場合は、食事の時間だけ取り外してあげましょう。ただし、そばでペットが食べるのを見守り、食事が終わったらすぐにカラーを元に装着し直すようにしましょう。
犬のエリザベスカラーはいつになったら外していい?
抜糸後に数日たち、皮膚の赤みが消えて傷がしっかりと閉じていれば外しても大丈夫です。しかし、これまで触れなかった分、舐めたり搔いたりする行動が一時的に悪化することがあります。その際は再度エリザベスカラーを使い、数日後外したときに舐めるかどうかを観察してみてください。
また、飼い主の声かけやおやつなどで気を引くことも効果的です。その時に舐めたり掻いたりするのを制止できるようになれば、カラーを外せるでしょう。
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